第5回WHO協力センター西太平洋地域フォーラムに参加して
1.はじめに
労働安全衛生総合研究所(以下、安衛研)は世界保健機関(World Health Organization、 以下WHO)の協力センター(WHO Collaborating Centers)に指定されています。去る2025年11月4日から5日までの2日間、フィリピン共和国の首都マニラ市において「第5回WHO協力センター西太平洋地域フォーラム」が開催され、人間工学研究グループの蘇リナと環境計測研究グループの高谷一成が参加しました。本フォーラムは東アジア、東南アジア、オーストラリア、太平洋島嶼地域などを含む西太平洋地域で活動するWHO協力センターが一堂に会し、これまでの活動成果を共有すると共に、今後の協働方針や活動計画について議論する国際会議です。

写真1 会場の様子(World Health Organization Regional Office for the Western Pacific)
今回は102のWHO協力センターが参加しました。国別の内訳は、中国(42)、日本(18)、オーストラリア(16)、韓国(10)、シンガポール(6)、ニュージーランド(3)、インドネシア(2)、マレーシア(2)、フィリピン(2)、ベトナム(1)でした(括弧内は、出席センター数)。前回会合以降の進捗の総括や今後の展望、WHOの保健戦略に基づく各協力センターの取り組みについて、2日間にわたり活発な意見交換が行われました。
2.会議全体の概要
本フォーラムは、「WHO西太平洋地域事務局と協力センターが連携を強化し、イノベーションと結束を通じて地域の保健を向上させること」を目的とした上で、 非感染性疾患、気候変動に起因する健康リスク、労働環境や職業生活に影響を及ぼす健康課題、保健システムの脆弱性など、西太平洋地域が直面する複数の課題について議論が行われました。
フォーラムを通じて、以下の点について共通認識が示されました。
- WHOと協力センターの連携を強化し、研究成果を政策や実践につなげること
- 人を中心とした、包摂的で公平な保健システムを構築すること
- 知見交換やフォローアップを継続的に行う仕組みを整えること
WHO西太平洋地域局長の Saia Ma'u Piukala 氏は、「結束とイノベーションが交わることで、強いパートナーシップが生まれる」と語り、協力センターを地域の強みとして位置付けました。本フォーラムにおいて、①WHOと協力センター間の連携・シナジー強化と影響の最大化、②研究成果の政策・実践への橋渡し、③公平で強靭な保健システム構築への加盟国支援、④知識共有とフォローアップ体制の維持が合意されました。
3.会議の進行と安衛研の参加状況
本フォーラムの初日には、午前にWHO協力センターとしての活動報告、午後にはポスターセッションとWHOが掲げる検討課題のテーマ別にセッションが同時進行で行われました。2日目は、午前中に基調講演とポスターセッションが行われました。午後には会議全体の成果や今後の方向性を共有するセッションが行われました。今回、安衛研からは「日本人労働者における職業性身体活動の心血管代謝健康への影響」と「イオン移動度分析法を用いたトルエンの短期ばく露限界値付近の高濃度におけるリアルタイムモニタリング」に関する研究紹介を行いました。併せて、WHO協力センターとして安衛研に付託されている活動として「保健医療従事者を対象とした労働安全衛生プログラムの開発・実施に関する能力構築と国際的支援」および「顧みられない騒音問題および騒音測定手法に関する国際的課題の整理と検討」の二つのテーマについて、進捗と成果を紹介しました。また、支援対象国別の分科会では、気候変動などの重要課題に対して、働く人の熱中症といった労働衛生の視点も踏まえながら取り組むことについて議論が行われました。

写真2 安衛研のポスター発表と議論の様子
4.支援対象国別分科会
支援対象国別分科会では、協力センター間および各国レベルで共通する課題が共有され、今後の連携の柱として、以下の方向性が提案されました。
- 免疫、感染症、慢性疾患などを統合した保健介入プログラム
- 健康データの利活用と倫理的AI導入、標準化された枠組みの構築
- 疫学・環境・臨床データを統合した監視によるアウトブレイク予防
- 地域内の学習・経験共有の仕組み、専門研修や市民参加型プログラムの強化
- 各国協力センターによる合同研修、人材育成、フォローアップ体制の構築
5.検討課題テーマ別分科会(気候変動と環境保健)
本分科会では、西太平洋地域における「環境と健康」分野のWHO協力センターの活動共有と、WHOの新しい気候変動・環境保健戦略(2025-2030)に基づく協働方針について議論が行われました。西太平洋地域では、巨大都市から島嶼国まで多様な気候・環境条件を抱えており、気候変動が公衆衛生・労働安全・都市環境に与える影響が多面的に共有されました。放射線、熱中症、水安全、都市計画、職業衛生、熱帯病など、各国の協力センターがそれぞれの専門性を生かして貢献していることが確認されました。今後は、WHOの新戦略のもと、環境・気候・健康を統合した「多ハザード型ヘルスシステム」構築を目指し、地域特性に応じた適応策の共有、若者・労働者を含む包摂的な教育と人材育成、科学と政策を結ぶ協働の深化が重要であるとまとめられました。

写真3 支援対象国別分科会(ベトナム、左)と気候変動と環境保健分科会(右)の様子
6.おわりに
アジア太平洋地域には、家族やコミュニティがマット(敷物)を編む文化があります。マットは日常生活の中で使われ、また人生の節目にも寄り添う存在として、人と人とのつながりを象徴しています。今回のフォーラムを通じて、気候変動や感染症、社会環境の変化といった大きな課題が、人々の生活や働く環境にも直接的な影響を及ぼしていることを改めて実感しました。特に、労働環境や職業生活に関わる健康課題は、地域や国の状況によって形は異なるものの、共通してつながりを持つ重要なテーマとして認識されました。
本会議への参加を通じて、労働衛生分野に携わる研究機関として、各国の実情やニーズを理解しながら、科学的知見をもとに現場に寄り添った支援を行うことの重要性を学ぶ機会となりました。また、他国の協力センターの取り組みからは、研究成果を政策や実践につなげるための工夫や、関係機関との連携の在り方について多くの示唆を得ることができました。今後、安衛研として、こうした国際的な議論や経験を研究・活動に生かし、働く人々の健康と安全の向上にどのように貢献できるかを引き続き考えていきたいと思います。今回のフォーラムは、そのための視野を広げ、役割を見つめ直す貴重な機会となりました。

写真4 会場にて筆者らの記念撮影







