労働安全衛生総合研究所

インドネシア労働省・マレーシア人材省の視察団が1月20日に登戸地区に来所しました

 平成29年1月20日にインドネシア労働省とマレーシア人材省よりそれぞれ10名の行政官をお迎えいたしました。この視察は、労働力移住の自由化に伴いアジア地域の建設・工事現場等において言語・文化・習慣が異なる外国人労働者が増加し、それらの労働者に対する労働安全衛生の徹底の必要性があること、また中東から日本への新たな協力要請が提出されたことなどを背景として、今後の海外協力の可能性を検討することを目的としたJICAのプロジェクトの一部として行われたものです。実際には一般社団法人国際建設技術協会及び株式会社長大がJICAからの委託を受け、インドネシア及びマレーシアの労働安全衛生行政官を対象とした1週間の日程のスタディ・ツアーという形で行われました。この日は、日本人の随行者の方々も含め総勢26名の大視察団となりました(写真1)。この視察は、おもに建築・工事現場をターゲットとするツアーでしたが、登戸地区では労働衛生分野からのアプローチを紹介する内容となりました。

インドネシア及びマレーシア労働安全衛生行政官一行

写真1 インドネシア及びマレーシア
労働安全衛生行政官一行

甲田所長代理による研究所概要説明

写真2 甲田所長代理による
研究所概要説明



 行政官一行到着後、二階会議室において甲田所長代理による研究所の概要説明が行われました(写真2)。二名の通訳を交えて研究所の大まかな沿革、組織や研究内容についての説明がなされました。
 次に、建築・工事現場に対する労働衛生分野からのアプローチとして小野領域長による「より良い職場環境のための環境管理について」の講義がなされました(写真3)。職場環境をより良くするためどのように管理していくかというトピックについて、わかりやすく説明されました。


写真3 講義の様子(時澤研究員)


 次の講義では、建設・工事現場で問題となる暑熱についての講義を時澤研究員が行いました。「職場における暑熱対策の取り組み」というタイトルで、実際の作業中において有効なクーリングの方法及びその実験結果等について約20分にわたり講義を行いました(写真3)。


 上の二つの講義終了後に、三班に分かれて4か所の実験室を回るテクニカル・ツアーを行いました。篠原統括研究員は、電子顕微鏡室で「走査型電子顕微鏡による粉じんの分析」の研究紹介を行いました(写真4)。アスベストの写真を示し、サイズや形状の違いやアスベストの同定・分析法について解説しました。
 工学棟では、小嶋上席研究員が工場の換気等に関する研究の紹介を行いました(写真5)。小嶋上席研究員により工場換気の一つである、プッシュ・プル換気法が紹介されると、マレーシアの方から「プッシュ・プル方式は日本ではどれくらいの期間使用しているのか」という質問がありました。マレーシアでは殆どプッシュ・プル方式の換気装置は導入されていないとのことで、日本では法律で認められたのが10年ほど前であるが、使用自体は20年以上前からという回答に驚いていました。


篠原統括研究員による石綿の研究紹介(電顕室)

写真4 篠原統括研究員による
石綿の研究紹介(電顕室)

小嶋上席研究員による工場換気の研究紹介(工学棟)

写真5 小嶋上席研究員による
工場換気の研究紹介(工学棟)


 音響振動棟に移動してからは、高橋(幸)上席研究員により低周波音に関する研究の紹介(写真6)と、柴田上席研究員から振動に関する研究紹介(写真7)が行われました。実際に実験室に入り、低周波音を体験してもらいました。低周波の感じ方には個人差があることを高橋(幸)上席研究員が伝えると、それぞれがどのように感じるかなどをお互いに話していらっしゃいました。
 音響振動棟の地下には振動実験室があり、そこで柴田上席研究員が自身の研究の説明と手腕振動の測定機を実際に体験してもらい、手腕振動における防振手袋の機能性評価の測定の方法等が説明されました。

高橋(幸)上席研究員による低周波音に関する研究説明(音響振動棟)

写真6 高橋(幸)上席研究員による
低周波音に関する研究説明(音響振動棟)

柴田上席研究員による振動に関する研究説明(音響振動棟)

写真7 柴田上席研究員による
振動に関する研究説明(音響振動棟)


 

全体討論で質問に答える鷹屋首席研究員

写真8 全体討論で質問に答える
鷹屋首席研究員


 テクニカル・ツアー終了後は、講義・ツアー対応者に鷹屋首席研究員も加わり、ごく短い時間ではありましたが、全体討論を行いました(図8)。「この研究所ではどのような研究がどのくらい行われているのか」という質問があり、特にナノ粒子に関する研究についての質問が挙がりました。


  最後にインドネシアの労働省からの視察団代表であるIdham氏(写真9)からはインドネシアを対象として労働安全衛生分野でのより一層の協力の可能性を希望する意向が、マレーシアのNIOSHの所長であるOsman氏(写真10)より、マレーシアからの同分野における新規要請に対応すること等が求められ、視察が無事終了いたしました。今回の訪問は10時から12時までという短い時間ではありましたが、その分内容の濃い視察となったように感じました。

インドネシア労働省からの視察団代表のIdham氏

写真9 インドネシア労働省からの
視察団代表のIdham氏

マレーシア人材省からの視察団代表のOsman氏(マレーシアNIOSHのExecutive Director)

写真10 マレーシア人材省からの
視察団代表のOsman氏
(マレーシアNIOSHのExecutive Director)




(産業毒性・生体影響研究グループ 主任研究員 北條理恵子 )
(研究推進・国際センター  上席研究員 吉川 徹 )

刊行物・報告書等 研究成果一覧