化学物質の爆発・火災などの危険性と労働安全衛生法
1. はじめに
令和4(2022)年の労働安全衛生法(以下、安衛法)関係法令の改正により、化学物質による労働災害を防止するため「自律的な管理」が求められるようになりました。この自律的な管理は, 健康に関わる有害性についてのみでなく、爆発・火災などに代表される危険性も対象となっています。一方、安衛法全体としてみると、爆発・火災による労働災害防止については自律的な管理とは別に、特に危険性の高い化学物質や危険な設備、作業に対して災害防止の取り組みが指定されている箇所もあり、その対象も様々となっています。労働者の安全確保のための対象の指定ではある一方、安衛法や労働安全衛生法施行令(以下、安衛令)、労働安全衛生規則(以下、安衛則)の異なる条文を関連付けた指定となっており、理解に時間と労力を要するところがあると思われます。
2. 爆発・火災の労働災害防止と安衛法
安衛法において、化学物質の爆発・火災の防止に関する代表的な条文を以下に示します。
労働安全衛生法 ※以下は抜粋であり全文ではありません
第20条 事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
1 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険
2 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
3 電気、熱その他のエネルギーによる危険
第28条の2 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等(第57条第1項の政令で定める物及び第57条の2第1項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る。
第31条の2 化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物を製造し、又は取り扱う設備で政令で定めるものの改造その他の厚生労働省令で定める作業に係る仕事の注文者は、当該物について、当該仕事に係る請負人の労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
第57条 爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第1項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。
第57条の3 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
2 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
細かく整理するのであれば、上記条文に直接付随する条文(安衛法第57条の2など)や参照先とする条文(安衛法第56条など)、安衛法第14条「作業主任者」のように間接的に関わる条文もありますが、メールマガジンに収まりきらなくなるため割愛しています。上記条文などを中心に、爆発・火災など危険性の観点から対象化学物質や各法令の関係を整理したものを図1に示します。
- ※1:2026年2月時点
- ※2:関係性を分かりやすく表示するため、法令における例外として指定されている部分など、一部の記述を反映せずに整理している点についてご注意ください
安衛法第20条では爆発性の物、発火性の物、引火性の物等として直接的に以下の安衛令別表第1で指定される安衛法危険物に繋がります。また、通達(昭47・9・18基発第602号)より、「等」の中には明記されている安衛法危険物の他、酸化性の物、可燃性のガスまたは粉じん、硫酸その他の腐食性液体等が含まれており、図1で扱っているような、爆発・火災に繋がり得る化学物質全般が対象となっている点に注意が必要となります。この後紹介する法令に直接関係しない条文で指定される化学物質の性状も、安衛則第264条の接触することにより発火又は爆発するおそれのある組み合わせの物や安衛則第266条の自然発火の危険がある物、安衛則第279条の可燃性の粉じん、火薬類、多量の易燃性の物、など様々あります。加えて、ここでは安衛法危険物など化学物質に直接関わる第2項を取り上げていますが、それ以外の第1項や第3項も機械、器具その他の設備などによる爆発・火災の危険性には関係する項となりますので注意が必要です。
安衛法第28条の2は、後述の安衛法第57条の3と同様に、化学物質の危険有害性についてのリスクアセスメントに関係しています。安衛法第57条の3との差異として、図1のように対象物質が異なる点、リスクアセスメントが努力義務として規定されている点が挙げられます。
安衛法第31条の2では最終的に図1のように安衛法危険物を扱う化学設備についての安衛令第9条の3に、そこで安衛法危険物に関する別表第1およびシクロヘキサノール、クレオソート油、アニリンその他の引火点が65℃以上の物、として化学物質が指定されることになります。また第2項としてこの後触れる安衛法第57条の2第1項に規定する通知対象物も指定されています。化学設備については安衛則第4条で発熱反応が行われる反応器等異常化学反応又はこれに類する異常な事態により爆発、火災等を生ずるおそれのあるものを特殊化学設備と定義した上で、安衛則第268条など爆発・火災防止のための対応が規定されています。
安衛法第57条の3は化学物質の自律的な管理としてのリスクアセスメント(化学物質RA)に関係しています。なお、同種の項目として、安衛法第28条の2では、安衛法第57条の3で指定していない化学物質の危険有害性のリスクアセスメントの努力義務が規定されています。また、安衛法第57条第1項は化学物質の危険有害性に関する情報の表示と提供について指定していますが、安衛法第57条の3とは若干指定する化学物質の種類に差異があり、「爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物」として前述の安衛法危険物(安衛令別表第1)が関係してくる点に注意が必要です。化学物質RAの対象となる化学物質は「第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物」となっており、主にこれらがリスクアセスメント対象物(または表示・通知対象物質)と呼称されることになります。安衛法第57条第1項の政令で定めるものは安衛令第18条で指定されており、通知対象物質は安衛法第57条の2にて、「労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は第56条第1項の物」として指定されており、最終的には図1のように概ね安衛令別表第3、安衛令別表第9、安衛則別表第2でまとめることができます。なお、図1については関係性を分かりやすく表示するため、法令における例外として指定されている部分など、一部の記述を反映せずに作成されている点についてご注意ください。
各法令は、一般に爆発・火災等を防止するための措置・リスクアセスメントの実施を規定している安衛法第20条と第28条の2、その中で設備に関する規定に絞った第31条の2、リスクアセスメントの義務化の対象としてリスクアセスメント対象物を絞って指定する安衛法第57条の3、安衛法危険物とリスクアセスメント対象物の双方をカバーし、危険有害性情報の表示の対象とする安衛法57条第1項といった立ち位置に整理できるかと思われます。
図1のように安衛法危険物とリスクアセスメント対象物は不可分な関係ではなく、安衛法第31条の2および安衛法第57条第1項を通じて対応していることが分かります。一方、安衛法第57条の3は安衛法危険物に直接関係しておらず、リスクアセスメント対象物として指定されていない安衛法危険物は安衛法第28条の2がリスクアセスメントの努力義務の範囲で対象としてカバーしていることが分かります。また、安衛法危険物とリスクアセスメント対象物は図1に示すように重複がありつつも、対象物質の指定方法に差異がある点に注意が必要となります。主に化学物質名で指定されるリスクアセスメント対象物と異なり、安衛法危険物は主に化学物質名(例:発火性の物 1 金属「リチウム」)のみでなく、化合物の構造(例:爆発性の物 3 過酢酸、メチルエチルケトン過酸化物、過酸化ベンゾイルその他の有機過酸化物)でも対象物質が指定されていることがあります。また、引火性の物では引火点、可燃性のガスでは温度15℃かつ1気圧での可燃性といった危険性の評価試験結果を基にした性状での指定もあります。
3. 最後に
化学物質の爆発・火災に関しては安衛法以外の法令も含め、様々な法令で対策が求められており、理解が難しいことに加え、安衛法では安衛法危険物、またはリスクアセスメント対象物それぞれでの法令の説明が手厚い一方、両者を関連付けた説明が少ないことが気になり、本メールマガジンを作成しました。業務の一助になれば幸いです。








