労働安全衛生総合研究所

働く人の健康に関する研究施設の公開(登戸地区)
-平成25年度一般公開を終えて-

 4月21日の日曜日に登戸地区の平成25年度研究施設一般公開を開催いたしました。前夜来、冬のような気温と吹き降りでしたが、開始前には雨が止み、予定どおりに実施することができました。冷え込む中を108名の方々が一般公開においでくださいました。様々な世代・職業の皆様に研究所を御覧いただき、来場者の皆様と充実した時間を過ごすことができましたことを、職員一同、感謝申し上げます。
 一般公開では、講演、施設公開・研究紹介、実演コーナー、ポスター展示等の内容を設けました。以下、順にその様子を御紹介いたします。

1.講演(12:30-13:30)


 講演は、「職場における熱中症の予防対策」と「エレベーター等の危険性」の2件を行いました。熱中症予防では、熱中症を予防するポイントである、温湿度に注意すること、早め多めの水分補給や規則正しい生活が重要性であることについて、研究データや実例を基に講演しました。また、エレベーター等の危険性では、人や荷物を載せて昇降するものには名前も構造も異なる様々な種類があること、事故例から学ぶ対策、実験データによって示す対策の重要性等について講演しました。聴講の皆様からは、熱中症の予防に対する理解が深まった、エレベーターについて新しい知識が得られたと御好評をいただきました。
講演会場風景

2.施設公開・研究紹介



 今年は研究紹介のうち4件は実験室で実験の雰囲気を体感していただきながら行いました。

(1)電子顕微鏡室「電子顕微鏡による粉じん物質の計測」
 走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡で観察した様々な物質の微細構造の違いを写真で説明し、実際に電子顕微鏡で試料観察をしていただきました。参加者の皆様からは、アスベストの計測の実際がわかった、種類の異なるアスベスト繊維の分析が難しいことを知って驚いたという御感想をいただきました。

透過型電子顕微鏡での試料観察


(2)粉じん実験室「ホコリから健康を守る」
 試験粉じんを発生して、その粉じん濃度や粉じんの大きさの測定を実演しました。作業に伴って発生する粉じんから労働者の健康を守るためには、粉じん濃度を測定したり、マスクの性能評価を行ったりすることが必要ですが、そのために必要な技術を御覧いただきました。花粉やPM2.5で粉じんに興味をお持ちの参加者も多く、理解が深まったという感想を多くいただきました。

チャンバーにおける粉じんの発生と粉じん量の測定


(3)病理実験室「顕微鏡標本の作製から観察までを体験してみよう」
 生体組織の観察例として、口腔内細胞を綿棒でこすり取り、細胞を染色し、光学顕微鏡で観察するコーナーです。毎年人気のコーナーですが、労働衛生の基礎研究に必要な技術の一つを、どなたでも経験していただけるように工夫しました。2階でただ一つの研究紹介でしたので、来場者にお待ちいただくことも多かったため、楽しかった、興味を持ったという御意見とともに、体験できず残念でしたという御意見もありました。次回以降の改善点としてまいりたいと思います。
病理観察用試料の作成


(4)振動実験室「周波数って何?」
 ここでは制御された手腕振動と全身振動を体感し、その振動を計測する装置の実演を行いました。防振手袋の効果を知ることで、振動とその対策を御理解いただけたことと思います。中には、振動は怖いと逃げ腰のお子様もいらっしゃいましたが、研究員の呼びかけに応じて、弱い振動を感じていただく場面もありました。
振動が防振手袋で減ることを体験


3.実演コーナー



 普段実験室で使用している実験装置を会議室に用意して、参加者の皆様に楽しんでいただきながら研究に触れられるコーナーも3件用意いたしました。

(1)「金属の表面を見る」
 これは労働安全に関する実演でした。経年変化等により金属表面に現れる結晶構造の変化を顕微鏡で観察して見つけるという体験でした。普段は身近で見ることのない、建設工事用のクレーンで使用されるワイヤロープを直に観察できましたので、参加者からは大変興味深かったとの御感想をいただきました。硬貨の表面観察は、お子様にも楽しんでいただけたようでした。


金属の表面観察


(2)「DNAの調べ方」
 昨年の人気コーナーを再現しました。普段よく耳にするDNAは幾つかのステップを経て測定されることを昨年同様に見ていただきましたが、今年はポスターを追加して、DNAの研究が実際に労働衛生分野の基礎研究に活かされていることを御説明しました。実演とポスターを同時に見ていただくことで、多くの参加者に興味を持っていただけました。


DNAの調べ方とその応用例の説明


(3)「カビを顕微鏡で見る」
 毎日の生活に身近なところにある様々な種類のカビを顕微鏡で観察することができました。一般家庭ばかりでなく職場にもカビがあり、それらを実験室で培養して数えることができることに驚いたという御感想をいただきました。


カビの観察中


4.ポスター展示


 研究ポスター展示会場では、7枚のポスターを掲示して担当研究員が説明を行いました。中でも「職場への労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の導入がもたらす労働安全衛生面での効果に関する研究」、「東日本大震災復興作業時のアスベスト飛散状況調査」、「胆管がん発症の原因物質として疑われる有機溶剤の毒性について」は、実際の労働現場で要求があるものや、ニュースでも取り扱われて皆様の関心が高いテーマにつながるものがあり、研究員への具体的な御質問が数多くありました。


ポスター展示会場の様子


5.御来場の皆様のアンケート結果から


 回答いただいたアンケートから見ますと、来場者の皆様は、来場いただいた回数や、年齢層などが様々でした。かつては近隣の皆様に当研究所を見ていただくのが中心でしたが、近頃は専門の近い方においでいただくことも多く、幅広い御興味に対応できるよう、研究紹介の内容を工夫するようにしております。公開内容については、よかったという御感想を数多くいただきました。顕微鏡や測定装置を使用して、「見えないものを可視化する」コーナーが特に好評でした。一方で、研究所の場所や所内の公開場所がわかりにくい、混雑していて体験できない場所があったなどの御意見も幾つか頂戴しました。御指摘いただいた点を踏まえ、来年度は更に改善してまいりたいと考えております。
 今年度の一般公開を盛況のうちに終えましたことを御報告するとともに、寒い中をおいでいただきました皆様の御協力と温かい励ましに、心より感謝申し上げます。



(環境計測管理研究グループ 上席研究員 小野 真理子)

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