労働安全衛生総合研究所

新人紹介

電気安全研究グループ   三浦 崇(みうら たかし)


写真:新入研究員「三浦崇」
 4月より任期付研究員として勤務しています。1999年、筑波大学物理学研究科においてフラーレン(C60)を使った原子衝突の実験により博士(理学)を取得し、建築研究所、機械技術研究所(現、産業技術総合研究所)において非常勤職員としての勤務を経て、2000年、科学振興事業団特別研究員として固体摩擦発光の研究に取り組み、2001年、学習院大学理学部物理学科において助教として摩擦発光及び摩擦帯電の研究を続けてきました。2006年にはカナダMcGill大学物理学科において客員研究員として9か月間過ごし、粘着テープの剥離帯電と発光の研究に従事しました。加えて、固体の破壊に伴う発光の研究や東北大学と共同で地震に伴う発光現象の研究にも取り組んできました。
 電気安全の研究分野では、可燃性ガスや粉じんへの着火源としての摩擦帯電による静電気放電が問題となっています。これまで取り組んできた摩擦発光や帯電の研究は、未だ明らかになっていない静電気放電のメカニズム、具体的には電荷の発生から着火原因となる気体放電に至るまでの物質・気体・運動が関係する極めて複雑なプロセスの解明に深くかかわりがあります。当研究所においては、今まで培ってきた静電気放電の検出技術や電荷量の測定技術を活用して帯電発生の原因や静電気の振る舞いをより詳細に理解し、静電気の発生抑止、危険な帯電状態の察知及び静電気放電の予測による静電気災害の防止と労働安全の更なる向上を目指したいと思います。
(所属学会:日本真空学会、日本物理学会、応用物理学会、アメリカ真空協会、日本地球惑星科学連合)

健康障害予防研究グループ   長谷川 也須子(はせがわ やすこ)


写真:新入研究員「長谷川也須子」
 平成24年4月1日付けで健康障害予防研究グループに任期付研究員として着任致しました。これまで、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻にて博士(獣医学)を取得後、一般財団法人日本生物科学研究所勤務を経て、内閣府食品安全委員会に勤務いたしました。
 大学、大学院を通じて獣医病理学・毒性病理学領域で研究を行い、産業動物(ウシ、ウマ)、伴侶動物(イヌ、ネコ)、展示動物(ライオン、カメ)、実験動物(ラット、マウス)等を対象としていました。大学院では主な研究テーマとして、ヒトの肝臓疾患をラットで模したブタ血清誘発肝線維化モデルの病態解析に取り組んできました。ヒトの肝線維症はアルコール、肝炎ウィルス及び薬物などを原因とするものが知られており、その発症メカニズムや治療薬の効果を検証するために実験動物を用いた様々なモデルが利用されています。私の研究では、本モデルは肝臓内の細胞が体内に投与されたブタ血清を異物と認識することにより肝線維症を発症することが明らかとなり、体の免疫器官である胸腺や脾臓(ひぞう)を切除した場合には、その発症を抑制することが関係学会誌(英文誌)に掲載されるとともに、学位論文として提出しました。
 食品安全委員会ではヒ素やマンガンなど環境中の化学物質を対象とした食品や清涼飲料水の安全性評価に携わっていました。食品や清涼飲料水の安全性評価には化学物質の挙動やヒトの摂取量など幅広い情報が必要で、このような業務経験は労働安全衛生総合研究所における今後の研究に必ず役に立つものと考えています。
 さて、粉じんは様々な呼吸器障害を生じることから、古くから労働衛生上の重要な研究対象の一つとなっています。粉じんの生体影響を確認する試験の一つとして、実験動物を用いた呼吸器毒性試験が行われています。そこでは吸入ばく露試験が標準試験として用いられますが、高額な設備が必要となることから、比較的安価な器具で実施可能な気管内投与等が代替法として用いられつつあります。しかし、代替法はその手法が統一されていないために試験結果の比較が困難であるのが現状です。今後も呼吸器毒性の原因となり得る物質が出現することは否定できず、今年度以降、労働衛生領域で現在、検討が進められている金属酸化物微粒子及びインジウムといった粉じんを中心とした呼吸器毒性試験の代替法の検討を行いたいと考えております。
 労働安全衛生対策は労働環境だけに限定されるものではなく、労働者やその家族の生活や人生に深く影響を与えるものであることを常に念頭に置きながら、日々の研究にまい進する所存です。専門知識を生かしながら様々な分野の方と共に、今後も研究に取り組みたいと考えておりますので、よろしくお願い申し上げます。
(所属学会:日本産業衛生学会、日本衛生学会、日本毒性病理学会、日本毒性学会、日本獣医病理学会、日本獣医病理学専門家協会、日本獣医学会)

健康障害予防研究グループ   佐治 哲矢(さじ てつや)


