労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-99 の抄録

高齢社会対応の労働環境づくりに関する意識調査(その2) –施設介護労働の実態調査と今後の高齢介護労働について–

RR-99-1
永田久雄,李善永
 21世紀においては若年労働力不足から介護者の高齢化は避けて通れないものとなる。一方,介護労働に関する既往研究を見ると介護負担に焦点をあてた研究は多数なされているが,高齢者による施設介護について論じた研究はほとんど見あたらない。本研究は,こういった状況を背景として,特別養護老人ホームを対象に,現在の施設内の介護労働の実態の把握と,60歳以上の高齢者による介護労働について検討した。調査方法は,無作為に抽出した全国の2,000ヶ所の特別養護老人ホームにアンケート用紙を配布し,各施設の介護に熟練した寮母(寮父)1名を対象にした。969ヶ所から969票(回収率48.5%)の回答を得て分析し、今後の高齢者による施設介護に関する検討を行った。

ジルコニウム粉じんの発火特性

RR-99-2
松田東栄,八島正明
 ジルコニウム金属粉は極めて発火性が高い危険物で,工業的にも重要な材料であり,特に,原子炉燃料棒の被覆管ジルカロイの主要成分で,燃料棒の切断処理等において発火・爆発の問題を生じる危険性がある。模擬ジルカロイとして,水素吸蔵品から製造したジルコニウム粉を用い,発火特性を検討した。
 熱重量分析において,大きい昇温速度で加熱すると,開放カプセル内試料層の空気に触れる上層のみが先に発火して,発火危険性の評価は十分に行え得ない場合がある。IEC粉じん防爆測定法による高温表面堆積粉の発火温度と層厚みの関係は,熱発火理論により予測できるようである。浮遊粉じんの発火温度は室温であると報告されているが,これは測定装置内部での摩擦に起因する発火で,その雰囲気温度で自己発火することを意味しない。熱的発火温度は300~400℃になると予想される。

タンタル粉の発火・爆発危険性

RR-99-3
松田東栄,山隈瑞樹
 粉じん爆発危険性が小さいとみなされてきた重金属粉であるタンタル粉の発火・燃焼事故が発生したのでその危険性を検討した。20L球形粉じん爆発試験からその粉じん爆発性は,アルミニウム,マグネシウム等,爆燃性金属粉ほどではないが,爆発性がかなり大きいことが分かった。タンタルの燃焼熱が軽金属粉の値を超えることが一因でもあるが,爆発試験装置内で試料分散用高圧空気による試料粉の細粉化が生じることも原因になっている。タンタル試料粉の電子顕微鏡写真によると,珊瑚状の複雑な構造をしており,比表面積が極めて大きく,表面燃焼に有利な形態を取っていることも原因の一つである。最小発火エネルギーの測定結果は,浮遊粉じんで約14mJ,堆積粉では0.2mJ以下で,堆積層は容易に発火することが分かった。その原因として,表面酸化物層の絶縁破壊が生じ,粒子間に直接,通電経路が形成されるためと考えられる。

建設現場のコミュニケーションに係わる労働災害の分析とその実験的検討

RR-99-4
江川義之,中村隆宏,庄司卓郎,深谷潔,花安繁郎,鈴木芳美
 建設業における労働災害事例を調べると,約10%がコミュニケーションが原因であると思われる労働災害であり,それらは「場所」「時間」「作業目的」という3つのキーワードを用いて,6通りのモデルに分類可能であった。建設業の労働災害は,この6通りのモデルのうちモデル1から3までが約80%を占めた。モデル1を対象にして実験を行った結果,「衝突側面型」「衝突正面型」「見越側面型」「見越追突型」という4つのエラー形態が観察され,その中でも見越側面型のエラーが最も多かった。

