COSH2015に参加して
東南アジア各国、特に東南アジア諸国連合(ASEAN)は、近年、経済発展が目覚ましく、日本企業も多数進出しています。労働安全衛生に関してもASEAN加盟国は力を入れており、特にマレーシアはASEAN-OSHNET(ASEAN労働安全衛生ネットワーク)の中心的存在として、同国のみならず、ASEAN全体においてひときわ存在感のある国でもあります。
そのような中、当研究所とマレーシアNIOSHとの研究協力の推進という目的を兼ねて、マレーシア最大の労働安全衛生に関するイベント(COSH 2015)に参加する機会を得ましたので、概要を紹介します。
1.COSHについて
Conference and Exhibition on Occupational Safety and Health (COSH)(労働安全衛生集会および展示会)は、マレーシアにおける労働安全衛生の現状の課題に関する講演、研究発表および安全技術の紹介を行う全国的規模の集会であり、1998年から毎年1回開催されています。主催者は、マレーシア国立労働安全衛生研究所(NIOSH)です。
本年(2015年)は、メインテーマを”Fostering OSH Culture at workplace”(職場における労働安全衛生文化の促進)とし、10月5日–7日の三日間にわたって、首都クアラルンプール近郊のプトラジャヤ市国際会議場(Putrajaya International Convention Centre (PICC))において開催されました。主催者によれば、参加者は約2,000人、展示会出展数は約80とのことでした。
なお、プトラジャヤ市は、人口は現時点では約7万人とそれほど多くはありませんが、多くの政府機関が集中する政治・行政の中心地であり、計画的に作られた美しい景観を楽しむことができ、また、空港や首都間を結ぶ道路、鉄道網も発達していることから、今後大いに発展し、知名度も向上するものと思われます。
2. COSH2015の概要
(1) 10月5日(初日)
初日は、PICCの大ホール(収容数2,000人)において、全体会議(Plenary session)が開催されました。このセッションでは、先ず、マレーシア人的資源省(Ministry of Human Resources)大臣、NIOSH会長等の来賓挨拶が行われた後、本集会のメインテーマに沿って、次の講演が行われました。なお、講演は多くは英語で行われ、また、マレーシア語であってもスライドは英語で書かれており、大意を掴むには十分でした。
- Moving beyond Compliance – The new Generation of OSH management system is a better tool
(コンプライアンスを超えて — 新世代安全衛生マネジメントシステムはよりよいツールである)
by Ir Hussein Rhamat (NIOSH) - PSM implementation – Is the major hazards installer in Malaysia ready?
(プロセス安全管理(PSM) — マレーシアの危険物取扱者は準備しているか)
by Professor, Dr. Azmi Mohd shariff. (University Technology Petronas) - Fostering OSH culture at workplace – Have we done enough?
(職場での安全衛生文化の促進 — 我々は十分実行したか)
by Dr. Mohammaed Azman bin Dato (Social Security Organization) - Safety culture – A tool in sustaining productive human capital
(安全文化 — 生産的人的資本を持続する道具として)
by Ir Mohtar Musri (DOSH) - Management HSE in Petronas: Fostering HSE culture in the workplace
(ペトロナス社におけるHSE管理:職場でのHSE文化の促進)
by Mr. Azizin bin Zainudin (Petronas)
(2) 10月6日(第2日)
第2日は、大ホールおよびホールBの2会場において、それぞれ次の研究発表が行われました。
なお、平行して、ホール2-9の8会場で"public programme"が開催され、建設、石油化学などのトピックについて、講演および展示も行われました。
【大ホール】
- 1.1) Creating a safety culture – What it is and how to get thereby
(安全文化を創造する — 安全文化とは何か、そしてどのように到達するか) - 1.2) Behavioural safety modification process – An NLP Overview
(行動による安全修正プロセス — NLP(Neuro Linguistic Programming)の概要) - 1.3) Empowering everyone to make a decision in at critical time
(誰もがいざというときに決断を下すことができるようにするための力づけ) - 1.4) HSE auditing – An untold story
(HSE監査 — ある秘話) - 1.5) Fostering OSH Culture at workplace through mindset
(習慣を通した労働安全衛生文化の促進) - 1.6) Lesson learned form flood disaster and major accident
(大水害および大規模災害からの教訓) - 1.7) Confined space risk assessment (CSRA)
(閉鎖空間におけるリスクアセスメント) - 1.8) Challenge to establish the ‘excellent HSE’
(卓越したHSEを構築するための挑戦) - 1.9) Organizational disaster resilience strategies of organizations in Malaysia
(マレーシアの諸機関における組織的災害復旧戦略)
【ホールB】
- 2.1) Hearing conservation program and screening audiometry – Do you want to hear a secret?
