労働安全衛生総合研究所

“建築業”における労働衛生研究

【はじめに】


 本コラムでは表題に「建設業」ではなく敢えて「建築業」という言葉を用います。その理由は、これまで私たちが調査研究対象としてきた労働者の方々の労働現場が、いわゆる“町場(まちば)”と言われる中小規模の建築現場だからです。一方、大規模の現場は“野丁場(のちょうば)”と言われ、このような現場では主に大手ゼネコンが中心となって、道路、港湾、橋梁、トンネルなどの土木工事や高層ビル等の大規模建築物・構造物の工事にあたります。もちろん、東京スカイツリー、あべのハルカス等、日本を代表する超高層ビル・タワーはすべて「建築」の方々によって建てられたものでありますが、本コラムではあくまでも中小規模の建築工事に関係する方々を「建築業」とさせていただきました。
 建設現場、建築現場ともに、労働者は日常的に多種多様の物理的・化学的有害因子に曝されます。しかし、両者を労働安全衛生管理という観点で比較すると、大きな格差がみられます。ゼネコン等をはじめとする大規模建設現場では、人員が豊富なため、法律に基づいて厳密かつ体系的に整備された労働安全衛生管理対策が現場監督や安全衛生管理担当者らによって実施されます。一方、中小規模建築現場では、人員が少ないことに加え、“ひとり親方”と呼ばれる自営業者や中小規模事業所の雇用者等が不定期に複数の建築現場を掛け持ちで渡り歩く従事形態が多いため、必然的に労働安全衛生管理の不徹底に陥りやすいというのが現状です。
 建設・建築業は、我が国の経済を支える主要産業の一つといえます。従って、この建設・建築業の根底を担う中小規模事業所・自営業労働者に対する労働安全衛生管理が現場の隅々にまで徹底されることは、建設・建築業だけでなく日本経済発展のためにも重要な課題であると考えます。
 このような背景のもと、私たちは1990年以前より某県建設労働組合(以下、建労)の男性組合員を対象とした様々な調査研究を行っています。この建労には、某県における建築業従事者のおよそ3割にあたる約17,000人が加入しており、この集団に関して死因に関する追跡調査や現場調査、労働者への聴き取り調査、各種質問紙調査等を実施し、多くの貴重なデータを収集しています。

【日本の建築業とその概況】


 やや古いデータとなりますが、1985年国勢調査における建設業従事者数は約530万人で、当時の労働人口の約9%に当たる大きな職業集団でした。さらに、畳工、サッシ・ガラス工、建具工、トラック輸送、測量や設計など、産業分類上は製造業、サービス業、商業に含まれるものの建設業に直接関わりを持つ業態の集団があり、それらを含めると日本人の5人に1人は建設産業に関係しながら生活しているという状況でした。1960年代前半には、建設業従事者は270万人程度でしたが、その後の高度経済成長を経てその数はほぼ倍増しました。(表1)

表1 建設業従事者数の推移(万人)
 総数(%)
1980538 (9.6)
1985530 (9.0)
1990588 (9.5)
1995663 (10.3)
2000653 (10.1)
2005568 (8.8)
2010498 (8.0)
2015500 (7.8)
(%) は全産業就業者数に占める割合
〔総務省統計局 「労働力調査」より〕

 1980年から1995年までは増加傾向が続きましたが、それ以降は主にバブル崩壊の影響を大きく受け、徐々に減少しています。表2には事業所の規模別従業者数を示します。
表2 建設業事業所規模別事業所数と従業者数 (2006年)
従業者規模事業所数従業者数  
男性女性
総 数548,8614,144,0373,429,817714,220
1–4人297,626679,318521,567157,751
5–9140,561 922,371 731,769 190,602
10–2992,7211,416,6821,191,573225,109
30–4911,028410,310359,42850,882
50–994,999333,883292,71641,167
100–2991,624 248,866 216,576 32,290
300人以上209132,607116,18816,419
派遣・下請従業者のみ93
〔総務省統計局 「労働力調査」より〕