 平成24年4年1日付けで健康障害予防研究グループに任期付研究員として着任致しました。前任の国立医薬品食品衛生研究所では、医薬品、環境化学物質、食品添加物、工業化学物質等の安全性評価の一環として、培養細胞を用いて遺伝毒性に関する研究を行っていました。遺伝毒性とは、化学物質がDNAや染色体に作用し、形質の変化(遺伝子の突然変異)や染色体の異常(染色体の数量的変化と形態的変化)を誘発する作用を言います。また、遺伝毒性は、発がん性と深く関連する毒性であり、コメットアッセイ、小核試験、遺伝子突然変異試験などの方法により評価されています。私は、遺伝毒性の発現に関与すると予想される遺伝子の機能を強めるあるいは弱めるように改変した細胞を作製することで、より高感度な遺伝毒性の検出法の開発を行っていました。また、これらの遺伝子改変した細胞を用いて、様々な化学物質の遺伝毒性評価を行い、遺伝毒性の発現メカニズムとそれに関わる生体防御遺伝子の機能を解明する研究に行っていました。
 現在、様々な粒子状物質が工業的に利用されるようになり、その健康影響が懸念されています。不溶性・難溶性の粒子状物質の遺伝毒性評価方法は、定まっていない部分が多く、適切な評価結果を得るためには検討の余地があります。そのため、どのような因子が遺伝毒性の発現に影響するかを調べ、適切な評価方法の研究を行いたいと思っています。
 また、発がん物質のリスク評価方法は遺伝毒性の有無により異なった方法が採用されています。遺伝毒性が認められない場合は作用のしきい値が設定できるため、これに基づいてリスク評価が行われます。一方、遺伝毒性が認められる場合、その影響は確率的であり、たとえ1分子であっても毒性が発現することがあると仮定し、しきい値が無いとした評価法である実質安全量(VSD)などによりリスク評価が行われます。しかし、最近では、遺伝毒性を示す発がん物質についても、しきい値を認める方向での議論が盛んになり、現在では、遺伝毒性の評価は、毒性発現の作用メカニズムがDNAへの直接的な作用か間接的な作用かを考慮して、しきい値が設定できるかを検討することが重要であると考えられるようになってきています。そこで、遺伝毒性の発現メカニズムを解明することにより、遺伝毒性を示す物質についてしきい値の有無に資する情報を提供する研究を併せて行う予定です。
 ここで得られた知見を許容濃度の設定や健康影響の指標の開発につなげることにより、労働者の健康の確保に生かしていきたいと思っております。至らぬ点は多々あると思いますが、全力を尽くしてまいりたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
(所属学会:日本産業衛生学会、日本衛生学会、日本環境変異原学会、日本癌学会、日本薬学会、日本分子生物学会)

環境計測管理研究グループ   山田 丸(やまだ まろむ)


写真:新入研究員「山田丸」
 平成24年4月1日付けで環境計測管理研究グループに任期付研究員として着任いたしました。大学院在学時はエアロゾル(気中に微粒子が分散している状態又はその微粒子)による地球環境への影響に興味を持ち、黄砂の広域拡散プロセス及び大気汚染物質による黄砂の性状変化について着目して、気球を使ったエアロゾル採集装置の開発、黄砂発生源である中国の砂漠地帯での現地観測、そして電子顕微鏡やエアロゾルカウンターによるエアロゾル計測に主として取り組みました。学位取得後は、日本や中国上空で採集したエアロゾル粒子中の微生物を計測し、偏西風によってアジア大陸から日本に微生物が飛来していることを明らかにしました。その後、前任地の金沢大学イノベーション創成センターでは、企業と共同で大気中を広域拡散する微生物や有害有機化合物の除去を目的に新規機能性繊維の開発とその性能評価に取り組み、この経験を通じてエアロゾルによる健康影響に関心を持つようになりました。
 エアロゾルが発生する労働現場は従来から労働衛生研究の対象となっていますが、科学技術の発展に伴って作業時に飛散するエアロゾルも変化します。それらが健康に悪影響を及ぼす懸念がある場合は、対象となる物質を正確に計測し管理することが求められます。最近では、工業ナノマテリアルを取り扱う労働者の健康影響が懸念されており、国内外においてナノマテリアルに対するばく露の予防的対策、計測法等が提案されています。しかしながら、ナノマテリアル取扱現場における調査は始まったばかりで、現時点では、ばく露量や有害性のデータは限られています。実験室において現場環境を模してナノマテリアルを再現性よく発生させることができれば、ばく露量測定法の改善や吸入による毒性試験の基盤技術として有用です。
 着任後は、工業ナノマテリアル取扱環境を模した粉体発生装置を作成し、実験室で発生させたナノマテリアルと当研究所が過去に現場で実測した結果との比較を通じて、より現場に近い発生法を検証します。そして、連続的に、また再現性よくナノマテリアルを発生させる手法を提案することを目標とします。また、現場調査にも積極的に参加していきたいと思っております。研究や現場調査を通じて労働現場の環境改善に貢献できるよう精一杯努力いたします。至らぬ点も多々あるかと思いますが、何とぞよろしくお願いいたします。
(所属学会:日本産業衛生学会、日本労働衛生工学会、日本エアロゾル学会、大気環境学会)

人間工学・リスク管理研究グループ   高橋 明子(たかはし あきこ)


写真:新入研究員「高橋明子」
 4月から任期付研究員として働いております。
 私は2008年に早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程を満期退学した後、実践女子大学生活科学部にて3年間助教として働き、2011年に早稲田大学にて博士(人間科学)を取得しました。
 大学では建設現場での労働災害の原因となるコミュニケーションエラーの研究や危険場面遭遇時の作業者の知覚と行動に関する研究を行ってきました。
 労働安全衛生法の改正によるリスクアセスメント実施の努力義務化により、事業者は作業行動等に起因する危険・有害性を調査し、危険又は健康障害の防止のための必要な措置を講ずるよう努めることとなっています。これを建設業に当てはめた場合、作業内容や作業環境が多様かつ流動的という特徴があるため、事業者だけに頼ることなく作業者自らが建設現場の危険・有害要因を適切に感知し、それらに対して適切な対処行動をとることが、労働災害防止に不可欠だと考えます。
 当研究所においては、これまでの研究成果を踏まえ、タブレットPCによって建設現場における危険要因の知覚能力向上のための教材を開発します。それにより、初心者を対象とした教育効果の検証を行うとともに、建設作業者の危険要因への知覚特性を明らかにし、労働災害防止に貢献したいと考えております。
(所属学会:日本人間工学会、日本応用心理学会、日本心理学会)

刊行物・報告書等 研究成果一覧