(聴覚保護プログラムおよび聴力検査によるスクリーニング — 秘密の話を聞きたいですか) - 2.2) Musculoskeletal disorders symptoms measurement among hospital nurses using Dutch musculoskeletal questionnaires
(オランダ筋骨格質問票を用いた、病院看護婦における筋骨格障害症状測定) - 2.3) Occupational mercury exposure monitoring profile of oil and gas industry in Malaysia
(マレーシアの石油ガス産業における職業性水銀ばく露のモニタリング) - 2.4) Lessons learned from flood disaster and major accidents
(大水害および大規模災害からの教訓) - 2.5) Managing non-ionizing radiation risk – How safe is safe?
(非電離放射線のリスクマネジメント — 安全レベルはどの程度安全か) - 2.6) A PEAR a day keeps the crisis away
(1日1回のPEARで危機知らず) - 2.7) Silica dust control management system among quarries in Malaysia
(マレーシアの採石場におけるシリカダスト管理マネジメントシステム) - 2.8) Biological assessment for occupational exposure
(職業性ばく露の生物学的アセスメント) - 2.9) Transformation of classification and labelling system of hazardous chemicals in Malaysia
(マレーシアにおける危険な化学物質の分類およびラベリング方式の変化)
(2) 10月7日(第3日)
【大ホール】
- 1.10) Applying extended parallel process model in Malaysia
(マレーシアにおける拡張パラレルプロセスモデルの適用) - 1.11) Knowledge management in human error in accident prevention
(災害防止におけるヒューマンエラーのナレッジマネジメント) - 1.12) Safety management systems framework & safety culture factors – Going beyond compliance
(安全マネジメントシステムの枠組みと安全文化要因 — コンプライアンスを超えて) - 1.13) A study on radon exposure to radon in the selected potential workplaces
(選択した職場におけるラドンばく露について) - 1.14) Introducing effects of climate change and it's new dimension of risks / threats to health and safety
(気候変化の影響およびそのリスク–健康および安全への脅威)
【ホールB】
- 2.10) Use of nanomaterials in Malaysia – a simple guide on control and handling of nanomaterials
(マレーシアにおけるナノマテリアルの使用 — ナノマテリアルの管理及び取扱いに関する簡易ガイド) - 2.11) Fitness to work for confined spaces
(閉鎖空間での労働に対するフィットネス) - 2.12) Study of engineering control performance at college welding workshop
(学校の溶接教室における工学的制御パフォーマンスの研究) - 2.13) Health, safety and environment – psychological first aid (HSE-PFA): the next approach in engaging with victims of emergency / disaster
(健康、安全および環境 — 心理的ファーストエイド(HSE-PFA):緊急事態・天災の被災者への次世代アプローチ) - 2.14) Developing a comprehensive system of management & control asbestos & asbestos related diseases (ARD) of the workplace.
(職場におけるアスベストおよびアスベスト関連疾病の総合的マネジメント・コントロールシステムの開発)
3. 所感
講演タイトルからもわかるように、OSH文化の促進というメインテーマに沿って、PDCAサイクルなどのマネジメントシステムの紹介、大手企業における実例、様々な手法の紹介が活発に行われました。また、放射線や有害物質への曝露、自然災害からの復旧など、マレーシアの自然環境や労働環境を反映した研究発表も多くなされました。本集会は、大学・研究所等の研究者以外にも企業等の安全衛生担当者が多く参加しているため、実用的・啓発的内容の発表が目立ちました。さらに、最近では気候変動に関する関心も高く、英国から研究者を招き講演が行われました。マレーシアでは、地球温暖化による気候変動、近隣国における環境破壊などの影響により、洪水、大気汚染などの自然災害の増加および自然環境の悪化が現実のものとなっており、危機感を有しているようでした。
今大会中、日本企業等の出展および日本人出席者はみかけませんでしたが、マレーシアには多くの日本企業が進出していることから、今後はCOSHにおいて発表または聴講することにより、マレーシアのOSHの現状が把握でき、かつ、自社の安全衛生管理の向上にも寄与できるものと思います。
PICCの外観 PICC大ホール(2000人収容)
来賓紹介(右が人的資源省大臣) 展示会場(ブース)のようす