WHO労働衛生協力センター(WHO Collaborating Centre for Occupational Health)の活動について
1.WHO労働衛生協力センターの歴史
WHO労働衛生協力センターは1970年代に組織され活動を開始しました。その後、1990年のヘルシンキ会議(フィンランド職業保健研究所(FIOH))において、協力センター相互間の一層の連携が図られ、1992年には世界で解決すべき九つの優先課題からなるグローバルネットワーク作業計画(GNP)が策定されました(表1:Global Network Plan, 1992-1994:GNP、第1回ネットワーク会議、モスクワ、1992)。
このGNPは、1994年の北京での第2回ネットワーク会議において、1997年まで継続することが決まり、また、この活動内容は1996年のWHO総会において、決議事項49.12「すべての人々のための職業保健に関する世界戦略(Global Strategy on Occupational Health for All)」としても承認されました。
その後、第3回(ボゴタ、1997)、第4回(ヘルシンキ、1999)、第5回(チェンマイ、2001)、第6回(イグアス、2003)および第7回(ストレーザ、2006)のネットワーク会議において、活動の経過報告および討議を重ね、各国の協力センターはそれぞれが得意とする分野において活動してきました。
表1 GNP(1992年–1997年)における最優先課題
- 職業保健についてのグローバル情報システム
- 職業保健の人材開発
- 農業における職業保健
- 小規模事業所
- 職業保健の実践活動
- 特に、中欧および東欧諸国に対する職業保健システムの見直し
- 特に、工業化諸国における高齢労働者の職業保健
- 労働人口に関する新たな問題
- 女性労働
このWHO総会決議49.12が2005年に10周年を迎えたのを機に、WHOと各国の協力センターは、世界各国の関係機関に働きかけて新たな活動計画を策定しました。これは2007年の第60回WHO総会において、決議事項60.26「労働者の健康に関する世界活動計画(Global Plan of Action on Workers’ Health: GPA)」として承認され、翌2008年にはこのGPAに五つの目標が設定されました(表2)。
第8回のネットワーク会議(ジュネーブ、2009)において、GPAの進捗状況、2012年までに期待される成果、次期活動計画(2012年・017年)などが議論され、第9回のネットワーク会議(カンクン、2012)において、七つの優先課題からなるGMP(Global Master Plan)が新たに掲げられました(表3)。これは今年5月に開催された第10回ネットワーク会議(チェジュ、2015)を経て、現在進行中です。
表2 GPA(2009年–2012年)の五つの目標
- 労働者の健康に関する政策ツールの開発と実施
- 職場での保健と健康増進
- 職業保健サービスの機能とアクセスの向上
- 対策の実施と実践の根拠の提供と伝達
- 労働者保健プロジェクトへの取り組み
表3 GMP(2012年–2017年)の七つの優先課題
- がん、けい肺、アスベスト関連疾患など、非伝染性職業病に対する地域・国家プログラム
- 保健医療従事者の労働安全衛生に関する国家プログラムと好事例
- 健康職場のためのツール、標準規格、人材
- 労働者の健康のための保健システム、ガバナンス、能力、サービス提供の強化
- 新技術に対する職業保健
- 職業病の分類、診断、ばく露基準
- ハイリスク業種と弱い立場の労働者集団のための労働安全衛生情報ネットワーク
2. 当研究所の最近の取組み
以上のような協力センターの活動に対する、当研究所の取組みについて以下、簡単に紹介します。
当研究所の前身の一つである産業医学総合研究所は、1977年12月15日に協力センターに指定されました。一時期の中断を経て、第5回会議(チェンマイ)から第7回会議(ストレーザ)までオブザーバーとして参加し、当研究所の活動がWHO協力センターのGNPにどのように貢献できるかについて、けい肺および中小企業の労働衛生に関する研究実績、国際学術論文誌Industrial Health の編集・発行、日本の21世紀労働衛生研究戦略の運営などを紹介するなど、当研究所の存在と役割を積極的にアピールした結果、2007年4月9日に再度協力センターに指定されました。
以降、第8回ネットワーク会議(ジュネーブ)には公式メンバー機関として参加し、その後4年間、表4の第1期に示す課題に取り組みました。その活動の実績が認められて2011年、2015年と連続して再指定され、GPAやGMPに掲げられた課題に沿った諸問題に精力的に取り組んでいます。
2014年11月には、当協力センターが所属するWHO西太平洋地域内の様々な分野の協力センターがマニラに集結し、初の地域フォーラム「第1回西太平洋地域におけるWHO協力センターの地域フォーラム」が開催されました。当研究所は全体会議と労働衛生のセッションに参加し、活動報告・計画および地域に共通する課題や今後の協力体制の強化等について活発に討議しました。
(参照:第1回西太平洋地域におけるWHO協力センターの地域フォーラムに参加して、
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2014/75-column-1.html)
また、2015年5月には済州島(韓国)において開催された、世界各地のWHO労働衛生協力センターが一堂に会する「第10回労働衛生に関するWHO協力センターのグローバルネットワーク会議」に出席し、活動の現状と今後の方針について議論するともに、グローバルネットワークの今後の作業指針の策定にも参画しました。
(参照:第10回労働衛生に関するWHO協力センターのグローバルネットワーク会議に参加して、 https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2015/82-column-3.html)
当研究所では、このような国際協力および各課題に対する取組みを通して、WHO本部およびWHO西太平洋地域の活動に今後とも貢献していくこととしています。
表4 復帰後の取組み
第1期(2007年–2011年)
- 保健医療従事者の職業リスクの低減
- 小規模事業所や自営業の労働安全衛生の推進
- 職場の心理的ハラスメント(モビング)の注意喚起と情報発信
- インターネットによる職業病サーベイランスシステムの開発
- 交代制勤務の健康影響のガイダンス作成企画への参画
第2期(2011年–2015年)
- 保健医療従事者の有害因子の労働安全衛生管理
- 屋外労働者の暑熱ストレスの評価と戦略
- INDUSTRIAL HEALTH 特集号の企画と出版「気候変動と労働衛生」
第3期(2015年–現在)
- 仕事による疲労を回復するためのツール開発
- 職場での暑熱リスクに対する予防戦略とツール開発