労働安全衛生総合研究所

XII International Conference on Occupational Risk Prevention (第12回職業リスク防止に関する国際会議)(ORP2014)に参加して

1.会議の概要


 2014年5月21-23日にスペインのサラゴサで「XII International Conference on Occupational Risk Prevention (第12回職業リスク防止に関する国際会議)」(ORP2014)が開催されました。ORP2014は、欧州および南米を中心とした労働安全衛生を専門とする研究者や技術者などが参加して研究発表や討論などを行う国際会議です。言語はスペイン語が主体で英語も使われ、会議は主にスペイン語圏の国々で毎年開催されています。今回は、「Prevention in the 21th century business: a key factor of competitiveness(21世紀ビジネスにおけるリスクの防止:競争力の重要な要素)」というテーマで開催されました。会議は開会・閉会式などの全体集会(写真1参照)、集団で意見を出し合うワークショップ、討論形式で行われる専門家会議、研究成果などの講演、研究成果をA0サイズの大きな紙に示して説明をするポスター発表、団体や企業の商品等の展示により構成され、ワークショップ、専門家会議、講演は、管理、安全、医療、心理、人間工学、衛生などのセッションに分かれて行われました。プログラムによりますと、ワークショップは28題、専門家会議は24題、講演は69題、ポスター発表は123題行われ、参加者はおおよそ1,500人程度で活気のある会議でありました。



写真1 開会式の様子

2.当研究所からの参加者と発表


 当研究所からは、理事の福澤義行が招待講演を行い(写真2参照)、建設安全研究グループ部長代理の大幢勝利、上席研究員の日野泰道、主任研究員の高橋弘樹がポスター発表を行いました(写真3参照)。
 福澤は「Human Resources Development and Occupational Safety and Health Management System to be a Competitive Company(競争力のある会社にするための人材育成と労働安全衛生管理システム)」という題名で、日本の現場力の強さを活かした労働安全衛生管理に対する取り組みについて講演しました。日本の現場労働者に対する人づくりの取り組みなどを紹介し、現場からのボトムアップ活動をトップダウン型である労働安全衛生マネジメントシステムの仕組みに取り入れる努力をしたことで、労働安全衛生水準の向上と現場の活性化につながったということを講演しました。発表後に、海外の方から日本での取り組みなどについて、今後とも教えてほしいなどの意見交換がありました。



写真2 福澤の招待講演の様子

 大幢は「Study on Effect of Countermeasure for Fall from Scaffolds in Japan(日本における足場からの墜落防止対策の効果に関する研究)」という題名で、メッシュシートを用いた足場の墜落防止実験に関して発表しました。また、日本での足場の墜落防止に関する法改正の内容と足場の組み立て・解体時に手すりが足場の最上段にあり、人の墜落を防止する手すり先行工法について紹介しました。
 日野は「Fundamental Experiments on Safety Belt Characteristics due to Fall(墜落時の安全帯の性能に関する基礎的な実験)」という題名で、高所からの墜落防止のために使用する安全帯に関する墜落実験について発表しました。胴ベルト型安全帯やハーネス型安全帯を人体ダミーに取り付け、落下試験を行い、落下した時の人体ダミーにかかる衝撃力や落下姿勢について発表しました。
 高橋は「Practical use of investigation on work accidents during restoration work of the Great East Japan Earthquake(東日本大震災の復旧・復興工事における労働災害調査の活用)」という題名で、東日本大震災の復旧・復興工事における労働災害の発生状況とその対策について、作業員にもわかりやすいようにイラストにして示しました。イラストには、改修作業中に屋根から墜落した事例や家屋解体中に建設機械が転倒してその下敷きになった事例などを示しました。
 ポスター発表では30分の説明時間が与えられ、墜落時の人体に及ぼす影響、日本でも墜落災害が多いことなどについて説明しました。胴ベルト型安全帯やハーネス型安全帯を取り付けた人体ダミーの落下時の姿勢の写真や災害の発生状況を描いたイラストなどに関心を持って見ていただけました。



