ストレスのセルフケアと職場環境改善に関する研究
1. はじめに
近年、働く人のストレスやメンタルヘルス不調は、規模や業種を問わず職場で大きな課題となっています。厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査1)では、過去1年間にメンタルヘルス不調が原因で連続1か月以上の休業者または退職者がいた事業所の割合が12.8%と報告されており、現場での影響の広がりがうかがえます。また、現在の仕事や職業生活に関して「強い不安・悩み・ストレス」を感じる事柄があると答えた労働者の割合は68.3%に達しており、ストレスが多くの人にとって切実な問題であることが示されています。
こうした状況もあり、2015年より労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が始まっています(図1)。本制度では、年1回のアンケートによるストレスチェックを実施し、その結果をもとに、労働者自身のストレスへの気づきと対処(セルフケア)を促すとともに、職場環境の評価・改善につなげることが重視されています。また、ストレスチェックの結果から高ストレスと判定された労働者は医師による面接指導を受けることが可能であり、事業者は必要に応じて就業上の措置を講じることが求められています。本制度の狙いは、特にメンタルヘルス不調の一次予防を強化することにあり、具体的には労働者のセルフケアを促進するとともに、職場環境の改善が行われることが重視されています。本コラムでは、このセルフケアや職場環境改善に焦点を当て、最近、私たちが実施した研究成果を紹介したいと思います。

図1 ストレスチェックと面接指導の実施に係る流れ
※ 厚生労働省の資料2)を参考に筆者が図を作成
2. セルフケアに関する研究
セルフケアとは自分のストレスに気づき、その対処のための知識や方法を身につけて実施することを指します。例えば、健康的な食生活、睡眠習慣、運動習慣はストレスやネガティブな気分を改善することも報告されており、基本的なセルフケアの一つです。また、ストレスによる心身の緊張をほぐすためにリラクセーションを実施したり、困ったことや悩みを家族、友人、同僚など周りの人に相談しサポートを求めたりすることもセルフケアに含まれます。
私たちが最近実施したアンケート調査3)では、労働者1,000名を対象に、日常生活における会話時間とメンタルヘルスの関連を調べています。職場を含む社会的なつながりは心身の不調を考える上でも重要な要因であり、相談をしたり、サポートを得たりするための基盤でもあります。調査ではK6尺度(絶望感や気分の落ち込みなどを測定する尺度)によってメンタルヘルスの状態を評価し、また、家族、友人、職場の人との週当たりの会話時間をたずねました。分析の結果、日常生活における会話時間が週3.5時間未満(1日30分未満)の群では、メンタルヘルス不調の割合が20.9%、21時間超の群では9.8%であり、短会話群の不調の割合は長会話群の約2.1倍でした(図2)。領域別では職場での会話時間の短さが最も強く不調と関連しており、仕事の場の「つながり」がメンタルヘルスを考える上では重要であることが示唆されました。この知見は横断研究に基づくため因果関係の断定はできませんが、テレワークの定着で偶発的なやりとりが減る現状を踏まえると、日々の会話を意識的に確保することは低コストで副作用の少ないセルフケアの一手だと考えられます。

図2 週当たりの会話時間とメンタルヘルス不調(K6尺度13点以上)の関連
※ 筆者らの先行研究3)のデータを参考に図を作成
3. 職場環境改善に関する研究
職場環境改善は、職場という場そのものをより安全で、健康的で、仕事がしやすい状態へ整えるための取り組みです。例えば、「いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き」4)は従業員が主体となって行う職場環境改善の手引きであり、ストレスチェック制度と連動し、PDCAに沿って職場環境改善を進める方法や、従業員が24項目のチェックリストで職場を振り返る枠組みが示されています。24項目のチェックリストは、仕事のすすめ方の整備や物理的環境の改善、職場の人間関係・相互支援、相談窓口・教育研修に関するものが含まれています(図3)。
図3 ※いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き4)より抜粋
(クリックで大きい図)
詳細は以下からも確認していただけます。
https://mental.m.u-tokyo.ac.jp/old/1595.pdf[PDF]
私たちが最近実施したアンケート調査5)では、この手引きで紹介されている24項目の職場環境改善とメンタルヘルスの関連を調べています。対象は、1回目の調査と、その1年後に実施した2回目の調査(追跡調査)に参加した7,970名の労働者です。分析の結果、経験している職場環境改善の数が多いと、1年後のメンタルヘルス不調、プレゼンティーズム(仕事のパフォーマンスが低い状態)、高ストレスの割合が少ないことが示されました。また24項目の中でも、特に職場内の相互支援の改善はメンタルヘルスとの関連が強いことや、業種によっても職場環境改善の内容とメンタルヘルスの関連が異なる可能性も示されました。これから職場環境改善の実施を検討している企業においては、これらの結果は一つ参考になる情報だと思われます。
4. おわりに
本コラムでは、セルフケアや職場環境改善に関する知見を紹介しました。ストレスチェック制度が施行されてから10年が経過しましたが、冒頭でも触れたように、労働者のストレスやメンタルヘルス不調は大きな問題となっています。ストレスチェック制度という枠組みのもと、個人と環境という両面からメンタルヘルスの一次予防を効率的に進めていくことが必要だと思われます。
参考文献
- 厚生労働省. 令和6年労働安全衛生調査(実態調査). [Online].[cited 2025 Dec. 23]; Available from: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r06-46-50b.html
- 厚生労働省. ストレスチェックと面接指導の実施に係る流れ. [Online].[cited 2025 Dec. 23]; Available from:https://kokoro.mhlw.go.jp/etc/pdf/roudou_anzen201505.pdf[PDF]
- Izawa S, Nakamura-Taira N, Yoshikawa T, Akamatsu R, Ikeda H, Kubo T. Conversation time and mental health during the COVID-19 pandemic: A web-based cross-sectional survey of Japanese employees. J Occup Health. 2022; 64(1): e12334.
- 厚生労働省. 職場環境改善ツール. [Online].[cited 2025 Dec. 23]; Available from: https://kokoro.mhlw.go.jp/manual/
- Izawa S, Yoshikawa T, Nakamura-Taira N, Moriishi C, Akamatsu R, Ikeda H, Kubo T. Workers' experiences of improvements in the work environment and mental health problems: a web-based 1-year prospective study of Japanese employees. J Occup Health. 2024; 66(1): uiae054.







