労働安全衛生総合研究所

働く人の安全に関する研究施設の公開(清瀬地区)

 4月18日(水)13時30分から17時まで、清瀬地区の平成24年度研究施設一般公開を開催いたしました。当日は、曇りがちではありましたが、桜花舞い散る中、温暖かつ爽やかな微風もあり絶好の見学日和となりました。正午過ぎから続々と来場者があり、予定よりも早く受付を開始しましたが、午後4時の受付終了間際まで客足は途絶えることがありませんでした。最終的には、341名という大勢の方々に御来場いただきました。
 清瀬地区では、講演、施設公開(実験を含む。)、展示等計20件の公開を実施しました。以下、これらの様子を簡単に御紹介します。

1.講演(13:30-14:30)


 講演は、本部棟大講義室(定員150名)において、まず、安全講演『静電気安全の基礎』を、引き続き、健康講演『心の病による休業者』をぞれぞれ30分ずつ行いました。安全講演では、爆発・火災の原因となる静電気について、リスクアセスメントの実施方法を中心に講演を行い、終盤には静電気による可燃性液体への着火実験を行いました。健康講演では、現在深刻な問題となっている職場におけるメンタルヘルスについて、調査データに基づく現状を紹介し、原因と対策、特に休業者の職場復帰に向けた具体的な対応策について解説しました。講演後の質疑応答も活発で、興味深いテーマであったことが感じられました。

講演の様子(左:安全講演、右:健康講演)

2.実験施設・実験室公開


 所内9箇所の実験施設・実験室において、次の内容で実験装置等の公開及び研究成果の紹介を行いました。どの会場にもたくさんの方々に御来場いただきました。
(1) 環境安全実験棟・温熱環境実験室
 『運動・発汗サーマルマネキンを用いた作業服の保温性、透湿性の測定』と題して、人体と同じ生理作用を呈するマネキンを用いて各種の作業服を着用中の発汗量等を測定した結果及び熱中症対策について解説しました。
(2) 建設安全実験棟・遠心模型実験室
 『地盤に関係する建設事故を実験的に再現する-遠心力で土砂崩壊を再現-』と題して、遠心力載荷装置による加速試験で得られた土砂崩壊に関する実験結果を解説しました。また、実際に装置を稼働させ、土砂が崩壊する様子をモニターで観測していただきました。
(3) 建設安全実験棟・多目的大型実験室
 『建設事故を防止するための構造実験設備-どうすれば建設事故を防げるの?-』と題して、建設現場で用いられる仮設構造物の強度に関する実験結果、地震を再現して木造構造物の倒壊を実験する装置等の紹介をしました。
(4) 施工シミュレーション施設
 『土砂崩壊を実大規模で再現する実験施設-崩壊は予知できるか?-』と題して、実規模の土砂崩壊実験設備を紹介するとともに、過去に行った土砂崩壊実験の様子をビデオを使って解説しました。
(5) 材料・新技術実験棟・腐食促進実験室
 『電子顕微鏡・レーザー顕微鏡を使った金属破断面の観察 -顕微鏡で見る破壊の世界-』と題して、金属疲労によって生じた特徴的な破断面の顕微鏡写真(フラクトグラフィ)を中心に紹介しました。また、見学者自ら顕微鏡を操作して金属表面を観測する体験をしていただきました。
(6) 材料・新技術実験棟・事故拡大防止実験室
 『不純物の混入が引き起こす爆発・火災の労働災害』と題して、特定の化学物質が混ざり合ったときに起こる異常発熱及び爆発現象について解説しました。また、実際にガラスびんに混合物を入れ、異常反応によって爆発が発生する現象を体験していただきました。
(7) 機械安全システム実験棟・大実験室
 『機械設備の安全対策』と題して、フォークリフト、プレス装置等の最新の安全装置を展示するするとともに、実際に安全装置が作動して機械が安全に停止する様子を見ていただきました。
(8) 配管等爆発実験施設
 『爆発被害の予測と評価』と題して、各種の可燃性ガスの爆発によって生じる爆風と被害の大きさについて解説しました。また、実際に、金属管にメタン又は水素を入れて着火・爆発を起こす実験を行い、メタンの場合は金属管から若干火炎が吹き出すもののほとんど音もなく弱い爆発ですが、水素の場合は、大きな破裂音が生じ、爆ごうという衝撃波を伴う激しい爆発となることを体験していただきました。
(9) 電気安全実験棟・粉体帯電実験室
 『粉体貯蔵槽で発生する静電気放電とその防止対策 -パチッ!静電気を直接目で見よう!-』と題して、サイロに粉体を貯蔵する際に生じる静電気放電(コーン放電)を写真及びビデオで紹介しました。また、実験用器具を用いて、静電気放電によって可燃性液体を着火・炎上させる実演を行いました。