大幢              日野             高橋
写真3 当研究所研究員のポスター発表の様子

3.講演とポスター発表の様子


 ワークショップ、専門家会議、講演のうち、私たちは、スペイン語から英語への同時通訳のあった講演に参加しました。講演では、災害撲滅を目指したネットワークの構築、環境づくり、教育・訓練プログラムの開発とその実行が災害発生件数の低下に効果があったなどの発表や、飛行機の墜落やクレーンの倒壊(写真4参照)などの事故調査事例の紹介などがありました。また、各国で行われている労働安全衛生に関する取り組みや枠組みづくりなど、大局的な視点の発表が多くありました。
 この国際会議には、当研究所から建設安全研究グループの研究員が主に参加しましたので、ポスター発表は建設安全分野に関連したものを中心に見ました。建設安全分野に関連したポスター発表では、トラックの荷台からの墜落防止に関する発表や幅木の強度に関する発表などがありました。トラックの荷台に備え付けの枠組み材を設置し、それに安全帯を取り付けて作業することで、作業性を妨げることなく、墜落防止に効果があることを示した発表や、欧州の規格に従ってヨーロッパアカマツを用いた墜落防止用の幅木(屋根や開口部、足場の床材の外縁に取り付ける板材)に衝撃力を与える実験を行い、この幅木が安全に使えるかを検討した発表がありました。



写真4 講演の様子(クレーンの転倒災害の調査に関する発表)

4.サラゴサ市内の足場


 スペインの足場の安全基準の現状を確かめるため、サラゴサ市内の建設工事現場を外から見学しました。サラゴサ市内に足場は少なく、建物の改修工事のための足場を数えるほど見かけただけでした。サラゴサ市内では、日本の足場と同じように、わく組足場(門形の枠材に床材や斜材を取り付けて組まれた足場)とくさび緊結式足場(緊結部のある支柱に水平材や斜材を取り付けて組まれた足場)が見られました(写真5参照)。サラゴサ市内の足場には、手すりと中さん(手すりと床材の間に取り付ける水平材)、メッシュシートが設置されているものが多く、人の墜落や機材など物の落下防止に配慮した足場になっていました。足場は歩道に設置されているものもあり、一般の人たちが足場をくぐるように歩いていました。一般の人が通る足場の最下段には、部材の接合部の突起などに覆いがされており、一般の人たちの安全に配慮した足場になっていました。



わく組足場                  くさび緊結式足場
写真5 サラゴサ市内の足場
(手すり、中さん、メッシュシートが設置されていました。)

5.バルセロナ市内の足場


 スペインの足場の安全基準の現状を確かめるため、バルセロナ市内の建設工事現場を外から見学しました。バルセロナ市内でもサラゴサ市内と同じように、わく組足場とくさび緊結式足場が多く見られました(写真6参照)。世界遺産の建物のサグラダ・ファミリアなど形状が複雑な建物の工事などには、足場の設置形状の自由度が高い単管足場(鉄製のパイプを組み合わせて、鉄製のパイプ同士をクランプなどの緊結金具で連結して組まれた足場)も使われていました(写真7参照)。バルセロナ市内の足場には、手すり、中さん、メッシュシートに加え、幅木(足場の床材の外縁に取り付ける板材)が設置されているものもいくつかみられ、観察した範囲では、サラゴサ市内よりも人の墜落や物の落下防止に配慮した足場になっていました。世界遺産の建物のカサ・ミラの改修工事では、メッシュシートに建物の外観が描かれ、足場に隠れた建物の外観を連想させる工夫がされていました(写真8参照)。



写真6 バルセロナ市内の足場
(くさび緊結式足場・手すり、中さん、メッシュシートなどが設置されていました。)



写真7 世界遺産サグラダ・ファミリアの建設工事の足場
(建物形状が複雑な場所には単管足場が使われていました。)



写真8 世界遺産カサ・ミラの改修工事の足場
(足場に隠れた建物の外観を連想させる工夫がされていました。)

6.まとめ


 ORP2014は、スペイン語圏の労働安全衛生会議という印象があり、言語もスペイン語が主体でしたので、通常の国際会議に比べると情報交換をするのが難しいということはありましたが、欧州および南米における労働安全衛生の取り組みや研究成果を知る貴重な機会になったと思います。
 また、スペインの足場には、手すり、中さん、メッシュシートなどが取り付けられており、人の墜落や物の落下防止に配慮した足場になっていました。日本でも足場からの人の墜落と物の落下防止措置の例として手すり、中さん、メッシュシートなどを足場に取り付けることが義務付けられていますので、スペインの足場は人の墜落や物の落下に対して、日本と同等の安全性があるといえます。建設工事現場の外からではありますが、スペインでの建設労働安全の一端を知ることができました。

(建設安全研究グループ 主任研究員 高橋 弘樹)

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