労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-93 の抄録

圧力容器鋼の劣化特性に及ぼす熱時効の影響

RR-93-1
橘内良雄,本田尚
 1970年代以前に作られた圧力容器券用鋼と類似の化学成分を有する鋼とこの鋼をサブマージアーク溶接した継手を作製し,ステップクーリングまたはAs-PWHT処理を施した後,引張り,シャルピー,破壊靭性,疲労き裂伝播,応力腐食割れの各試験を行い,材料の劣化特性に及ばす熱時効の影響について調べた。その結果,引張り,破壊靭性および疲労き裂の伝播には熱時効の影響は現れなかった。シャルピー衝撃試験では,母材と溶接継手のいずれにおいても,遷移温度が約30℃上昇した。この原因は結晶粒界にPが析出して,粒界強度を低下させるためである。(図8,表5,写真3)

赤外線応力画像測定法によるガセット溶接継手の実験的応力解析

RR-93-2
吉久悦二
 赤外線応力画像測定により,ガセット溶接継手を模擬した供試体での応力の分布状態を求め,その結果から溶接止端の応力集中係数およびそこに疲労き裂が発生した時の応力拡大係数を評価した。得られた応力集中係数と,従来の応力集中ゲージと光弾性模型により得られた実験式を併用した方法によるものとの差は最大20%程度であり,この方法で複雑な形状をした実構造物の応力集中部の強度がほぼ評価できるものと考えられる。一方,応力拡大係数について,Maddox等が示している計算式による結果と比較したところ,面内ガセット継手では良好な値が得られたが,面外ガセットでは差が大きかった。推定精度については,今後さらに検討する必要がある。(図12,表4)

疲労き裂進展寿命の信頼性解析における確率因子の影響度評価

RR-93-3
佐々木哲也
 箱形ジブを有する自走クレーンについて,つり荷重の大きさとその移動範囲の分布から構造部分の応力スペクトルを求めるための方法について検討した。応力の値が施回運動に依存しないジブの根元付近と,旋回によって変動するアウトリガの根元付近について,荷をつり上げてから降ろすまでの間における応力の推移について検討した。減衰振動ではスペクトルが両対数グラフ上で直線になることを導き,ジブの場合はつり上げ地点及びつり降ろし地点での最大・最小応力値から求めた変動に振動成分を合成したもので応力スペクトルが近似可能であるが,アウトリガでは旋回中の変動を刻々計測あるいは計算し,最大・最小応力を求める必要があることが明らかとなった。

自走クレーンのつり荷重による応力スペクトル

RR-93-4
前田豊
 箱形ジブを有する自走クレーンについて,つり荷重の大きさとその移動範囲の分布から構造部分の応力スペクトルを求めるための方法について検討した。応力の値が施回運動に依存しないジブの根元付近と,旋回によって変動するアウトリガの根元付近について,荷をつり上げてから降ろすまでの間における応力の推移について検討した。減衰振動ではスペクトルが両対数グラフ上で直線になることを導き,ジブの場合はつり上げ地点及びつり降ろし地点での最大・最小応力値から求めた変動に振動成分を合成したもので応力スペクトルが近似可能であるが,アウトリガでは旋回中の変動を刻々計測あるいは計算し,最大・最小応力を求める必要があることが明らかとなった。

ポジティブ・クラッチ式プレスを対象とした安全システムの開発

RR-93-5
清水尚憲,粂川壮一,梅崎重夫
 これまで開発されてきた,ポジティブ・クラッチ式プレスを対象とした急停止機構や一工程一停止機構は,摩擦式ブレーキの能力が低下したり,クラッチピンが破損したりすると,スライドを急停止できなくなったり,二度落ちを生じる場合がある。そこで,本研究では,クランク角90°の位置に,曲りはりに類似した形状を持つメカニカルストッパを設けて,仮に摩擦式ブレーキの能力低下やクラッチピンの破損が生じた場合にも,クランク角90°を越えない範囲で,スライドを急停止できるようにした。これにより,足踏みによる超動操作であっても作業を安全に行うことが可能となった。また,この機構を,圧力能力25トン,毎分ストローク数100回,ストローク長さ75mmのポジティブ・クラッチ式プレスに適用したところ,安全距離を219mmまで短縮できた。(図12,写真2)

