第2回WHO協力センター西太平洋地域フォーラムに参加して
1.会議の概要
労働安全衛生総合研究所(以下、安衛研)は世界保健機構の協力センター(WHO Collaborating Centre)に指定されています。今回、2016年11月28日から29日までの2日間の日程でフィリピン首都マニラにおいて、第2回のWHO協力センターの西太平洋地域の会議があり、研究推進・国際センターの吉川徹上席研究員と、産業ストレス研究グループの久保が参加してきました。この会議は昨年、初めて開催された会議で、アジアやオーストラリア地域などの西太平洋地域で活動を行うWHO協力センターが一堂に会して、これまでの協力センターとしての活動を報告すると共に、今後の活動プラン等について話し合う会議です。今回の会議は10か国から約250名が参加し、国別のWHO協力センターの数は多い順に、中国(66)、オーストラリア(47)、日本(34)、韓国(19)、シンガポール(10)、マレーシア(5)、ニュージーランド(4)、フィリピン(2)、ベトナム(2)、モンゴル(1)でした(括弧の中の数字はセンターの数)。
写真1 本会議のタイトル
左:写真2 会議の受付 右:写真3 会場風景
この会の大きな目的は、国連が定めたSustainable Development Goals(持続可能な開発目標;SDG)について、各分野で議論することでした。具体的には、オープニングセレモニーの際に、WHO西太平洋地域事務局長のShin Yong-soo先生より、1)各国での良好な実践、報告、ネットワーク、コミュニケーションの方法を認識し合うこと、2)学際的に、かつ専門家同士の連携を図りながら持続可能な開発目標を念頭に置いた革新的なコラボレーションの仕組みを提案することが本会の目標であることが説明されました。
2.会議のスケジュール
2日間のスケジュール概要は、初日にオープニングセレモニー、午前に各国のWHO協力センターとしての活動報告、午後には各保健技術領域のテーマごとの分科会での会議となっていました。2日目は、午前中は主にWHOが掲げる検討課題のテーマごとに分類されたセッションが同時進行し、午後には、初日に保健技術領域グループで議論した内容の総括を行うというスケジュールでした。
3.持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)とは
本会議の大きな目的は、上述したようにSDGを達成するために、各WHOコラボレーティングセンターがどういった貢献ができるのかを話し合うことでした。では、SDGとは何か?ということですが、そもそもこの目標は国連が提案したもので、その専門組織であるWHOもこの目標達成のために活動を行っている訳です。また、SDGは2030年に向けて世界が合意した目標で、大きく次の17の目標に分かれています(引用元:国際連合広報センター;URL:http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/)。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなにそしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさを守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
写真4 持続可能な開発目標
4.産業保健分野の分科会
スケジュールの中で述べましたように、会議は各分科会に分かれて議論を行う形式が取られました。また、初日と2日目の2日間、各分科会に分かれて議論を行って、2日目の最後の会議で各分科会の代表者が提案書をまとめるという流れでした。われわれが参加したのは、産業保健(Occupational Health)の分科会でした。WHO西太平洋地域の産業保健分野では、カンボジア、ラオス、ベトナム、モンゴル、フィジー、パプアニューギニア、ソロモン諸島の島嶼地域などの優先対象国が設定されていて、それらの国に対して、産業保健の分科会に所属するWHO協力センターから、どういった貢献が考えられるのか?というテーマで話し合いました。分科会の初日は、ブレーンストーミング的にさまざまなアイデアを出し合い、写真5のように、アイデアをポストイットに書き込みました。2日目には、再び、分科会のメンバーで集まり、分科会の代表者がまとめた提案書について議論を行いました。そこで安衛研としては、疲労や暑熱ストレスのアセスメントや参加型のトレーニングのためのツールの提供を提案しました。その他の協力センターからは、アスベストの管理や職業性疾病の報告システムの構築、職業性疾病のサーベイランスシステムのガイドラインの提供などの提案がなされていました。
写真5 産業保健分科会での風景
5.各WHO協力センターの活動紹介
初日のオープニングセレモニー後、いくつかの代表的なWHO協力センターからの活動報告がなされました。そこでは、最近の流行が世界的に注目されているジカ熱やデング熱、伝統的なマラリアや結核、HIVといったWHOがこれまで得意としてきたCD(Communicable Diseases、伝染性疾患)や、喫煙、肥満、メンタルヘルスなどNCD (Non Communicable Diseases、非伝染性疾患)等に関する様々な活動について、各協力センターからの良好事例が紹介されていました。また、この時とは別に、各センターはポスターを作成し、初日と2日目に分けられてディスカッションの時間が設けられて活発な議論がされました(写真6、7)。安衛研からは、現在、WHO協力センターとして、その活動を行っている疲労を簡便に測定するための評価ツールの開発と、暑熱ストレスの評価方法に関する研究テーマ、それに加えて、過労死等調査研究センターの活動を発表しました。
6.最後に
今回、本会議のメインテーマがジカ熱やデング熱などの感染症の予防や、発展途上国への支援などであったので、自身(久保)の研究テーマである労働者の疲労や睡眠の問題とは直接的に結び付かないテーマも多く、自身の見識の狭さを実感させられました。さらに、さまざまな国々において、経済の発展水準の違いなどにより、当然のことながら、抱える問題は異なっています。そのような違いを踏まえて、自身の研究や安衛研全体での研究テーマが、将来的に、どのようにWHO協力センターとして貢献していけるのかといった課題について深く考えさせられました。中でも、過労死や過労自殺の問題は、すでに韓国などでも問題になっているという話を、懇親会の際に、韓国からの参加者より聞かされました。全く名誉なことではないのですが、日本は過労死を「KAROSHI」として、国際的にも言葉を広めてしまったことから、他の国への有効な過労死予防策を提言していくことは、重要な貢献になるのではないかと感じられました。いずれにしても、国内外における安衛研のプレゼンスを高める上でも、今回のような会議で研究成果を発信し、アジア地域で連携して労働者の安全と健康の確保に関する調査研究や、実務を支援できる調査研究に貢献していくことの重要性を改めて認識できました。
写真8 全参加者による人文字
全参加者がWHOコラボレーティングセンター2016を略して「WCC-16」の人文字を作りました。