 この数字をご覧いただくと、前段でも述べたように、建設・建築業界では極めて中小零細規模の事業所の多いことがわかります。表3には、建設・建築業における、主な職種(大工、とび、左官、配管・鉛工)ごとの従業者数をお示しします。ご覧のとおり従業者数の最も多い職種は大工で、次いで配管・鉛工、左官と続きます。
表3 主な職種別従業者数の推移
 大 工と び左 官配管・鉛工
総数男性女性総数男性女性総数男性女性総数男性女性
1980936,703930,0726,63168,89868,898227,300219,4357,865277,195273,2323,963
1985805,789800,8134,97677,48877,488289,611277,96411,674284,653280,7973,856
1990734,037727,3876,70091,18690,620566200,452191,9988,454305,777300,3715,406
1995761,822754,1237,699112,517111,5121,005187,840180,5037,337356,327349,9276,400
2000606,767639,3407,427111,879110,2851,594152,237146,5505,723334,929328,5856,394
2005539,868534,3875,481115,302114,0141,288124,764121,2713,493313,311308,6754,636
〔総務省統計局「昭和60年・平成2年・7年・12年・17年国勢調査最終報告書:日本の人口(資料編)」より〕

 大工は、主に在来木造住宅建築に携わるものと、コンクリート型枠を組む型枠大工とに分けられ、前者が大半を占めます。また、在来木造住宅等の受発注においては、地縁・血縁関係の果たす役割が大きく、特に非都市地域では約80%がそのような関係から仕事の機会を得ていることから、これが我が国における伝統的な建築受注・請負形態になっていると見られます。大工において“一人親方”と言われる従事形態が多いのはそのためです。“一人親方”では正式な建設業の許可届けを行っていないケースが多々見られること、また作業現場における安全衛生への自覚や配慮が極めて稀薄な傾向にあることが大きな問題と言えます。

【職種と有害因子ばく露】


 前述のとおり、私たちは1986年より某県建設労働組合の組合員を対象に様々な調査研究を行っています。ここからは、現在までに得られた結果をもとに、建築業における問題点とその対策などについて簡単にご紹介します。
 建築現場では様々な職種の労働者が協働して作業を行う場合が殆どです。従って、そのような現場では労働者は多種多様な有害因子に曝されることになります。表4は、代表的な8職種について、有害因子ばく露の可能性の高い作業あるいは使用工具について調査した結果です。

表4 過去に経験したことのある作業・使用工具・建材等(%)
 丸鋸・サンダ石綿吹付け蛇紋岩石筆騒音工具振動工具ガス溶接アーク溶接ロウ付け有機溶剤
大 工(352)49.70.70.53.983.431.14.211.10.511.9
電気工(177)17.30.90.912.853.841.323.145.513.129.9
配管工(112)25.30.30.620.862.262.835.143.833.633.6
内装工(100)17.90.70.03.440.515.97.137.21.729.7
左 官(92)20.21.322.83.342.341.71.69.81.09.1
鉄骨工(62)23.70.50.062.664.240.057.479.510.554.2
塗装工(53)4.42.20.54.419.812.66.07.10.591.8
溶接工(19)1.60.00.027.929.527.947.562.39.826.2
〔久保田 均ほか、産業衛生学雑誌、52(Suppl)、382、2010 より〕

 大工では、材木や各種建材の裁断・研磨などで騒音や振動を伴う作業が多く、また、その際に発生する各種有害粉じんのばく露が懸念されます。電気工では、騒音・振動工具の使用に加え、溶接やロウ付け、有機溶剤の使用が比較的高い傾向が見られました。配管工では、塩ビ管工法の増加で直接の有害因子ばく露の機会が減少しているものの、労働者の高齢化や、一部の調査地域において、過去に金属管を扱ったことが原因の振動・騒音、溶接ガス・粉じん、有機溶剤などのばく露が観察されました。また、鉄骨工では騒音・振動工具をはじめ、溶接、有機溶剤の使用割合が高く、特に“石筆”使用率の高さでは群を抜いていました。“石筆”は、鉄骨材料の加工の際に目印を付けるための用具で、石綿が含まれる可能性の高いものです。
 このように、建築現場では様々な工具や建材、作業に起因した有害因子に曝される危険があります。また、場合によっては同時に複数の有害因子ばく露を受けることもあります。更に、製造と使用が禁止された石綿を含有する建材が、禁止以前の建造物の中に今も多数存在することから、労働者は今後も既存建造物のリフォームや解体作業の際に、石綿ばく露のリスクを負う事が懸念されます。

