労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-98 の抄録

異種放電の重畳による放電プラズマ反応器の効率改善の試み –沿面・直流コロナ放電重畳型反応器の特性–

RR-98-1
山隈瑞樹,禹仁成
 放電プラズマによる有害なガス状物質の分解においては,その電力効率の向上が実用化に向けての重要なファクターである。放電プラズマの発生方式として様々な形式のものが提案されているが,異種な方式を組み合わせることでそれぞれ特性を更に改善し,電力効率の改善という相乗効果が期待される。本研究では,部分的に高いエネルギー密度の領域を有する沿面放電と広い領域に反応空間を有するコロナ放電を組み合わせ,効率の改善を試みた。その結果,沿面放電の駆動周波数が高いほど正極性コロナ放電重畳時のオゾン発生量の増加率は大きいこと,正極性コロナ放電を沿面放電と同時に発生することによりNOの分解率を向上することが可能であり,分解率向上への寄与度は沿面放電の放電エネルギーが小さいほど大きい傾向にあること,ならびに正極性コロナ放電のレベルを適当な値とすることにより電力効率の改善が可能であることが明らかとなった。(図8,参考文献5) 

火花放電による電磁ノイズの発生現象 –火花電圧と放電電流及び誘導電圧との相関性–

RR-98-2
冨田一
 電磁ノイズの一つである火花放電現象について,ノイズの基礎となる放電電流の特性を把握するため,放電発生部に形成される電気双極子間での放電発生時の放電電流のピーク値と,立ち上がり時間,誘導ノイズ等の火花電圧依存性を調べた。その結果,火花電圧が高くなると放電電流のピーク値,電流の時間微分値の最大値は減少するとともに,立ち上がり時間は長くなった。また,誘導電圧は火花電圧が高くなるとともに減少した。この誘導電圧を,先の放電電流を電気ダイポールとしたモデルによる数値計算結果と比較し,測定と計算がほぼ一致する結果を得た。さらに,放電ノイズの一つである帯電物体が接地体に接近しながらの火花放電現象の一ケースについて,放電ギャップ長に着目して検討した。(図17,表3,参考文献6)

地盤破壊によるアウトリガーのめり込みが移動式クレーンの転倒に及ぼす影響

RR-98-3
玉手聡,堀井宣幸,豊澤康男,末政直晃,片田敏行
 移動式クレーンの転倒災害が多く発生している。転倒原因の一つに支持地盤の破壊によるアウトリガーの地盤へのめり込みがある。現行の安全規則ではクレーンを設置する地盤は水平かつ堅固であることが前提になっており,地盤の強度や沈下特性が十分に考慮されていない。本研究では基礎的研究として以下の内容について調査及ぴ検討した。
  1. 過去に発生した移動式クレーンの災害事例を用いた転倒状況の調査。
  2. 関東ロームで作製した模型地盤における支持力実験。
  3. 簡易な二次元のモデルによる移動式クレーンの安定解析。
その結果,
  1. 調査した災害事例の約4割にアウトリガーの地盤へのめり込みが見られ,つり荷の質量が定格荷重以下の場合においても約2割が転倒している。
  2. 表層部分をセメントで固結させた2層地盤ではフーチングが急激に沈下することが確認できた。
  3. クレーンの不安定性を静的と動的に検討した結果,動的転倒に必要な沈下量は静的転倒に必要な沈下量に比べて半分程度以下であることがわかった。
(図24,表5,参考文献14) 

音声聴取能力評価に関する研究

RR-98-4
江川義之
 母音と子音について音声聴取能力を調べた。母音に関しては,純音聴力検査で高音域の閾値の高い被験者は「イ」「工」の母音判別閾値が高かった。さらに低音域と高音域の閾値の高い被験者は「イ」「ウ」「工」の判別閾値が高かった。純音聴力検査結果が良くても母音聴取能力の低い被験者がいた。これらの被験者は,母音を構成する周波数の弁別能力が低かった。子音に関しては,音圧レベルを増加しても100%の子音明瞭度が得られない被験者がいた。判別出来にくい子音は「デ」「バ」「ハ」「ネ」であり,これらの子音は子音として判別出来る部分が短かった。すなわちこの部分における周波数の変化を知覚できない被験者が100%の子音明瞭度が得られなかった。以上の結果より,音声聴取能力を調べるためには,純音聴力検査と周波数変化速度テストが必要であることが明らかになった。(図19,表7,参考文献9)

