化学物質の危険性に対するリスクアセスメントの実施状況
-製造業中小規模事業場へのアンケート調査-
1. はじめに
厚生労働省では、化学物質による災害を防止するために、危険性・有害性が確認された化学物質について、事業者が、リスクアセスメントの結果に基づいた管理を行うようにする制度、すなわち「自律的な管理」を導入しました。自律的な管理においては、リスクアセスメントの実施義務がある化学物質(以下、リスクアセスメント対象物)が定められており、令和8年4月には約2,300種類の化学物質がその対象となっています。そのため、初めて化学物質のリスクアセスメントを実施する必要に迫られる事業者もあるのではないかと思います。
ここで、化学物質に係るリスクアセスメントの実施状況を振り返りますと、厚生労働省による平成29年の調査1)において、作業に用いる化学物質の危険性・有害性に関する事項に係るリスクアセスメントを実施している割合は、図1に示すように事業場規模が小さいほど小さく、事業場規模が300人未満の事業場では50%を下回っています。一方、死傷災害(死亡・休業4日以上)データベース2)から、平成18年から平成29年までの爆発、火災及び破裂の災害事例を見ると、図2に示すように事業場規模が300人未満の事業場での災害事例が9割を超えている状況です。このようなことから、特に事業規模の小さい事業場に対して、取り扱い物質の危険性・有害性の労働者への周知や、リスクアセスメントに基づいた対策実施の取り組みを推進していく必要があります。
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| 図1 化学物質に係るリスクアセスメント実施の事業場規模ごとの割合 | 図2 平成18-28年の爆発・火災及び破裂の災害事例における事業場規模ごとの割合 |
しかしながら、化学物質の自律的な管理への方針が示された時点における化学物質の爆発・火災等の危険性に係るリスクアセスメント等への取り組みの状況は把握されていなかったため、爆発・火災等による死傷者数が多い製造業を対象として、労働者数300人未満の事業場に対して、化学物質管理及び化学物質の危険性に係るリスクアセスメントについてのアンケート調査を行いました3)。ここでは、その調査結果の中から、化学物質の危険性に係るリスクアセスメントについての結果の概要を紹介します。
2. 調査の概要
調査の対象業種は、化学物質排出把握管理促進法(PRTR)に基づいて排出・移動量のデータを届け出ている事業場数が多い、従業員数300人未満の製造業の上位10業種としました。このようにしたのは、PRTRの対象となる化学物質は、リスクアセスメント対象物と過半数が重なり、リスクアセスメント対象物の取り扱い作業が多いと考えられたためです。それらの選定した業種や、事業場規模が均等になるように2,000の事業場を抽出して、調査票を郵送し、373の有効回答を得ました。
アンケートにおいては、化学物質の危険性に係るリスクアセスメントの実施状況や、リスクアセスメントを行う際に採用している手法、リスクアセスメントの実施の際に困難を覚えた事項や、困難を覚えた際の対応方法などについて調査を行いました。本調査は、当所研究倫理審査委員会の承認を得た上で行いました(R5-安2)。
3. どの程度、危険性に係るリスクアセスメントが行われているのか?
化学物質の危険性に係るリスクアセスメントの実施状況を調べた結果を図3に示します。「定期的に実施している」と回答した事業場は3~6割で、労働者数が少ない事業場ほど実施割合が小さくなる傾向を示しました。化学物質の取り扱い作業においては、時間が経過すると機械等の経年劣化、労働者の入れ替わり等による知識経験の変化、新たな知見の集積などがあるため、繰り返し、定期的にリスクアセスメントを実施し、リスクを低減していくことが重要であり、その重要性を継続して啓発していく必要があります。

図3 化学物質の危険性に係るリスクアセスメントを実施している事業場規模ごとの割合
4. どのようなリスクアセスメント手法が採用されているのか?
化学物質の危険性に係るリスクアセスメントを定期的に実施している事業場に、どのようなリスクアセスメント手法を用いているかを調査したところ、図4に示すとおり、厚生労働省が作成した支援ツールであるCREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)が最も多く用いられていました。図には、それぞれの手法について、簡易的な実施支援ツールとして提供されている手法か(橙色の棒線)、詳細で網羅的な解析を行うための手法か(緑色の棒線)の分類結果を示していますが、簡易的な手法が主に用いられていることが分かります。

