労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-92 の抄録

X線法および穿孔法による突き合せ溶接板の残留応力測定

RR-92-1
吉久悦二
 SB410製大型突き合わせ溶接板の残留応力をX線法および穿孔法を用いて測定して両者の測定値の比較を行うと共に,残留応力分布に及ぼす頼の大きさの影響,切断による残留応力の再分布について調べた。その結果,溶接繰上での溶接線方向残留応力は,X線法によれば降伏点に近いレベルに達することが明らかになった。また,同一方法で溶接しても,この応力は溶接線長さに応じて増減し,同様の傾向は切断した場合にも認められたが,板幅の影響はあまり受けない。測定する残留応力が高い場合,穿孔法では孔近傍の領域が降伏して,算定される応力値の誤差が大きくなるために正確な測定ができなくなるようである。

AFOSM法と重み付きモンテカルロ法を併用した構造物の破壊確率評価システムの開発

RR-92-2
佐々木哲也
 機械・構造物の信頼性設計を行なうためには,破壊条件式と確率変数の統計的性質から破壊確率を評価する必要がある。しかし,通常,破壊確率は極めて小さな値をとるため,従来は実用的な計算時関内に十分な精度で破壊確率を評価することは困難であった。そこで本研究では,重み付きモンテカルロ法を用いることによって,破壊確率を効率的に評価するシステムを開発した。重み付きモンテカルロ法では,重み確率密度関数の平均点が計算効率に大きな影響を及ばすため,AFOSM法の設計点をこの平均点として採用し,これを非線形最適化手法によって合理的に決定している。

プレス機械用急停止機構の開発に関する基礎的研究

RR-92-3
梅崎重夫,清水尚憲,粂川壮一
 本研究では,従来と比較して単純な構造を持ち,かつ制動能力の大きな急停止機構の開発を目的として,油の圧縮によつて得られる弾性力を利用した機構を考案した。これは,油圧モータ・電磁弁間の管終に存在する少量の油の圧縮によって,大きな制動トルクが得られることを特徴とする。実験の結果,この機構は,回転半径が295mm,GD2が8.44 kgf・m²,最大観点数が120rpmのフライホイールを回転数に依存することなく約50ms程度で停止することができた。また,このときの制動角度は回転数の一次に比例して増大するから,回転数が高くなるほど効果的な制動特性を持つ機構を実現できる。従って,この機構は,高速で回転する物体や,プレス機械のようにきわめて急速な停止が要求される物体の急停止に応用できる。

探索動作用アクチュエータの構造要件とその実現

RR-92-4
池田博康,杉本旭
 探索動作を行うロボットは,未知の対象物が破壊されないことを確認して運動しなければならない。アクチュエータの作用力は,位置偏差とアクチュエータゲインに基づく仮想バネ特性により認識されるが,これが適正であるためには,仮想バネにより蓄横されるエネルギーを確実に熱消散して,エネルギー的正常性を維持するための粘性負荷を物性として持つものとする。ロボットが探索動作をする場合,粘性負荷の定速度制御すれば,対象物に接触前に仮想バネの正常性がチェックされる。このような手段として,仮想バネ特性を持つ空気圧アクチュエータと電気流体粘性によるダンパを組み合わせた探索動作用アクチュエータを開発し,より機能的な連動制御を実現した。

安全論理に基づく制御の構成論理 –安全制御系における安全情報のエネルギー伝達–

RR-92-5
杉本旭,池田博康
 危険を伴う作業が安全の条件に基づいて行われる機械的操作を安全制御として定義し,その制御系の基本構成を安全に示す情報(安全情報)の許可に基づいてエネルギを出力されるインタロックによって示した。安全情報生成過程としての安全の原理を示し,ここで必然的に不可欠となる安全情報伝達のユネイト性を機械系を含む増幅過程の論理として明らかにした。すなわち.センサによって抽出される安全情報は,安全であるときのみ出力されるエネルギとして増幅される必要があり,この増幅には外部からエネルギが別途供給されねばならず,このためのエネルギと抽出される安全情報の論理積関係を論理積モデルで示した。そして,このモデルは具体的フェールセーフ演算処理に適用できることを示した。また,フェールセーフな出力エネルギ発生手段は,外部から供給されるエネルギに安全情報が重畳されることによって,上述の論理モデルが実現されることを示した。

