労働安全衛生総合研究所

建築用タワークレーンの耐震安全性

1.はじめに



図1 タワークレーンの外観図

 私たちが暮らす日本は世界的に見ても地震多発国であり、そのため建築物や構造物には耐震性能が要求されています。そこで本稿では「タワークレーン」の耐震設計について紹介したいと思います。
 タワークレーンとは、資材等を建築物の上層階に運ぶための機械であり、その外観は図1のようなものです。あまり知られていませんが、1995年に発生した兵庫県南部地震(阪神大震災)では現場のタワークレーンにたくさんの被害が生じました。ただ、地震発生時刻が早朝であったため、現場の労働者に危害は与えませんでした。しかし、もし日中に発生していたならばそうで無かったことは容易に想像されます。さらに、巨大なタワークレーンが倒壊すると被害は現場内のみならずその周辺にも及ぶ危険があり、そのため安全確保はとても重要なことと言えます。


2. タワークレーンの地震被害の概要


 ご存じの様に、阪神大震災は非常に大きな地震でした。そのため、当時は建築物に対する「安全神話」が崩壊したと言われた程に多数の建築物が崩壊・倒壊しました。同様にタワークレーンでもたくさんの被害が生じました。その代表的な形式は概ね表1の5種類に分類することができます。
 工事中だけ(短期で)使用されるタワークレーンは仮設構造物であるため、地震で被害が生じても、ある程度は仕方がないと思われるかもしれません。しかし、使用後のタワークレーンはメンテナンスを経て別の現場で使用されます。また、オペレータはほぼ終日運転席で仕事をします。したがって、タワークレーンの安全は本設の構造物と同レベルで確保されるべきと考えています。



表1 代表的な被害形式



 阪神大震災が発生した当時、兵庫県では64台、大阪府では71台のタワークレーンが設置されていました。そのうち20台が表1のいずれかのタイプで破損しました。被害を受けたタワークレーンの殆どは兵庫県内の震度7または震度6の揺れが激しかった地域に設置されていました。しかし、震度4とそれ程、揺れが大きくなかった地域でも被害は発生していました。


3. タワークレーンの耐震設計


 タワークレーンの耐震設計では水平震度0.2が用いられます。これは、タワークレーンが水平方向に最大0.2Gの加速度で揺れることを想定しています。しかし、地震時には建築物の上層階ほど大きく揺れることが知られています。先の震度4の地域で被害を受けたタワークレーンは、表1の(A)のように屋上に設置されたものがありました。このように設置されたタワークレーンは、想定以上に大きく揺れた(揺れが増幅した)ために被害が発生したと考えられます。 現在、建築物の揺れによってタワークレーンの揺れが増幅することを考慮した設計法が提案されています。ただし、どの程度の揺れでタワークレーンが倒壊するか?は残念ながらまだ正確に計算できないのが現状です(大まかには分かりますが)。そのため現在、研究を行っています。

4. 地震対策


 これまでの研究で、表1の(B)のような建築物に沿って設置されたタワークレーンではステー部分に摩擦ダンパー(振動エネルギーを消費する装置)を組み込めば、揺れを抑制できることをシミュレーション解析と振動台実験で明らかにしました。現在では、多くの企業が独自にダンパーを開発し、耐震性能を向上させるべく開発が進んでいます。
 しかし、たとえダンパーで耐震性能を向上させても、まだ阪神大震災ほどの揺れに対しては十分に耐えられないという問題が残っています。そのため、タワークレーンの強度を明確にし、適切な補強が施せるよう検討を重ねています。


5. まとめ


 本稿では建築用のタワークレーンの耐震設計について紹介しました。阪神大震災では多くのタワークレーンが被害を受けましたが、幸い東日本大震災での被害は限定的でした。しかし、大地震はいつ発生するかわかりません。引き続き研究を行ってタワークレーンの安全性を向上させ、安全で安心な建築工事ができるように努力したいと考えております。


(建設安全研究グループ 上席研究員 高梨成次)

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