労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-2000 の抄録

機能性流体を用いた順応型アクチュエータの制御モデルとサーボ機構の構成

RR-2000-01
杉本旭,齋藤剛
 共存型ロボットの本質安全化では,力と速度を独立に制限できるアクチュエータが不可欠である。このようなアクチュエータを実現する手法として,電場又は磁場の影響によって流体の降伏値が変化する機能性流体の利用を検討した。機能性流体には,電場によって制御可能なER流体(Electro-Rheological Fluid)と磁場によって制御可能なMR流体(Magneto-Rheological Fluid)の2つが知られている。そこで,ER又はMR流体を用いたアクチュエータを開発し,両者の制御特性を実験結果より比較した。さらに,力と速度を独立に制限できる機能を積極的に利用することで,サブミクロンオーダの高精度位置決めを達成しつつ,仮に制御動作中に人と接触しても人体に及ぶ力を許容限界内に抑えられる新しい順応制御手法を提案した。(図16,表1,参考文献17)

穿孔法による残留応力測定の有限要素解析

RR-2000-02
本田尚
 残留応力測定法の一つである穿孔法(穴あけ法)は,簡便かつ比較的正確に表面近傍の応力が測定できることから,供用中の構造物の応力測定への適用が期待されている。そこで本研究では,有限要素法により,多軸応力下での穿孔に伴う孔近傍の表面ひずみの変化を調べるとともに,板厚方向の応力勾配が測定値に及ぼす影響を調査し,従来困難とされてきた穿孔法による板厚方向の応力分布の推定について検討を行った。その結果,
  1. 穿孔に伴う表面ひずみの変化の解析結果から求めた較正係数A,Bは実験値と非常によく一致した。
  2. 引張り曲げについて,応力勾配と測定値の関係を解析より求め,板厚方向に応力が分布する場合でも,正確な表面応力が求めらることを示した。
  3. 穿孔中のひずみ変化から板厚方向の応力分布を推定する手法を開発し,その有効性を確認した。ただし,この手法は,測定値に誤差が混入した場合,推定値の振動が激しくなることから,解の振動を抑える手法を検討する必要があることが示された。
(図11,参考文献22)

1リットル球形容器を用いた可燃性液体の発火温度の測定

RR-2000-03
板垣晴彦
 可燃性液体の発火温度は古くから測定されているが,発火温度は物性値ではなく,測定装置や測定方法により異なる値を取る。そこで,最低発火温度の影響要因の中から,試験容器の大きさに着目し,ASTM法よりも大きな試験容器を用いたところ,1000mlの丸底フラスコでの最低発火温度は,ペンタンとデカンにおいて,旧来のASTM法での測定値よりもそれぞれ16℃,18℃低かった。また,熱伝導モデルを構築して,主として容器の容積に対する表面積の比を表す伝熱パラメータを導き,大きな容器での最低発火温度を推定が可能であることを示した。(図10,表2,参考文献6)

オゾン/酸素混合ガスの分解火炎伝ぱ特性

RR-2000-04
水谷高彰,松井英憲
 近年,オゾン発生器の進歩はめざましく,20vol.%といった高濃度のオゾンが容易に得られるようになった。しかし,高濃度オゾンの詳細な火炎伝ぱ特性については明らかになっていない。本研究では,オゾン/酸素混合ガスの分解燃焼特性である爆発圧力・火炎伝ぱ速度・火炎伝ぱ形態を円筒容器・管状容器の両方について測定した。また,初圧・初濃度の影響も調べた。その結果,初圧1.0MPa以下・初濃度14vol.%以下の範囲のオゾン/酸素混合ガスの分解燃焼特性が明らかになった。着火下限界濃度は10vol.%。初圧の影響は小さい。最高圧力は最大で初圧の3.5倍程度。KG値/初圧は最大で1程度。着火位置は着火下限界濃度と火炎の形態に影響を与える。円筒容器内の火炎伝ぱ速度は最大で0.5m/s程度。管状容器でも火炎は加速せず火炎伝ぱ速度は一定になる。管状容器内の火炎伝ぱ速度は最大で1m/s程度。爆燃から爆ごうへの転移は発生しない。(図13,写真2,参考文献3)

