労働安全衛生総合研究所

新人紹介

建設安全研究グループ 平岡伸隆(ひらおか のぶたか)


 平成28年1月1日に建設安全研究グループの任期付研究員として着任いたしました平岡伸隆です。私は平成27年3月に立命館大学で博士(工学)を修了し、その後、立命館大学総合科学技術研究機構の専門研究員として9ヶ月間、勤務しておりました。同大学では自然災害の予測・防止に関する研究に携わり、「降雨による土砂災害の発生予測」や「土砂災害における地震と降雨の相互作用」について取り組んできました。
 日本では年間約1000件の自然現象による土砂崩壊が発生しており、毎年、人的・経済的に甚大な被害が出ています。土砂災害を防止するためには危険な斜面を補強するハード対策が有効ですが、土砂災害危険箇所は50万を超え、整備が追いつかない現状です。そのため、危険の周知、避難、住宅等の新規立地の抑制、既往住宅の移転促進といったソフト対策が必要となります。私は特に危険時の避難に着目し、土砂崩壊の発生を予測するために、超音波を使った土壌内の水分と地下水位を計測する機器の開発を行って参りました。本開発では地盤工学の知識に加えて、超音波に関する音響学の知識や測定機器に関する電気工学の知識を駆使してきたことから、問題解決にあたって幅広い視野を持って研究に取り組む基盤を養えたと自負しております。
 また、土は非常にユニークな材料であり、その種類は多岐に及ぶ上、地層構造によってそれらが不均一に組み合って、正確に捉えることが難しい材料です。さらに、その変形は含有する水が関係するため、水の動きに関するこれまでの知見を今後は土砂崩壊による労働災害の防止に活かせるものと考えております。
 私は大学進学の際に、学科紹介のパンフレットに書かれていた「人の命を守るのは医学だけではありません」というフレーズに心を打たれ、土砂災害の研究に進みました。労働安全衛生総合研究所での研究は、災害が生じる最前線で調査・解明するものであり、災害防止に直接貢献できる仕事であり、また得られた成果を素早く行政へフィードバックさせる責任のある仕事と思っております。
 建設業は私達の生活の基盤をつくる重要な仕事であり、それに従事する方々はまさに「人の命を守る仕事」をしています。そうした建設業従事者全員が安全で安心して働くことができるよう、『「人の命を守る人」を守る』という決意で研究に邁進する所存です。どうぞよろしくお願い致します。

(所属学会:土木学会、地盤工学会、砂防学会、地すべり学会)



電気安全研究グループ 遠藤 雄大(えんどう ゆうた)


 電気安全研究グループに任期付研究員として着任した遠藤雄大です。昨年度まで在学していた千葉大学大学院では医用工学を専攻し、肝臓がんをはじめとする各種疾患のマイクロ波治療に関する研究を行ってきました。
マイクロ波は、他の医療用エネルギー(高周波電流や超音波、レーザーなど)と比較してより安全かつ効果的に生体組織の加熱が可能であり、肝臓がんの凝固治療などにも使用されてきました。また、近年では、外科手術時の止血や血管封止への応用も検討されています。
 私の研究では、各種マイクロ波治療において、効果的な治療を行う際に有用な情報となり得る、治療時の患部温度を高精度に推定可能な数値シミュレータの開発を行いました。ここでは、電磁界シミュレーションと温度シミュレーションを交互に行うことで、マイクロ波エネルギーを吸収した生体組織の温度を求めることができます。
 一方で、私が所属する電気安全研究グループにおいても、静電気放電や電磁ノイズ、感電などの電気に関わる問題が対象となります。このような問題について検討する際にも、実測が困難な電気的現象を把握可能な電磁界シミュレーションは、有用なツールとなると考えられます。
 今後、本研究所において、労働現場における人体と電気に関わる問題に対し、これまでに自身が培った技術や経験を活かし研究に取り組んでいく所存です。至らぬ点も多々あるかと思いますが、皆様より御指導、御高配を賜りますよう、お願い申し上げます。

(所属学会:電子情報通信学会、IEEE、安全工学会)



作業環境研究グループ 加藤 伸之(かとう のぶゆき)


 平成28年3月15日付けで環境計測管理研究グループ(現、作業環境研究グループ)に任期付研究員として着任致しました、加藤伸之です。これまでは、京都大学大学院工学研究科に所属し、作業環境中でのナノサイズの粉じんに対するばく露評価及びリスクアセスメントに関する研究を行ってまいりました。
 粒径サイズがナノオーダーの粉じんは、吸入性粉じんと区分されています。吸入性粉じんは、肺胞まで到達し、肺腫瘍等の重大な影響を及ぼすことが報告されています。環境中の粒子状物質は、凝集体を構成し、様々な形状、粒径を持って存在します。これまで取り組んだ対象物質につきましては、ナノマテリアルとして、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、金属物質として、六価クロムの分析を行っております。
 MWCNTは、母材料に添加することで導電性を付与できるため、産業界での応用が広がっております。反面、その形状からアスベストに似た健康影響を及ぼすことが報告され、環境中で凝集し、ナノサイズからマイクロサイズまで様々な粒径を持つことになります。作業環境中のMWCNTのばく露評価の課題としまして、元来、環境中に多数存在する元素で構成される物質の場合、バックグラウンド濃度と作業により発生した濃度の区別が挙げられます。例えば、複合材料に含有する対象物質の場合、対象物質のみを同定することが必要となります。そこで対象物質に不純物として含有する特徴的な金属を指標とした分析を行ってまいりました。
 また、六価クロムは、発がん性が報告されております。火葬炉や溶接では、高温に晒されたステンレス由来のクロムがヒューム状態となり、六価クロムが形成されます。六価クロムは環境中で、安定な状態として三価クロムに落ち着くため、六価と三価が混在した状態となります。クロムの分析では、価数に着目した計測を行っております。これらの情報を得ることで、より精緻に発生した対象物質のリスクアセスメントが可能となります。
 研究所では、粒径、形状、価数などのキャラクタリゼーションを踏まえた金属分析の高度化と並行しまして、現場調査で活用できる効率的な計測、ばく露評価方法の開発に取り組んでまいりたいと考えております。今後とも皆様のご指導、ご鞭撻よろしくお願い申し上げます。

  (所属学会:日本リスク研究学会、環境科学会)

刊行物・報告書等 研究成果一覧