労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-97 の抄録

応力集中係数および応力拡大係数の決定のための熱弾性効果の適用

RR-97-1
橘内良雄,本田尚,佐々木哲也
 熱弾性効果を利用した赤外線応力測定法の信頼性について検討するため,種々の切欠きを有する試験片の切欠き近傍の応力および応力集中係数を赤外線応力画像システムを用いて計測し,FEM等による解析結果との比較を行った。また,CTとCCT試験片のΔK を赤外線で計測し,解析解と比較した。その結果,赤外線のKt はFEMのそれよりも若干低めに評価される場合が多く,Kt の増加に連れてその差が増大した。赤外線で計測したΔK は応力比にあまり影響されず,ΔK < 15MPa√m で解析解と数%の範囲で一致した。しかし,ΔK > 15MPa√m では赤外線の方がΔK を最大9%程度低めに評価した。しかし,これらの特性を考慮すれば,赤外線による応力測定は実用上有効な方法であることが判明した。(図13,表1,文献13) 

人間特性を考慮したロボット設計のための人体痛覚耐性値の評価

RR-97-2
池田博康,杉本旭
 人間と共存可能なロボットシステム実現のためには,人間とロボットが接触する状況であっても安全確保される必要がある。そこで,最悪でも傷害とならないレベルの耐性値を人間側から求め,この耐性値を満足する安全な空間での人間とロボットの共存を提案している。ロボットに対する予防安全の及ぶ限界を知るという観点から,耐性基準には人間の痛覚を利用し,許容接触力と許容衝撃力を被験者毎に測定することで痛覚耐性曲線を求める方法を示した。また,痛覚耐性値の表現方法を検討し,人間へ加わる機械的刺激が静的であっても動的であっても人間の痛覚耐性値を統一的に記述した。さらに,力の次元と位置・速度の次元で記述した場合の痛覚耐性値を各々示すことで,安全な共存型ロボットの柔軟な設計指標を提供することが可能となった。(図9,表2,参考文献20)

建設工事における墜落災害の人的要因に関する多変量統計解析

RR-97-3
鈴木芳美,臼井伸之介,江川義之,庄司卓郎
 本研究は,建設工事における労働災害の4割を占める墜落災害を対象に取り上げ,人的要因に着目して,154件の災害実例の分析をおこなったものである。まず,墜落災害の発生において,被災者の墜落に至るまでの行動パターンは5タイプ23パターンに分類されることが判った。また,198項目の災害形成要因を設定し,これらの事例での該当項目を個々にチェックした。この結果に対して多変量統計解析手法(数量化III類)を適用し,墜落災害の背景要因を模索した。その結果として,ビル建築工事では,安全教育,作業の管理,コミュニケーションなどの,また木造建築工事では,経験,作業の管理などの,さらに土木工事では,経験,作業の管理などの各々の要因軸で,墜落災害の背景を整理できることが判った。(図12,表3,参8)

深層混合処理工法により改良された複合地盤の盛土荷重に対する安定性

RR-97-4
堀井宣幸,豊澤康男,玉手聡,橋爪秀夫,大河内保彦
 軟弱地盤上に盛土などを築造するとすべりや大変形を生じることがある。近年,深層混合処理工法によって軟弱地盤を改良し,すべりや大変形を防止することが多くなっている。しかし,深層混合処理工法によって作成される撹拌混合杭の強度の不均一性,複合地盤(多柱式複合地盤)の実用的な強度評価方法が確立されていないなどの問題が残されている。さらに改良率の低い地盤改良では,
  1. 未改良地盤が改良体をすり抜ける現象があり改良効果が得られない
  2. 改良率が低いため複合地盤としての強度増加が見込めない
と言われている。今回,遠心載荷装置を用いて低改良率の深層混合処理における地盤改良の効果を調べる模型実験およびその数値解析を行った。その結果,
  1. 低改良率でも未改良地盤が改良体をすり抜ける現象は生じない
  2. 低改良率でも強度増加が認められ,改良位置によって改良効果が異なる
  3. 円弧すべり法による安定計算は改良位置の効果を表現できないが,有限要素法ではある程度定性的にシミュレートできる
ということがわかった。(図17,表4,写真3,参考文献5)

遠心模型実験における一段式アンカー土止めの掘削に伴う変形・崩壊挙動

RR-97-5
豊澤康男,堀井宣幸,玉手聡
 一段式アンカー模型を関東ローム地盤,砂層地盤及び互層地盤(関東ロームと砂層)の三種類の地盤に設置し,遠心場において掘削を行い土止めの崩壊までの変形・崩壊挙動を調べた。その結果,アンカーの変形・崩壊時においては,地盤の変位,矢板の変位とひずみ,土圧,アンカー張力は相互に密接に関連し,アンカーの設置角度が鉛直に近い場合は,矢板が下方向に変位するとアンカーの張力による拘束効果が減少し,矢板及び背面の地盤が掘削側に変位し,結果として土圧及びアンカー張力の上昇を招く恐れがあり,さらに矢板が倒れるように変位する場合は,アンカー張力が増大するなど崩壊の危険性が高まる可能性があることを指摘した。また,掘削が進行する過程でアンカー張力,矢板にかかる土圧はほとんど変化しないが,崩壊直前には矢板下部の主働側の土庄が増加するなどの現象を観測した。(図15,表5,写真2,参考文献8) 