帯電防止型フレキシブルコンテナと絶縁性内袋の併用時に起こり得る沿面放電の特徴とその対策

RR-2000-05
山隈瑞樹,児玉勉
 爆発性混合気が形成されている反応容器等への粉体原材料の仕込みに用いられている帯電防止型フレキシブルコンテナは,絶縁性内袋と併用された場合には,同内袋が帯電して着火性の沿面放電を発生する恐れがある。本研究では,市販されている代表的な帯電防止型フレキシブルコンテナの素材と絶縁性フィルム(PET)を用いて沿面放電の発生条件,放電電荷量等を明らかにするとともに沿面放電の防止対策を検討した。その結果,抵抗が低く微細な導電性接地糸を有するタイプは,コロナ放電の効果によって絶縁性フィルムへの電気二重層の形成が促進されることにより,金属板を接地背板とした場合と同程度の放電電荷量となり得ることが明らかとなった。また,素材全体または接地糸を中程度の抵抗率の材料で作ったものは比較的小さなエネルギーの沿面放電となったが,可燃性ガス・蒸気への着火は十分可能なレベルであった。さらに,絶縁性内袋に予め4cm程度の間隔でピンホールを設けることにより,沿面放電を防止できることが明らかとなった。(図14,参考文献3)

堆積した金属粉体層表面に沿った燃え拡がり

RR-2000-06
八島正明,松田東栄
 堆積した金属粉体層に沿った燃え拡がり機構を明らかにするために,深さの異なる試料台(燃焼領域の長さ160mm,幅10mm)をいくつか製作し,深さを0.5~8mmまで変えた際の燃え拡がり速度を実験的に求めるとともに,燃え拡がりの際の発光帯(燃焼帯)の様相を画像解析によって調べた。次に,小型の風洞装置を製作し,燃え拡がりに及ぼす対向気流速度と雰囲気組成(Ar,N2,水蒸気)の影響を調べた。金属試料粉として,18~80µmのTi,ジルカロイ-2,Ta,Mg,Mg/Al合金粉を用いた。実験の結果,燃え拡がり速度の深さへの依存性が小さいこと,燃え拡がり速度は,ジルカロイ-2がやや大きいものの,他の金属粉の場合は,概ね1~10mm/sの間にあることがわかった。燃え拡がりに対向する気流速度を5m/sまで変化させると,その速度の増加とともに燃え拡がり速度も単調増加することがわかった。さらに雰囲気にArや水蒸気を添加した際の消炎限界,燃え拡がり挙動を調べた。(図16,表4,写真4,参考文献64)

エア封入袋体による地盤崩壊防止効果の遠心模型実験による検討

RR-2000-07
豊澤康男,堀井宣幸,玉手聡,山田知裕,羽上田裕章
 小規模な溝掘削時の土止めの一形式として簡易土止め(トレンチバッグ)工法がある。本工法は,掘削後の溝内部に軽量なエア封入袋体を吊り降ろし,それを空気圧で膨張させることにより掘削壁面を押さえるものである。この工法の地盤崩壊防止効果のメカニズム等を明らかにすることを目的として遠心模型実験及び数値解析を行った結果,次の結論が得られた。
  1. エア封入袋体を設置した場合は,設置しない掘削溝に比べ,粘土地盤,中間土地盤の2種地盤ともに崩壊時の遠心加速度が大きく,エア封入袋体の設置による土止め効果が大きいことが確認できた。
  2. エア封入袋体は,亀裂等の発生を抑制し,掘削壁面が内側へ倒れ込むのを防止し,ひずみを押さえる効果があると認められた。
  3. FEM解析を行った結果,塑性歪み発生後の地盤変形を再現することは出来ないものの,弾性挙動を精度良く追うことができ,塑性歪み発生時の加速度及び地盤変位を正確に捉えることが出来た。
(図12,表5,参考文献3)


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