労働安全衛生総合研究所

土砂崩壊の実大シミュレーション実験

 私たちは労災事故を無くすために安全の研究を行っていますが、今回は土砂崩壊の危険についてお話ししたいと思います。

 土砂崩壊という現象は皆さんもよく耳にされるかと思いますが、工事現場にもその危険が存在します。特に斜面工事では形状や高さなどが日々変化するため、他の産業現場と比較して危険性も変動するという安全上の難しさがあります。また、工事は期間が限られているので「短期的な安定問題」とも言われますが、間近で作業する労働者にとっては命を左右する問題であり、短期だからといって軽視することはできません。また労働者は様々な現場で斜面工事に携わりますので、別の見方をすると長期的な問題とも言えます。

動画1:斜面を掘削(切土)して不安定化  地震や大雨によって斜面が多数崩壊しますがこれを1次災害と見ると、続いて行われる救出や復旧の活動にも2次災害の危険があり、その防止は重要な課題となっています。この解決のため私たちは復旧作業に潜む危険を調査研究しています。その一例として、堆積した土砂の除去作業における危険を実験的に調査しましたので、その様子をごらん下さい。 「こちらをクリック」(動画1を再生)。

動画2:切土からしばらくして崩壊する斜面  当研究所の施工シミュレーション施設において実大斜面を建設機械で掘削し、土砂の除去作業を再現しています。実験では段階的に掘削を繰り返し、高さ2mの時に斜面が崩壊しました。この実験で注目すべきことは、掘削の終了から崩壊までに時間差がある現象を確認できたことです。 「こちらをクリック」(動画2を再生)。

 画像右下の時計は実験開始からの経過時間を示しています。掘削は3:16:08に一旦終了していますが、崩壊は3:26:31に発生しています。すなわち崩壊までに約10分の時間差が存在したのです。もしこのような現象が実際の現場でも起こったら、「掘削しても崩れない、大丈夫だ(安全だ)」と近づいて被災したかもしれません。このような時間差は土砂の性質や掘削後の安定状態によっても異なるため作業では注意が必要です。

動画3:さらに時間が経過して再崩壊する斜面  さらにこの実験で興味深いことは崩壊が一度で終了せず、再崩壊したことです。 「こちらをクリック」(動画3を再生)。
 映像は3:35:05からのものに切り替わっていますが、先ほどの第一崩壊から約8分経過した3:35:18に大規模な第二崩壊が観察されました。これによって「斜面は崩壊して安定化する」ばかりでなく再崩壊する可能性もあることが実験的に証明されました。

動画4:計測値の応答と斜面が崩壊する様子  このような危険から作業する人々を守るためには、第一義的には崩壊を抑止すること、すなわち掘削時の斜面を安定勾配にすることや構造物で補強することが必要です。これに加えて二重の安全対策を講ずることも有効です。当研究所では計測的な手法による危険の把握と警報による避難の実施についても研究を行っていますが、今回この崩壊を予知することに成功しました。 「こちらをクリック」(動画4を再生)。

 この動画はグラフとビデオを同期させており、左側にある2つのグラフはセンサーからの応答を時刻歴で示しています。上側は当研究所で開発した「ひずみ棒」の応答を示し、下側は一般的手法である変位の応答を示しています。反応に正負の違いはありますが時間の経過とともに値は増加しており、開発した新手法によっても斜面の変化は捉えられていることがわかります。この「ひずみ棒」の特徴は設置と使用が簡単なことですが、その詳細については別の機会に譲りたいと思います。
 ビデオに映る赤ランプはひずみ棒に接続した警報器ですが、崩壊の約40秒前に点灯して危険を知らせています。肉眼では判別できない変化も、センサーでは可能な場合があります。避難時間は必ずしも十分でないかもしれませんが、土砂の直撃を避けられる程度の離隔は確保できるのではないかと考えています。

 今回のコラムでは、当研究所の施工シミュレーション施設で行っている土砂崩壊の実大実験を紹介し、実験から明らかになった復旧工事に潜む危険とその対策をお話しさせていただきました(詳しいスライドはこちらをクリック)。作業現場には依然未解明な危険が存在しており、更なる研究が必要とされています。私たちは安心・安全な仕事環境を実現できるよう今後も努力したいと思っています。

 最後になりましたが、この度の東日本大震災で被災された皆様には心よりお見舞いを申し上げます。今後の復旧作業を安全に進め、更なる悲劇を繰り返させないことが私たちの使命と考えています。被災地の一日も早い復旧と復興を心よりお祈りしております。

(建設安全研究グループ 上席研究員 玉手 聡)

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