労働安全衛生総合研究所

研究協力協定に基づく釜慶大学校との研究交流セミナーに参加して

 今回、韓国国立釜慶(プギョン)大学校との研究協力協定(MOU)に基づき、当研究所と釜慶大学校との研究交流セミナーに参加するため、韓国の釜山を訪問してきました。
 釜慶大学校は、1996年に旧釜山工業大学と旧釜山水産大学が統合してできた国立大学です。当研究所と釜慶大学校とは、2001年に研究協力協定を締結してから安全工学科の先生方と研究員が交流を行ってきました。安全工学科には、静電気除去装置や爆発防止対策、機械安全等に関する研究をされている先生方がおり、これまでに「可燃性粉体の静電気危険性」に関しての共同研究などで成果を上げてきました。今回は今後の研究協力の拡大に資するため、より広範な研究内容についての意見交換の場として研究交流セミナーを開催することにしたものです。
 釜慶大学校のキャンパスは、旧釜山水産大学跡地である大淵(デヨン)キャンパスと旧釜山工業大学跡地である龍塘(ヨンダン)に分かれていて、今回のセミナーは、龍塘キャンパスにある安全工学科の校舎で行われました。
 セミナーは、張聖禄(チャン ソンロク)学科長の司会のもと、午前中に2件(機械システム安全研究グループの清水尚憲上席研究員、釜慶大学校安全工学科長の張聖禄教授)、午後に3件(建設安全研究グループの堀智仁任期付研究員、化学安全研究グループの木村新太任期付研究員、釜慶大学校安全工学科の權五憲(クォン オヒョン)教授)の合わせて5件の研究発表が行われました。演題は以下のとおりです。

  1. 統合生産システム(IMS)におけるリスク低減戦略の検討(清水 尚憲)
  2. Detection and Assessment of Cracking Damages in Concrete Structures Using Advanced Sensing Techniques (張 聖禄)
     (邦訳:最新技術を用いたコンクリート構造物内部の亀裂検出と強度劣化予測)
  3. 建設機械における地盤が関連する災害について(堀 智仁)
  4. 中小規模事業者を対象とした化学プラントの爆発火災リスクアセスメント手法の検討(木村 新太)
  5. Human Error in industrial fields(權 五憲)
     (邦訳:産業現場でのヒューマンエラーの現状)

 その後それぞれの発表に対する質疑応答を行いました。ディスカッションでは、英語の他に日本語、韓国語を交え、和やかな雰囲気の中で進められました。このセミナーには、安全工学科の学生も多数参加しており、質疑応答では学生からも多数の質問や意見をいただきました。韓国の安全工学科では、常に現場目線で安全を考える教育を行っているとのことで、質問も具体的なものが多く、我々も今後研究を行う上で大変貴重な考えを聞くことができました。例えば発表1の「統合生産システム(IMS)におけるリスク低減戦略の検討」においては、定常作業だけではなく非定常作業を含めた作業を対象にして、人の作業範囲と機械設備の可動範囲が重なるタスクゾーンに対するリスク低減方策の採用手法について説明しました。これに対し、単に安全性だけではなく利便性や生産性も考慮した現場に最適なリスク低減方策が提案できないか?という質問がありました。この質問は、リスクマネジメントの考え方に大きく関わる貴重な御意見であり、深く受け止めて、今後も意見交換をしながら研究を進めていくこととしました。
 また、安全工学科の研究室や実験室の見学では、現在行っている研究内容や、試作中の安全装置などについて説明を受けました。試作している安全装置の多くは国内外の企業との共同研究によるもので、試作後はすぐに現場でのテストを行う体制になっているとのことでした。
 今後も引き続き海外の大学や研究機関との研究交流を続け、海外研究者とのネットワークを構築していくことで、労働安全衛生の改善に資する研究成果が得られるように努力していきたいと考えています。




セミナーの様子

(機械システム安全研究グループ 上席研究員  清水 尚憲)
(建設安全研究グループ 任期付研究員 堀 智仁 )
(化学安全研究グループ 任期付研究員 木村 新太)

刊行物・報告書等 研究成果一覧