労働安全衛生総合研究所

新人紹介

過労死等調査研究センター センター長  茅嶋 康太郎(かやしま こうたろう)


 平成27年4月1日付で過労死等調査研究センター長として着任いたしました、茅嶋です。
 私は平成2年に産業医科大学を卒業し、臨床研修を含め当初5年間は外科医として臨床分野で勤務をしておりました。外科というのは、外傷の患者さんも多いのですが、最も関わることが多いのが「がん患者」であり、手術のみならず、終末期医療にまで関わり、人の命の終わりの部分も多く診てきました。病気を治すのも医師として大事な仕事であると思いますが、人の最後を看取ることも大事な役割であると思っています。
 6年目からは大学院に入学し、基礎医学(主に顕微解剖学)の研究をしました。ラット腸間膜血管床における、エンドセリンの血流調節機構の解明を、血管内皮細胞のエンドセリンの局在について免疫学的に行いました。悪性腫瘍関連の病理学ではなくあえて正常細胞を扱う分野での研究を選びましたが、正常な生体における細胞の機能の解明に携わったことは、現在でも医療、医学におけるすべての考察に役に立っていると自負しています。
 産業医科大学は、産業医を養成するための大学です。卒業生は一定の期間、産業医としての勤務が義務付けられています。12年目からは鹿児島労働衛生センターという労働衛生機関で5年間勤務しました。労働衛生機関は、主に中小企業を対象に包括的な産業保健サービスを提供する機関であり、健康診断や作業環境測定の実施、嘱託産業医の派遣等を行っています。この5年間の経験で大きく道が変わりました。初めは義務で派遣されたものの、職域保健での仕事をしていくうちに、働く人の健康を守る、そのことにより企業、社会の発展に寄与できることに大きな目的意識を持つようになりました。病気を治すのも医師の大事な役割ではありますが、私は働く人の健康を守りたい、と。その後、縁があり、母校の産業医科大学に教員として戻り、9年間勤務しました。多くの後輩産業医の教育育成に携わり、また認定産業医向け研修会の実施など、日本の産業保健の底上げに寄与できたと思います。この間にも、現場の産業医業務にも関わりが多く、メンタルヘルス対策や過重労働対策について、事業所側と連携し、労働者の健康保持のために頭を悩ませながら対応をする機会もありました。
   平成26年11月の過労死等防止対策推進法の施行に伴い、本研究所に調査研究のためのセンターが設置されました。今回、センター長として着任したこと、光栄に思うとともに、責任の重大さに身の引き締まる思いです。産業保健の現場では、過重労働について多くの事例に対応してきましたが、使用者側、労働者側ともにそれぞれの立場があり、健康障害を出さないための施策については常に悩ましいものがあります。当センターの調査研究により、過労死ゼロ、過重労働による健康障害を出さないための施策につながるような成果が出せるように、粉骨砕身頑張っていく所存です。どうぞよろしくお願いします。


国際情報・研究振興センター   吉川 徹(よしかわ とおる)


