労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-94 の抄録

回転停止確認に基づく安全作業システムの一構成法

RR-94-1
杉本旭
 機械の保全や異常処理作業などは,作業安全の観点で見ると,機械の可動部と人間とが共通の空間で作業を行う人間機械作業システムとして捉えることができる。従来,この様なシステムでは,作業者の接近を自由に許し,危険な状況が生じたときは機械の可動部で作業者の安全を確保するためのインターロックが備えられている。しかし,機械の可動部の停止遅れが作業者の安全に関わる場合,機械の可動部だけで安全を確保することは困難である。本報告では,人間機械作業システムにおける安全確保の具体的構成例として,モータの回転停止確認に基づくインターロックシステムとモータ回転停止確認の方法を示し,ここで使用するモータ停止確認センサは,故障しても誤ってモータ停止の判断だけはしないフェールセーフな特性で実現されることを示した。(図9,表1,参考文献9)

クレーン等の構造計算に用いられる座屈係数について

RR-94-2
前田豊
 クレーンあるいは移動式クレーンの構造部分の長柱の座屈計算に用いられる座屈係数について,その計算理論を整理してまとめ,計算手順を明らかにした。すなわち,弾性座屈応力はオイラーの式で計算し,塑性座屈応力はT型断面あるいはパイプ断面の柱について完全弾塑性を仮定したエーガーの式で計算する。これらをそれぞれ安全率2.5及び1.5で除してその小さい方の値を許容座屈応力とする。また,現在の座屈係数の計算に用いられた材料定数を逆算し,通常の許容圧縮応力の計算に用いられる値とずれがあることを示した。最後に,鋼材の基本安全率と区分が変更されたとき,区分を代表させる鋼材の降伏点と引張り強さの備について,最も安全側の座屈係数を与える条件を求めるとともに,計算に基づく座屈曲線を示した。(図10,表2,参考文献7)

ひずみゲージを用いた疲労き裂モニタリングの基礎研究

RR-94-3
佐々木哲也
 機械・構造物の破壊事故は何らかの形で材料の疲労に起因しているが,その多くは定期検査での疲労き裂の見落としや設計時の見積もりを越える過負荷が原因となっている。このような破壊事故を防止するためには,破損した場合に致命的な事態を生じるような部材については疲労き裂の発生・進展を常時モニタリングすることが有効であると思われる。そこで,本研究ではひずみゲージを用いて,実機に適用可能な疲労き裂モニタリング手法を開発するための基礎的な検討を行った。直接法と間接コンプライアンス法の2つの方法を提案するとともに,簡単な形状の試験片を用いた疲労き裂進展実験に適用した。その結果,間接コンプライアンス法によれば,き裂の発生位置が正確に予測できない場合にも精度よく疲労き裂のモニタリングが可能であることが示された。(図7,表3,参考文献9)

聴覚特性を考慮した断続騒音の大きさの評価

RR-94-4
江川義之
 聴覚特性が断続音の大きさの評価に与える影響を調べた。最初に,耳に余韻音が残るレベルを調べた。その結果,高齢者は余韻音が残りやすいことが分かった。次に,停止時間が異なる断続騒音を用いて余韻音が騒音の大きさに与える影響を調べた結果,余韻音は騒音の大きさの評価に影響を与えていることが明らかとなった。さらに,持続時間が異なる断続騒音を用いて聴覚応答レベルが騒音の大きさに与える影響を調べた。その結果,聴覚応答レベルの低い被験者は,等価騒音レベルより騒音を小さく評価した。最後に,等しい等価騒音レベルの断続騒音を用いて実験を行ったところ,聴覚応答レベルと余韻音残留レベルの高い被験者は等価騒音レベルより騒音を大きく評価し,また聴覚応答レベルと余韻音残留レベルの低い被験者は,等価騒音レベルより騒音を小さく評価することが示された。(図14,表1,参考文献10)

ヒヤリハット事例の分析によるヒューマンファクターの研究(1)

RR-94-5
臼井伸之介
 災害防止研究の1つとして,ヒヤリハット事例の収集と分析から危険源を解明し,災害を防止しようとする手法がある。本研究は,電力会社作業員が経験したヒヤリハット事例を収集し,その内容の質的な分析から,災害発生にかかわるヒューマンファクターを解明するために調査を実施した。分析の結果,形態の類似した単純な動作エラーは35%と数多く報告された一方,重大な災害につながりやすい人間の誤った思い込みやコミュニケーションエラーは,5%,1%ときわめて少数であった。その理由として,動作面でのエラーは思考面でのエラーより,はっとする感情を体感し記銘されやすいこと,自発的報告の場合,自分だけの単純な問題が取り上げられやすいこと,ヒヤリハットとはこのようなものとの先入観が作業員にあり,それに従って報告されている可能性があること等を指摘した。(図4,参考文献19)