衝撃型建設工事用機械(油圧式ブレーカ等)の低騒音評価法に関する研究

RR-92-6
江川義之
 油圧式ブレーカの低騒音化対策として筐体の振動を抑制することが広く行われているが,コンクリート硬度の不均一性等における衝撃の変動が激しく,筐体振動音の抑制効果が判定しにくい。そこで,ブレーカの打撃周期波形を破砕衝撃波形と本体振動波形に分離し,そのRMS値の相関を検定することにおいて,低騒音評価を検討した。この評価法によると破砕衝撃波形と本体振動波形のRMS値が正の相関を示した時,低騒音化対策が効果を示したと考察される。さらにこの研究において騒音比較シミュレーション装置を試作した。この装置は,コンクリート硬度の不均一性等による破砕衝撃波形の変動を除去した条件下で,標準型および防音型ブレーカの騒音比較が可能な装置である。

遠心力載荷装置を用いた飽和粘性土模型地盤の崩壊時の変形挙動

RR-92-7
堀井宣幸,玉手聡,豊澤康男
 地盤内部で進行する斜面の崩壊メカニズムを解明することを目的として,カオリン粘性土による二次元の模型地盤を用いた遠心模型実験を行った。その崩壊減少を詳細に視察し,崩壊発生のメカニズムについて検討した。遠心模型実験では,遠心力を増加させて崩壊させる鉛直斜面崩壊実験と,一定の遠心力場において掘削過程を再現する掘削シミュレーション実験の,2つの手法で実験を行った。その結果,鉛直斜面崩壊実験では崩壊形状が全て円弧状になるのに対して,掘削シミュレーション実験においては3タイプの崩壊形状が確認できた。また,崩壊にいたるまでの最大せん断ひずみ(γmax)の発達状況を確認した。崩壊の契機として,のり先から斜め上方部にひずみが集中し,せん断層が現れ,それが地表面につながる進行的な破壊現象を確認した。

視覚判断エラー面から見た階段踏面・けあげの安全寸法

RR-92-8
永田久雄
 歩行者は階段降り口に向かつて歩行している時に最初に足を載せる踏面までの距離を判断し,歩行リズムを合わせていると考えられる。このことから,視点と踏面.けあげ寸法との関連を踏面の見え幅の観点から理論的に求めて,必要踏面寸法を算定する手法を本論で提示した。階段下降中の歩行者は通常,踏面により安全に着地するようにしているが,もし,視線が遮られると,つまずきやすくなる。そこで,2名の男子被験者を使って,24組の踏面・けあげ寸法の異なった階段を歩行させ,その時の視野を計測し,大腿部による視野の遮蔽率から踏面・蹴上げ寸法を評価する手法を提示した。

災害発生時間の分布に関する研究(6)

RR-92-9
花安繁郎
 1つの労働災害によって被災する負傷者数を労働災害による被害規模と定義し,まず,同被害規模の分布特性を明らかにし,その結果をもとに一定期間中での被害個体総数(全被災者数)の確率分布を導出することを試みた。次いで,被害規模分布の分析から得られた知見をもとに,被害規模を考慮した労働災害発生時間数の確率分布式を導出し,同分布式に用いて安全性の評価を行うことを試みた。本研究によって,発生頻度で示される災害の量に関する特性と,被害強度で表される災害の質に関する特性とを同時に分析することが可能となり,災害の量と質とをそれぞれ単独に分析・評価していたこれまでの安全性評価法の枠組を更に広げることが可能となった。

建設工事労働災害に関するテキスト情報の解析

RR-92-10
鈴木芳美
 各種の建設工事で発生した労働災害の記録資料から得られる情報の有効的な活用を図る為の一環として,当該情報が有している性質・構造についての解析を試みた。個々の災害事例の記録資料の「災害発生状況」に関する記述内容を取り上げ,オリジナルデータからフリーターム(キーワード)の切り出しを行った。これらのフリータームの頻度分布(使用頻度状況)を調べ,比較的高頻度のフリータームをキーワードとして,各災害事例とキーワードとの相関関係を数量化III類を用いて分析した。その結果,災害タイプの差異あるいは工事種類の違いに基づく情報を比較的明瞭に抽出することができた。またこれらのキーワードを用いることにより,各事例の災害種類・工事種類などの判別がかなりの程度で可能であることが判った。しかし,上記以外の要因に関する情報については,これらを明瞭な形で抽出することは難しいと判断された。

