カナダ・サスカチュワン大学での在外研究報告
はじめに
私は、平成27年9月24日から平成28年9月23日まで一年間、カナダのサスカチュワン大学(化学・バイオ工学科)に客員教授として派遣され、在外研究を行いましたので、以下のとおり報告させて頂きます。
1.サスカチュワン大学の概要
サスカチュワン大学は、カナダ中央部のサスカチュワン州最大の都市、サスカトゥーンに校舎を構える大学です。同州最大の大学であり、2名のノーベル賞受賞研究者が在籍していたことでも知られています。全校生徒は約2万1千人、留学生は約2千人です。農学、化学、生物学、コンピューターサイエンス、エンジニアリングなど理系の学部が有名ですが、特に、農学と生物学は世界的に高く評価されています。また、カナダで唯一、閉軌道荷電粒子加速装置を備えており、この設備を利用して最先端の重要な研究を行うために、世界各国から研究員が集まっています。
写真1 サスカチュワン大学、エンジニアリング学部の前にて
2.サスカトゥーンでの生活
サスカトゥーンの昨年の冬は気温-15度程度で、1月には-35度まで下がり、外では5分も我慢できないほどでした。しかし、例年に比べると暖かい方だと言われました。家の中はリビングからトイレまで全ての部屋にヒーターが張り巡らされて暖かいです。一方、夏は25℃程度で風が吹くとより涼しくなるため快適でした。一年中、雨が少なく全般的に乾燥しているため、生活するには不便な点もありましたが、静電気実験には再現性がよく恵まれた環境であると感じました。サスカトゥーンの物価は基本的には日本と同じ程度か、もしくはすこし高いと感じました。特に、車は生活に欠かせない存在(冬では車がないと買い物が厳しい)であり、その保険料は非常に高かったです。
3.研究室の紹介
サスカチュワン州は農業、食品、製薬関連産業が発展し、粉体(穀物)の生産・作業工程が多いことから、大学でも粉体についての研究が盛んで、民間企業との共同研究が活発に行われています。私が在籍している研究室はジャン教授を筆頭に、ポスドク1名、博士課程学生2名、修士課程学生3名、客員教授(筆者)で構成されていました。ジャン教授は静電気分野の世界的な権威であるブリティッシュコロンビア大学のグレイス教授などと研究活動を活発に行っており、研究者らからの評判も高い優れた先生です。ジャン教授は粉体乾燥用流動層をはじめ、静電選別設備および、粉体摩擦帯電装置の開発などに関する研究を主に行っております。
4.研究の紹介
私が主に参加した研究テーマは「乾燥工程用流動層における製薬粉体の摩擦帯電特性の解明」でした。わかり易くいうと、粉体を乾燥させる際にどのようなタイミングでどのぐらい静電気が発生するかを調べるものです。ミラド(Milad)という修士課程学生と毎日のように実験・討論しながら親しくなり、おかげで英語力もアップしました。実験では、中規模の大きさの乾燥用粉体流動層実験装置を使用しました。粉体試料はラクトース水和物 (LMH)、微結晶セルロース(MCC)、ヒドロキシプロピルメチレンセルロース(HPMC)、クロスカルメロースナトリウム(CCS)の4種類と水を所定の量で混合して、初期水分含有量を30%に調整したものです。今回の実験で得られた結果を簡単に紹介すると、①4つの原料粉体を流動化し実際に造粒物を製造した。②流動空気の速度を速くするほど、粉体試料の帯電量が大きくなる。③流動乾燥過程における粉体に含まれている水分量が約5%で帯電性が急激に増加する閾値がある。④粉体の帯電極性が下部流動塔では正、上部流動塔では負となり、双極帯電現象が発生した。⑤上部流動塔での粉体の帯電量が下部流動塔より一桁ほど大きいということです。
上記の実験結果などに考察を加え、世界的に著名な洋雑誌「Powder Technology, International Journal of Pharmaceutics」に2本の論文を投稿し、すでに両方とも掲載可との判定をいただきました。
おわりに
サスカチュワン大学で過ごした日々はすごく濃厚で、なんだか1年が非常に早かった気がしております。今後、派遣先の大学と静電気分野の実験に相互協力・支援することで、より研究交流を深める予定です。なお、今回の派遣により得られた知識、経験を生かして、労働者が安全に働ける職場づくりに貢献したいと思います。