墜落防護用エアバッグの墜落防護性能の評価

RR-98-5
深谷潔
 墜落時に展開して衝撃を緩和するエアバッグ式墜落防護装置の評価を行った。ダミーにエアバッグを装着して落下させ衝撃加速度を測定し,エアバッグがあるときとないときを比較した。落下高さや落下姿勢を変えて落下試験を行った。水平落下では,エアバッグにより衝撃が緩和され,HICが半分以下に緩和された。一方,頭から落ちる場合や足からの落下ではその差は小さい。システムとしては,墜落検知の手段が重要であり,体が支持物から離れたことで,墜落を検出できるが,飛び降り等に対しても墜落とみなす可能性があり,墜落検出手段の改善が不可欠である。また,自動車の衝突実験等の評価基準で緩衝性能を見ると,高所からの落下では傷害が避けられないことから,これに対処するためにエアバッグの厚さの増加や衝撃吸収方式の改善が必要であることを力学モデルで示した。(図9,表2,写真5,参考文献2)

高齢社会対応の労働環境づくりに関する意識調査 –40歳代労働者と60歳代以上の高齢者に対する調査–

RR-98-6
本山建雄,市川健二
 超高齢社会で高齢者と青壮年労働者が共に働ける労働環境づくりを目的として,60歳以上の高齢者と,40歳代労働者について意識調査を実施した。40歳代の調査対象は125事業所から調査票数430票を回収し,集計を行った。また,高齢者66人(60~81歳)に対してヒアリングとアンケート調査を実施した。高齢就労を可能にする要因,高齢労働で懸念する障壁などについて,年齢層間の意識差を明らかにした。年齢にかかわらず,約8割が高齢期に青壮者が混在する職場で働くことを希望していた。調査結果をもとにして超高齢社会で青壮老が共に働ける職場づくりのあり方などについて論じた。(図4,表18,参考文献9,付録2) 

高圧酸素により急速圧縮を受けた可燃性液体の発火限界

RR-98-7
板垣晴彦
 高圧気体の配管においては,圧力が急激に上昇すると,局部的かつ短時間ではあるが温度が急上昇し,配管内に付着した油類などが発火する。微量の可燃性液体が存在する空間を急速に高圧酸素で圧縮して発火の有無を実測し,発火するために必要な高圧酸素の限界圧力比を求めた。さらに,圧縮されて高温になった気体から外界への熱伝導を考慮した放熱速度パラメータを導入して容器の大きさや形状の影響を検討した結果,様々な条件に対する発火の可否が推定できることを示した。(図19,表1,参考文献2)

水を噴霧した場合の管内伝ぱ火炎の消炎挙動

RR-98-8
八島正明
 水をガス爆発抑制の消火剤として利用することを考慮し,その基礎的知見を得る目的で,管内を伝ばする予混合火炎に水を噴霧した場合の火炎の非定常挙動,消炎限界,噴霧の適用限界などを調べた。対象とした火炎は,メタン–空気とLPガス–空気予混合火炎である。実験は,正方形断面 0.2m × 0.2m,長さ2mの燃焼管において,5種類のノズルを用いておこなった。実験の結果,火炎は瞬間的に消えないこと,水滴径が小さいほど少ない水量で消炎が達成できるが,最低限必要とする水量があること,消炎しない場合には予混合気を擾乱するので燃焼を促進,加速伝ぱさせることがわかった。消炎に及ぼす水滴径,噴霧流束,水量などが従来の研究と比較検討された。(図21,表3,写真2,参考文献31)

墜落災害防止に関する建設作業員への質問紙調査

RR-98-9
鈴木芳美,臼井伸之介,江川義之,庄司卓郎
 墜落災害は建設工事における労働災害の4割を占め,これまでのハード的対策に人的要因を加味した新たな防止対策の展開が求められている。そこで,災害事例分析を通して明らかになった,安全帯不使用・開口部放置・不十分な情報伝達の3つの問題点に焦点を絞って,建設現場で働く作業員に対して質問紙調査を実施し,背景にある人的要因へのアプローチを試みた。質問紙回答の集計・分類ならびに多変量統計解析を適用した分析の結果,質問紙の回答内容には職種や年齢の差異に基づく特徴的な差異や特殊性が存在すること,また安全帯不使用の背景に作業能率因子・心理生理的因子などが存在すること,などが明らかになった。(図13,表6,参考文献4)


刊行物・報告書等 研究成果一覧