実験施設・実験室公開の様子

3.展示


 展示は、本部棟に集中してブースを設け、次のような内容で実施しました。
(1) 『暑熱作業環境における赤外線熱画像分析法の研究 -作業者温熱生理負担の客観的評価-』
 赤外線熱画像を用いて熱暑作業における体温の上昇を人体に接触することなく測定する手法とその応用例について、パネルを用いて解説しました。
(2) 『「熱の出入り」をコントロール-ガレキ火災、熱中症、そして反応暴走-』
 震災で発生したガレキの自然発火や熱中症は、内部で発生した熱が外部に放散されずに蓄積することによって生じますが、これは化学反応の暴走による爆発現象と類似した現象であることを示し、対策のポイントを解説しました。
(3) 『爆発火災データベースによる事例の検索』
 当研究所が開発した爆発火災データベースを紹介するとともに、見学者に実際に端末から事例検索をしていただきました。
(4) 『匂いと労働者の健康影響-脳の病理組織と動物行動からのアプローチ』
 匂いが人体に与える影響について、マウスを使った実験の様子をビデオ及びパネルでで紹介するとともに、見学者自ら病理組織の標本を光学顕微鏡で観測する体験をしていただきました。
(5) 『見えないほこりを光で測る-種々の粉じん濃度測定法の研究-』
 最近は、ナノ粒子という極めて小さい粉体が製造されるようになり、健康への影響が懸念されていますが、これを測定するための特殊な測定器を展示するとともに、デモ運転を行い実際の測定を体験していただきました。
(6) 『近赤外線分光計による建材中のアスベスト検出法-有害物質の迅速なスクリーニングに向けて-』
 肺ガン等の原因となるアスベストの濃度を迅速かつ簡易に測定するための「アスベストアナライザー」を展示してその測定原理を解説するとともに、東日本大震災の被災地における測定例を紹介しました。
(7) 『唾液によるストレス検査- α-アミラーゼを指標に -』
 唾液に含まれるα-アミラーゼという酵素は、ストレスと相関関係があることが知られています。この酵素の分析装置を使って、実際に見学者から唾液を採取して測定し、ストレスの度合いを判定しました。
(8) 『労働衛生関係の最近の研究成果に関するパネル展示』
 「OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)の導入効果」、「節電下のオフィス温熱環境」、「重金属の生体への影響」等の最近の研究成果をパネルで紹介しました。
(9) 『昔の労働安全衛生のポスター展』
 戦前及び戦後間もない時期を中心に、国内外の労働安全衛生のポスター約30枚を展示しました。これらのポスターは、文化遺産として貴重なだけでなく、現在にも十分通じるメッセージ性を有するもので、多くの見学者が熱心に鑑賞していました。

4.おわりに



 来場者に直接感想をお聞きしたり、アンケートの結果を見る限りでは大多数の方には御満足いただけたものと思っております。今回は、多数の来場者があることを想定し、受入れには万全を期していたつもりでしたが、一部の会場では人垣ができて見えにくいこともあったようですので、今後の反省材料にしたいと思います。
 また、講演時間が短すぎるとの意見も多く寄せられましたが、一般公開では特定箇所に偏ることなく多くの施設等を御見学いただきたいとの趣旨からこのような時間配分としました。講演については、安全衛生技術講演会等が別途開催されておりますので、御参加いただければ幸いです。
 なお、清瀬地区の公開内容については、パンフレットにも概要が記載されていますので、御興味のある方は下記のURLからダウンロードして御覧ください。
https://www.jniosh.johas.go.jp/announce/2012/H24kiyose_pamphlet.pdf[PDF]

(電気安全研究グループ 上席研究員 山隈  瑞樹)

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