労働安全衛生総合研究所

新法人として始動しました

 2016年4月1日から当研究所は独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所(以下、安衛研)として始動しました。組織規模の面では「小が大にのまれる」という構図ですが、そもそもお互いの組織特性が異なるため、特段悲観しておりません。かといって、「山椒は小粒でも・・・・」といった心境でもありません。安衛研は過去から現在に至るまで「働く人の安全と健康を守る」ために調査研究を実施し、社会や行政への貢献は大きく、高く評価されてきました。従って、未来に向かっても同様に労働安全衛生の調査研究に従事することが安衛研の重要なミッションとなります。

 安衛研からは理事長・理事の役員はいなくなり、所長と所長代理が清瀬と登戸のトップとなる体制になります。私は所長代理を拝命し、登戸地区の労働衛生に関連した調査研究業務を統括していくこととなりました。あわせて4月1日より研究グループの名称も作業条件適応研究グループは産業ストレス研究グループ、健康障害予防研究グループは産業毒性・生体影響研究グループ、有害性評価研究グループは産業疫学研究グループ(この3研究グループで健康研究領域を構成します。)、環境計測管理研究グループは作業環境研究グループ、人間工学・リスク管理研究グループは人間工学研究グループ(この2研究グループで労働衛生工学研究領域を構成します。旧名称は環境研究領域でした。)と変更します。この研究グループの名称変更は所外からみて研究内容をわかりやすくすることが目的ですが、関連して所掌事項も整理し直しました。

 登戸地区の労働衛生研究は労福機構の研究内容と近いものがあります。もちろん、過去にも労災病院との共同研究の実績もありますが、統合によるシナジー効果が強く期待される5つの分野の研究が「重点研究」として中期目標では位置づけられています。この5つの重点研究のうちせき損等の職業性外傷に関する研究を除く4つの研究、すなわち過労死等関連疾病(過重労働)、石綿関連疾病(アスベスト)、精神障害(メンタルヘルス)、産業中毒等(化学物質ばく露)は登戸地区が担当することとなっています。これらの研究課題は従来から登戸地区でプロジェクト研究や基盤的研究などで取り組んできました。一昨年に過労死等調査研究センターが登戸地区に設立され、現在、業務上疾病として認定された過労死等(脳・心臓疾患と自殺を含む精神疾患)の事例解析、約2万名の労働者を対象とした過重労働と健康に関するコホート研究、職場環境改善や勤務時間管理等による介入研究、心血管系の生理反応や体力科学の実験研究がスタートしており、今後10年近くかけて研究成果をまとめ、現場の安全衛生活動や労働者の健康管理、ひいては、労働衛生行政に貢献していければと考えています。また、石綿関連疾病や産業中毒の研究も以前より作業環境研究グループや産業毒性・生体影響研究グループを中心に行われてきましたが、ここ数年間に発生した産業中毒の事案、例えば、胆管がん・ベリリウム肺・鉛中毒・膀胱がんの災害事例の発生をうけて、当該化学物質のばく露を巡るリスクアセスメント、毒性メカニズムや生体影響の解明のための調査研究を重点的に取り組んできました。これら産業中毒事案は高い社会的関心を受けて、安衛研の研究成果にも注目が集まり、後の労働衛生行政の対応策にも貢献することができ、従来から取り組んできた研究自体が高い評価を受けてきたと自負しています。従って、今後は安衛研の労働災害防止に係る基礎・応用研究機能が労災病院の持つ臨床研究機能との相乗効果を発揮しつつ、更なる研究成果を上げて、新法人の研究機能が社会の期待により一層応え、労働者の健康と安全の確保に寄与し、労働災害の減少と社会復帰の促進という中期目標の実現につながるように努力していく所存であります。

 最後になりますが、安衛研は旧安研(清瀬地区)と旧産医研(登戸地区)とが10年前に統合して今に至っております。この10年間、すなわち、安衛研になってから採用された研究員は登戸地区で約20名おります。これは登戸地区の40%にあたります。今後、10年間で登戸地区の研究員の20名が退職していきます。すわなち、10年という歳月は研究所にとって大いなる新陳代謝の機会でもあるのです。ただし、前述したように、過労死や産業中毒など重要な労働衛生上の課題は10年かけて追求する研究テーマであり、法人統合などに振り回されることなく、やり遂げなくてはならない仕事であることを肝に銘じて業務に励む所存であります。何とぞ、新法人として始動する安衛研へのご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

平成28年4月
独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 
所長代理 甲田茂樹

刊行物・報告書等 研究成果一覧