転倒工法における柱下部の切削形状に関する検討
1. はじめに
鉄筋コンクリート造の建築物の解体工事では、外壁を引き倒して解体する転倒工法と呼ばれる工法が主に用いられています1)。この工法を用いる場合、規模の大きな現場では、図1に示すように、解体用機械を用いて外壁を引き倒して解体しています。一方、規模の小さな現場や床の強度が小さな場所等では、図2に示すように、ワイヤロープ等を用いて人力により外壁を引き倒しています。
人力により転倒工法を行う際は、図2に示すように、外壁が建物の外側に倒壊しないように、ワイヤロープ等を外壁の梁に設置します。次に、外壁を引き倒せる程度に切り出して、外壁下部の一部を切削し、その後、レバーホイスト等を用いてワイヤロープ等に張力を与えて、外壁を引き倒します1)。
この切削作業中に、外壁が倒壊し、作業者が下敷きになるという災害が発生しています2)。外壁倒壊の原因として、外壁下部の切りすぎが考えられますので、本研究では、外壁を構成する基本部材と考えられる柱を対象として、適切な柱下部の切削形状を実験により検討しました。

図1 解体用機械を用いた転倒工法

図2 人力による転倒工法
2. 実験概要
2.1 試験体
実験に用いた試験体を図3に示します。図3より、試験体は下端を切削した柱と土台により構成されており、柱の高さは1.2 mであり、柱の断面寸法は24 cm×24 cmであります。柱下端の切削高さは30cmとしました。
試験体に用いたコンクリートと主筋の材料特性を表1に示します。コンクリートについては、JIS A 11073)とJIS A 11494)に準じて圧縮試験を行った結果になり、主筋については、JIS G 31125)に準じて引張試験を行った結果になります。

図3 実験に用いた試験
|
コンクリート の種類 |
呼び強度 (N/mm2) |
スランプ (cm) |
粗骨材最大 寸法 (mm) |
セメント の種類 |
ヤング係数 (N/mm2) |
圧縮強度 (N/mm2) |
| 普通 | 24 | 18 | 20 | N | 15,100 | 30.7 |
| 種類 | 呼び名 |
ヤング係数 (N/mm2) |
降伏点 (N/mm2) | 引張強さ (N/mm2) | 伸び (%) |
| SD295A | D13 | 202,000 | 373 | 512 | 26 |
2.2 柱下部の切削形状
解体工事では、推奨される柱下部の切削形状として、柱を転倒させる前方のコンクリートを削り、鉄筋を残すとのことです。さらに、柱を転倒させる後方のコンクリートを残し、鉄筋を切断するとのことなので、これらのことを参考にして切削形状を決定しました。
実験における切削形状を図4に示します。試験体の切削形状は2タイプ用意しました。タイプ1は、転倒方向に対して鉄筋を2列直角方向に残した場合になり、タイプ2は、転倒方向に対して鉄筋を1列直角方向に残した場合になります。

図4 柱下部の切削形状(柱の平断面図)
2.3 試験体と計測器の設置と実験方法
実験状況を図5に示します。図5に示すように、鉄骨冶具を用いて試験体を床に固定し、さらに、試験体の柱上部に鉄骨冶具を設置し、試験体の柱の下端から柱の引張点までの高さを2.9mとなるように設定しました。
試験体の引き倒しには、電動ホイストを用いました。図5に示すように、試験体から水平に6.5m離れた地点に、電動ホイスト本体を、鉄骨冶具を用いて設置しました。この状態で、電動ホイストのチェーンの先端に付いたフックを、荷重計を介して,柱の頂部付近(図5の柱の引張点)に設置しました。
実験では、電動ホイストによりチェーンを巻き取って、試験体を転倒させました。このとき柱に作用する荷重と変位を計測しています。荷重は前述した荷重計により、柱の引張点に作用する荷重を計測し、変位は試験体に設置したワイヤ式変位計により計測しました。

図5 実験状況
3. 実験結果と考察
実験結果を図6に示します。図の縦軸は、荷重計の計測結果より計算した柱下端の曲げモーメントMになり、横軸はワイヤ式変位計の計測結果より計算した柱下端を基準にした柱の回転角θになります。
図6より、転倒方向に対して鉄筋を2列直角方向に残したタイプ1の柱下端の曲げモーメントMの最大値は6.7 kNmとなり、転倒方向に対して鉄筋を1列直角方向に残したタイプ2の柱下端の曲げモーメントMの最大値は0.6 kNmとなりました。これらの結果より、タイプ1の強度であれば、柱下部を切削している作業中に柱が倒壊する危険は少ないと考えられます。一方で、タイプ2の場合は、強度が小さいので、柱下部を切削している作業中に柱が倒壊する危険があると考えられます。
ここで参考として、最大強度時の柱下部の状況を図7に示します。図7より、タイプ1の場合は、転倒方向の前方に位置する鉄筋が座屈して強度が決まっています。タイプ2の場合は、鉄筋が曲げ変形することにより柱が転倒し、タイプ1とは異なる現象により強度が決まっています。

図6 柱下端の曲げモーメントMと回転角θの関係

図7 最大強度時の柱下部の状況
4. まとめ
本研究では、実験により転倒工法における柱下部の切削形状について検討しました。実験の結果、解体工事で推奨される切削形状(柱を転倒させる前方に位置するコンクリートを削って、鉄筋を残し、さらに、柱を転倒させる後方に位置するコンクリートを残して、鉄筋を切断する切削形状)とした場合、転倒方向に対して鉄筋を1列直角方向に残す切削形状は切り過ぎであり、柱下部の切削作業中に柱が倒壊する危険があることがわかりました。柱下部を切削する場合は、転倒方向に対して鉄筋を2列以上直角方向に残こした方が良いと考えられます。
参考文献
- 解体工法研究会編,改訂 新・解体工法と積算,経済調査会,2018.
- 高橋弘樹,大幢勝利,高梨成次.建築物の解体工事における災害防止対策の検討(その1 死亡災害の調査).日本建築学会大会学術講演梗概集(中国),pp.1253-1254,2017.
- JIS A 1107,コンクリートからのコアの採取方法 及び圧縮強度試験方法,日本産業規格,2012.
- JIS A 1149,コンクリートの静弾性係数試験方法,日本産業規格,2017.
- JIS G 3112,鉄筋コンクリート用棒鋼,日本産業規格,2010.