【職種と死因】


 次に、建築労働者の死因に関する追跡調査の結果についてご紹介します。

1.対象と方法

 某県建設労働組合に、1973年4月2日–1993年4月1日までの期間中、1年以上在籍した男性組合員17,430人(以下、コホートという)について、1998年4月1日まで追跡調査を行い、その間に観察された死亡および死亡原因(国際疾病分類第9版:ICD-9)を解析の対象としました。解析方法としては某県男性年齢階級×死亡率(一般人口)を基準とする標準化死亡比(SMR)という指標を用いました。

2.結果

 追跡期間内の観察死亡数は1,466名で、この内506名が悪性新生物(がん)によるものでした。コホート全体としては「不慮の事故」を除き、一般人口と比べて特に有意なSMRを示す死亡原因はありませんでした。しかし、石綿ばく露が強く疑われる職種を想定して大工、左官および鉄骨工をコホートより抽出し、同様にSMR解析を行った結果、この3職種における肺がんの観察死亡数がコホート全体の肺がん死亡の7割強を占めていることがわかりました。特に“鉄骨工”においては肺がん死亡リスクが一般人口の約3倍という有意な数値が認められました(表5)。その他、集団の規模は小さいものの、“とび職”でも約6倍という有意な数値が得られました。

表5 全職種および石綿ばく露が多いと思われる主な職種の観察死亡数とSMR
死 因全職種 (n=17,668)大 工 (n=7,187)左 官 (n=1,695)鉄骨工 (n=966)
死亡数SMR95% CI死亡数SMR95% CI死亡数SMR95% CI死亡数SMR95% CI
全ての死因1,4660.9***0.85-0.947400.85***0.80-0.921461.030.87-1.21631.070.82-1.37
悪性新生物5060.980.90-1.072620.990.87-1.12481.110.82-1.47231.140.72-1.71
1290.96 0.80-1.13690.97 0.75-1.23141.21 0.67-2.0320.40 0.05-1.46
790.90 0.68-1.07440.96 0.70-1.2940.53 0.14-1.3551.27 0.41-2.97
300.94 0.63-1.34140.86 0.47-1.4410.37 0.01-2.0621.55 0.19-5.58
1091.08 0.88-1.30541.02 0.77-1.33131.61 0.86-2.75112.88**1.44-5.15
虚血性心疾患910.81*0.65-1.00490.82 0.61-1.0890.98 0.45-1.8541.03 0.28-2.63
脳血管疾患2110.93 0.81-1.061060.84 0.69-1.02180.95 0.56-1.50101.47 0.71-2.71
肺 炎811.00 0.79-1.24460.99 0.73-1.33101.63 0.78-2.9931.35 0.28-3.95
肝硬変571.05 0.79-1.36250.91 0.59-1.3571.38 0.55-2.8420.89 0.11-3.21
不慮の事故1531.19*1.01-1.40761.19 0.94-1.49181.41 0.83-2.2371.30 0.52-2.67
自 殺661.00 0.77-1.27300.95 0.64-1.3560.81 0.30-1.7641.34 0.36-3.42
* p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001
 〔Jian Sun, Hitoshi Kubota, et al., Occup. Environ. Health, 59, 512-516, 2002 より〕

 “鉄骨工”において統計学的に有意な肺がん死亡リスクの上昇が見られたことから、その背景を探るための調査を実施しました。
 まず、鉄骨工ならびにその関連職種を対象として、具体的な作業実態に関する質問紙調査を実施し、そこから石綿等有害物ばく露のある労働者を抽出しました。さらに、それら労働者のより詳細な作業実態を把握するため、実際の作業現場を訪問してインタビュー調査を行いました。
 インタビュー調査に際しては、結果の偏りを防ぐため、石綿等有害物ばく露の可能性がある18作業項目ならびに作業環境・喫煙等に関する基本調査記録紙を用意し、作業現場36ヶ所、計39名の鉄骨工作業者を対象に行いました。その結果は表6のとおりです。