図4 化学物質に係るリスクアセスメントを定期的に実施している事業場において採用されているリスクアセスメント手法
5 どのような点で困っているのか?
化学物質の危険性に係るリスクアセスメントを行う上で困難を覚えた事項を調査したところ、図5に示すとおり、「十分な知識を持った人材がいなかった」の事項が最も多くの割合となりました。化学物質の自律的な管理において重要な役割を担う化学物質管理者は、リスクアセスメント対象物を製造する事業場は専門的講習の修了者から選任することが義務付けられています。また、それ以外の場合も専門的講習等の受講が推奨されています。各事業場において選任された化学物質管理者が、十分にその能力を発揮することで、リスクアセスメント実施の推進が期待されます。

図5 化学物質に係るリスクアセスメントを実施する際に困難を覚えた事項
また、化学物質のリスクアセスメントの手順から設定した設問(図5の中の緑色の棒線)の中で比較すると、「実施すべきリスク低減措置がわからなかった」の割合が最も多くの割合を示しました。リスクアセスメントに簡易的な手法が主に使用されていることは既に示したとおりです。簡易的な手法は、化学物質に何らかの危険性があることに気づくことに優れていますが、具体的な作業条件を考慮することが難しく、具体的な対策を決定することが困難であることが指摘されており4)、その影響が出ていることが示唆されます。今後、具体的な安全対策を提案することができる、簡易的なリスクアセスメント実施支援ツールの開発が望まれます。
6. 困った時に,どのようにしているのか?
化学物質の危険性に係るリスクアセスメントの実施や、安全対策の検討などで困難を覚えた際の対応方法を調査したところ、図6に示すように、「インターネットで調べる」「購入先に聞く」が高い割合を示しました。また、それぞれの回答を細かく見ると、図7に示すように、労働者数の少ない事業場になると「所属する業界団体に相談する」の割合が増加しました。このことから、リスクアセスメントの実施や安全対策の検討の支援方法として、化学物質の提供元からの危険性・有害性情報の提供の徹底や安全対策に関する情報を求めるとともに、インターネットや、業界団体を通じた情報提供の拡充が有効であることが示唆されます。
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| 図6 化学物質に係るリスクアセスメントの実施や安全対策の検討等で困難を覚えた際の対応方法 | 図7 困難を覚えた際の対応方法で「所属する事業団体に相談する」とした事業場規模ごとの割合 |
7. おわりに
今回の調査は、化学物質の自律的な管理に向けて改正された政省令が、完全施行される前に実施しており、完全施行されて2年余り経過した現在は、化学物質のリスクアセスメントなどの取り組みの必要性が、より認識されているのではないかと思います。一方で、化学物質の危険性に係るリスクアセスメントの実施にあたっては、公けに提供されている情報が有害性に係るものと比べて少なく、困難を覚えることも多いかもしれません。調査で得られた結果を生かし、事業場における化学物質の自律的な管理に関する取り組みの支援につながるような研究成果をあげていきたいと思います。
最後になりましたが、調査にご協力いただきました事業場の皆様に、深く感謝申し上げます。
参考文献
- 厚生労働省.平成29年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h29-46-50_gaikyo.pdf.(最終参照2026年4月7日)
- 厚生労働省.職場のあんぜんサイト,労働災害事例,死傷災害(死亡・休業4日以上)データベース. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pgm/SHISYO_FND.html.(最終参照2026年4月7日)
- 角田博代,佐藤嘉彦.製造業中小規模事業場における化学物質管理及び危険性に対するリスクアセスメントについてのアンケート調査と分析.労働安全衛生研究 2026; 19: 25-37.
- 島田行恭.化学物質のリスクアセスメント義務化への対応状況と課題に関する考察.安全工学 2018; 57: 196-205.











