労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-91 の抄録

杭抜き時にトラッククレーンの旋回サークル部ボルトに生じる応力について

RR-91-1
前田豊
 トラッククレーンについて,旋回サークルとシャーシを結合するのに用いられているボルトの応力を計測した。静的に荷をつり上げた状態では全ボルトの応力を測定し,荷重の負荷により特定のボルトに応力が集中することを明らかにした。また,バイブロハンマーを用い,あるいはクレーンで直接杭を引き抜くことによってそれぞれ杭抜き作業を行わせ,代表的なボルトについて動的な応力変動を記録した。バイブロハンマーを用いた場合でもクレーンとしての定格荷重を大きく超え得ることが明らかになり,また,クレーン後方のアウトリガを浮き上がらせて機体の反動を利用する引き抜き作業の場合は定格荷重の1.9倍の荷重が生じることが明らかになった。

小規模ボイラの燃焼制御回路と炎検知センサのフェールセーフ化に関する研究

RR-91-2
清水尚憲,杉本旭,池田博康,梅崎重夫
 本論文では,ボイラの燃焼制御に許可を与えるための,フェールセーフな安全制御システムに関する試作と評価を行った。まず,現状のタイマに代えて,フェールセーフなON/OFFディレー素子を用いてフェールセーフな燃焼制御回路を試作した。さらに,熱電対,UV管,超音波センサをフェールセーフな炎検知センサとして改善するための実験的検討を行った。特に,熱電対式のセンサでは,可飽和磁性体を用いた電流センサと高速応答用制御回路を試作し,安全化とともに実現性を高めた。

プレス機械制御のフェールセーフ化に関する研究

RR-91-3
梅崎重夫,池田博康,清水尚憲,粂川壮一,杉本旭
 本論文では,フェールセーフな論理素子を用いて,信頼性が高く,かつ,フェールセーフな構造のプレス機械用オーバーラン監視回路を提案した。この回路では,スライドが上昇から下降に移行する区間に運転準備区間を設け,ここでのブレーキ性能検査と運転開始ボタンOFFの確認に基づいてスライドの下降を許可する構成とした。また,この回路をフェールセーフにするには,フェールセーフな論理素子を用いて自己保持回路を構成すれば,実現可能であることが分かった。

労働災害の被害強度・規模特性に関する研究

RR-91-4
花安繁郎
 労働災害による被害の大きさの統計的特性を明らかにすることを目的として,労働災害による傷害の程度(労働損失日数による災害強度)と,ひとつの労働災害によって負傷する労働者数(災害規模)について,災害事例により分析を行った。被害の大きさhとその発生頻度p との関係はK =h np で示される簡単なべき関数で記述でき,図面上では両対数紙上の直線で表現できることを示すとともに,被害の確率分布を導き,大規模災害の再現期間や期待災害規模を算出した。被害規模分布のパラメータn値は,大規模災害の起こり易さを表すと同時に被害分布の期待値や分散もこの値によって求めることができるほか,異なった再現期間の災害の被害を推定できることを示した。これらのことから,n値を災害規模特性を記述する統計的な指標として利用できることを示した。

トンネル工事労働災害情報の性質と構造について

RR-91-5
鈴木芳美
 トンネル工事で発生した労働災害の記録から得られる情報の有効的活用を目的として,当該情報が有している性質や構造についての解析を試みた。労働災害記録データベースの「災害発生状況」項目を取り上げ,その記述内容である日本語文章の中からシステムで自動切り出しの行われたフリーキーワードを吟味した。労働災害発生状況の記述に用いられているこれらのフリーキーワード頻度分布はブラッドフォードの法則に従うこと、また、頻度ランク上位156語のフリーキーワードに関する数量化III類による分析結果からは工事種類が比較的明瞭に区別されること,さらに、こららのキーワードを用いると事例判別等への応用が可能であることなどが判明した。

ジオグリッドで補強した盛土斜面の安定性

RR-91-6
豊澤康男,玉手聡
 高強度、高剛性なFRP系のジオグリッドで補強した盛土斜面の安定性,特に地震時の安定性について解明するため加振装置を取り付けた遠心力積荷装置で遠心模型方実験を行った。斜面の角度を45, 60, 90度, ジオグリッドの配置を変えた模型を作成し、50gの遠心力場で正弦波を負荷し,地盤内各点の加速度,変位を加速度計,X線写真などにより観測した。この結果,
  1. ジオグリッドによる補強が地震時においても盛土の安定性の向上に効果的であった。
  2. ジオグリッドを設置することでその周囲の水平方向のひずみが抑えられる効果があり,その結果として,補強領域はせん断剛性が大きくなる。
  3. 未補強地盤では,ひずみの増加によって崩壊に至るが,補強領域内では,繰り返しせん断によるひずみの増加に伴うせん断剛性の低下が抑制される。
などの結論が得られた。

