労働安全衛生総合研究所

ドラグ・ショベルによる労働災害について

1.はじめに


 建設業では工事の機械化により、ドラグ・ショベルやクレーンなどの建設機械等が導入されています。建設機械等の導入は、工事期間の短縮や労働災害の防止など、大きなメリットをもたらしている反面、労働者と建設機械等が混在して作業をせざるを得ない場合など、危険性を有しています。
 本コラムでは、建設機械等の中でも労働災害が多発しているドラグ・ショベルについて、御紹介します。

2.建設機械に関する労働災害


 平成22年の労働災害による死亡者数は1,195人で、そのうち、建設機械等による死亡者数は73人であり、全体の約6%を占めています。本コラムでは、平成18年の全産業における建設機械に関する休業4日以上の死傷者数(1,774人、うち死亡79人)について分析した結果について述べます。
 建設機械による労働災害1,774人ついて、「事故の型」別の災害発生状況を図1に示します。ここで、「事故の型」とは、傷病を受けるもととなった起因物が関係した現象のことであり、「起因物」とは、災害をもたらす原因となった機械や環境などをいいます。この図から、「はさまれ、巻き込まれ」、「激突され」、「墜落、転落」の3つの事故の型で、全体の3/4を占めていることがわかります。この結果から、建設機械に、はさまれたり、ひかれたりする災害や、機械に激突される災害、機械から転落する災害等が多く発生していることがわかります。

図1 「事故の型」別の災害発生状況(休業4日以上)

 図2は休業日数と休業者数の関係を示しています。休業日数の中央値は30日であり、被災者の半数以上が長期にわたる休業となっています。また、休業災害の約60%が「骨折」、「手指等の切断」が79人(4.5%)など、後遺障害が残る重篤な災害が多く発生しています。

図2 休業日数と休業者数の関係

3.ドラグ・ショベルによる労働災害


 平成18年の建設機械による休業4日以上の死傷災害1,774人(死亡者数79人)のうち、ドラグ・ショベルによる労働災害は1,025人(うち死亡者数41人)で、建設機械全体に占める割合は、休業4日以上の死傷災害の57.8%、死亡災害の51.9%と非常に多くなっています。 本コラムでは、死亡災害(41人)について、どのような災害が発生しているのか、その概要、防止対策、研究の方向性等について御紹介します。
 図3は「事故の型」別に類似した災害をまとめ、その概要を例示したものです。



図3 ドラグ・ショベルの死亡災害の概要

  1. 「はさまれ、巻き込まれ」(21人)
    1. 災害の概要及び発生原因
       ドラグ・ショベルにひかれた災害が最も多く発生しており、中でも機械の後退中にひかれた事例が多数を占めていました。この災害の発生原因は、機械の誘導者を配置しておらず、機械の運転者(以下「オペレーター」という。)が進行方向の安全を確認せずに機械を移動させたことでした。
    2. 防止対策
       機械と作業者の接触を防ぐためには、機械の周辺で作業している作業者が機械の作業範囲内に立ち入らないことが原則です。また、ドラグ・ショベルには側方や後方の死角が多いことも災害の一因ですので、誘導者を配置して機械を誘導させる必要があります。
  2. 「激突され」(7人)
    1. 災害の概要及び発生原因
       ドラグ・ショベルのバケットが作業者に激突した災害が最も多く発生していました。この災害の発生状況を調べた結果、オペレーターの死角にいた作業者が被災していることがわかりました。
    2. 防止対策
       この災害の防止対策としては、オペレーターが目視できない場所で作業しないことや機械に接触するおそれのある範囲に労働者を立ち入らせない措置を講ずる必要があります。やむを得ず機械の作業範囲内で作業せざるを得ない場合には、誘導者を配置して作業者と機械との接触防止を図る必要があります。
  3. 「転落」(7人)及び「転倒」(5人)
    1. 災害の概要及び発生原因
       ドラグ・ショベルが斜面上から機械とともに転落する事例が最も多く発生していました。また、転倒災害でも同様の死亡災害が発生しています。ドラグ・ショベルの転落・転倒災害には、「機械の不安定化による転落」と「路肩等の崩壊に伴う転落」の2つの原因が考えられます。
    2. 防止対策を明らかにするための研究の方向性
       「機械の不安定化による転落」は、斜面上の起伏や機械の走行速度により機械に揺れが生じて、転落に至ったことが考えられますが、その詳細なメカニズムは明らかになっていません。そのため、転落・転倒に至るメカニズムを明らかにして、建設機械を転落・転倒させない本質的な対策が急務とされています。筆者は今後この問題を解決するために、模型実験や数値解析により研究を進めたいと考えております。
       現在、「路肩等の崩壊に伴う転落」を防止するため、法令上、路肩の崩壊防止措置等が義務付けられていますが、その具体的手法については明らかになっていません。
       これまで筆者らが実大規模の斜面を作製して行った土砂崩壊実験において、崩壊の前兆をひずみゲージ式のセンサーでとらえることができましたが、目視で崩壊の前兆を確認することは非常に困難であることがわかりました。そのため、路肩の崩壊防止に必要な条件(建設機械から路肩までの距離、斜面の高さ・傾斜等)を明らかにすることが今後の課題となっており、この問題を解決するために実験及び数値解析等により研究を進めていきたいと考えています。

