労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-95 の抄録

空気圧シリンダの低速度制御に関する研究 –非線形摩擦の影響と電気粘性流体による補償法–

RR-95-1
池田博康,杉本旭
 空気圧シリンダは力の調節ができるので,対象物の壊れ易さに応じて力を調整できる安全なアクチュエータが実現できる。その反面,空気圧シリンダは制御が困難であり,それは,シール部の非線形摩襟によって低速移動時にスティックスリップが生ずるからである。
 一方,ER流体(Electro-Rheological Fluids)は,外部電界によって粘度が著しく変化する流体である。ER流体を用いるダンパは,ダンピング係数を自由に設定できる。本研究では,空気圧シリンダで生ずるスティックスリップの発生機構をまず明らかにし,これに基づきERダンパの制御を行って空気圧シリンダの非線形摩擦の補償を試みている。その結果,これまで不可能とされていた空気圧シリンダの安定した低速度制御が得られている。(図16,表1,参考文献11)

安全制御システムの基本構成 –安全制御の原理とフェールセーフシステムの構成方法–

RR-95-2
杉本旭,梅崎重夫,池田博康,粂川壮一,深谷潔
 危険がいつ生ずるか分からない状況では常時安全を確認して機械の操作を行う。本論文では,安全確認のための論理をまず示し,安全システムの構成条件に関する検討を行っている。これによれば,人と機械とが安全に作業を行う場合の条件として,安全を示す情報(安全情報)が生成し,エネルギーとして出力されるまで,一貫してユネイトに伝達されねばならないとしている。特に,「ユネイト」な論理的関係の一般的特性について論じている。ただし,制御による安全が確定論を基調とすることを明らかにする必要があり,そのため,論理数学で特別に使用される用語ではあるが,その内容を最も端的に示すことから,本論文では「ユネイト」を用いている。これまでの多様な安全に対して,本論文では安全制御に関する基礎的原理が示されている。(図7,表5,参考文献15)

符号化によるマイクロプロセッサのエラー検知手法と評価

RR-95-3
池田博康
 機械の制御装置へのマイクロプロセッサの適用が拡大しつつある中で,プロセッサの故障や処理エラーが機械の誤動作に至る危険性が指摘されている。本報では,プロセッサにおけるこれらの誤動作の誘因に対する安全性確保を目的として,プロセッサが扱う全データを符号化し,データ処理中に起こり得る全てのエラーを照合により検知する自己診断機能を検証した。その結果,エラー検知符号に剰余演算結果と記号を付加したランダム符号を用いると,エラー検知能力が,従来の多重化による冗長度の評価ではなく符号の大きさに応じた高信頼度で評価できた。この符号を用いたエラー検知システムは,プロセッサの種類に依存せず,また,データ照合等を担う周辺要素は既存技術で実現できるため,制御装置へのプロセッサ適用の可能性を広げるものと考えられる。(図6,参考文献11)

針葉樹を用いた合板足場板の強度特性

RR-95-4
河尻義正,大幢勝利
 地球環境問題の一つとして,熱帯林の減少とその保護が叫ばれ始めてから十年余が経過した。その間,関係分野において,熱帯広葉樹の使用削減に向けた多くの試みがなされているが,その一つとして,これまで東南アジア産の広葉樹を材料にしてきた合板足場板の材料の一部に針葉樹を用いた場合の強度性能について実験的研究を行い,実用化の可能性を検討した。その結果,針葉樹を用いた合板足場板の曲げ性能は,合板の表板にスカーフジョイントを有する場合を除いて,熱帯材合板足場板と同等であることが判明した。また,曲げ強さと曲げ弾性係数の間に高い相関があり,熱帯材合板足場板と同様に,たわみ試験から強度の推定が可能であることが明らかになった。結論として,表板にスカーフジョイントを有しない針葉樹合板足場頼は,実用に供して差し支えないものと判断された。(図15,表4,写真2,参考文献12)

ハイヒールによる姿勢の不安定性に関する研究

RR-95-5
永田久雄
 20歳前後の12人の女性を一連の実験に参加させ,裸足とヒール高の異なる4種類の靴別に,倒れるまで水平加速外力を加えた。加速外力は時間軸に対して,ステップ状とした。検査結果から,水平加速外力を負荷した場合に姿勢バランスを失わせる限界加速値とその時の持続時間の逆数とに直線的な関係がみられた。後方から加速外力を負荷した場合には,ハイヒールと裸足での限界加速値に有意差がみられた。前方からの場合には,差が僅少で有意差が認められなかった。後方から加速力を負荷した場合には,ハイヒール(ヒール高89mm)はローヒール(ヒール高12mm)と比較して,限界加速値が38%減じている。立位姿勢の保持限界の観点からは,靴ヒール高は30mm以下が推奨できる。(図6,表4,写真2,参考文献25)

天候が超高層構造物施工時の作業性に及ぼす影響

RR-95-6
大幢勝利
 橋梁主塔や超高層ビルなど高層化した構造物を施工する際には,天候により作業効率や作業環境が通常の構造物の施工以上に大きな影響を受ける。そこで,超高層構造物施工時に天候が作業性と安全性に及ばす影響について調べるため,日本を代表する高層ビル及び吊形式橋梁の14現場を対象として,ヒアリング,工事資料及びアンケートを中心に事例的な調査を行った。その結果,高さが300m近くになる構造物の施工実績では,天候不良により約15%もの作業が中止になっており,橋梁主塔では風により足場の解体作業が,超高層ビルでは雨により溶接作業がそれぞれ大きな影響を受けていた。また,作業員へのアンケート調査の結果,風,雨など直ちに作兼の安全に影響するものについては,作業中止か否かの判断がある程度適切に行われているが,暑さ,寒さという心理的苦痛に対する現場での配慮が非常に少ないことがわかった。(図7,表2,参考文献10)