コンクリートポンプ工法において足場に作用する荷重等について

RR-93-6
河尻義正,小川勝教,大幢勝利
 コンクリートポンプ工法においては,高所にコンクリートを圧送する輸送管の支持構造物として作業用仮設足場を使用することがあるが,これに起因するとみられる足場の破損事故が発生している。本報では,こうした危険性を解明するために,コンクリート輸送管の支持構造物としての足場に作用する荷重,建枠の横架材の強度等について実大実験を行った。コンクリート圧送時には,足場の鉛直方向に特に大きな衝撃荷重が作用するため,一部の部材に過大な応力が生じ,足場の破損・倒壊の危険性があることが明らかとなった。また,やむをえず足場を支持構造物とする場合には,衝撃荷重に対する補強,荷重を分散させる取付方法,ポンプの吐出圧,振動の影響等を考慮する必要があることを示し,具体的な対策を述べた。(図18,表4))

階投下降時の心理的負担面から見た踏面・けあげの安全寸法

RR-93-7
永田久雄
 階段事故が下降時に多発していることから,下降時の「歩きづらさ」に関して,若年男子,若年女子と高年齢者各10人に42組の踏面・蹴上寸法を評価させた。女子には,ヒールの高さの異なる4種類の履物を着用させて実験を行い,系列範ちゅう法により尺度化を図った。その結果,「歩きづらさ」が最小となる寸法領域が存在すること,ハイヒール歩行では,他と比較して低めの蹴上となることが判明した。実験データの精神物理学的な分析結果をもとにして,実用的な安全性の評価式及び評価図を提案した。(図8,表7)

スリップエラーおよびミステイクエラーの発生要因に関する研究

RR-93-8
臼井伸之介
 ヒューマンエラーをスリップ(し損ないのような主に動作レベルのエラー)とミステイク(思い違いのような主に判断・思考レベルでのエラー)に分類する認知心理学的分類に基づき,それぞれの典型エラーから発生したと考えられる災害やトラブル事例,すなわち回線誤認というミステイクにより発生した感電墜落災害と,自動車内にキーをおいたままドアを閉めるというスリップエラーの発生要因について分析した。感電墜落災害では,回線誤認が生じた理由を推定し,また作業員の思い違いをチェック修正できなかった要因と,思い違いを助長・促進した要因のそれぞれを明らかにした。キー閉じ込みエラーでは,主に因子分析から,一連動作の中断,急ぎ,他の考えごと,注意の転導などエラーを誘発する要因を抽出した。また2つの事例について考えられる防止策を提言し,最後に災害の防止策を講じる上でのヒューマンファクターの重要性について論じた。(図8,表4)

建設工事労働災害事例の発生状況記録中のフリータームの統計分析

RR-93-9
鈴木芳美
 建設工事で発生した労働災害事例3377件について作製された報告書の記載事項,特に災害発生状況に関する記述に対して情報解析を行った。すなわち,これらの記述文章から全フリータームを抽出し,その頻度分布状況を調べた。その結果,これまでにも判明している通りブラッドフォードの法則あるいはジップの法則にしたがった分布を示し,この頻度分布状況は災害タイプ別などについて見ても同傾向であることが確認された。また,災害タイプや工事種類の違いと実際に使用されているフリータームとの関連をクラスター分析を通して視覚化した結果,各々のフリータームは,災害タイプごとの各クラスタ一に比較的明瞭に分類されることが判明した。(図3,表3)

労働災害統計分析研究の歴史的変遷に関する調査研究

RR-93-10
花安繁郎
 労働災害統計分析に関する研究は,災害に関する基礎的情報を提供することにより問題点の把掘や安全対策を設定するなど,安全管理における意志決定や研究全般の方向性を示す指針として重要な役割を果たしてきている。本研究は,これまで行われてきた労働災害に関する統計学的分析研究について,特に確率統計学的分析研究を中心にその歴史的変遷を慨括することを試み,また,その調査結果をふまえ,今後の労働災害統計分析研究が進むべき方向性とそこでの課毯を考察したものである。

各種気相爆発法によるフロンの分解

RR-93-11
松井英憲
 本研究は,気相中の爆発((1)爆ごうによる衝撃波,(2)爆ごう波,(3)定容燃焼)を利用した3種類のフロン分解法について,基礎的な実験を行い,新しいフロンの分解技術を開発しようとするものである。実験は,助燃剤(プロパン)と酸素の当量混合ガスの爆ごう又は定容燃焼によって生ずる衝撃波や高温,高圧を利用してフロン12の分解を行い,それぞれの方法におけるフロンの分解率,爆発特性について比較検討を行った。その結果,衝撃波による加熱のみでは分解は十分には行われず,完全な分解には,駆動爆ごう波の生成ガスとの反応が不可欠と考えられた。フロンを予混合した爆ごう波による分解では,フロンの分解率は99.7%以上と高いが,プロパンに対するフロンのモル比n≧4では,定常な爆ごうが生じなくなり,分解率も低下した。球状容器を用いた定容燃焼法では,フロンの分解率は爆ごう法とほとんど変わらず,nが6倍でも98%以上の分解率が得られ,この方法が最も有望と思われる。(図8,表3)

