労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-2002 の抄録

超音波エコーの時間 –周波数解析と鋼の熱損傷の非破壊評価への応用

RR-2002-01
馬世偉,佐々木哲也,吉久悦二,本田尚
 圧力容器や配管を長期間使用するとクリープやクリープ疲労等の材料損傷によって破壊し,重大な労働災害をもたらすことがある。このため,超音波法等の非破壊検査によって材料損傷を評価し,労働者の安全を確保する必要がある。しかし,従来の信号処理法ではクリープ損傷やクリープ疲労損傷を超音波法で検出することは困難であった。そこで本研究では,熱処理によって結晶粒径を変化させた2-1/4Cr-1 Mo鋼を用いて,Morlet関数に基づくウェーブレット変換によって超音波エコー信号の時間–周波数解析を行い,超音波特性値の周波数依存性を調べた。その結果,結晶粒径の増大に伴って広い周波数帯域で超音波信号の減衰量が増加することが明らかとなり,鋼の熱損傷評価への時間–周波数解析の有効性が示された。(図9,写真3,表1,参考文献6)。本文は英文。

屋根工事で使用する墜落防護設備の具備条件に関する研究

RR-2002-02
日野泰道
 本研究は,低層住宅建設工事における屋根面からの墜落災害を対象として,災害発生状況,墜落速度,墜落による衝撃荷重の大きさ等について検討を行った。その結果,屋根からの墜落運動のパターンとしては典型的なものとして3種類に分類することができた。被災者の墜落速度に関しては,地面に衝突する瞬間では最大で50km/h,軒先位置でも15km/hに達していることを明らかにした。更にこの推定速度を用いて,手すり等に被災者が衝突した際に発生する衝撃荷重の大きさについて推定を行った結果,人間の頭部耐性と,推定される衝撃荷重の比較から,手すりとの衝突により大きな損傷を被災者が受ける可能性があることを明らかにした。(図11,表2,参考文献11))

仮設足場に作用する風荷重に関する基礎的研究

RR-2002-03
日野泰道,大幢勝利,ポンクムシン ソンポル,丸田栄蔵,神田亮
 建設途上の建築構造物では,施工段階の違いにより建物形状が異なる。本研究は,このような建物に併設される足場に作用する風荷重について,その基本的な知見を得るため風洞実験により検討を行ったものである。実験では,特に建設構造物の外壁の開口部の大きさをパラメータとし,風向きを変化させて,足場各部に作用する風圧力について検討を行った。その結果,足場に作用する風圧力は,外壁の開口部の存在に大きな影響を受けること,そしてその影響を受ける範囲や大きさは風向きの違いにより大きく異なることが明らかとなった。またその影響について詳しく観察すると,それは主に足場の背面側(建物側)の足場と建物の隙間において発生し,足場の正面側(外側)ではほとんど影響を受けていないことが明らかになった。(図11,参考文献8)

鋼矢板控え壁を有する自立式土留工の安定性 –砂地盤を対象として–

RR-2002-04
豊澤康男,堀井宣幸,玉手聡,衛藤誠,佐藤光雄,江口充,藤田範夫
 自立式土留め壁の背面に控え壁及び支圧壁を配する控え壁式自立鋼矢板工法(SCB工法)において,その変形・崩壊メカニズムを把握するために遠心模型実験を行った結果,次の知見を得た。
  1. 通常の自立式土留め壁に控え壁+支圧壁を設置することで,掘削に伴う土留め頭部の変位量及び土留めに生じる曲げ応力に対し抑制効果が得られた。
  2. 控え壁の設置間隔が土留め壁の安定性に影響していることが分かった。土留め長の約7割以下の間隔で控え壁を設置することで土留めの変位が6割程度に抑制される実験結果となった。
  3. 本工法は従来の自立式土留め工法に比べ,変位量が抑制されるため自立式と同程度の変位量を想定すると根入れ長が低減できると考えられた。
(図21,表1,写真8,参考文献6)

高齢労働者の通勤負担と通勤途上の転倒事故に関する調査 –ビルメンテナンス業について–

RR-2002-05
永田久雄,李善永
 本調査では,ビルメンテナンス業で働く60歳以上の労働者を対象にして通勤負担を含めて,転倒事故に関する調査を行った。調査の結果,通勤負担を高齢労働者の74.7%が感じており,体の衰えは,バランス力については,71.3%,歩行速度については,74.6%が身体的な衰えを自覚している。通勤途上で転倒した経験を持つ全回答者は41.7%にのぼる。通勤途上で転倒してケガをしたのは回答者の12.1%である。その中で,1ケ月以上の重傷が21.3%を占めている。転倒事故の発生経路では「駅構内・停留所,乗り物内」が42.2%を占めている。「駅・停留所から自宅・勤務先の経路上」などの道路上が,51.3%を占めている。通勤途上で転ぶ危険を感じる場所は,「階段」が最も多く65.6%,実際に転んでケガをした場所も,「駅構内の階段」が31.6%を占めている。(図5,表6,参考文献8) 

