木造家屋建築工事業における死傷災害の傾向について
1. 背景
近年、日本では人手不足を背景に、建設業における外国人労働者の受け入れが進んでいます。とりわけ木造家屋建築工事業では、小規模な現場も多く、日本人労働者と外国人労働者が一緒に作業を行う場面が増えています。
一方で、木造家屋建築工事業は、高所作業や資材の運搬、工具の使用など、日常的に危険が潜む作業が多く、労働災害が発生しやすい業種でもあります。さらに、外国人労働者の場合には、日本語での意思疎通や安全標識の理解、作業手順への習熟などの面で、災害リスクが高くなることが懸念されています。
しかし、「どのような場面で」「どのような災害が」起きているのか、また「日本人及び外国人どちらも含む全労働者」と「外国人労働者」とで傾向にどのような違いがあるのかについては、必ずしも十分に把握されているとは言えません。そこで、木造家屋建築工事業における死傷災害データを用いて、その実態を整理しましたので、本稿で紹介したいと思います。
2. 目的
本稿の目的は、木造家屋建築工事業において発生した死傷災害について、
- 外国人労働者を含む全労働者全体の傾向と、
- 外国人労働者に係る災害の傾向
を比較しながら明らかにすることです。
災害が発生している年齢層や経験年数、事故の型、起因物(原因となったもの)などを整理することで、「どのような労働者が」「どのような状況で」被災しているのかを分かりやすく示すことを目指しました。
なお、本稿では、死傷者数で整理しており、雇用者数で死傷者数を除して、確率的に論じていないことに留意してください。あくまで死傷者数の絶対値で評価しています。そのような評価ですが、死傷者数が多いことには変わりありませんので、こうした分析結果を共有することで、現場で安全管理を担う方々や、外国人労働者の受け入れ・教育に関わる方々にとって、今後の安全対策や教育内容を見直す際の参考としていただくことを期待しています。
3. 死傷災害の分析結果
本稿では、木造家屋建築工事業において発生した死傷災害(以下、「死傷災害」という。)のみを分析しています。なお、新型コロナウイルス感染症による労働災害を除いていることに注意して下さい。
図1は、死傷災害件数を発生年ごとに整理したものです。外国人労働者を含む全労働者(以下、「全労働者」という。)と外国人労働者について、それぞれの件数を棒グラフで並べて示しています。
同図から、調査対象期間(2013~2022年の10年間)のなかで、木造家屋建築工事業における死傷災害が毎年どの程度発生しているのか、また、そのうち外国人労働者の災害がどの程度を占めているのかを一目で確認することができます。
年ごとの動きに着目すると、全労働者の死傷災害が減少している一方、外国人労働者の死傷災害件数は増加していることが分かります。なお、2021、2022年はコロナ禍による外国人の受入停止により、死傷災害も相対的に減少しています。
次に、図2は、死傷災害を経験した労働者の年齢について、全労働者と外国人労働者を比較したものです。
同図をご覧いただくと、若い世代から中高年の世代まで、どの年齢層で災害が多く発生しているのかを把握することができます。また、全労働者の分布と外国人労働者の分布を並べて表示することで、「全労働者」と「外国人労働者」の年齢構成の違いも一目で確認できます。全労働者を見ると、50歳以上80歳未満の年齢に一つの山が見え、最も被災人数の多い年齢は65歳であり、高年齢労働者の被災者が相対的に多いことが分かります。一方、外国人労働者を見ると、20歳以上40歳未満の年齢に偏っており、24歳と30歳の年齢での被災が最も多いことが分かります。
このように、年齢別の傾向を把握することにより、例えば若年層に多い災害には基礎的な安全教育の充実を、中高年層に多い災害には身体的負担や作業方法の見直しを、それぞれ重点的に講じるといった、ターゲットを絞った対策の検討が可能になります。
図3は、外国人労働者の死傷災害について、国籍または地域ごとの件数を整理したものです。複数の国・地域を並べ、それぞれの棒グラフの高さによって、どの国籍・地域出身の労働者で災害が多く発生しているかを示しています。
