労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-2001 の抄録

リンクチェーンの3次元応力解析と疲労強度評価

RR-2001-01
本田尚
 荷役作業における労働災害を防止することを目的として,電動ホイストなどに使用されているリンクチェーンの応力分布を3次元有限要素解析で解析し,ひずみゲージによる実測値と比較した.また疲労試験を行い,リンクチェーンの疲労強度評価を行う共に,走査型電子顕微鏡(SEM)で疲労破面を観察したところ,以下の結果が得られた。
  1. FEM解析結果とひずみゲージによる表面応力計測結果はよく一致した。
  2. リンクチェーンを曲り梁とみなして求めた応力分布は,FEMや実測結果と大きく異なり,リンクチェーンを曲り梁と見なすことができないことが分かった。
  3. リンクチェーンの疲労試験を行ったところ,FEM解析で引張り応力が最大となった場所を起点として破壊した。
  4. 疲労試験の結果,リンクチェーンの疲労強度はほぼ定格荷重であった。
  5. リンクチェーンの疲労破面を走査電子顕微鏡で観察したところ,疲労破壊の特徴であるストライエーションは,非常に限られた荷重条件下でしか観察されなかった。
(図10,写真4,参考文献7)

移動式クレーンの転倒に及ぼす支持地盤の破壊沈下特性に関する実験的研究

RR-2001-02
玉手聡
 移動式クレーンの転倒原因の一つとして,地盤の支持力不足によるアウトリガーのめり込み沈下がある。本研究では,地盤条件によって異なるアウトリガーの沈下挙動がクレーンの転倒に与える影響を実験的に検証した。模型クレーンのアウトリガー部における接地圧力を実機と同レベルに増大させるために,転倒実験は遠心模型実験装置を使用して行った。脆性的な破壊特性を示す表層固結地盤では,降伏後のアウトリガーは急激に沈下するために,クレーンは著しく不安定化することが実験的に確かめられた。クレーンの運動的安定限界を静的安定限界によって正規化して相対的な不安定性を比較した結果,同一作業条件における不安定性は地盤条件に依存し,転倒危険性は地盤の脆弱性とともに増大することが明らかになった。(図9,表4,写真3,参考文献24)

建築用タワークレーンの耐震性に関する研究

RR-2001-03
高梨成次,前田豊
 1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震によって建築用タワークレーンが多数被災した。被災形式は大きく分けて2種類に分類できる。一つは,マストが損傷した形式,もう一種はジブが損傷した形式である。それらの被災原因を解明すること及び,それらクレーンの耐震性能を向上させる対策を提案するために検討を行った。マストが損傷を受けたクレーンについては,縮小モデルを用いた振動台実験によって,被災部位の確認を行った。又,オイルダンパを利用した耐震性能向上のための対策を提案し,その効果を示した。ジブが損傷を受けたクレーンについては,数値解析シミュレーションによって,被災状況の確認を行った。又,数種類の耐震性能向上のための対策を提案し,それぞれの利点,欠点について評価した。(図11,表6,写真1,参考文献10)

オゾン/酸素混合ガスの分解爆ごう波伝ぱ特性

RR-2001-04
水谷高彰,松井英憲
 近年,オゾン発生器の進歩はめざましく,20vol.%といった高濃度のオゾンが容易に得られるようになった。しかし,高濃度オゾンの詳細な爆ごう伝ば特性については明らかになっていない。本研究では,オゾン/酸素混合ガスの分解爆ごう特性である爆ごう圧力・爆ごう伝ば速度を管状容器を用いて測定した。また,初圧・初濃度の影響も調べた。その結果,初圧1.0MPa以下・初濃度20vol.%以下の範囲のオゾン/酸素混合ガスの分解爆ごう特性が明らかになった。起爆下限界濃度は7~9vol.%であり,初圧の影響は小さく,起爆の強さの影響を受けた。爆ごう圧力・伝ば速度は計算値(C-J値)に良く一致した。焼結金網により容易に爆ごうを止められるが,消炎素子の後方で爆燃として再着火した。(図10,参考文献5)

床・床材の静電気帯電防止性能の新しい評価法

RR-2001-05
大澤敦
 床に静電気対策を施すことは人体の帯電上昇を抑制し,人体からの静電気放電による電撃や生産障害・災害防止という観点から不可欠である。現在,帯電防止床材には多種のタイプや材料が用いられるようになり,簡便かつ正確な帯電防止性能の評価法が要求されている。本研究では等価回路モデルを用いて床の帯電防止性能を解析し,床の表面電位は表面抵抗と全体積抵抗の比χρS ²/(ρVδ )のみで表現できることを示した。ここで,ρS は表面抵抗率,ρV は体積抵抗率, は床の辺の長さ,δ は床の厚さである。この表面電位を表す式と表面電位の時間変化を表す式を用いて漏洩抵抗および電荷の緩和特性を求めた。その結果として帯電防止性能の必要条件は10²≦χ<107 であることを導出した。この条件は帯電防止床の実験および規格に要求されている抵抗の条件と良く一致した。この条件と緩和時間の結果を用いた帯電防止性能の評価法を提案した。(図5,参考文献9) 

リスク曲線を用いた産業災害の統計分析に関する研究

RR-2001-06
花安繁郎,梶山正朗,関根和喜
 災害・事故解析手法の一つとして,災害による被害規模を変数として,被害規模とその被害を越える災害発生件数の関係を両対数紙上で表した曲線(リスク曲線)による分析を試みた。まず,Kalpanらによる一般的リスク表現とリスク曲線の関係を考察し,リスク曲線はリスクそのものを明確に表現していることを明らかにした。次いで,1パラメータで規定される“正規化リスク曲線”を導出し,同パラメータは,分析対象システム群の安全性の程度を一元的に評価することが可能であり,かつ異なる災害間でのリスクを定量的に比較することが可能な統計的指数であることを示した。さらに,同パラメータを用いて大規模災害の再現期間を予測する手法を提案し,労働災害データを用いて解析を行った。また,ベイズの定理を用いてパラメータの分布式を導出するとともに,パラメータ推定に依らない被害規模の予測分布を導出した。(図13,表5,参考文献14)


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