労働安全衛生総合研究所

脳・心臓疾患と精神障害の労災認定事案にみる過労死等の実態

1.研究の背景と目的


 平成26年の第186回通常国会において過労死等防止対策推進法が制定されたことを受け当研究所に設置された過労死等調査研究センターの活動も、今年で3年目を迎えました。当センターで行われている労災疾病臨床研究事業費補助金による研究(代表・高橋正也)の三つの柱の一つである過労死等事案の解析においては、平成22年1月から平成27年3月までの脳・心臓疾患と精神障害による労災認定事案(過労死等事案)の調査復命書(疾病が業務上のものか判断するための調書)を全国の労働基準監督署から収集し、その資料から過労死等の実態解明に取り組んでいます。当コラムでは、その研究成果の一部を紹介します。なお、詳細は下記の平成27年度「過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労度安全衛生研究」報告書に記していますので、こちらをご覧ください。
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/houkoku/houkoku_2016_03.pdf [PDF]


2.労災認定事案を読み解く


 過労死等防止対策推進法の第二条において、過労死は「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害」と定義されます。換言すれば、過労死等とは仕事が主な原因と認められた脳・心臓疾患と精神障害を指します。労災認定事案とは、監督署による調査の結果、脳・心臓疾患の発症前もしくは精神障害の発生前に過重な労働があったと認められたものです。ただし、労災の認定基準は脳・心臓疾患と精神障害で異なります。


3.労災認定事案に関連する統計


 収集された労災認定事案では、脳・心臓疾患が1,564件、精神障害は2,000件でした。これらの過労死等による労災認定事案の特徴を概観すると、脳・心臓疾患による労災認定(図1-1)は、どちらも50歳代に最も多く、そのほとんどが男性でした。それに対して精神障害のみによる労災認定(図1-2)は30歳代に最も多く、その31%は女性でした。自殺事案のほとんどは男性で40歳代が最多ですが、女性の場合は20歳代で最も多くなっていました。



図1-1.性・年齢階級別の事案数(脳・心臓疾患)


図1-2.図1-2.性・年齢階級別の事案数(精神障害)


 図2-1と図2-2は、全17業種中、労災認定事案数の多い上位10業種について、業種別の事案数を示したものです。脳・心臓疾患では(図2-1)、1,564件のうち約30%の464件が運輸業・郵便業における事案で最も多く、次いで卸売業・小売業、製造業が続きました。精神障害(図2-2)では、2,000件のうち約17%の349件が製造業における事案で、次いで卸売業・小売業、医療・福祉が続きました。事案数では脳・心臓疾患、精神障害ともに運輸業・郵便業、製造業、卸売業・小売業、建設業が上位5業種に入っていました。



図2-1.業種別の事案数(脳・心臓疾患、上位10業種)



図2-2.業種別の事案数(精神障害、上位10業種)


4.今後の展望


 これまでの労災認定事案の解析から、年齢、性別、業種ごとの実態が浮き彫りになってきました。当センターでは引き続き労災認定事案の解析を進めていきます。今後、平成28年度の研究報告も公開されますので、当コラムと併せてご覧ください。




(過労死等調査研究センター 研究員 松元俊)

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