第5回アジア労働安全衛生研究所会議(AOSHRI meeting)に参加して
2015年3月10-12日に、シンガポールで開催された第5回アジア労働安全衛生研究所会議 (AOSHRI meeting; Asia Occupational Safety and Health Research Institute meeting) に出席しました。
アジア労働安全衛生研究所会議は、2004年に第1回会議が当所(旧産業医学総合研究所)で開催されて以来、2007年に韓国、2009年に中国、2012年にマレーシアで開催されてきました。今回の会議では、10カ国27名が参加し、当所からは豊澤理事、澤田特任研究員および私の3名が出席しました。
なお、今回の会議は、The Sheffield Group (主に,欧米の労働安全衛生研究所の最高責任者による組織) の会議および PEROSH (Partnership for European Research in Occupational Safety and Health) 運営委員会の会議が同時に開催されており、Joint AOSHRI-Sheffield Group meetingという名称で、AOSHRI, The Sheffield group, PEROSHの合同会議として開催されました。
AOSHRI会議では、まず初めに各国の労働安全衛生関係者らの関心がある問題について紹介がありました。なかでも共通して関心の高い問題は、労働環境,中小企業,経済情勢,労働安全衛生管理の4つでした。そこで、環境,経済,社会,技術の4分野を中心に、各国の代表者が分野に沿って労働安全衛生に係わる課題を挙げ、これについて議論しました。各国の代表者の特に関心が高い課題は、以下に示すとおりです。
つづいて、各国の研究機関の代表者が自国の労働安全衛生に係わる調査内容や今後の取組みについて報告しました。その主な内容は以下のとおりです。
日本からは、豊澤理事と澤田特任研究員が、建設・機械安全,過労死,熱中症を中心に調査内容や実態を報告しました(写真1)。特に、過労死については各国の関心が高く、過労死の認定や過労死に至る経緯について質問が寄せられました。
写真1 豊澤理事と澤田特任研究員による報告の様子
その他、ASEAN-OSHNET (東南アジア諸国連合労働安全衛生ネットワーク) からの活動状況の報告があり、これについてAOSHRI group全体で討論や意見交換を行いました(写真2)。このとき、ASEAN-OSHNET の取り組みにAOSHRIは全面的に協力する旨の意思確認を行い、東アジアおよび東南アジア諸国連合における研究機関の協力体制に強い結びつきができました。
最後に、次回の開催について討議があり、次回のAOSHRI会議は2016年10月にスリランカで開催されることとなりました。
私は国際会議に幾度か参加してきましたが、これまでは研究成果を発表する会議にしか参加したことがありませんでした。AOSHRI会議は、各国の代表者が一堂に会し、各国の災害情報や労働安全衛生の課題について情報交換・共有を行う場であり、そのような会議に出席できたことはとても勉強になりました。労働者の高齢化や作業場における熱中症の増加などは各国共通の課題であることから、安衛研としては、これら労働安全衛生の課題をいち早く解決して、それら成果を提供することだけでなく、各国の研究機関と共同研究協定を結ぶなどして、共通の労働安全衛生の課題解決に取り組むことが重要だと思いました。
写真2 AOSHRI会議の様子
会議終了後は、シンガポールのWSH (Workplace Safety and Health) institute (職場安全衛生研究所) に訪問し、労働安全衛生への取り組み、環境問題への対応について説明を受けました。WSH institute内は非常に清潔に保たれており、部屋も明るく、職員が業務をしやすい環境つくりがなされていることはもちろん、職員同士のディスカッションが行いやすい空間作りがなされていました。
その他、移民労働者の登録に関するサポート体制の実際や、労働者の登録の様子を視察しました。移民労働者のサポート体制として特に興味深かったのは、使用者のための案内,移民労働者のための案内,給料に関する案内,労災に関する案内等のパンフレットをカテゴリ別に分かりやすく揃えており、また、複数の言語で作成されていたことです(写真3)。使用者および移民労働者が知りたい情報を的確に得られる仕組みは、とても興味深いものでした。
写真3 使用者および移民労働者のためのパンフレット類