くさび結合部を有する型枠支保工の座屈強度 –斜材のない半剛結合骨組みの座屈強度について–

RR-94-6
大幢勝利,河尻義正,小川勝教
 橋梁などの建設工事現場において使用されるくさび結合式型枠支保工は,結合部が半剛結合になっているが,半剛結合部を有する仮設構造物については明確な設計方法が示されていない。そこで,その設計方法を確立するための基礎資料を得ることを,目的として,斜材がない場合のくさび結合式型枠支保工の座屈強度について,実物大座屈実験と有限要素法による解析を行った。本研究では,実験的に求めたくさび結合部の回転剛性をパラメータとして,部材長に対する結合部の大きさの影響がでないように,結合部を長さのある一種の弾塑性梁と考えてモデル化を行い,それに対し解析した。その結果,結合部を節点とした簡易計算式との比較から,結合部の大きさが解析値に与える影響は少なく,むしろ結合部の回転剛性の見積もり方や支柱の材端条件により解析値が大きく影響を受けることが示された。(図6,表4,参考文献5)

遠心模型実験による鋼矢板式土止めの崩壊挙動の解明

RR-94-7
豊澤康男,堀井宣幸,玉手聡
 遠心力載荷装置を用いた模型実験により,切梁の設置が不十分な場合及び根入れが浅い場合について崩壊時の挙動やメカニズムを解明した。矢板模型を装着した粘性土模型地盤で崩壊実験を行い,矢板及び地盤の崩壊挙動と矢板が受ける土庄,地盤内部のひずみの発生状況等について調べた。その結果,上端部に切梁を設置した矢板では,崩壊時には根入れ部の背面に土圧が集中しヒービングが生じた後,変形の進行によって主働土庄が急上昇するとともに根入れ下端部から斜め上方に向かって滑り面が発生し,地表面に繋がる進行性破壊により崩壊に至るなどの知見を見た。矢板の支持条件の相異により変形・崩壊状況が著しく異なり,また,変形・崩壊時のせん断ひずみの発生状況及び土圧分布にはそれぞれ特徴があることが明らかになった。(図7,表4,写真4,参考文献24)

活性炭の粉じん爆発危険性 –爆発特性に及ぼす着火エネルギーの影響–

RR-94-8
松田東栄,板垣晴彦
 活性炭試薬級試料2種類の粉じん爆発特性に及ぼす着火エネルギーの影響を,ISO規格の1m³円筒型粉じん爆発試験装置およびそれに準じる30L球形試験装置を用いて比較検討した。両装置において爆発圧力については大きな相違はないが,Kst値(最大圧力上昇速度)と爆発範囲は着火エネルギーによって大きな影響を受ける場合があった。30L装置における見かけの爆発範囲は同一エネルギーにおいて1m³試験装置におけるそれよりも常に広い範囲を示した。このことから,10kJの着火エネルギーを用いた30L装置では,潜在的な危険性を指摘できる点で有用であることが示された。1m³試験装置で測定した下限界データと同等の値を30L装置で求めるためには1.5~2kJの着火エネルギーを使用すれば良いが,その値は使用した活性炭の種類に依存した。(図10,写真1,参考文献10)

除害処理に使用した活性炭の熱的反応性

RR-94-9
板垣晴彦,松田東栄
 除害処理に使用した活性炭の熱的反応性の解明のため,試薬用や工業用等の活性炭に窒素酸化物(NO2,N2O),硫黄酸化物(SO2),フッ素ガス(F2)を含む模擬廃ガスを吸着させてDSCとARCにより分析した。その結果,末吸着時にはない熱的反応性が NO2 81ppmあるいは F2 0.08%を含む模擬廃ガスを吸着した際に確認された。NO2において模擬廃ガス中の濃度を増したところ,10%では発熱開始温度がDSCで47℃付近,ARCで30℃付近に低下し,40%以上では活性炭がやがて赤熱し自然発火した。したがって,活性炭吸着により除害処理する際には今までと同様に酸素の吸着による酸欠災害に留意するとともに,活性炭を原因とする爆発火災災害を防止するため,活性炭の品種や充填層の緒元,廃ガスの組成と流量などに留意し,爆発火災に結びつかないようにすべきである。(図5,表4,参考文献5)

