労働安全衛生総合研究所

働く人の健康に関する研究施設の公開(登戸地区)
-平成24年度一般公開を終えて-

 4月22日の日曜日、登戸地区の平成24年度研究施設一般公開を開催いたしました。午後1時から受付を開始しましたが、午後2時頃には100名を超す方々が会場に入られ、最終的には140名の方々が一般公開にお越しくださいました。当日はやや肌寒い天候ながら大きく崩れることもなく、昨年と同程度の参加者をお迎えすることができました。様々な世代・職業の方々に研究所を御覧いただいたことで、説明・案内を担当しました職員一同、御来場の皆様とともに充実した一日を過ごすことができましたことを感謝申し上げます。
 一般公開では、講演、施設公開、研究体験、ポスター展示等の内容を設けました。以下、順にその様子を御紹介いたします。

1.講演


 講演は、「腰痛を防ぐには」と題して2回行いました。職場での腰痛発生件数が多いことから始まり、腰痛の要因を挙げ、人力で扱える重量、作業姿勢ごとの腰への負担度を数値で示しながら予防方法のポイントを説明しました。後半の介護作業における具体的な予防対策の説明で、聴講の皆様の理解は更に深まった様子でした。1回目の講演時には用意した席が全て埋まる盛況となりました。

「腰痛を防ぐには」の会場

2.施設公開・研究体験


 電子顕微鏡室では、「電子顕微鏡で知るミクロの構造」と題して、走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡等で観察した様々な物質の微細構造の違いを写真で説明し、実際に電子顕微鏡で試料観察もしていただきました。電子顕微鏡で拡大することにより、アスベスト繊維が持つ針状形状の特徴を実感されたことと思います。
 「光を使ったアスベストの見分け方」も同じ部屋で行いました。様々なアスベスト製品を前に、位相差光学顕微鏡あるいは近赤外分光計で気中・建材中のアスベスト繊維の検出、計測が行えることを紹介しました。また、震災廃棄物の処理に当たっては、アスベストばく露を避け、アスベスト製品を適切に分別処理することが重要なことを説明しました。

サンプルに触れるだけでアスベスト
を見分けるには:近赤外線を使った
分光計を手に、正しい使用法を説明中


 「ロールボックスパレット使用による危険とその対策」は安全に関する研究紹介ですが、商品の搬送に利用されている、いわゆる“かご台車”を持ち込み、パワーポイントによる説明を交えて、使用時に起こる手足の負傷の実態と対策を説明しました。実際にロールボックスパレットを取り扱われている参加者からは、大変参考になったとの感想をいただきました。

商品運搬に活躍するロールボックスパレット(右側):
取り扱いに潜む危険と対策は?

 病理実験室では、「組織標本・動物行動からみた化学物質の影響」と題した公開を行いました。生体組織の観察として、口腔内細胞を綿棒でこすり、染色し、光学顕微鏡で観察するまでの体験に加え、血液のヘマクリット検査法の体験をするなど、趣向を凝らした体験型の展示、紹介を行いました。参加した方々は顕微鏡下に見える細胞の姿を興味深く御覧になっていました。

病理実験室での模擬試料によるヘマクリット検査法の体験

 Icp発光分析装置のある実験室では、「気中の重金属測定方法」と題して、高温のプラズマ炎で重金属を原子化し定量的に分析する方法が、作業環境中の微量重金属分析に活用されていることを紹介しました。間口の狭い部屋のため装置が十分見学できない場合もあったようですので、次回以降、改善したいと考えております。

高感度の元素分析装置(ICP発光分光計)の
前で解説する気中の重金属測定法


 振動実験室では、「人体振動」と題して、手腕振動と全身振動を計測する装置の実演を行いました。制御された全身振動を体験し、防振手袋の効果を知ることで、振動とその対策に関する理解が深まったことと思います。

防振手袋の効果を体感する振動実験室での光景


3.小規模実験装置を使った研究体験・デモンストレーション


 「唾液を用いたストレス評価」と題した体験では、唾液中のα-アミラーゼ酵素を簡単に計測する小型機器を使い、ストレス度のチェックを行いました。
 「DNAの調べかた」と題したコーナーでは、普段よく耳にするDNAがどのようなステップを経て測定され、労働衛生分野で応用されているかを説明しました。実際の分析装置を前にした具体的な説明に多くの方の理解が得られたようです。
 「磁界の測定」と題したデモンストレーションでは、磁界(磁場)の説明と磁界を計測する装置の紹介を行いました。身近な電気製品から発する磁界の様子を実感されたことと思います。

スピーカーから出る磁界を測定中:マイクが拾う
声の周波数変化の様子とともに「磁界の測定」コーナーで説明

 その他に「心拍から知る体の状態」と題したコーナーでは、聴診器、心拍モニター計などを使い、心臓の働きについて紹介しました。

 研究ポスター展示会場では、「屋外での熱中症死亡災害における気象条件」、「労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)」、「オフィス環境における温湿度とそれに伴う健康影響」、「血圧とストレス」など、6枚のパネル展示を行い、担当者が説明を行いました。

4.御来場の皆様のアンケート結果から


 回答いただいたアンケートからみますと、今回の一般公開が初めてという方が約半数でした。公開内容については、よかったという御感想を多くいただきましたが、その反面、会場が離れすぎている、場所がわかりにくいなどの御不便をおかけした面もありました。これは、昨年度の反省を踏まえ混雑を避けるために会場を分散させたためですが、本年度、御指摘いただいた点も踏まえ、来年度は、参加いただく皆様に、よりわかりやすく、かつ、安心して館内を見学いただけるよう更に改善をしていきたいと考えております。
 今年度の一般公開を盛況のうちに終えましたことを御報告するとともに、皆様の御協力と温かい励ましに厚く御礼申し上げます。
 なお、登戸地区の公開内容については、プログラムにも概要が記載されていますので、御興味のある方は下記のURLからダウンロードして御覧ください。

https://www.jniosh.johas.go.jp/announce/2012/H24noborito_pamphlet.pdf[PDF]

(環境計測管理研究グループ 上席研究員 篠原 也寸志)

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