マグネシウム及びその合金の粉じん爆発危険性

RR-97-6
松田東栄
 マグネシウム試料粉の空気,窒素及び二酸化炭素中における反応性を比較するため,20L粉じん爆発試験装置を用いて粉じん爆発性を測定した。その結果,Mg粉の爆発の激しさ,もしくは,Kst値は,二酸化炭素中では空気中の約半分で,実験で使用した試料粉は,窒素中では爆発しなかった。同時に,一般的傾向でもある,粉じん爆発の激しさの粒子径依存性が認められた。一方,Al-Mg及びMg-Si合金の粒子径が十分小さければ(中位径<26μm),合金中のMg含有量の多いほど合金粉じんの爆発危険性を増大させる。浮遊粉じんの発火温度についても,Al-Mg合金ではMg含有量の増大が発火温度の若干の低下を生じたが,Mg-Si合金ではMg粉の発火温度より低くなる場合もあった。(図6,表1,写真1,参考文献22)  

有機溶媒の反応危険性に関する研究(第2報) –エピクロロヒドリンとジメチルスルホキシドとの混合液の反応機構–

RR-97-7
安藤隆之
 化学工業等において使用されている有機溶媒の中には,それ自体が熱分解危険性を示すものや,溶質との反応危険性を示すものがある。そのような危険性を把握し,蒸留工程等における爆発・火災災害を防止するための研究の一環として,エピクロロヒドリン(ECH)とジメチルスルホキシド(DMSO)との混合液の反応機構を推定するためにクロロヒドリン類とDMSOとの混合液及びECHとDMSOとの混合液に水または塩酸を添加した系についてDSC測定を行った。その結果,ECHとDMSOとの混合液のDSC曲線における第一段階の発熱は,ECHの分解反応がDMSOの極性効果によって促進され低温側に移動したものであることが明らかとなった。また,ECHとDMSOとの混合液のDSC曲線における第二段階の発熱が,第一段階の発熱で生成したクロロヒドリン類の分解によるものであることが確認された。(図6,参考文献1)

不安定物質の熱分解における活性化エネルギーの評価

RR-97-8
大塚輝人
 融点と熱分解開始温度が近い物質について,反応速度,反応熱,融点等の情報を得ることがこれまでできなかった。本研究では,分解時の熱流量と,分解時に出る気体の圧力を同時測定することにより,これらの知見を得ることができた。例として扱ったLPOでは,融点53.72℃,固体分解時の活性化エネルギー281kJ/mol,液体分解時の活性化エネルギー101kJ/mol,固体分解時の反応熱551J/g,液体分解時の反応熱708J/g,融解熱157J/gを得た。また,合わせて行ったコンピュータシミュレーションにより,SADT値は46.19℃と与えられ,文献値とも良い一致をみた。(図8,表1,参考文献4)

電気化学マイグレーションによる配線板の絶縁低下

RR-97-9
本山建雄,市川健二
 配線板,端子板等の絶縁不良の原因の一つである電気化学マイグレーションについて,試験条件と発生の容易さおよび配線間の絶縁性を検討した。試験した配線板は紙基材フェノール樹脂基板及びガラス基材エポキシ樹脂基板にプリント配線した配線板であり,実験条件は高湿環境下,温度・湿度サイクル環境下及び二酸化硫黄(SO2:35.5ppm)雰囲気中の温度・湿度サイクル環境下である。配線間の抵抗が107Ωとなるまでの時間は高湿環境下,温度・湿度サイクル環境下,二酸化硫黄雰囲気中の温度・湿度サイクル環境下の順に大きく減少した。また,二酸化硫黄雰囲気中の温度・湿度サイクル環境下では配線間距離6.3mmまで電気化学マイグレーションによる析出物が目視で観察された。(図12,表2,参考文献8)

帯電粉体のシミュレーションと静電気危険性評価

RR-97-10
大澤敦
 粉体の製造・取扱工程の静電気危険性の評価および予測をするため,特に災害が多発しているタンクヘの帯電粉体の投入の自己無撞着シミュレーションを開発した。シミュレーションには粒子法を適用することによって粒径分布も考壊された。
 粒子の挙動は粒径に強く依存することが示された。さらに,帯電雲の生成機構の解明に役立つものと思われる,粒径の小さな粒子がタンク上部に電界と粘性によりトラップされる現象が見い出せた。また,本シミュレーション条件ではLightning-like dischargeを誘発するほどの大きな帯電雲はなかった。
 電界分布および静電エネルギーにより,本シミュレーション条件では,放電がヒープ表面上およびその近傍で起こる可能性が示され,さらに,放電がタンクの中心軸付近のヒープ表面で起こるとき着火の危険性があることが示された。(図5,表1,参考文献14) 


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