労働安全衛生総合研究所

外部からの依頼に応じた見学・研修会

 当研究所においては皆様からのご依頼に応じて見学・研修会を開催しています。その際、可能な限り見学・研修者の皆様との意見交換会も開催しております。意見交換会は、皆様から労働災害防止や労働者の健康の保持増進、職業性疾病に関わる現状、抱えている課題、当研究所への期待等をお伺いし、それに対し研究員が回答する形で進めます。当研究所にとっても事業場の最前線の労働災害防止ニーズ等を知るよい機会と考えております。今回その一例をご紹介します。

見学・研修会スケジュールの一例


見学・研修会スケジュールの一例

意見交換会における QA事例


Q1:リスクアセスメントにおけるリスクの見積もりについて、適正評価のために参考となるものはないか。

A1:国際規格のISO/TR14121-2がリスクアセスメント実践のガイドラインになります。ただし,JISにはなっていないので,国内の資料としては中災防が発行している報告書が適当と思います。これらは厚労省のHPでも公開されています。


Q2:リスクの高い機械に対し適当な安全制御装置の提供等、リスク低減措置に関する情報提供源のようなものはないか。

A2:安全機器メーカーの製品紹介のパンフレットなどが最新情報になります。また当研究所においても,以前に技術資料を発行したことがあります。これらをホームページ上で公開すること等を今後検討していきたいと思います。


Q3:漁船のロープ巻き取り機による労働災害が発生したことがあるが、巻き取り中にそれを停める安全制御装置はないか。

A3:トリップバーに類似した方法が有効だと考えております。ただし,そのためには巻き取り機を急停止させる機構が必要となります。なお,本件については以前当研究所から報告書を提出したことがあります。


Q4:機械の包括安全指針により機械メーカーは機械の製造を行いリスクの低減が図られているが、一方、それを使うユーザー、特に中小企業等では機械の残留リスクがよくわからない。何かいい対策はないか。

A4:昨年度中災防の下で設けられた調査委員会の見解を概説いたしますと,”残留リスク及び重篤な危害が予見された危険源については一覧表などの分かりやすい形で情報提供するべき”とのことでした。本件は,第11次防で掲げられている課題で,また現在,厚労省下に検討会が設けられ議論されている課題でもありますので,その進捗を待ちたいと考えています。


Q5:現状、稼働している機械は古いものが多く、それらは安全対策が十分でないものが多い。これら機械に対し、後付けで安全対策を講じる場合、それらを適切に選定する方法がわからない。目安となるようなものはないか。

A5:機械の保護方策の選択に単純化・画一化された方法はありません。いかなる場合も常に3ステップメソッドに立ち返り,そこにある優先度に従って,広い視野をもって検討を重ねる必要があります。


Q6:港でクレーンのワイヤー切断による事故が発生したが、ワイヤーメーカーの示す交換時期よりも短い時期に切断した。どのような理由が考えられるか?

A6:概ねワイヤーロープの損傷は時間に比例しているのですが、短い時間で破断している場合は、過荷重で吊っている等が考えられます。また、シーブの数によってはワイヤーロープの寿命を短くすることもあるので注意した方がよいと思います。


Q7:サーボモーターを使ったプレス機で事故が発生したが、これに関する研究を行っているか。

A7:サーボプレスの安全要求事項を定めたJIS B 6410の策定に参加しました。また,機械サーボプレスの急停止時間決定方法に関する研究を実施しております。本研究の成果に関してはSDとして近日中に公開する予定です。


Q8:ワイヤーロープの切断事故が発生した。外観では異常はわからない。非破壊検査等で点検・検査する方法はないか。

A8:渦流探傷をつかって内部の破損を調べる装置があります。グリス切れを起こしたロープは内部ほど損傷が進んでいるため表面に出ないケースもあるようなので注意が必要です。


Q9:アルキルアルミと水とが反応する災害が2件ほど発生したが、現場ではこより等で水分がつくかどうかで判定しているような状況である。対処法はないか。

A9:金属溶湯を使う事業所等でも、同様に水分による災害発生の問題を抱えておりますが、抜本的な方法はありません。例えば溶湯中のごみをよりわけるためのザルのようなものがあるのですが、それ自体は水滴が見えなくても湿潤している場合があり、外目からは全く分からないようです。従って、使用している装置によりますが、事前乾燥を徹底することに尽きるかと思います。たとえば、どのぐらいで乾燥できるかの目安を別途得ておいた上で、乾燥空気を循環させたり、温度を上げる等の乾燥手段を講じることになります。
爆発威力については、前出の水蒸気爆発の評価は極めて難しいですが、アルキルアルミと水とが反応した場合の爆発威力、また発生したガスによる爆発威力については見積もることが可能です。


Q10:転倒災害をいかに防ぐかは重要な課題である。実験施設を見学し下肢の筋力と関係のあるステッピング動作による転倒リスク評価方法は現場の労働者が楽しみながらできると実感した。いつ頃完成するのか。

A10:ご指摘の通り,”楽しみ”の視点が必要になると考えております。それは転倒リスク評価の成績が芳しくない場合,当事者にとっては気分の良いものではないからです。我々もその点は考慮し,現場で継続し,成功体験が得られるフォローを含んだ評価パッケージにすることを考えております。完成時期については現在,β 版の検証をしているところであり,明言できませんが,数年以内にはと考えております。


 今後もこのような意見交換会を継続的に行うことにより、事業場での労働災害防止対策に関するニーズ等を把握し、研究活動に役立てていきたいと考えています。

(研修・見学担当 高木元也)

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