ニトロベンゼン誘導体の官能基配置と発熱開始温度

RR-94-10
藤本康弘
 化学構造が似ているものでも官能基の位置関係により発熱開始温度,発熱量といった熱分解挙動が大きく異なる場合がある。この原因を究明し,化学構造から熱分解挙動を予測するために,いくつかのニトロベンゼン誘導体について分解前の相互作用の状況をNMRおよびIRにより測定し,また分解時の相互作用の状況をGC-MSによる生成物分析から明らかにし,官能基と発熱開始温度との関係を考察した。NMRおよびIRの測定結果からある特定の結合に着目して発熱開始温度との関連性をみる試みはうまくいかなかった。一方,GC-MSによる生成物の分析からは,発熱開始温度の違いと熱分解パターンに相関がみられる化合物群のあることがわかった。(図5,表7,参考文献4)

固体酸化性物質の酸化力の簡易試験法

RR-94-11
藤本康弘
 廃棄物の有害特性のうちの酸化力について,その簡易な試験方法として,バーナー加熱試験によってセルロース粉末に対する酸化力を測定し,国内の標準の酸化力測定試験である木粉の燃焼試験(消防法)と比較検討した。その結果,バーナー加熱試験で炭化が不完全なものは燃焼試験をおこなった場合に危険性無しと判定されることがわかった。バーナー加熱試験は燃焼試験とよい相関を持つデータを与え,また燃焼試験と比較して使用する試料の量が10分の1以下と少ないので,試験時の危険性も,また発生する煙もはるかに少なく,特別な装置も必要としないことから,酸化力という危険性の有無を判定する方法として利用できると考えられる。(写真2,表3,参考文献1)

閉鎖空間への爆発圧力の放散

RR-94-12
板垣晴彦,林年宏
 閉鎖空間への爆発圧力の放散挙動を計算により予測するために,燃焼理論と理想気体の法則を適用したモデルについて計算を行い,実験結果と比較した。実験は,開口により接続された2つの円筒容器を用いて行い,点火側容器内でプロパン–空気混合ガスを爆発させたときの圧力が,開口を塞いだアルミニウム箔を破って,予め窒素ガスを満たした放散側容器へ放散されるときの圧力変化を測定した。計算結果は,定性的には,開口径が両容器内で発生する圧力に及ぼす影響をよく説明した。しかし,計算値と実験値が一致したのは,開口径が小さい場合の点火側容器内の圧力についてのみであり,予測の向上のためには開口からの流出や放散側容器内での2次的燃焼などに関し計算モデルの改良が必要と考えられた。(図6,参考文献8)

可飽和リアクトルの出力電流に生じるスパイクを用いた直流検出

RR-94-13
山野英記,市川健二,本山建雄
 近年,直流ないしは交直重畳の地絡電流検出器の需要が高まっている。本研究では,この種の地絡電流の検出に可飽和リアクトルの出力に見られるスパイク状飽和電流の振幅変化を応用することを考え,一次巻線を環状コアに貫通させた可飽和リアクトル1個を用いて,出力電流波高値の変化分と入力直流電流との関係が各種の条件にどのように依存するかを調べた。実験の結果から,
  1. 電流利得(ΔI 2/I 1)が極大になる励磁周波数及び極大値は二次巻数に依存し,電流利得の極大値は二次巻数が小さいほど大きい
  2. 各巻数において最大の利得が得られた場合の二次巻線起磁力や計算される仮想の磁束はほぼ同じである
  3. 利得はコア材質,初期の飽和電流,励磁電源電圧波形にも依存する
  4. 最大の利得は約2倍となり平均値変化を用いるよりも有利である
などが明らかとなった。(図10,表3,参考文献2)

プラズマプロセスに用いられるRF放電の放電モード移行現象の観測

RR-94-14
大澤敦,田畠泰幸
 プラズマプロセスの安全制御の目的から,放電モードの移行現象を電子温度,電子密度,電子エネルギー分布関数,発光スベタトルおよびDC自己バイアス電圧の測定から実験的に観測し,それぞれの放電モードの特性を調べた。観測結果によると,RF放電には明らかに二つの放電モードが存在し,その遷移には急激な電子温度の低下,電子密度の上昇,高エネルギー電子の減少および発光スペクトル,自己バイアスの特性の変化が伴った。これら二つの放電モードは,プラズマ内にまで電界が浸透し,その電界によって電子が加速され,それにより放電が維持されるモードと,DC放電の放電機構と同様に,電極からの二次電子が電極シース電界によって加速され,それにより放電が維持されるモードに分かれることが予測できた。(図7,参考文献5)


刊行物・報告書等 研究成果一覧