労働安全衛生総合研究所

働く人の健康に関する研究施設の公開(登戸地区)
-平成26年度一般公開を終えて-

 4月20日の日曜日に登戸地区の平成26年度研究施設一般公開を開催いたしました。今年もここ数年と同じく、肌寒い曇り空で、いつ雨が来てもおかしくない空模様でしたが、94名の皆様にお出掛けいただきました。小さなお子様から労働安全衛生の専門家まで、幅広い範囲の皆様に研究所をご覧いただき、来場者の皆様と充実した時間を楽しく過ごすことができましたことを、職員一同、感謝申し上げます。
 一般公開では、講演、施設公開・研究体験、実演コーナー、ポスター展示等の内容を設けました。以下、順にその様子をご紹介いたします。

1.講演

 講演は、「空気中に漂う粒子のいろいろ」のタイトルで行いました。近頃では、天気予報とともに花粉やPM2.5の予想もテレビで知ることができます。空気中に浮遊している目に見えない小さな粒子にも皆様の関心が集まっているらしく、多くの皆様が熱心に聴講してくださいました。花粉やPM2.5は普段の生活で私達が呼吸する空気の中にあるものですが、働く環境でも作業が原因で発生する粒子が空気中に浮遊していることがあります。そのような粒子の形や健康への影響、目に見えない粒子の測り方、顕微鏡による観察、などについての講演でした。皆様からは、わかりやすく、粒子に対する理解が深まった、とご好評をいただくことができました。


講演会場風景

2.施設公開・研究紹介

 粉じん実験室では、上記の講演に直結した内容で、「粉じんの発生と測定」と題した研究紹介を行いました。作業に伴って発生する粉じんから労働者の健康を守るためには、まず環境をきれいにしなければなりませんが、空気のきれいさを知るために、粉じんの濃度や大きさを知ることは大変重要な技術です。今回は、試験粉じんを発生して原理の異なるいくつかの測定器を使用して、リアルタイムに粉じんの濃度や大きさを測定するデモンストレーションを行いました。近年話題のナノ材料に関わる測定法や測定例のご紹介もいたしました。講演と合わせて更に知識が深まった、対策をきちんとしなければいけないことがわかったというご感想をいただきました。講演直後は部屋が混み合ってしまい、一部の来場者の方には見えにくい状態になってしまったのが、反省点でした。


粉じん測定の実演

 続いて、電子顕微鏡室では、「粉じん物質の電子顕微鏡による観察と計測」と題する研究紹介を行いました。走査電子顕微鏡では物質の表面の状態を拡大して観察することができますので、花粉やアスベストの他に、身近にある食材の表面を観察して、皆様にビックリしていただくことができました。更に高倍率で物質の構造や成分について情報が得られる透過電子顕微鏡の紹介と、アスベストや繊維状鉱物を写真や試料観察で見ていただきました。参加者の皆様からは、粉じん・アスベスト・じん肺のことがよくわかった、色々なものを拡大して見られて楽しかった、とのご感想をいただきました。


透過電子顕微鏡の説明

 粉じんとは離れますが、振動実験室では、「あなたの体は振動をどこで感じていますか?」と題して、制御された手腕振動と全身振動を体感し、その振動を計測する装置の実演を行いました。防振手袋を着用していただき、振動とその対策も体験していただきました。白ろう病を初めて知った、周波数によって気持ちが悪くなる振動があることがわかった、現場での指導に活かします、というご感想もいただき、少しはお役に立てていることを実感することができました。


振動体感中

3.実演コーナー

 粉じんや化学物質の健康への影響を研究するときに、生物の組織を観察したりDNAのような遺伝子を調べたりすることがあります。これらの研究を来場者の皆様にわかりやすくご紹介するために、「顕微鏡標本から知る細胞の役割」と「DMAってなんだろう?」の二つの実演コーナーをご用意しました。
 病理実験室は毎年人気のコーナーですが、今年は「顕微鏡標本から知る細胞の役割」というタイトルで、生体組織の観察を体験していただきました。細胞を染色して光学顕微鏡で観察し、様々な細胞の違いを写真で見ていただき、細胞の役割を紹介しました。労働衛生の基礎研究に必要な技術の一つを、どなたでも経験していただけるように工夫しました。これまでは来場者にお待ちいただくことも多かったため、観察像をモニターで拡大して、多くの方に一緒に見ていただくようにしましたが、お子様が実験に興味を持った、というご感想をうかがうと、自分の目で顕微鏡をのぞく楽しみはこれからも提供していきたいと思いました。


