労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-2004 の抄録

安全制御用フィールドバスの基礎的安全要件とその考察

RR-2004-01
齋藤剛, 中村英夫, 三浦大樹
 安全制御に関する既往の研究,ならびに関連する国際安全規格の要求事項に基づき,安全関連情報を扱うフィールドバスがフェールセーフ性を確保するための基礎的安全要件を明らかにした。さらに,CANバスをベースとする安全制御用フィールドバスを利用してバス接続が可能な安全制御機器のモデルを試作し,故障検知時間に着目した動作確認実験を行った。その結果,現行の国際安全規格で要求される安全性能の達成は可能であるものの,さらに応答性の向上が必要となることを指摘した。また,安全性能に配慮した接続機器側プロセッサの構成として,チェックポイント同期方式冗長化構造を提案し,故障分析の結果からその妥当性を確認した。(図11,写真2,表1,参考文献18)

二次元局所Hurst数を利用した破面特性化手法とストレッチゾーン幅の定量解析による JIc推定への応用

RR-2004-02
山際謙太,本田尚
 フラクタル解析は破面特性化に幅広く用いられてきた。フラクタルの概念を拡張したHurst数は,自己アフィンフラクタル性を示すパラメータであり,フラクタル次元と比較して破面特性化に有効であることが示されている。本論文では,従来用いられてきた局所Hurst数を二次元に拡張した。まず,その計算手法について述べる。
 そして,二次元局所Hurst数の有効性を検証するために、限界ストレッチゾーン幅(SZWc)の測定を行った。SZWcは JIc と相関があることがわかっており,破断荷重推定に重要なパラメータである。そして,目視により計測したSZWcと,二次元局所Hurst数により求めた幅は誤差が5μm以内で求めることができた。従って,定量的にSZWcを評価できた。また,JIc との関係は,これまでの研究でわかっている比例関係をみたし,二次元局所Hurst数を用いて,JIc の評価を行うことができた。(図3,表2,参考文献18)

遠心場可動土留め装置を用いた壁面土圧の発生機構に関する研究

RR-2004-03
豊澤康男,伊藤和也,スレンダラ B. タムラカル
 掘削工事における災害を予測し防止するためには,地盤や土留め壁の変形と壁面土圧の相互作用,背面地盤の変形特性等についての知見が必要となる。しかし,これらの関係は非常に複雑で設計時の予測と施工中に計測される挙動が異なることも多い。本研究では,土留め壁の変形を高精度に制御することができる遠心場可動土留め装置を製作し,遠心場において土留め壁の強制変位実験を行うことにより土留め壁の変位に伴う壁面土圧等の発生機構について検討した。その結果,土留め壁の変形モードが異なっていても土圧合力はほぼ一定値に収束するが,土留め壁上部や中央部に静止土圧を超える土圧が作用する場合があること,砂地盤における壁面土圧・背面地盤変形領域は施工過程の影響を受けることなどを示した。掘削時における土砂崩壊災害を防止するためには,このような土留め壁の変形状態と土圧の発生の関連性を理解しおくことが重要である。(図36,表1,参考文献33)

新しく開発した引張り試験装置による粘性土の引張り強度について

RR-2004-04
スレンダラ B. タムラカル,豊澤康男,伊藤和也
 盛土の施工中や斜面掘削時に引張りクラックに起因して盛土や斜面が崩壊することが多く見られる。引張強度、qt を直接測るのは難しく、従来のほとんどの研究は改良した土や強度が大きい土を対象としていた。本研究では不飽和土(関東ロームと混合試料(土とシルト、土と砂、シルトと砂))及び飽和土(NSF粘土)のqt をより正確に簡単に測れる試験装置を独自に開発し、引張り強度を一軸圧縮強度、qu と初期サクションと比較した。関東ロームの場合、qtqu とも乾燥密度が高くなるにつれ増加する。含水比が50~60%のとき強度が最大になり、qu /qt は12.5となった。混合試料では細粒分の混合割合が多いほど、また、細粒分粒径が小さいほど qtqu が増加する。飽和NSF粘土では、圧密応力が高くなるにつれ qtqu が増加する傾向がみられ、qu /qt の比は6となった。(図14,表1,写真4,参考文献15)

地盤流動による港湾岸壁及び河川堤防の被害軽減技術に関する実験的研究

RR-2004-05
玉手聡,東畑郁生,本多剛
 大規模地震は港湾岸壁に設置されたコンテナクレーン等の作業施設に被害を及ぼす。この被害原因は地盤の液状化に伴う流動変形にあり,多大な変位がクレーン脚部を損傷させるものである。本研究ではL2地震を対象とした既設の港湾岸壁に対する3つの流動抑止対策方法について,有効性を検討した。その結果,岸壁の陸側に対する抑止杭の設置はケーソンの水平変位の発生を約30%低減するとともに,傾斜確度の発生を約50%低減することがわかった。一方,ケーソンマウンドの海側法先に対する矢板設置とマウンド下部に対する薬液注入固化による両対策については,護岸周辺の変形を抑制するものの,護岸の最終的な水平変位に対する低減効果は少ないことを明らかにした。(図27,写真2,表3,参考文献6) 