表6 鉄骨工インタビュー聴取結果 (n=39)
 作業内容経験あり(%)経験なし(%)不 明(%)
1建物解体31(79.5)8(20.5)
2石綿粉じんばく露を伴う作業32(82.1)7(17.9)
3石綿吹き付け作業4(10.3)35(89.7)
4吹き付け石綿建物での作業29(74.4)9(23.1)1(2.6)
5吹き付け石綿の除去作業18(46.2)20(51.3)1(2.6)
6防火用石綿布の使用28(71.8)11(28.2)
7ケイカル板の使用19(48.7)20(51.3)
8フレキシブル板の使用13(33.3)26(66.7)
9スレート板の使用26(66.7)13(33.3)
10断熱材の取付け・除去作業19(48.7)20(51.3)
11アーク溶接37(94.9)2(5.1)9(23.1)
12アルゴン溶接14(46.7)16(41.0)
13ガス溶接34(87.2)5(12.8)
14溶断作業38(97.4)1(2.6)
15塗装作業36(92.3)3(7.7)
16粉じんを伴うさび落とし作業34(87.2)5(12.8)
17グラインダーを用いた作業38(97.4)1(2.6)
18はつり作業28(71.8)11(28.2)
 あ り(%)な し(%)不 明(%)
 集塵装置の使用5(12.8)34(87.2)
 呼吸保護具の使用14(35.9)25(64.1)
 騒音・振動の有無30(76.9)6(15.4)3(7.7)
 喫煙の有無25(89.7)4(10.3)
 石筆の使用有無29(74.4)2(5.1)8(20.5)
 研削時発じんの有無36(92.3)3(7.7)
 作業現場の堆積粉じんの有無26(66.7)7(17.9)6(15.4)
〔久保田 均ほか、産業衛生学雑誌、48(Suppl)、D309、2006 より〕

 インタビュー調査に先立つ質問紙調査で、まず石綿ばく露の危険が高いと思われる作業(表6中の1–10番)について見たところ、過半数の労働者が1:建物解体、2:石綿粉じんばく露を伴う作業、4:吹き付け石綿建物での作業、6:防火用石綿布の使用、9:スレート板の使用の作業について経験ありと回答していました。そこで、その背景を探るためにインタビュー調査を実施した結果、建物の改修や解体に携わる労働者が多く、建材取扱い頻度に関しても新築時より改修・解体作業時の方が多いという結果でした。また、一部の大工業地帯を管轄する組合支部の労働者では、大規模プラントの設備工事・保守を専門的に行う労働者もおり、ダクト工事等を中心にかなり高濃度の石綿ばく露があったことがわかりました。更に、石綿を含む可能性がある“石筆(滑石製)”の使用についても併せて訊ねたところ、74.4%の作業者が日常的に使用していました。
 石綿以外の粉じんの発生を伴う作業についても、多くの労働者がほぼ毎日行っていましたが、集じん塵装置等の利用率は低く、呼吸保護具も殆ど装着しない労働者が大半という結果となり、労働者自身の労働安全衛生管理に関する意識が極めて希薄であることがわかりました。なお、年齢が50歳以上の労働者の作業経験年数は平均36.0年であり、長期間にわたって有害因子に曝されている実態もわかりました。
 このように、鉄骨工では石綿をはじめとする有害因子ばく露の危険性が極めて高いことが判明し、肺がんを含む多くの健康障害に結びついている実態が示唆されました。

