労働安全衛生総合研究所

化学物質の危険性に関するリスクアセスメント等実施に係るチェックポイント集

1.化学物質の危険性に対するリスクアセスメント等実施に関する課題


 2011年以降、大手化学工場を含む事業場において、爆発・火災事故が多発しています。これらの事故の背景要因に係る共通点として、事前に事故発生防止対策を検討し、実施するためのリスクアセスメント(以下、RA)等の実施が不十分であったことなどが指摘されています1)。一方、2016年6月1日より、労働安全衛生法第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物(2020年6月5日現在、673物質)に対するRA等の実施が義務化されています(対象とならない化学物質についても、RA等の実施は努力義務となっています:同法第28条の2)。
 化学物質の危険性に対するRA等を実施する目的は、爆発・火災等の発生を防止するための対策を事前に検討・実施することであり、これを達成するためには、

  1. 危険源を漏れなく抽出すること
  2. 爆発・火災等の発生に至るプロセス(シナリオ)を同定すること
  3. シナリオ発生に関するリスクを見積り、リスクレベルを決定すること
  4. 有効なリスク低減措置を検討し、実施すること
  5. リスクアセスメント等の実施結果を作業者に的確に伝えること

などが求められ、これらを実施するためには、化学物質やその取扱いプロセスなどに関する知識を必要とします。また、設備や装置、及びそれらの取扱い作業条件などについても考慮した危険源の特定や爆発・火災等の発生に至るシナリオを同定する必要があります。 これに対して既に事業場で実施されている化学物質の危険性に対するRA等の結果を考察すると、上記1)~5)について的確に実施されていない場合が多く、時間と労力を掛けて実施したにもかかわらず、実際には危険源の抽出漏れがある、リスクが客観的に見積もられていない、適切なリスク低減措置が検討・実施されていないなどの事例が見受けられます2)


2.化学物質の危険性に対するリスクアセスメント等実施に関するチェックポイント集の作成・公開


 労働安全衛生総合研究所(以下、安衛研)では、化学物質による火災・爆発等の発生を防止するためのRA等の進め方を技術資料(JNIOSH-TD-No.5)としてまとめ、2016年2月に発行しています( 安衛研ニュースNo. 89 で紹介しています)3)。これに対して、技術資料に示された化学物質の危険性に対するRA等実施に関する基本的な事項を的確に実施しているかどうかを確認・点検することを目的としたチェックポイント集を作成し、2019年5月より、研究所のホームページにて公開しています(図1)。
 さらに、2020年5月には、チェックポイント集活用の利便性を高めるためにExcel版ツールを開発し、公開しました。下記URLよりダウンロードして、活用して頂くことができます(図2)。

図1 RAチェックポイント集 図2 Excel版ツールの操作マニュアル

【ダウンロード先】https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/houkoku/houkoku_2020_01.html


チェックポイント集(図1)の使い方


  1. 37のチェック項目について「Yes」または「No」で回答します。各チェック項目に回答するための留意点はチェックポイント集の後半部分にまとめられており、参考にすることができます。また、すぐに回答することができない場合は「保留」とし、後で必ず確認します。
  2. すべてのチェック項目に回答した後、今後の対応計画を検討します。今後の対応計画は、関係者全員で相談しながら作成し、情報共有します。
  3. 今後の対応計画に基づいて、適切なRA等を実施します。
  4. 1)~3)を繰り返すことで、少しずつでも爆発・火災等発生のリスクを下げ、より安全な作業現場づくりを推進します(図3)。

図3 チェックポイント集を活用したRAの繰り返し実施


Excel版ツール(図2)でできること


  1. 各チェック項目に対するYes/No回答結果だけでなく、回答した理由や今後の対応計画を入力する欄も設けており、利用者が記入することで、RA等実施の見直しや繰り返しの実施を促します。
  2. 回答結果の保存・印刷・比較などを容易に行うことができ、RA等実施結果の見直しや再検討に役立てることができます(Excelファイルでの入出力、pdfファイルで保存など)。

3.想定されるチェックポイント集の利用者と活用により期待されること


・事業場の安全担当者(RA等実施の責任者)など

 自社の化学物質の危険性に対するRA等の実施内容(結果だけでなく、RA等の進め方なども含む)を確認します。その結果、解析漏れを見つけたり、考え方の間違いに気づいたりした場合には、それらの点に着目しながら、再度、RA等を実施し、より有効なリスク低減措置の検討・実施につなげます。

・労働安全衛生コンサルタントや監督署監督官など

 指導する事業場における化学物質の危険性に対するRA等の実施状況について確認します。この時、実施結果を確認するだけでなく、RAの進め方やリスク低減措置検討の考え方も確認し、何か問題があれば、それらの点を指摘・指導することで、事業場における取り組みを支援します。


4.おわりに


 爆発・火災等の発生を防止することを目的とした化学物質の危険性に対するRAをより的確に実施して頂くためのチェックポイント集について紹介しました。化学物質のRA等実施には、化学物質の特性や化学反応などに関する知識や情報を必要とし、また時間も手間も掛かる業務となるため、取り組みが進まないと言われています。本コラムで紹介したチェックポイント集を活用して頂くことで、的確なRA等を少しずつでも継続的に実施して頂き、より安全な職場、安全な作業環境が構築されることを期待します。


参考文献

  1. 内閣官房,総務省消防庁,厚生労働省,経済産業省,石油コンビナート等における災害防止対策検討関係省庁連絡会議報告書(2014).
  2. 島田行恭,化学物質の危険性に対するリスクアセスメント等実施状況と課題,安全衛生コンサルタント,39-132,pp.23-33(2019).
  3. 労働安全衛生総合研究所技術資料,プロセスプラントのプロセス災害防止のためのリスクアセスメント等の進め方,JNIOSH-TD-No.5(2016).[PDF]

(リスク管理研究グループ 部長 島田 行恭)

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