労働安全衛生総合研究所

溶接作業場における粉じん対策に関する研究

 じん肺は古くから知られる代表的な職業病であり、その予防・対策に関しては既に膨大な研究報告が存在します。我が国におけるじん肺の発生状況を見ると、過去30年間で新規有所見者数は大幅に減少しており、これには継続的な粉じん研究の寄与も少なくなかったと考えられます。しかしここ5-6年は、それまでの減少傾向が横ばいに転じており、平成20年では「じん肺およびじん肺合併症」の発生件数は587人となっています。アーク溶接作業者がじん肺患者の中で目立つようになったのも近年の傾向で、生産現場での溶接粉じん対策が、今なお労働衛生上の重要な課題である実状を示しています。
 溶接作業場における粉じん対策は、他の粉じん作業場と比べると概して遅れがちなのですが、これは溶接作業に特有の諸事情(高濃度の粉じんが呼吸域近傍で発生すること、また、粉じん発生源が多くの場合に移動を伴うこと、など)が背景にあるからと考えられます。したがって、じん肺の防止対策上、溶接粉じん問題は今でも外せない研究対象であり、当研究所でも溶接現場における作業環境管理に関する研究を10年以上にわたり地道に行っております。勿論、溶接作業に伴う有害因子は粉じんに限らず、有害光線や電磁波などに関する研究も精力的に取り組み多くの成果を計上していますが、以下にはこれまでに行った溶接粉じんに関する研究について簡単に御紹介したいと思います。

【溶接粉じんの測定に関する研究】


  • 粉じん計の炭酸ガスアーク溶接ヒュームに対する質量濃度変換係数(K値)について;溶接電流により発生粉じんの粒度分布が変化するため、粉じん計のK値もこれに感応して変化する。また、粉じん計の位置(サンプリング位置)によってもK値は変化する。
  • 溶接作業における個人ばく露濃度測定法の提案;溶接作業者が着用する遮光面体の内外で大きな濃度差が生じることを確認し、面体外サンプリング(所謂、“C測定”と呼ばれる方法)が誤りである事を証明した上で、適切なばく露濃度測定法を提案した。

【溶接粉じんの対策に関する研究】


  • 光センサー式溶接用排気フードの試作;移動するアークの位置を光センサーによって常に捉えアークの動きに追随する機能を備えた排気フードを作製した。
  • 吸引トーチの粉じん捕集能力の検証;一般に捕集効果が高いとされる吸引トーチの性能が、溶接姿勢等によって如何に変化するかを検証した。
  • 排気風速と気孔発生との関係;炭酸ガスアーク溶接に局所排気フードを適用する際の指標として、ばく露と溶接欠陥(気孔)発生を同時に抑制し得る排気風速を提示した。

 これらの研究成果は何れも論文・報告書などの形で公開されています。溶接作業場の環境管理に関心のある方々のご参考となれば幸甚です。


(環境計測管理研究グループ 上席研究員 小嶋純)

刊行物・報告書等 研究成果一覧