なお、外国人労働者は、死傷病報告書の項目「外国人労働者国籍」及び「国籍・地域」において、どちらかに何らかの記載があった場合のみ外国人労働者としてカウントしています。項目「外国人労働者国籍」は主に2018年まで使用されており、項目「国籍・地域」は2019年から使用されています。外国人雇用状況届出制度の対象外となっている特別永住者、在留資格「公用」・「外交」については、「国籍・地域」の記入が不要であるため、空欄になっている箇所もあります。その場合、「外国人労働者国籍」に記載がある場合もあります。そのため、2019年以降、「国籍・地域」の欄が空欄であり、「外国人労働者国籍」に記載のある場合には、「外国人労働者国籍」の記載を「国籍・地域」に入力して統計を図っています。
同図を見ることで、木造家屋建築工事の現場で、どの国・地域の出身者が多く被災しているのかを把握することができます。ベトナム、フィリピン、中国、インドネシア、ブラジル、トルコといった国の出身者が多く被災している現状にあります。
このように、国籍・地域ごとの状況を把握することは、多言語での安全教育資料の整備や、母語を踏まえた指導方法の検討につながります。例えば、特定の国・地域出身者の死傷が多い場合には、その言語での安全掲示や教育動画の整備を優先するといった、より実情に合った対策が可能になります。
図4は、外国人労働者の在留資格別に死傷災害の件数を整理したものです。在留資格とは、「どのような目的で日本に在留しているか」を示す区分であり、就労内容や在留期間などに関わる重要な情報です。
同図から、「技能実習」が最も多く被災しており、次いで「永住者」、「特定活動(建設分野)」、「技術・人文知識・国際業務」の順になっています。
このように、在留資格ごとの違いを把握することは、「日本での滞在期間が比較的短いグループ(例えば、技能実習など)」、「長期にわたり就労しているグループ(例えば、永住者など)」など、属性ごとに安全教育や指導方法を工夫するうえで重要です。例えば、日本での生活や仕事にまだ慣れていない可能性が高いグループには、生活面も含めた基礎的な支援や、より丁寧な安全教育が必要になる場合があります。
図5は、木造家屋建築工事業に従事してからの経験期間(月)別に、死傷災害の件数を整理したものです。全労働者と外国人労働者について、「入職して間もない時期」から「ある程度の経験を積んだ時期」まで、経験期間の区分ごとに棒グラフで示しています。
この図では、経験の浅い労働者と、長年現場で働いている労働者のどちらで災害が多く発生しているのかを、全労働者・外国人労働者それぞれについて比較することができます。棒グラフの幅は12か月に統一していますので、1つの棒グラフは1年間と捉えることができます。結果として、全労働者、外国人労働者ともに経験年数1年未満の労働者が最も多く被災していますが、外国人労働者では6年未満の経験年数の労働者が被災しているのに対して、全労働者では6年以上の経験年数の労働者も一定数被災する傾向にあることが分かります。外国人労働者においては、技能実習などの在留期間の比較的短い在留資格の影響と推察されます。
このように、経験期間別の傾向を踏まえることで、例えば「入職直後の集中教育をより厚くする」、「一定の経験を積んだ段階で、改めて危険ポイントを確認するフォローアップ研修を実施する」といった、キャリアの節目に応じた安全教育の設計に役立てることができます。
図6は、「どのようなタイプの事故が起きているのか」を示したものです。「事故の型」とは、たとえば「転倒」、「墜落、転落」、「切れ、こすれ」、「はさまれ、巻き込まれ」など、災害の起こり方のパターンを分類したものです。
この図では、木造家屋建築工事業において発生した死傷災害を、事故の型ごとに整理し、全労働者と外国人労働者の件数を並べて示しています。これにより、どのタイプの事故が多いのか、また、外国人労働者に特徴的な事故の型があるのかを視覚的に確認することができます。どちらも「墜落、転落」、「切れ、こすれ」、「飛来、落下」、「はさまれ、巻き込まれ」といった事故の型が多いことが分かります。全労働者では「転倒」も多くなっている一方、40歳以下の全労働者では「転倒」が少なくなっていることから、図2で示したように、全労働者において高年齢労働者が多いことが関係していると推察されます。
事故の型別の状況を把握することは、「どの作業に重点的に注意喚起すべきか」を考えるうえで重要です。たとえば、転倒や墜落・転落といった高所作業や足場周りのリスクが目立つ場合には、足場の点検や保護具の使用徹底などが優先課題になりますし、はさまれ・巻き込まれが多い場合には、機械や工具の取り扱い教育の見直しが求められます。