3月のシンガポールの気温は連日30℃弱であり、日本の夏と似たような気候でした。一方で、ホテル内の会議会場やオフィス内の冷房は相当効いていて、寒いくらいでした。聞いたところによると、冷房が効き過ぎているときは窓を開けて調節するようです。また、スコールを室内から見ましたが、日本でゲリラ豪雨と呼ばれる局地的大雨と大差がないほどすさまじいものでした。
シンガポールでは、喫煙所以外での喫煙やゴミのポイ捨て等の景観を損なう行為に対して厳しい罰則が設けられていることもあり、街並みは綺麗でした。食料品等はマレー語,英語,中国語,日本語表記のものを多く見かけ、異文化が混在していることが分かりました。
シンガポールの労働災害発生率は近年急速に減少し、日本と肩を並べるほどになっていると聞きました。英国などのシステムを積極的に取り入れ、自国のシステムと法体系(厳しい罰則があるとのこと)をうまく融合させて成果を挙げているようです。今回の会議を、アジアと欧米との合同会議としたのもシンガポールの発案でした。優れた異文化を積極的に取り入れて、ダイナミックに成長していくシンガポールから日本も学ぶことが多いと感じました。
アジア労働安全衛生研究所会議は、2004年に第1回会議が当所(旧産業医学総合研究所)で開催されて以来、2007年に韓国、2009年に中国、2012年にマレーシアで開催されてきました。今回の会議では、10カ国27名が参加し、当所からは豊澤理事、澤田特任研究員および私の3名が出席しました。
なお、今回の会議は、The Sheffield Group (主に,欧米の労働安全衛生研究所の最高責任者による組織) の会議および PEROSH (Partnership for European Research in Occupational Safety and Health) 運営委員会の会議が同時に開催されており、Joint AOSHRI-Sheffield Group meetingという名称で、AOSHRI, The Sheffield group, PEROSHの合同会議として開催されました。
AOSHRI会議では、まず初めに各国の労働安全衛生関係者らの関心がある問題について紹介がありました。なかでも共通して関心の高い問題は、労働環境,中小企業,経済情勢,労働安全衛生管理の4つでした。そこで、環境,経済,社会,技術の4分野を中心に、各国の代表者が分野に沿って労働安全衛生に係わる課題を挙げ、これについて議論しました。各国の代表者の特に関心が高い課題は、以下に示すとおりです。
環境 | : | 大気汚染による健康被害,有害ガスの管理,気候変動と屋外労働 |
経済 | : | 中小企業における労働安全衛生関係法令の違反,インフォーマルセクターにおける労働者の調査,安全と利益の関係 |
社会 | : | 移民労働者の問題,高齢化,国際競争によるストレス |
技術 | : | 新技術に対する労働者の技術不足,電気機器廃棄物の増加,新製品開発に伴う危険 |
つづいて、各国の研究機関の代表者が自国の労働安全衛生に係わる調査内容や今後の取組みについて報告しました。その主な内容は以下のとおりです。
・カンボジア | : | 化学廃棄物の管理の不徹底と化学廃棄物に対する労働者の教育不足が問題となっている。化学安全教育の提供が必要である。 |
・中国 | : | じん肺が最も深刻な問題であり、年間2万人が発症している。新しい化学物質に対する職業ばく露限度の調査と職業性疾病の管理と予防が必要となっている。 |
・マレーシア | : | 労働安全衛生研究所の活動内容や成果について紹介があった。労働安全衛生の調査研究は、大学や企業と行う短期的および長期的な協力はもちろん、国際的な協力体制の重要性について説明があった。 |
・フィリピン | : | 労働者の健康状態を調査したところ、報酬と健康状態に大きな相関があること、国家公務員は民間労働者に比べて健康状態がよいことなどの報告があった。不安定で十分なサービスを受けていない労働者の保護が課題となっている。 |
・シンガポール | : | 2011年の国内の雇用者数,労働力,死傷者数,災害情報の調査等のデータから、労働災害や健康障害の経済的な費用を算出したところ、年間で10.5億シンガポールドル要したと報告があった。工業地域ではがんや循環器疾患が多数となっているとの報告があった。 |
・韓国 | : | 労働と雇用問題の関係に関する方針や政策を策定するために、男女平等,健康と安全,差別などの労働条件に関する調査結果の報告があった。その結果、男女間差別の悪化,労働条件と労働意欲の関係,雇用の継続への影響が明らかとなった。 |
・スリランカ | : | 報告されている年間の労働災害は2,500-3,000件であり、これは実際の労働災害の50-60%程度であること、職業性疾病は報告されていない、という実態の報告があった。また,労働者のストレス調査の結果などの報告あった。 |