希土類金属合金粉の爆発特性

RR-91-7
マレク・ウォリンスキー,林年宏
 磁性材料の原料として工業規模で取り扱われ始めた希土類金属合金の粉じん爆発危険性を明らかにするために,粉体吹き上げ分散法を用いて,セリウム族希土類金属を含有する5種類微粉体の空気中にあける爆発特性を調べたほか,ハロン1301または窒素の爆発抑制効果について実験した。ネオジウム–鉄合金粉はの空気中における爆発は,多くの可燃性粉体に比べれば中程度であった。セリウムを多く含む合金粉でも,分散粉体に点火する方法では爆発しなかったが,これらの粉体でも点火源のあるところへ分散させれば爆発した。なお,実験に供したすべての合金粉は,爆発実験のあと爆発容器の底部に沈積して燻焼(無炎燃焼)する性質を示した。

反応性物質の化学構造と熱安定性の関係(第2報) –ニトロフェニル酢酸異体性の熱分解–

RR-91-8
安藤隆之
 反応性物質の分解温度,分解熱等の熱分解特性とそれらの物質の化学構造との関係について把握することにより,実測が困難な物質や新しく開発される物質の熱的危険性を推定,予測することを目的とする研究の一環として,DSC-GCMS法およびCPP(キューリーポイントパイロライザ)-GCMS法によるニトロフェニル酢酸異性体の熱分解生成物の分析を行い,異性体による分解機構の相異について検討した。その結果,オルト異性体およびパラ異性体では,まず,脱炭酸によってニトロトルエンを生成し,これがさらに分解するために二段階の発熱を示すのに対し,メタ異性体では,二酸化炭素とニトロベンズアルデヒドが同時に生成する反応が起こりニトロトルエンを経由しないことが明らかとなった。

反応性物質の危険性評価試験における問題点

RR-91-9
板垣晴彦,藤本康弘,安藤隆之,松田東栄,琴寄崇
 反応性物質の取扱い時には,不純物の混入,あるいは,熱や衝撃の与え方などにより従来の危険性評価試験では見られない危険性が現れてくる可能性がある。本報告は,その危険性の評価のため,過酸化ペンゾイル(BPO)の乾燥品を例にとり,(1)不純物の混入,(2)粉じん爆発,(3)ガス爆発を着火源とする分解爆発について検討を行った。その結果ある種の不純物はBPOの熱安定性を低下させる働きがあることが判明した。また,BPOが少量でも壁面や空間に存在するとその燃焼を介して堆積BPOを爆発させることが分かった。このように反応性物質の製造や取扱い時の安全確保には,既存データの参照のみでなく,実際の状況で試験をし対策を立てる必要があろう。

2.5V/mの水中電界に暴露中のウサギの随意運動可能性の観察

RR-91-10
山野英記,本山建雄
 100分間,2.5V/mの水中の電界にウサギを暴露し,その随意運動可能性について視察した結果,次のことが明らかになった。ただし,水温は約30℃であった。
  1. 2.5V/mにおいて,ウサギが随意運動可能である頻度はかなり大きいが,けいれんの生じる頻度も無視できない。当初の目的は,この電界が可随限界として使用可であることを実験的に確認することであったが,水中電撃の可随電界は,より小さい値とすべきである。
  2. 2.5V/mの電界は,多少の影響はあるものの,即死をもたらすような致命的かつ直接的な影響(心室細動や呼吸停止)はないと言える。
 上記1 のため,この実験の後,けいれんのしきいと可随限界を求める研究を実施,既に報告したが,本実験の結果も報告しておく必要があると考えた。

天然ゴム絶縁材料の熱劣化特性と評価方法の検討

RR-91-11
市川健二
 非破壊による絶縁劣化の診断法を開発するためには,絶縁材料の劣化特性や劣化評価の方法を明らかにする必要がある。本実験は,絶縁材料として絶縁用保護具防具に現在でも使用されている天然ゴムを取り挙げ,天然ゴムの劣化で支配的な影響力を持つ熱による酸化弱化について,劣化挙動を化学的および電気的な面から検討した。熱劣化条件としては,80℃の雰囲気で5日,10日,20日およぴ40日間加熱した試料を用い,劣化挙動の化学的な面としては,物質が酸化反応する過程で発生する化学発光量を,電気的な面としては誘電正接を調べた。その結果は,劣化が進行するほど化学発光量が増加し,誘電正接が大きくなることを示したほか,劣化評価のための測定方法等を明らかにした。

両極電荷ミストの静電凝集に関する一考察

RR-91-12
山隈繁臓,児玉勉,田畠泰幸
 生産工程で発生するオイルミスト等の液体性徴粒子の高効率の除去,または回収を可能にするための一手法として,静電凝集作用による微粒子の粒径増大に注目し,実験およびシミュレーションを行い基礎的な特性を調べた。その結果,熱運動による凝集現象がほとんど生じないような希薄なミスト濃度においても,ミスト粒子を部分的に正および負極性に荷電し,混合することで顕著な静電凝集現象およびそれに伴う粒径の増大が確認された。また,クーロン力のみを力学要素として考慮したコンピュータシミュレーションによって実験で得られた粒径変化のパターンがほぼ再現され,これによりミストへの荷電量および微粒子聞の距離(濃度)が静電凝集を促進するための主要なパラメータであることが明かとなった。


刊行物・報告書等 研究成果一覧