図7は、「何が原因となって災害が起きたのか」という視点から、起因物(きいんぶつ)を細かな分類(起因物小)で整理したものです。起因物とは、「足場」、「手工具」、「金属材料」といった、災害のきっかけとなったモノや環境のことを指します。なお、全ての起因物小の頻度分布を示すと、図の文字が小さくなってしまいますので、ここでは上位20位以内の起因物小の頻度分布を示しています。
この図では、起因物の小分類ごとに、全労働者と外国人労働者の死傷災害件数を棒グラフで示しています。これにより、「どのようなモノ・設備に関連した災害が多いのか」、「外国人労働者はどのような起因物に関わる災害が多いのか」といった点を一目で把握することができます。結果として、全労働者の場合、「はしご等」、「屋根、はり、もや、けた、合掌」、「足場」、「丸のこ盤」、「木材、竹材」、「建築物、構築物」が多くなっています。一方、外国人労働者の場合、「金属材料」、「足場」、「手工具」、「屋根、はり、もや、けた、合掌」、「木材、竹材」が多くなっています。外国人労働者の特徴として、「金属材料」や「手工具」の使用に慣れていないことが想像されます。
このように、起因物別の傾向を理解することで、たとえば「資材の保管・荷役方法を見直すべきか」、「特定の機械・工具について、取扱説明や保護装置の点検を重点的に行うべきか」など、設備や環境側からの対策を検討しやすくなります。外国人労働者に特に関係する起因物がある場合には、その設備周りの掲示を多言語化するなど、よりきめ細かな対応が必要になります。
図8は、「事故の型」と「起因物小」を組み合わせて分析した結果を示しています。縦軸に事故の型、その内訳に起因物の小分類をとることで、「どのようなモノに関連した、どのようなタイプの事故が多いのか」を把握できる図になっています。なお、全ての起因物小の内訳を示すと、各棒グラフの内訳が見にくくなってしまいますので、ここでは上位20位以内の起因物小の内訳を示しています。
この図では、全労働者と外国人労働者の状況を比較しながら、たとえば「足場 × 墜落・転落」、「手工具 × 切れ・こすれ」といった組み合わせに災害が集中していないかを確認することができます。外国人労働者に特に多い組み合わせがあれば、そこが優先的に対策を講じるべき「リスクの高い場面」として浮かび上がります。結果として、「足場」、「はしご」、「屋根」等から「墜落・転落」していることが分かります。また、「手工具」、「丸のこ盤」、「その他の木材加工用機械」等を使用しているときに「切れ・こすれ」が発生していることが分かります。さらに、「金属材料」、「木材、竹材」等が「飛来、落下」していることも分かります。
このような集計方法は、「どの作業で」「どの設備や資材の周りで」「どのような事故が起こりやすいのか」という、具体的なイメージを持つうえで非常に有用です。現場での安全ミーティングやKY(危険予知)活動で、実際の事故事例と合わせて共有することで、労働者の危険感受性を高めることにもつながります。
図9は、災害が発生した事業場の規模に着目し、事業場の労働者数別に死傷災害件数を整理したものです。たとえば「常用労働者が少数の事業場」と「中規模以上の事業場」といった区分ごとに、全労働者と外国人労働者の災害件数を比較できるようになっています。
この図をご覧いただくと、木造家屋建築工事業のなかで、50人未満の中小企業がほとんどであり、小規模事業場で外国人労働者の災害割合が高い場合には、「安全衛生担当者が専任でいない」、「多言語の資料が整備されていない」といった背景が推測されます。
事業場規模(労働者数)別の情報は、行政や業界団体が安全対策を支援する際の「どの層に重点的に働きかけるべきか」を考えるうえでも重要です。現場で教育を担当される方にとっても、自社の規模と照らし合わせながら、自社に近い層の状況を確認する手がかりになります。
図10は、死傷災害によりどの程度の休業が見込まれるのかを示す「休業見込み日数」に着目したものです。休業見込み日数を4日区分に分け、それぞれの区分で全労働者と外国人労働者の件数を比較しています。
この図を通じて、「外国人労働者の災害は、全体と比べて軽いものが多いのか、あるいは長期休業につながる重い災害が多いのか」といった傾向を把握することができます。特に休業見込み日数が長い災害は、本人や家族への影響が大きいだけでなく、事業場にとっても深刻な損失となるため、重点的な対策が必要です。結果として、全労働者および外国人労働者ともに休業28日未満の重篤度が多い状況ですが、外国人労働者は休業4~12日未満の重篤度も多くなっております。外国人労働者が重篤な被災をしやすいということはこの図からは読み取れません。
