労働安全衛生総合研究所

Asia Pacific Symposium on Safety2023 (APSS)の開催報告

 2023年10月17日~20日の日程で、タイ・バンコクにてAsia Pacific Symposium on Safety 2023 (略称APSS 2023)(会場:Bangkok International Trade & Exhibition Centre, BITEC)が開催された。本シンポジウムは、1999年に韓国慶州で開催された日韓産業安全研究集会を契機として企画され、アジア及び環太平洋諸国にエリアを拡大し、2001年に第1回大会が京都で開催された。以後、2年ごとに各国の持ち回りで開催されており、前回(APSS2019)は中国の大連で開催されている。今回のAPSS 2023には、4カ国から384名(運営95名含む)の参加があり、内訳としては、韓国(115名)日本(57名)香港(1名)タイ(211名)となった。

 APSS 2023の主催はKing Mongkut's University of Technology Thonburi(略称KMUTT)が行い、組織委員は、安全工学会(Japan Society for Safety Engineering, JSSE)より、武藤会長(鹿島石油株式会社)をはじめ7名が参画し、韓国安全学会(Korea Society of Safety, KOSOS)Beak会長(韓国交通大学)をはじめ10名が参画し、タイからは、W. Pridasawas実行委員長、(KMUTT大学)をはじめ、9名が参画した。

 初日の10月17日13時から受付開始し、2日目の10月18日には、Smart Industrial Safety & Technology for Advanced Maintenance2023(略称SISTAM 2023)という展示会と共同でオープニングセレモニーを行った。その後、タイ代表のPanchan Sricharoon教授、 KMUTT化学工学専攻長、 日本代表の武藤会長(写真1)、韓国代表のBeak会長、大幢所長代理(安衛研)の祝辞で本シンポジウムが始まった。その後2日目の午前には、3件の基調講演が行われた:韓国Hansung大学のPark教授による「Background, Rationale and Impact of the Serious Accidents Punishment Act 2021 (SAPA,2021)」、東京大学の土橋教授による「Risk Analysis of Fire and Explosion」、韓国Ajou大学のJung教授による「Advanced Dispersion Modeling for Chemical Accidents」(写真2)。2日目の午後には、4会場にて火災爆発、リスクアセスメント、建設、電気の4つのセッションにおいて、計34件の一般講演が行われた。

 また、夕刻には同会場にてウェルカムレセプションがあり、APSS2023の準備・運営に大きく貢献した実行委員長をはじめ、副実行委員長、実行委員らに武藤会長、Beak会長から感謝状の授与が行われた。続いてタイの伝統舞踊が披露され、各国の参加者が和やかに懇親を深めた。

 3日目の10月19日は4会場にて、7つのセッションにおいて、火災爆発、リスクアセスメント、安全教育、物質、化学工学、プロセス安全など計42件の一般講演が行われた。また、タイBureau VeritasのWichit Sophitanonrat博士による「Hydrogen Safety Ecosystem」、タイPTT Exploration and ProductionのPakorn Sangsurane 氏による「PLC Major Accident Event Hazard Management in Oil and Gas Project and Its Challenges」2件の基調講演と51件のポスター発表が行われた。4日目の10月20日は3会場にて、3のセッションにおいて火災爆発、建設、電気など計9件の一般講演と、タイDept. of Industrial Works のChatchawan Jittiruangkiat氏による「Industrial Safety Policy in Thailand」の基調講演が行われた。

 全体的な主な発表内容を述べると、化学安全分野では化学物質やそれに関連する危険性について、37件の発表があった。バイオマスのワイヤーバスケット試験結果の熱発火理論に基づく安全な貯蔵条件の算出などの化学反応の危険性に関する発表や、センサーノイズの解析による火災の早期検知及び誤検知率を低下させる手法の調査などの火災の被害低減に関する発表があった。電気安全分野では、電気火災を中心に、感電、静電気災害に関する発表があった。このうち、韓国からの発表件数が11件と最多であり、各種電気設備の電気火災の具体的な防止対策に関する発表が多数を占めた。建設安全分野では合計8件の発表があった。ビルの解体工事の防音パネルの風荷重に関連する研究や環境影響を配慮したブレハブ工法に関する研究、リスク評価に関する定量的手法の開発に関する研究、河床保護構造物の安全性解析に関する研究、移動型災害対応ロボットの開発等、建設分野に関する幅広い内容の発表があった。機械安全分野では、従来の設備による安全確保の考え方に加えて、IoT、ICT等の新技術を利用した新たな安全の考え方に関する発表があった。特に作業者のバイタルや作業行動に注目した協調安全に関する発表は、機械安全分野の新たな方向性を示していた。

 各講演発表終了後、Best Paper、PosterおよびPopular Vote Poster Awardが発表され、Best Oral Awardには、各専攻の口頭発表セッションから15名、ポスター発表セッションから6名が選ばれた。研究所からは、庄山瑞季研究員と崔安全研究領域長の論文がBest Oral Awardを受賞した。(写真3)

 最後に、次回のAPSSは2025年(予定)に韓国にて開催されることが決定している(主催:KOSOS、写真4)。本会の皆さんにもぜひ発表を検討して頂き、日本から多くの方が参加されることを期待している。



写真1 日本代表の安全工学会武藤会長による挨拶


写真2 基調講演の様子


写真3 Best Oral Award賞状


写真4 次回のAPSS2025韓国開催発表の様子

(電気安全研究グループ 部長 崔 光石)

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