有機溶媒の反応危険性に関する研究(第1報) –エピクロロヒドリンとジメチルスルホキシドの混合液の熱安定性–

RR-95-7
安藤隆之
 化学工業等において使用されている有機溶媒の中には,それ自体が熱分解危険性を示すものや,溶質との反応危険性を示すものがある。そのような危険性を把掘し,蒸留工程等における爆発・火災災害を防止するための研究の一環として,エピクロロヒドリンとジメチルスルホキシドの混合液の熱危険性をDSC及びARCにより測定し,反応生成物の分析をDSC-GCMS法により行った。
 その結果,両者の混合液はエピクロロヒドリン及びジメチルスルホキシドのいずれよりも高い熱危険性を示すことが判明し,単なる混合物として取り扱ってはならないことが明らかとなった。また,混合液における熱危険性の増大は,ジメチルスルホキシドによるエポキシ基の酸化反応に起因するものであると推定された。(図10,参考文献1)

液相反応における撹拌条件の発熱速度への影響

RR-95-8
藤本康弘
 発熱反応を行わせる反応器において,停電等による攪拌停止とその後の不用意な攪拌再開により反応が急激に進んで暴走反応に至る状況を想定し,攪拌条件が発熱挙動に及ぼす影響をしらべた。ベンゼンに硫酸と硝酸の混酸を添加する場合については,120rpmで攪拌しながら添加した場合と,30rpmで攪拌しながら添加して添加後に攪拌速度を120rpmにした場合との反応熱の発生状況には大きな違いはなかった。酢酸のベンゼン溶液と水酸化ナトリウムの水溶液との中和反応については,酢酸のベンゼン溶液中に水酸化ナトリウム水溶液を添加した場合の反応熱の発生状況には,ニトロ化反応の場合と同様に明確な違いはなかった。しかし,水酸化ナトリウムの水溶液中に酢酸のベンゼン溶液を添加した場合,ベンゼン溶液の添加中の攪拌速度が遅いほど添加中の発熱量が小さくなり,添加後に攪拌を速めた時の発熱量は,逆に増大した。(図8,表2,参考文献6)。

ネオジム–鉄合金の熱的反応性

RR-95-9
大塚輝人,林年宏
 磁性媒体用素材であるネオジム(Nd)–鉄合金粉末と,一般に不活性物質と誤解されがちな窒素(N2),二酸化炭素(CO2)及び水との反応性を調べた。熱分析によれば,空気中のNdは300℃付近で酸化発熱するが,N2及びCO2とは反応しなかった。Ndに水を加えると発熱速度がピークに達する温度は低下し,空気,アルゴン及びCO2中では100℃となり,N2中では130℃となったが発熱速度は格段に増加した。合金粉末も同様の挙動を示したが,発熱速度は減少した。反応生成物の分析及び堆積粉の発火実験から,高温下で水と接触したNdあるいは合金粉末は,水の酸素を奪って酸化され同時に水素を遊離することが分かった。この反応は,気相中の酸素による酸化よりも低い温度で生じ,かつ,無酸素雰囲気でも,不活性ガス中でも生ずるが,特に空気中では,生成した水素による燃焼の危険性もあることが判明した。(図9,参考文献4)

帯電液体と接地導体間の着火性放電とその抑制

RR-95-10
児玉勉,田畠泰幸
 可燃性液体を貯蔵し,又は取り扱うタンクにおける静電気による爆発・火災を防止するため,ポリエチレンタンク内の灯油を直流コロナ放電によって強制帯電させ,これに各種金属電極を接近させ,放電発生時の電極距離,放電電荷及び放電ピーク電流を測定するモデル実験を行い,可燃性混合気の着火源となり得る着火性放電の発生条件とその抑制方法について検討した。その結果,液面電位が30~40kV(電荷密度が12~16µC/m³)に達すると,球電極,円錐電極及び棒電極ではその先端が液面付近にあるとき着火性放電が発生するが,電極の先端にテフロン円板を取り付けると,接地ワイヤを取り付けたと同様に液面電位が50kV(電荷密度が20µC/m³)までは着火性放電の抑制が可能なことが判明した。(図18,表3,参考文献11)

配線板の絶縁低下に及ぼすオゾンの影響

RR-95-11
本山建雄,市川健二
 配線間の距離が短くなるにしたがって配線板の絶縁低下による障災害が増えている。この原因の一つとしてオゾンによる配線板表面の劣化がある。オゾンはスイッチの開閉等に生じる放電や高電圧部からのコロナ放電により発生し,材料表面の特性を疎水性から親水性に変える。ここではオゾンの配線板の絶縁低下に及ばす影響を検討した。実験の結果,オゾンに曝露した配線板は水に濡れやすくなり,表面抵抗は減少した。実験の範囲内で,オゾンに曝露された材料の接触角とlog(オゾン濃度x曝露時間)との関係及びlog(表面抵抗)とlog(オゾン濃度x曝露時間)の関係は一次式で近似できる。(図11,写真2,表1,参考文献6)


刊行物・報告書等 研究成果一覧