液体有機過酸化物の熱爆発限界温度

RR-93-12
琴寄崇
 任意の容器に入れられた任意量の熱的に不安定な液体の熱爆発をもたらす限界温度(Tc値)を、液体試料の発熱速度及び容器の放熱速度を1.25K程度の昇温幅にて測定することにより,計算する方法を提示した。本法を通用して10種の液体有機過酸化物のBAM蓄熱貯蔵試験値を算出し,報告された実測値と良く一致することを確かめた。次いで,上記液体が5L及び10L容量のポリエチレン製実用容器に入れらレた場合のTc値を算出し,BAM蓄熱貯蔵試験値と比較した。本研究の結果が示す重要なポイントは,液体に限らず,固体の化学薬品類のBAM蓄熱貯蔵試験値も今後計算で求めることができる可能性があるということ,また液体に限っては,任意の容器に入れられた任意量の液体のTc値を実測する必要性が今後なくなる見通しがあるということ,である。(図6,表6,写真1)

有機複合絶縁材料の絶縁特性の異方性

RR-93-13
市川健二,本山建雄
 電気災害は,基本的には絶縁材料の劣化や破損が原因になる場合が多い。それ故,絶縁材料の耐久性の維持・劣化挙動を把握することは,電気災害の防止技術の確立に極めて重要である。近年,エポキシ樹脂の中にガラス繊維を混入した複合絶縁材料がよく使用されるが,この複合材料の絶縁特性は,エポキシ樹脂とガラス繊維との界面の性質に著しく左右される異方性を示す。そこで,製法の異なる2種類の一方向引抜ロッドから電界方向に対して界面方向がなす角(界面角)を0, 25, 45, 60, 90度に変えたサンプルを作り,絶縁特性(絶縁破壊電圧,誘電率,誘電正接)に対する界面角の影響を調べた。その結果,ボイドレスに製作された試料の方が通常成形された試料より,絶縁特性は優れていることが立証された。また,絶縁破壊は界面角θ=90°の試料を除き,ガラス繊維に沿って進み,FRPとしては界面層が電気的に弱いこと,吸湿による影響としては,誘電率や誘電正接の性質は著しくて低下するが,絶縁破壊電圧に関しては顕著な低下傾向を示さないこと,等の知見を得た。(図19,表1,写真2)

流動粒子によって形成される帯電雲の静電界検出

RR-93-14
田畠泰幸,児玉勉
 本研究の目的は,粒子群から形成される帯電雲の安全制御技術の一つとして,それから生成される電界をリアルタイムで検出する静電界検出器の開発である。従来帯電粒子の静電気検出は,粒子が検出器のセンサに付着して,信頼性のある検出ができない等,種々の問題があった。ここでは,これらの課題をセンサにエアパージ機構を設けることによって解消し,時間的に変動する帯電署の電界を検出できる応答性50Hz,検出感度100V/cm,最大検出レンジ20kV/cmの静電界検出器を試作した。また,これを流動乾燥歳の内部に形成される電界の検出に適用し,安定な動作特性をもっていることを検証した。本論文には,試作した静電界検出券の仕様,動作特性等が述べられている。(図10,表3)

電子機器の信号伝送線路に及ぼす静電気放電ノイズの影響に関する基礎研究

RR-93-15
冨田一,田畠泰幸
 静電気放電(ESD)をモデル化した容量性放電回路及び電子機器の信号伝送線路をモデル化した低インピーダンス回路を用いて,ESDノイズの特性及びESDの信号伝送線路に及ぼす影響を検討した。その結果,ESDノイズの放射電磁界が支配的な領域での低インピーダンス回路への影響は放電電極間隔が0.3~0.7mmで最大となり,静電容量が数pFから数百pFまで同様の現象であることが明かとなった。また,ESDの特性を支配する放電電流と放電条件(静電容量,放電電極間隔,帯電極性)との関係を実験的に検討し,放電電流の時間微分値は放電電極間隔が0.5mm程度のときに最大となる現象が,静電容量が数pFの場合にも発生していることなどを明かにした。(図17)


刊行物・報告書等 研究成果一覧