 平成27年4月1日より国際情報・研究振興センターの上席研究員として着任いたしました。労働災害調査分析センター・センター長代理、過労死等調査研究センターも併任となっています。専門は国際保健、産業安全保健(人間工学、職業感染症学、産業精神保健学等)です。
 平成8年に産業医科大学医学部を卒業し、産業医科大学産業医修練コースⅠを専攻して、その間、東京都立墨東病院臨床研修医、駒込病院シニアレジデント、長崎大学熱帯医学研究所、小笠原村父島・母島診療所、産業医科大学産業医実務研修センター等での研修を通じて、内科学・感染症学、熱帯医学、地域医療、産業医学等の基礎を学びました。平成12年に財団法人労働科学研究所に入所し、人間工学を中心とした研究に取り組み始めました。平成16年には米国バージニア大学国際医療従事者安全センターに留学する機会を得て、Janine Jagger教授に師事し、医療従事者の職業感染のひとつである針刺し切創(針刺し事故)に関する日米比較研究を行ないました。この針刺し切創に関する研究が現在のライフワークになっています。留学中にジョンズ・ホプキンス大学損傷予防・政策センターの「損傷予防の理論と実践」コースに参加して、災害・事故防止の疫学研究や予防研究に関心をもつ機会になりました。今も日本医師会等を通じて行っている医療従事者の過重労働対策や職場環境改善研究は、この延長線上として取り組んでいます。
 平成17年より労働科学研究所の副所長、また国際協力センターのセンター長として、国際産業安全保健の実務に関わっていました。特に、昨年度は、世界保健機関(WHO)リベリア労働安全衛生コーディネーターとして国連エボラ緊急対策ミッション(UNMEER)に約4か月参加し、国際産業安全保健の重要性を肌で感じました。このたび、縁あって労働安全衛生総合研究所(JNIOSH)のメンバーに加わることができ、ご助言をいただきました多くの皆様に大変感謝しています。
 これまで働く人の安全と健康にかかわる研究と実務に取り組んできましたが、特に、職場環境改善等を通じたメンタルヘルス一次予防策、職業感染症(針刺し切創、空気・飛沫感 染等)の疫学・予防研究、呼吸用保護具の適正使用に関する研究、参加型産業安全保健トレーニング手法に関する研究等に関心がありました。医師として、また産業安全保健の研究者としてJNIOSHでは国際動向を踏まえた研究活動を継続したいと思っています。特に、国際的に課題先進国として注目が高まっている日本の労働者の安全確保と健康支援にとって喫緊の課題である、過労死・過労自殺等の予防研究は優先度の高い課題であり、JNIOSHの皆様とともに取り組んでいきたいと思っています。至らぬ点も多々あるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 (所属学会:日本産業衛生学会、日本人間工学会、日本環境感染学会、日本内科学会、日本職業・災害医学会、日本公衆衛生学会、日本国際保健医療学会等)



健康障害予防研究グループ   豊岡 達士(とよおか たつし)


平成27年4月1日付けで健康障害予防研究グループに着任致しました、豊岡達士です。これまでに私は、静岡県立大学(光環境生命科学研究室)にて、環境中の化学物質や紫外線またはその複合ばく露が生体へ与える影響を細胞・分子レベルで解明する研究(遺伝毒性・発がん機序等が中心)に8年間携わり、その後、化学物質や放射線等の健康影響調査に関連する民間シンクタンクを経て、現在に至ります。
 大学における研究では、特に、DNA損傷が誘導された際に生じる細胞内事象の一つである「ヒストンH2AXのリン酸化」という現象を指標に、有害因子の遺伝毒性を評価することに注力してきました。ヒストンH2AXとは、細胞核内に存在し、DNAが巻き付いているヒストン8量体タンパク質の一種(ヒストンH2Aのバリアント)であり、私は当該ヒストンH2AXのリン酸化を指標にすることで、従来からの遺伝毒性評価法より、非常に高感度かつ精度よく有害因子の影響を評価することが可能であることを明らかにしてきました。また、ヒストンH2AXのリン酸化から得られる情報量は多く、当該リン酸化の解析方法を工夫することで、例えばDNA損傷の種類や重篤度等を推察することが可能です。私はヒストンH2AXのリン酸化は、次世代遺伝毒性評価法のゴールドスタンダードになる可能性を秘めていると考えています。
ヒストンH2AXのリン酸化はDNA損傷に基づくものですが、最近では、DNA損傷誘導とは別に生じる、ヒストンH3やH4の修飾変化(リン酸化、アセチル化、メチル化等)も発がん過程に重要であることが示唆されています。今後、当研究所において、このようなヒストン修飾に着目した新規有害因子の評価法の確立に取り組み、労働現場で使用される化学物質等のリスク評価に役立てる等、労働者の健康をまもるための研究活動に誠心誠意邁進したいと考えております。皆様のご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

 (所属学会:日本産業衛生学会、日本環境変異原学会、日本毒性学会、日本光医学・光生物学会、日本放射線影響学会)



刊行物・報告書等 研究成果一覧