このように、休業日数の分布を把握することで、「重大災害につながりやすいリスクを特定し、早期に対処する」、「復職支援や職場復帰プログラムも含めた、長期的な視点での安全衛生管理を検討する」といった、より一歩踏み込んだ議論が可能になります。外国人労働者の場合には、言語や文化の違いから、治療やリハビリ、職場復帰のプロセスにおいても追加の支援が必要となる場合があり、その点も含めて配慮が求められます。
4. まとめ
本稿では、木造家屋建築工事業における死傷災害について、外国人労働者を含む全労働者と外国人労働者を比較しながら、発生年、年齢、国籍・地域、在留資格、経験期間、事故の型、起因物、事業場規模(労働者数)、休業見込み日数といった側面から整理しました。分析の結果、全体の死傷災害は長期的には減少傾向にある一方で、外国人労働者の死傷災害はむしろ増加しており、木造家屋建築工事業の現場で外国人労働者の安全の確保が、今後いっそう重要な課題となっていることが分かりました。
年齢や経験期間に着目すると、全体では高年齢労働者の被災が目立つのに対し、外国人労働者は20~30代の比較的若年層に被災が多い印象です。また、全労働者・外国人労働者ともに「経験1年未満」の被災が多く、外国人労働者は6年未満の層に被災が多いのに対し、全労働者では6年以上の経験を持つ層にも一定数の被災が見られました。外国人労働者においては、技能実習などの在留期間の比較的短い在留資格の影響と推察されます。これらの結果から、入職直後や経験の浅い時期に対する集中的な安全教育の重要性とともに、若年層・高年齢層それぞれの特性に応じたきめ細かな対策が必要であることが示唆されます。
外国人労働者の国籍・地域や在留資格に着目すると、ベトナム、フィリピン、中国、インドネシア、ブラジル、トルコなど、特定の国・地域の出身者に被災が多いこと、在留資格では技能実習が最も多く、次いで永住者、特定活動(建設)、技術・人文知識・国際業務が続くことが分かりました。これらの結果は、多言語による安全資料の整備や、在留期間や職務内容を踏まえた教育・支援の設計が不可欠であることを示しています。特に、日本での生活や仕事に十分慣れていない可能性が高いグループに対しては、生活面も含めた包括的な支援が求められます。
事故の型と起因物の分析からは、全労働者・外国人労働者ともに、「墜落・転落」、「切れ・こすれ」、「飛来・落下」、「はさまれ・巻き込まれ」といった事故の型が多く、起因物としては「はしご等」、「屋根、はり、もや、けた、合掌」、「足場」、「手工具」、「丸のこ盤」、「金属材料」が多いことが明らかになりました。さらに、「はしご・屋根・足場×墜落・転落」、「手工具・丸のこ盤×切れ・こすれ」、「金属材料×飛来・落下」といった組み合わせが多いことも分かりました。なお、外国人労働者では「金属材料」、「足場」、「手工具」、「屋根、はり、もや、けた、合掌」、「木材、竹材」を起因物とする災害が目立つことから、これらの取扱いに関する実技教育や、使用方法の再確認が重要なポイントと考えられます。
また、災害が発生している事業場の多くは、労働者数50人未満の中小規模事業場であること、休業見込み日数については、全労働者・外国人労働者のいずれも28日未満の災害が多く、外国人労働者だけが特に重篤な災害を多く経験しているとは言えないことも分かりました。中小規模事業場では、安全衛生担当者が専任でいない、多言語の資料が不足しているといった課題を抱えている場合も想定されるため、行政や業界団体による支援の重点対象として位置付けることが有効と考えられます。
以上の結果から、木造家屋建築工事業における外国人労働者の安全対策を進めるうえでは、①入職初期や若年層に対する分かりやすい基礎安全教育、②国籍・在留資格に応じた多言語・多文化へ配慮した支援、③仮設物や手工具、金属材料など主要な起因物に焦点を当てた実践的な指導、④中小規模事業場への重点的な支援、といった取組が重要であることが示されました。これらを踏まえ、今後も現場の実態に即した災害防止対策を検討・実践していくことが求められます。
研究倫理上の配慮について
本研究は、労働安全衛生総合研究所研究倫理審査委員会による審査を受け実施しています(承認番号:R6-安9)。
参考文献
- 厚生労働省: 職場のあんぜんサイト, https://anzeninfo.mhlw.go.jp/. (2025年11月13日閲覧)

