コンテナクレーンとジブクレーンの耐震性に関する研究

RR-2004-06
高梨成次, 日野泰道
 1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震によってコンテナクレーンとジブクレーンに多大な被害が発生した。コンテナクレーンはロッキングにより脚部が損傷を受けた。被害状況を振動台実験及び数値解析シミュレーションによって再現した。又、現行の設計方法である震度法の限界を示すと共に線形領域での応答計算を実施することによって、ロッキングを伴う非線形挙動時の応力状態を推定できることを示した。さらに、重心位置を下げることによって耐震性能の向上が図れることを示した。ジブクレーンでは、ローラーパスより上部が落下する被害が発生した。同クレーンの固有周期は非常に短いため、複雑な応答計算等を要せず現行の設計法である震度法で十分に検討ができることを示した。(図11,写真2,表1,参考文献18)

空気輸送粉体用自己放電式除電器の開発

RR-2004-07
児玉勉,山隈瑞樹,鈴木輝夫,最上智史
 空気輸送粉体を充填するサイロにおいて静電気放電を着火源とする粉塵爆発を防止するため,サイロの充填パイプに取り付ける自己放電式粉体用除電器を開発した。開発した除電器は絶縁性短管の円周上に,接地された放電針を内蔵する数本のエアノズルイオナイザを取り付けたものであり,高電圧電源の代わりに絶縁性短管の帯電を利用して除電用のイオンを生成する。実規模実験の結果,絶縁性短管は粉体との摩擦で帯電し,帯電極性が粉体と一致するときに除電効果があることが確認された。例えば帯電列の負極性側エンドに近い素材を絶縁性短管に使用すれば,配管との摩擦により同じく負極性に帯電する粉体の除電が可能である。一例としてPTFE(テフロン)パイプを使用する除電器はPPペレットに対して優れた除電性能を示した。(図17,写真1,参考文献23)

信号用配線に接続されたコネクタの接触不良検出

RR-2004-08
本山建雄,冨田一,中田健司
 接触不良を予想される障害が発生した場合、その原因が接触不良であるかを診断する方法として、接触抵抗を接触部を含む絶縁電線にアルミ箔等で作成した電極に外部から高周波電圧を印加し、測定したインピーダンスをコンデンサ成分と抵抗成分の直列回路に置き換え、抵抗成分から接触抵抗を算出する手法を提案した。
 本報告では、先ず解析解から接触抵抗の測定が可能であること、及び、接触抵抗を模擬した炭素皮膜の抵抗素子の測定結果は、解析結果と相関性があることを示した。更に、加速劣化させたジャンパコネクタ接触抵抗を測定し、1kΩ以上の接触抵抗においてミリオームメータ(標準測定器に対応)の測定値との相関性があることを示した。導電性不良による障害の原因調査という観点から本手法は導電性障害の検出方法の一つとして有効な方法になると考えられる。なお、測定周波数、測定電圧、絶縁電線に巻くアルミ箔の幅等の最適化を進めることにより、相関性は高くなると予想される。(図14、表2,文献9))

背面が接地された材料の帯電防止性能評価の理論

RR-2004-09
大澤敦
 背面が接地された円形状または長方形状の薄い材料を抵抗と容量の分布回路網でモデル化して,解析的に求めた表面電位分布の定常および過渡解を,帯電防止性能を特徴付ける漏洩抵抗と電荷緩和に応用した。表面電位分布,漏洩抵抗および電荷緩和が単位面積(正方形)あたりの表面抵抗と体積抵抗の比χ(=ρs/(ρvδ))に強く依存することが示され,帯電防止材料の評価と設計の指標として,単に表面抵抗と体積抵抗だけでなく,その抵抗比χが重要であることを示した。求めた解は単位面積(正方形)の表面抵抗,体積抵抗,容量,あるいは表面抵抗率,体積抵抗率,誘電率,そして寸法によって表されているので,帯電防止材料や製品の性能評価および設計に有効なものである。(図8,参考文献10)

中波によってラフテレーンクレーンに誘起される電磁界測定と対策の一検討

RR-2004-10
冨田一
 電磁界の生体への影響が懸念されており,電波防護指針などが出されていることから,クレーン作業に従事する作業者への情報提供,クレーン作業での典型的な電磁界暴露の現状把握を目的として,実機のラフテレーンクレーンを用いて,中波の強い電界強度環境下において,フック周囲での電磁界強度を測定した。その結果,フック近傍では800V/mを超える電界強度が測定された。この電界を緩和するために,現場で簡便に実施可能な方法として,車体部分で並列共振回路を形成する手法を適用した結果500V/mに減少した。(図14,表7,参考文献5)

刊行物・報告書等 研究成果一覧