【最近の質問紙調査から】


 私たちは十数年前から「仕事による病気の予防のための問診票」という調査票を用いた調査を、組合員を対象に毎年実施しています。この調査票における主な質問項目は、年齢、職種、過去の粉じん・石綿ばく露歴、過去の石綿取扱作業歴、最近1年間の石綿含有建材取扱作業、作業時に扱った建材・使用工具、ばく露対策、最近の自覚症、既往歴、喫煙歴などです。この調査を実施することにより、現役組合員の各種作業実態や身体状況などが把握できると共に、経年的な各種実態の変化を把握することも期待できます。ここでは、2009年分の4,613名を対象とした断面的解析結果について簡単に紹介します。
 全回収結果から主な職種として大工(22%)、電気工(11%)、配管工(7%)、内装工(6%)、左官(6%)、鉄骨工(4%)、塗装工(3%)、溶接工(1%)を抽出し、それぞれ各質問項目と回答結果との関連について解析を行いました。その結果、
① “過去の粉じんばく露歴”では、何れの職種においてもばく露経験者の割合が50–60%でした。
② “過去の石綿粉じんばく露歴”については、電気工、鉄骨工、溶接工でばく露経験割合が多く、それらの平均年齢は55歳であることから、比較的高年齢群で多量かつ長期の石綿ばく露歴のあったことが推測されました。
③ “過去に経験した作業・使用工具の種類”では、何れの職種とも振動・騒音発生工具の使用経験割合が高く、特に大工においては「丸ノコによる石綿含有建材切断」の回答率が高いことがわかりました。一方、鉄骨工と溶接工では「石筆(過去に石綿含有のものもあり)」の使用が多く、また溶接工では少数ながら「石綿吹き付け」経験者がいました。更に溶接作業経験に関しては、鉄骨工でもその割合が多く認められました。
④ “最近1年間の石綿含有建造物での改築・解体作業経験”では、何れの職種とも石綿含有建材である「ケイカル板」「スレート波板」「屋根用化粧スレート」「Pタイル」を多く扱っていました。その一方で、石綿ばく露に対する防護対策の実施割合は極めて低い実態も明らかとなりました。
⑤ “自覚症”に関しては、配管工において「息切れ」が、鉄骨工において「咳」が、溶接工において「痰」が、それぞれの有訴率において有意に上昇していました。また筋骨格系では、何れの職種においても「腰痛」に有意な高有訴傾向が認められました。
⑥ “既往症”では「ぎっくり腰」が何れの職種においても圧倒的に多く、溶接工では「喘息」が1割を超えていました。
⑦ “喫煙歴”に関しては、以前は「現在喫煙」と「過去喫煙」の合計が8割を超えていましたが、ここ数年の調査では大幅に減少しています。
 最後に①と②の質問項目に関し、ばく露頻度が「しばしば」+「時々」の群と呼吸器関連自覚症(息切れ+咳+痰+血痰)との関連についてX2検定を行ったところ、双方には有意な関連が見られ、当該集団における有害粉じんばく露実態が深刻なものであることがわかりました。

【今後の対策】


 以上の結果から、中小規模の建築現場では多数の健康障害リスクが存在し、場合によっては死亡を伴うリスクも存在することがわかりました。ここに安全面からの視点を加えると、総合的なリスクは更に上昇することになります。
 石綿問題に関しては、2004年に石綿含有建材の製造および使用が全面禁止され、建築現場における石綿ばく露リスクは一応低下しましたが、禁止前の建造物には石綿含有建材が使用されているため、その改修・解体作業に際しては、依然として石綿ばく露対策が重要であることが示唆されました。特に中小規模の建物解体現場などでは、石綿障害予防規則(平成17年2月)に基づくばく露対策の実施が徹底されない傾向があるため、引き続き厳重な監視が必要です。また、石綿以外でも作業中の各種有害因子ばく露に対する労働者自身の防護対策は不十分であり、安全衛生意識の向上を働きかけることも重要と考えます。
 最後に、建築業従事者集団は一般に比べて喫煙率が高いことがわかっており、有害物ばく露に喫煙が加わると健康障害の発生リスクが大きく上昇するとの報告もあることから、引き続き禁煙指導も重要なテーマです。

【おわりに】


 長年非都市地域の中小規模建築現場を見ていると、特に年配の労働者の中に“職人気質”を強く感じます。そしてこの“職人気質”こそが、意外にも作業現場での安全衛生対策の不徹底に繋がっている面もあるように感じます。このような現場に対し、大手ゼネコンで実施している体系的な労働安全衛生管理策をそのまま当てはめることは、現状ではなかなか困難と思われますが、多少なりとも私たちの研究成果を現場に反映できるよう、今後も建設労働組合との相互協力を更に強め、より多角的な調査研究を進めていきたいと思っています。

(有害性評価研究グループ 上席研究員  久保田 均)

刊行物・報告書等 研究成果一覧