反応性物質の化学構造と熱安定性の関係(第3報) –ニトロフェニルヒドラシン異性体の熱分解–

RR-92-11
安藤隆之,藤本康弘
 反応性物質の分解温度,分解勲等の熱分解特性とそれらの物質の化学構造との関係について把握することにより,実測が困難な物質や新しく開発される物質の熱的危険性を推定,予測することを目的とする研究の一環として,ニトロフェニルヒドラジン異性体の熱分解特性をDSC及びARCにより測定し,熱分解生成物の分析をCPP-GCMS法およびDSC-LC法により行った。その結果から,異性体による分解機構の相違について検討した。その結果,オルト異性体では,まず,分子内脱水によって1-ヒドロキジベンゾトリアゾールが生成し,これがさらに分解するために2段階の発熱を示し,パラ異性体では,官能基の解離による分解反応の発熱のみが生じることが明かとなった。

ファジイ推論によるベンゼン誘導体の発熱開始温度の予測

RR-92-12
藤本康弘
 化学工場等で新規の化学物質を扱う場合などに,取り扱いの不備により爆発・火災事故が発生することがある。これらの事故を防止する為には,化学物質を使用する前にその化学物質の危険性を評価しておく事が望ましい。ここでは,ファジィ推論の手法を用いて発熱開始温度の予測を試みた。発熱開始温度を予測するための因子として,活性化エネルギーの代わりに,結合の解離エネルギー,官能基のいくつかを,グループ分けして,危険性の重みづけをしたインデックス,官能基中に電子的な相互作用に有効な原子(すなわちN,O,Cl等の不対電子を持つ原子)の数のインデックスを用いた。推論結果は充分とはいえず,相関係数R 2は,54.3%であった。今後ある程度実用に耐える予測結果を得る為には,メンバーシップ関数や補正インデックスの改良が必要である。

粉砕機における石炭の自然発火特性について

RR-92-13
板垣晴彦
 微粉炭燃焼のエネルギープラントにおける爆発火災事故の防止を目的として,揮発分が5.1%から43.6%までの8種類の微粉炭について自然発火特性を測定した。ARCでの発熱開始温度は,おおむね80℃以下で,揮発分が多くなるにつれ低下する。酸素の供給が十分なら,揮発分5.1%の試料を除き,151から172℃において急激な圧力上昇を伴う自然発火を起こす。微粉炭機内の堆積微粉炭の模擬のため雰囲気に300℃のガスを流した試験では,堆積厚30mm下面温度130℃の場合,大部分の試料は4~5時間後に中心温度が500~600℃に達する。要素や水蒸気の添加により,堆積微粉炭の温度上昇抑制と自然発火の限界の下面温度の緩和がなされる。ただし,水蒸気では,その比熱の大きさのため,表面の温度上昇の抑制幅は小さい。

高周波電気回路の開閉火花による水素・空気混合気体の点火危険性

RR-92-14
本山建雄
 高周波(1~1,000kHz),50Ωの抵抗回路の開閉火花による水素・空気混合気体の最小点火電圧を実験から求め,点火危険性について検討した。最小点火電圧は周波数が高くなるほど高くなり,特に,10から50kHzの間で大きく変化することがあきらかとなった。これは,点火に必要なエネルギーの供給が1回の放電から連続した2回以上の放電に変わるためと推測された。上記より,最小点火電圧から評価した点火危険性は減少すると考えられる。しかし,周波数の増加とともに放電の持続時間が減少するため,1回の放電により水素・空気混合気体に供給されるエネルギーは減少することから,少なくとも1回の放電により点火が起こる1,5,10kHzでは周波数が高くなるほど点火に必要な放電エネルギーが小さくなり,放電エネルギーから評価した点火危険性は増加すると推測された。

放電プラズマ化学反応を用いた有害物質の無害化 –沿面放電による芳香族系有機溶剤蒸気の分解–

RR-92-15
山隈繁臓,大澤敦,児玉勉,田畠泰幸
 労働環境の悪化や大気汚染の原因となっている芳香族炭化水素系溶剤蒸気の効率的な無害化処理手法の開発を目的として,放電プラズマによる放電化学反応の利用を試みた。セラミックベース放電電極を核とした実験装置を用いて,ベンゼン,トレエンおよびキシレンの蒸気を様々な濃度・流量条件で放電処理したところ,極めて良好な結果が得られた。その他,放電促進ガスの添加による電力効率の改善,放電生成物による影響とその対策方法等についても検討を行い,完全な無害化および安定した運用を達成するには,放電プラズマ中の酸素濃度のコントロールが不可欠であるとの知見を得た。


刊行物・報告書等 研究成果一覧