可燃性液体の発火温度の圧力依存性について

RR-2002-06
板垣晴彦
 可燃性液体の発火温度は,特にASTM法による測定値が数多く報告されている。しかし,その値より低い温度であっても自然発火が起き,火災の原因となることがある。これは,発火温度が可燃性液体の化学的・物理的性状だけではなく,測定装置やその測定条件によっても変化するためである。そこで著者は試験容器の大きさの依存性に続き,試験容器を別の密閉容器内に格納して初期圧力を変え,発火温度の圧力依存性を調べた。その結果,デカンにおいては初期圧力を0.10MPaから0.40MPaに高めたところ発火温度の実測値が10K低下した。さらに,熱発火理論を基礎にして無次元化した初期圧力と発火温度の間の簡略な関係式を導いた。そして,この関係を実測値と比較したところ良い一致が見られ,初期圧力が異なる際の発火温度を推定できるとわかった。(図7,参考文献6)

爆発火災災害データベースにおける用語間の関係付けに関する研究

RR-2002-07
大塚輝人,板垣晴彦
 近年におけるコンピュータの高速化が全文検索を可能にしたが,検索者が目的データにたどり着くためにはデータ登録者と同じ語彙の中から適切な検索語を選ばねばならない状況は変わっていない。データの類似度が定量化されれば,前記のような登録者側の階層化や分類の手間も軽減される。
 このような問題点の解決の第一歩として,データベース上のキーワード間の関係を数量化し距離付けすることで,キーワード間の客観的かつ定量的な比較を行えるようにした。
 数量化III類にデータを供する方法を三通り検討し,単一名詞化が最も関連付けに適したものであることを示した。(図4,表5,参考文献8) 

超音波式粉じん雲生成機構を有する粉じん着火エネルギー試験装置の諸特性

RR-2002-08
山隈瑞樹,崔光石,児玉勉
 浮遊粉じんの最小着火エネルギー(MIE)を簡便かつ経済的に測定することを目的として,超音波振動による粉じん生成機能を有する試験装置を開発した。本装置は,超音波発信器によってメッシュを高速振動させることにより,篩作用によってホッパ内の粉体を定量的かつ連続的に落下させ,着火試験用粉じんを生成する。爆発容器の上部及び底部に消炎用金網を配置して火炎を速やかに消火することにより,燃焼する粉じん量を削減するとともに,圧力の上昇及び燃焼熱による容器の損傷を防止し,かつ連続的に着火試験を行うことが可能となった。更に,未燃焼粉じんの回収機構を設けることにより試験粉体の再使用が容易となった。様々な特徴を有する5種類の粉体についてそのMIEを測定したところ,従来型測定装置で得られた値とほぼ一致した値が得られることを確認した。(図9,表2,参考文献9)

中波放送波による大型クレーンへの電磁妨害と対策の一検討

RR-2002-09
冨田一
 中波放送波による大型クレーンへの電磁妨害であるフックの誘導高電圧及び誘導電流による安全装置の誤作動対策を目的として,クレーンを単純化したモデルによるフックの電圧及び誘導電流のレベルを把握した。
 また実機のクレーンによって,中波周波数954kHz,0.79V/mの電界強度下において,フックの電圧とクレーンの全長との関係を測定した。全長が中波の波長の0.34程度になるとフックのピーク値電圧が約1065Vpに達する電磁妨害を確認した。一方,ブームの基部での誘導電流を接地線の誘導電流及びブーム周囲の磁界強度の測定値によって推定した。
 フックの誘導電圧を簡便に軽減する手法として,アウトリガーフロートと地面間へのアクリル板の挿入,または,フックへの接地線の取り付けを行った結果,いずれの場合もフックの電圧は対策前に比較してほぼ半減する効果を得た。(図16,表4,参考文献2)

手動式交流アーク溶接作業に関する実態調査

RR-2002-10
本山建雄,冨田一,山野英記
 アーク溶接作業は感電危険性の高い作業であるが,昭和30年代に交流アーク溶接作業用自動電撃防止装置(以下,電防装置と記す。)が開発され,交流アーク溶接作業時における感電死亡者は大きく減少した。近年,国内規格の国際整合化に伴って,厚生労働省の「交流アーク溶接機用自動電撃防止装置構造規格」等の規格の見直しが実施されつつある。このような状況から,本研究では,交流アーク溶接作業の実態を調査し,潜在的な危険性を把握するとともに,感電災害と電防装置との関連を検討することを目的として,アーク溶接作業に携わる技術者にアンケート調査を実施した。調査全回答数は453件,手溶接交流アーク溶接作業を経験したことのある技術者の回答数は156件である。(図39,参考文献3)

安全帯の使用方法及びエアバックの適用範囲に関する検討

RR-2002-11
深谷潔
 安全帯の使用方法ついて検討した。死亡災害につながったロープの劣化やフックの誤使用についての問題点を検討し,対策としての正しい使用方法を示した。これらの誤使用を防止するため,使用指針の改訂を急ぐべきであることを論じた。
 エアバッグの適用範囲について検討するため,落下実験を行い,墜落事故統計を分析した。エアバッグは緩衝効果を持つが,その防護効果が安全帯に比べて確率的であり,2m以上の高さにおいては,足場や安全帯の補助的手段と考えるべきである。しかし,2m以下の落下高さの場合には,安全帯は必ずしも有効ではなく,エアバッグによる防護の活用が期待される。(表2,図12,参考文献10)

刊行物・報告書等 研究成果一覧