細胞を顕微鏡で観察

 「DNAってなんだろう?」のコーナーでは、ニュースなどで耳にするDNA検査についてご紹介しました。DNA検査は幾つかのステップを経て測定されることを、バナナを使ってDNAを取り出して観察する一連の作業を通じて体験していただきました。実際に労働衛生分野の基礎研究に活かされていることもご説明しましたが、バナナからDNAが取れるのが凄い、食品偽装がわかるのが凄い、と楽しんでいただけました。


バナナからDNAを取り出す

今年の労働安全についての実演コーナーは二つご用意しました。

 「建設現場に潜む危険」では建設現場にある危険を知ることができるタブレット端末(iPad)を使用した安全教材を体験していただきました。建設現場には注意しなければいけない危険箇所がありますが、実際の写真にタッチ!することで、 建設現場に潜む危険を直感的かつ手軽に知ることができます。身近に危険があることがわかった、勘でやったら当たっちゃった、というご感想がありましたが、他の分野のものもあるといいというご希望もありました。


危険はどこに?

 労働安全の実演のもう一つは、「電気による労働災害について-静電気の放電を見てみよう-」でした。乾燥する季節に指先でパチパチッと生じるとっても痛い静電気。ほんの小さな火花に感じられますが、この静電気が大爆発を引き起こすことがあります。この実演コーナーでは、意図的に静電気を発生させて、静電気を体感していただきました。また、静電気だけでなく、いつも使っている電気と関係する労働災害があることについてもご紹介しました。静電気の危険性を再認識した、静電気を感じて楽しかったとご感想をいただきました。


静電気で風船が!

4.ポスター展示

   研究ポスター展示会場では、7枚のポスターを掲示して担当研究員が説明を行い、ポスターをきっかけにより広く、より深く、来場者の方とお話しすることができました。会場に食堂を使用したことと、曇り空だったことで会場が暗く、折角ポスターを見に来て下さった方にはご迷惑をお掛けしました。当研究所で研究しているものの、実演コーナーでご紹介しにくい内容について、これからもポスターでわかりやすくお伝えしていきたいと考えております。


ポスター展示会場の様子

5.ご来場の皆様のアンケート結果から

 
 回答いただいたアンケートから見ますと、来場者の皆様は、リピーターの方が3割いらっしゃいましたが、近隣の皆様が今でも「中では何をしているのだろう?」と不思議に思ってお出掛けくださっています。初めてでも、繰り返しいらしていただいても楽しめる工夫を続けて参ります。研究の性質上、「お子様向け」のリクエストにお答えするのが、なかなか難しいと感じております。講演と公開内容については、よかったというご感想を数多くいただきました。研究紹介としている方が「興味を持った」方の割合が多く、実演コーナーの方が「楽しめた」とおっしゃる方が多かったようです。雨を想定して見学ルートを変更しましたので歩く距離が長くなり、来場者の皆様にはご迷惑をお掛けしました。お天気のことは如何ともし難いのですが、アンケートに「毎年寒くてお天気が悪いのですが、雨男がいらっしゃいませんか?」とユーモアのあるコメントをいただきました。間違いなく、「雨女」がいることを、この場をお借りしてお伝えいたします。
  今年度の一般公開を盛況のうちに終えましたことをご報告するとともに、寒い中をおいでいただきましたこと、温かい励ましの言葉を頂戴しましたことに、改めて心より感謝申し上げます。
 なお、登戸地区の公開内容については、プログラムに簡単ですが概要が記載されていますので、ご興味のある方は下記のURLからダウンロードしてご覧ください。
https://www.jniosh.johas.go.jp/announce/2014/open2014/pdf/H26noborito_pamphlet.pdf[PDF]

(環境計測管理研究グループ 部長 小野 真理子)

刊行物・報告書等 研究成果一覧