労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-96 の抄録

電気粘性流体(ERF)を用いた順応型アクチュエータに関する研究

RR-96-1
杉本旭
 過大な干渉力によってロボットが対象物を破壊させる場合がある。これを回避するために,ロボットの動きに,いわゆる「柔らかさ」を与える制御方法としてインピーダンス制御の研究が進められてきている。本研究では,この制御方式を人間とロボットの接触に適用するための検討を行っている。
 「柔らかさ」は心理的判断であるので,本研究では,改めて「柔らかさ」を示す物理量を事故防止の観点から検討し,力が許容限界を越えようとするとき一定に抑えられる特性を「柔らかさ」とし,これを実現するための順応型アクチュエータの条件を示している。
 さらに,この順応アクチュエータの実現手段として,ERF(電気粘性流体)を用いる順応型アクチュエータを提案している。これは,硬さ・柔らかさが電界によって制御できる特徴を有し,人間との共同作業時には柔らかく,また,単独仕事時ではパワフルな硬い動作を行う。線形の制御では難しい「柔らかさ」が非線形特性を用いることで容易に制御できることを示す。(図14,表1,参考文献15)

建設工事労働災害の発生状況の記録における情報構造に関する多変量統計解析

RR-96-2
鈴木芳美
 本研究では,労働災害事例の災害発生状況に関する記録の記述内容に対して多変量統計解析手法等を適用した分析を,災害タイプ毎に分類された災害事例を各々母集団とし,分析対象を絞って行った。発生状況の記述の中で用いられている全てのフリータームの出現頻度や頻度分布状況を明らかにするとともに,数量化III類を適用し,情報構造の解析を行った。その結果,これらの情報が,工事種類の違いに基づいた差異などで整理される構造を有していること,また,比較的高頻度のフリータームをパラメータとして,事例の判別や抽出が可能なこと,その際に用いるフリータームとして,累積頻度順位で上位3~5%程度を目安とすればよいと考えられること,などが明らかになった。(図13,表3,参考文献3)

液状化地盤の側方流動解析法の開発

RR-96-3
玉手聡
 地震による地盤の液状化は様々な被害をもたらすが,その一つに地盤の流動現象がある。地盤の流動は,傾斜した地盤が地震によって液状化すると水平方向に流動するもので,土木構造物や地中に埋設したライフラインにも大きな被害をもたらすことが過去の地震から知られている。大規模掘削工事は一般的に施工期間が長く施工途上に地震を受ける可能性があり,地盤流動が土止め支保工に及ぼす影響も考慮して施工中の安全性を検討する必要がある。本研究では地盤の流動現象を数値解析的にシミュレートするために有限要素法による地盤流動の時刻歴運動解析を試みた。本解析法では液状化層を粘性流体と見なして,計算に必要なパラメータを簡略化している。本報告では解析法の開発の第一段階として,液状化層のみから成る地盤について,その解析法とモデルケースの解析結果例を示す。(図10,参考文献9)

擬似自触媒分解型固体有機薬品類のSADT値

RR-96-4
琴寄崇
 熱的に不安定な薬品類は熱分解(TD)型と自触媒分解(AC)型に大別される。TD型はさらにFrank-Kamenetskii式を適用して熱爆発限界温度Tcを算出することが可能な固体薬品類とSemenov式を適用してTcを算出することが可能な液体薬品類に分けられ,AC型は真のAC型の固体・液体薬品類と疑似AC型固体薬品類の2つに分けられる。AC型の薬品類の自己発熱挙動はSADTの概念によく一致し,SADTは定温貯蔵試験によって測定できる。本研究においては,熱的に不安定な薬品の熱分析曲線とその自己発熱挙動型及び2つの熱爆発限界条件式の間の相互間係に基づき疑似AC型固体有機薬品類が熱的に不安定な薬品類全体の中に占める相対的位置を明らかにした後,簡単安全な定温貯蔵試験装置を用いて5種の疑似AC型固体薬品類のSADTを求め,それらが文献値とかなり良く一致することを確かめた。(図14,表4,参考文献7)

液相反応における撹伴条件の発熱速度への影響(2) –エピクロロヒドリンの重合反応–

RR-96-5
藤本康弘
 発熱反応を行わせる反応器について,スケールアップ等に際しての攪拌効率の低下が原因で暴走反応に至る状況を想定し,攪拌速度が発熱挙動に及ばす影響を調べた。エピクロロヒドリンの重合反応において,反応温度制御モードを用いて反応温度を一定(60℃)に保って反応させた場合,攪拌速度60rpm以上では攪拌が遅くなるにしたがい酸添加中の発熱量は減少していくが,添加後の発熱は逆に徐々に増加した。添加後の発熱は攪拌速度60rpmの方が120rpmの場合より約10%増加した。添加後の発熱量の違いが断熱状態での発熱挙動に及ばす影響を断熱制御モードで検討したところ,攪拌速度120rpmでは,反応温度が95℃を越えたところで,反応温度制御モードに切替えることで温度制御ができた。一方,攪拌速度60rpmでは反応液温度が95℃を越えたところで,温度制御モードを同様に切替えても冷却することができず,反応暴走の兆候を示した。以上のことから,エピクロロヒドリンの重合反応は,攪拌速度が遅く(攪拌効率が悪く)なると,断熱状況下では暴走状態になる可能性があることが確認できた。(図7,表1,参考文献5)

電磁ノイズの電子回路への影響と半導体素子の静電破壊防止について

RR-96-6
冨田一,田畠泰幸
 典型的な工業環境での電磁界を測定し,一部では30V/m程度の電界強度であった。工業環境での電磁ノイズの電子機器への影響を調べるため,基本的なデジタルICの信号線に電磁干渉したときの動作特性を実験的に調べ,IECで定められた工業環境での試験レベルではデジタル回路が誤作動する可能性のあることがわかるとともに,デジタル回路が反転する過程で電磁ノイズが重畳すると誤作動の発生しやすいことがわかった。また,静電気の放電による電磁ノイズによって半導体が劣化することを防止する導電性バッグについて,抵抗率と電界遮蔽効果の関係を,実験および電気等価回路から検討するとともに,劣化原因である静電気放電をモデル化した数値計算を行い,モデル計算が導電性バッグの設計支援に適用できることがわかった。(図9,表3,参考文献4)

プレス用光線式安全装置の伝導性ノイズに対するイミュニティ

RR-96-7
冨田一
 現在国内で使用されているプレス用光線式安全装置については,ほとんど電磁ノイズに対するイミュニティが把握されていない現状にある。ここでは光線式安全装置の伝導性ノイズに対するイミュニティを把握するため,方形波パルス(JIS C 1003),電気的ファースト・トランジェント/バースト(IEC 1000-4-4),バルクケーブルインジェクション(MIL-STD-462D)に準拠した実験を行った。その結果,一部の安全装置はIECで示された工業環境に適用される試験レベル以下でリレーのチャツタリング等の誤作動がみられた。また,印加した電磁ノイズの周波数スペクトルの分析及びバルクケーブルインジェクションの結果から,誤作動を引き起こす周波数は5MHz以上であることがわかった。イミュニティ向上策として,フェライトコア,フィルタ,ノイズカットトランスの効果を実験的に確認した。(図8,表3,参考文献4)


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