熱弾性効果を利用した応力測定に及ぼす熱伝導の影響

RR-99-5
本田尚,佐々木哲也,大塚輝人
 熱弾性効果を利用した応力測定において,測定値に及ぼす熱伝導の影響を明らかにするために,応力分布が相似で寸法の異なる3種類の試験片を用意し,異なる繰返し速度の測定と数値解析を行った。また,CCT試験片を用いて,実験と数値解析により,応力拡大係数範囲に及ぼす熱伝導の影響について検討した。その結果,
  1. 繰返し負荷にある中央円孔試験片とCCT試験片の定常状態における応力分布は,実験と非定常熱伝導解析結果は非常によく一致する
  2. 中央円孔試験片では,応力集中部の寸法が小さくなるにつれて温度勾配が大きくなるために,試験片内部の熱伝導が測定値に大きく影響する
  3. 最も小さい試験片の応力集中係数Ktは,赤外線カメラの分解能のため,他の試験片のKt より小さい値となる
  4. 赤外線応力画像から求める応力拡大係数範囲ΔK は繰返し荷重速度にほとんど影響されない
等が判明した。

電気化学マイグレーションによる配線板の絶縁低下に及ぼすSO2ガスの影響

RR-99-6
本山建雄,市川健二
 電子機器の小型・多機能化,配線板の狭ピッチ化に伴い,環境中のSOxを含む硫化物等による環境からのストレスが電子機器絶縁性不良の原因の一つになるとともに,システムの誤作動による作業者への危険性を高めている。本研究では,多くの障害が報告されている配線板の硫化物による絶縁不良の防止を目的として,電気化学マイグレーションによる絶縁不良現象について(5℃,60%RH,20分)→(25℃,90%RH,20分)を1サイクルとする,SO2ガス環境下のサイクル試験により検討した。その結果,SO2ガス濃度が高いほど電気化学マイグレーションの進展が加速され,配線間距離が6.3mmにおいても発生が確認された。また,電気化学マイグレーションの進展を加速する原因は,SO2ガスが水に溶け,水分を酸性に変えることにより,配線の銅をイオン化し,有機絶縁物の撥水性を減少させることに起因することが推定された。

ステンレス鋼溶接継手の熱疲労及び高温低サイクル疲労挙動

RR-99-7
吉久悦二,本田尚,S.G.S.ラマン
 ボイラや化学プラントに用いられる機器では,起動・停止に伴って,機械的負荷と温度が同時に変化する。したがって,これらの機器の寿命を考える場合,部材中の最弱部といえる溶接継手の熱疲労挙動が重要になる。本研究ではこれらの機器によく用いられているSUS 316鋼を対象に,その溶接継手の熱疲労試験を行った。その結果,溶接継手の熱疲労寿命は,母材のそれよりも大幅に短くなるが,これは溶接金属と母材の組織の違いによって,高温下での材質劣化度合いが違うことによるものであることを明らかにした。また,溶接継手について熱疲労寿命と高温低サイクル寿命とを比較した場合,熱疲労寿命の方が短くなるが,その原因を検討し,熱疲労での応力振幅が高温低サイクル疲労場合の振幅よりも大きいことが原因と考えられることを示した。

建設業における組織レベルの安全施策に関する調査研究

RR-99-8
庄司卓郎,鈴木芳美,中村隆宏,江川義之,深谷潔,花安繁郎,小島三弘,廣瀬文子,長谷川尚子,高野研一
 建設企業及びその協力会社を対象に質問紙調査を行った結果,以下のことが明らかになった。
  1. 現場での安全制度,安全活動,組織レベルでの安全活動,安全衛生担当の活動の間には正の相関があり,建設業において安全施策が組織レベルで包括的に行われている可能性が示唆された。
  2. 安全施策の実施と職員,作業員の安全に関する意識の間に関連が見られ,安全施策の充実が職員や作業員の安全意識の高揚につながる可能性が示唆された。
  3. 事故や労働災害の防止のためには,作業員や安全衛生担当だけでなく,企業レベルでの取り組みが必要であると認識されていることが示唆された。
 今後は,組織風土や企業の事故率を含めた全体構造の把握を行い,企業の安全レベルの向上に寄与する要因の抽出を行っていく予定である。