4.建設機械の労働災害防止に関する試み


 最後に、ドラグ・ショベルによる労働災害防止に関する取組みのひとつを御紹介します。建設業で発生した労働災害事例について、災害の発生原因や防止対策等をイラストを交えて解説している書籍は少なくありません。しかし、それらの多くは、1つの事例について1枚又は数枚のイラストで事例が説明されており、災害に至った間接的な要因については述べられていません。災害の発生状況を詳細に説明するほど、文章量が多くなってしまいます。そこで、筆者らは災害の発生に至るまでのプロセスを漫画にして、災害の発生状況や原因、対策等について作業者が理解しやすいような資料を作成しました。その一例を紹介します。
 災害の発生状況を下記に示します。下記の事例を漫画にしたのが図4です。図5には、災害の発生原因と防止対策に加え、防止対策の例をイラストで示しました。
災害の発生状況(斜面上からドラグ・ショベルが転落)

 台風により崩壊した県道の復旧作業のため、ドラグ・ショベルを用いて、崩壊面の下部で掘削作業を行うこととした。誘導者2名を配置し、ドラグ・ショベルが斜面(勾配35°・8°)を下りていた。谷側に勾配がきついため、誘導者の一人が「斜面を真っ直ぐ下りるように。」とオペレーター(被災者)に伝えたが、オペレーターは誘導者に従わず、斜面の途中で進行方向を変えてドラグ・ショベルを移動させようとした。進行方向を変える際にドラグ・ショベルのバケットを地山に押し当てて機体の安定を保っていた状態であったが、前進するためにバケットを少し上げたときに機体が傾き、転倒した。オペレーターは機械とともに斜面下に転落し死亡した。


図4 災害の発生状況

図5 災害の発生原因と防止対策

 このように、災害の発生状況が理解しにくい事例について、漫画にすることによりわかりやすくなったと思います。「走行中斜面からドラグ・ショベルが転落した」という直接的原因だけではなく、「なぜ、その作業をしなければならなかったのか」という間接的要因も明らかになります。同じような災害を防止するためにどうしたらよいのかを議論する教材になる可能性もあります。今後は、建設機械以外の事例についても、漫画とイラストを作成して、安全教育資料として活用可能なものを作成したいと考えています。

5.おわりに


 建設機械の中でも多くの災害が発生しているドラグ・ショベルの労働災害について、災害の分析結果を御紹介しました。分析の結果から、大別して「建設機械と作業者との接触」と「機械が斜面や路肩から転落する災害」の傾向の異なる2種類の災害が発生していることがわかりました。
 これらの災害を防止するために、平成24年からプロジェクト研究「建設機械の転倒及び接触災害の防止に関する研究」(4年間)として研究を行っていく予定です。プロジェクト研究の中で、筆者は「斜面や路肩から建設機械が転落する災害を防止する研究」の代表者として担当します。研究成果が法令、指針、ガイドライン等に反映されることなどを通じて、労働災害が減少することを目指して研究を進めていきたいと思っております。

(謝辞)
 本コラムの一部には社団法人全国建設業労災互助会からの受託研究により得られた成果を使わせていただきました。末筆ながら謝意を表します。

(建設安全研究グループ 任期付研究員 堀  智仁)

刊行物・報告書等 研究成果一覧