・台湾 | : | 2000年より,労働災害,職業性疾病は減少している。今後は,煙状となった調理油のばく露と肺がんの関係,建設災害の知識プラットフォームの開発,労働による筋骨格系障害の予防とリスク評価をテーマに調査していくとの報告があった。 |
・タイ | : | 労働災害および職業性疾病のTOP 3の紹介があった。労働災害は化学物質の毒性や機械による災害が多く,職業性疾病は筋骨格系障害や皮膚疾患が多いと報告があった。その他、労働安全衛生に関する取り組みについて報告があった。 |
・ベトナム | : | 主な職業性疾病はけい肺,難聴,メラノーシスであり、これらを低減させるために、作業環境の整備や改善策について開発が必要との報告があった。また、労働環境,社会的弱者などの5つの重要な調査対象が挙げられた。 |
(報告順)
日本からは、豊澤理事と澤田特任研究員が、建設・機械安全,過労死,熱中症を中心に調査内容や実態を報告しました(写真1)。特に、過労死については各国の関心が高く、過労死の認定や過労死に至る経緯について質問が寄せられました。
写真1 豊澤理事と澤田特任研究員による報告の様子
その他、ASEAN-OSHNET (東南アジア諸国連合労働安全衛生ネットワーク) からの活動状況の報告があり、これについてAOSHRI group全体で討論や意見交換を行いました(写真2)。このとき、ASEAN-OSHNET の取り組みにAOSHRIは全面的に協力する旨の意思確認を行い、東アジアおよび東南アジア諸国連合における研究機関の協力体制に強い結びつきができました。
最後に、次回の開催について討議があり、次回のAOSHRI会議は2016年10月にスリランカで開催されることとなりました。
私は国際会議に幾度か参加してきましたが、これまでは研究成果を発表する会議にしか参加したことがありませんでした。AOSHRI会議は、各国の代表者が一堂に会し、各国の災害情報や労働安全衛生の課題について情報交換・共有を行う場であり、そのような会議に出席できたことはとても勉強になりました。労働者の高齢化や作業場における熱中症の増加などは各国共通の課題であることから、安衛研としては、これら労働安全衛生の課題をいち早く解決して、それら成果を提供することだけでなく、各国の研究機関と共同研究協定を結ぶなどして、共通の労働安全衛生の課題解決に取り組むことが重要だと思いました。
写真2 AOSHRI会議の様子
会議終了後は、シンガポールのWSH (Workplace Safety and Health) institute (職場安全衛生研究所) に訪問し、労働安全衛生への取り組み、環境問題への対応について説明を受けました。WSH institute内は非常に清潔に保たれており、部屋も明るく、職員が業務をしやすい環境つくりがなされていることはもちろん、職員同士のディスカッションが行いやすい空間作りがなされていました。
その他、移民労働者の登録に関するサポート体制の実際や、労働者の登録の様子を視察しました。移民労働者のサポート体制として特に興味深かったのは、使用者のための案内,移民労働者のための案内,給料に関する案内,労災に関する案内等のパンフレットをカテゴリ別に分かりやすく揃えており、また、複数の言語で作成されていたことです(写真3)。使用者および移民労働者が知りたい情報を的確に得られる仕組みは、とても興味深いものでした。
写真3 使用者および移民労働者のためのパンフレット類
3月のシンガポールの気温は連日30℃弱であり、日本の夏と似たような気候でした。一方で、ホテル内の会議会場やオフィス内の冷房は相当効いていて、寒いくらいでした。聞いたところによると、冷房が効き過ぎているときは窓を開けて調節するようです。また、スコールを室内から見ましたが、日本でゲリラ豪雨と呼ばれる局地的大雨と大差がないほどすさまじいものでした。
シンガポールでは、喫煙所以外での喫煙やゴミのポイ捨て等の景観を損なう行為に対して厳しい罰則が設けられていることもあり、街並みは綺麗でした。食料品等はマレー語,英語,中国語,日本語表記のものを多く見かけ、異文化が混在していることが分かりました。
シンガポールの労働災害発生率は近年急速に減少し、日本と肩を並べるほどになっていると聞きました。英国などのシステムを積極的に取り入れ、自国のシステムと法体系(厳しい罰則があるとのこと)をうまく融合させて成果を挙げているようです。今回の会議を、アジアと欧米との合同会議としたのもシンガポールの発案でした。優れた異文化を積極的に取り入れて、ダイナミックに成長していくシンガポールから日本も学ぶことが多いと感じました。
(機械システム安全研究グループ 研究員 山口篤志)