メタン–酸素混合気における放電着火の分光学的測定

RR-99-9
大澤敦,石川敬一
 メタン–酸素混合気の火花放電着火を分光学的測定(発光分光分析,発光分光波形,発光の時空間進展およびレーザ誘起蛍光法によるOHラジカルの時空間進展)により観測した。放電および燃焼により C2, CO, CO2, CH, CH3, CHO, CH2O(HCHO), H, H2, OH, H2O, O, O3 などが生成されていることがわかった。放電によってすでに初期火炎が形成されていることが予測できた。着火誘導期間では発熱反応による温度上昇によると思われるOH密度の増加が観測され,着火時にはOHのさらなる増加が確認できた。この実験条件において着火は放電開始後90から100msの間に起こることがわかった。脱励起も含めた発熱反応による付加的な加熱が初期火炎核を進展させることが予期された。

液・液不均一系における酸無水物の加水分解反応速度の評価

RR-99-10
藤本康弘
 化学プラントでは、不適切な反応条件の設定あるいは設備の故障等の設備・操作面でのトラブルが暴走反応を引き起こし、大事故に至った例が少なくない。本研究では,液・液不均一系の反応に注目して、撹拌が停止した状態で2層になり、その後で撹拌されることで反応が急激に開始して暴走反応状態におちいる事態を想定し、撹拌時の混合状態に及ぼす液の物性値の影響等をラボ試験により検討するためのモデル反応として,これまでの酸塩基の中和反応より反応速度が穏やか酸無水物の加水分解反応の利用を考え、その反応速度の評価を行った。その結果、無水酢酸の加水分解反応であれば、ベンゼンで希釈した溶液を用いても適当な速度で反応が進行し、各種の反応のモデルとして利用可能であることが分かった。

高温・高圧下でのエチレンオキシドの分解爆発特性

RR-99-11
水谷高彰,松井英憲
 近年,化学プラントでは,数多くの化学反応が高温下や高圧下で行われている。このような化学プラントでは爆発による事故を防ぐため,異常反応を監視する様々な対策が行われている。しかし,分解爆発性を持った原料の場合,爆発要因を取り除くことが困難なため,不活性物質を混入し爆発危険性を低減することが一般に行われているが,その効果については十分研究がなされていない。本研究では,エチレンオキシドの分解爆発特性の加温・加圧・希釈による変化を調べることにより,高温・高圧下での化学反応の危険性の評価を行った。その結果,120~180℃,0~0.9MPaの範囲内で,希釈剤に窒素を用いた場合,エチレンオキシドの最小着火濃度は40%以上であること,温度の上昇にほぼ1:1に対応して最小着火濃度が小さくなること,最小着火エネルギーは約0.5Jであること等が分かった。

遠心模型実験による控え矢板を有する土止めの崩壊メカニズムの検討

RR-99-12
豊澤康男,堀井宣幸,玉手聡,H.G.B.アレスマ
 土砂崩壊による労働災害事例を対象として遠心模型実験を行った。現場調査の結果と併せて検討した結果,次の結論が得られた。
  1. 遠心模型実験結果は実際の現象を説明し得るものであり,現場調査を補完するとともに防止対策の策定上も遠心模型実験が有効な手段となり得る。
  2. 当該災害の原因は,最下段の三段目の切り梁を省いて最終掘削面まで掘削したため,二段目,一段目の腹起しと切り梁が次々と局部破壊と座屈を起こしたことによると考えられる。
  3. その他の要因としては,(1)控え矢板の設置位置が掘削部に近く,地盤変位の影響範囲内あったため,控え矢板の位置から亀裂が発生し,(2)矢板と締め切控え矢板との間の地盤が足下を押さえられて倒れるように崩壊したことが挙げられる。


刊行物・報告書等 研究成果一覧