作業環境中におけるカビと健康影響
我々が生活している環境中には無菌環境でない限り非常に多くのカビが存在しており,室内のホコリ1g中には一万個から百万個,室内の空気 1 ㎥ 中には数十から数千個のカビが存在するといわれています。我々はカビを太古の昔から味噌,醤油,チーズなどの食品や,抗生物質のような医薬品に利用してきました。その一方で,カビは食品,建材,書籍などを劣化させて美観を損ねたり悪臭を発するだけでなく,カビが生えた物を食べたり,カビの胞子を吸い込むことで様々な健康影響を引き起す厄介な存在でもあります。
カビによる健康影響として,カビが生体組織中で増殖してしまう「感染」,カビが産み出すカビ毒(マイコトキシン)による「中毒」,カビに対する過剰な免疫反応による「アレルギー」がありますが,近年ではこれに加えて,カビが放出する揮発性有機化合物(MVOC)がシックビル症候群やシックハウス症候群の原因になっているのではないかと考えられています。空気中のカビ汚染が深刻な作業環境や,有害性の高いカビが浮遊している場所で作業することにより,表に示したような健康障害が生じる可能性があります。
カビが生えやすい物を扱う作業場所や,カビの発生しやすい高温多湿な作業場所だけでなく,一般的なオフィス環境でもエアコンやじゅうたんなどにカビが発生することがあり,特に夏場のエアコンやじゅうたんの掃除は重要です。また,カビというと湿った所に生えるというイメージがありますが,乾燥を好むカビもいて,近年の研究によれば好乾性のカビが室内環境にも多く存在し,アレルギーの原因になっていることが解ってきています。
作業環境中から見つかったカビ(アスペルギルス)の光学顕微鏡像
カビによる健康障害を予防するためには,化学汚染物質や粉じんなどと同様,作業環境中にどのようなカビがどの程度存在するのかを把握し,発生源を把握した上で対策を講じることが必要です。しかしながら,我が国では職場環境のカビなどによる生物学的汚染の実態把握は十分ではなく,測定方法や環境基準などについても現時点では定められていません。今後,様々な作業環境におけるカビのばく露状況や健康影響を把握し,これらの測定方法や環境基準などを整備することにより,カビによる職業性の健康障害を予防する有効な対策を講じていくことが求められます。
カビによる健康影響として,カビが生体組織中で増殖してしまう「感染」,カビが産み出すカビ毒(マイコトキシン)による「中毒」,カビに対する過剰な免疫反応による「アレルギー」がありますが,近年ではこれに加えて,カビが放出する揮発性有機化合物(MVOC)がシックビル症候群やシックハウス症候群の原因になっているのではないかと考えられています。空気中のカビ汚染が深刻な作業環境や,有害性の高いカビが浮遊している場所で作業することにより,表に示したような健康障害が生じる可能性があります。
感染症 | カビが呼吸器や皮膚などで増殖することによる健康障害 | 白癬,口腔カンジダ症,侵襲性肺アスペルギルス症,クリプトコッカス髄膜炎など |
---|---|---|
中毒症状 | カビ毒(マイコトキシン)による健康障害 | アフラトキシンやオクラトキシンによる肝臓癌,腎臓癌など |
アレルギー | カビの胞子や菌体に対する過剰な免疫反応による健康障害 | 喘息,過敏性肺臓炎,アトピー性皮膚炎など |
シックビル・シックハウス症候群 | カビの代謝産物である揮発性有機化合物(MVOC)による健康障害 | 咳,湿疹,倦怠感・頭痛・めまいなどの不定愁訴 |
カビが生えやすい物を扱う作業場所や,カビの発生しやすい高温多湿な作業場所だけでなく,一般的なオフィス環境でもエアコンやじゅうたんなどにカビが発生することがあり,特に夏場のエアコンやじゅうたんの掃除は重要です。また,カビというと湿った所に生えるというイメージがありますが,乾燥を好むカビもいて,近年の研究によれば好乾性のカビが室内環境にも多く存在し,アレルギーの原因になっていることが解ってきています。
作業環境中から見つかったカビ(アスペルギルス)の光学顕微鏡像
カビによる健康障害を予防するためには,化学汚染物質や粉じんなどと同様,作業環境中にどのようなカビがどの程度存在するのかを把握し,発生源を把握した上で対策を講じることが必要です。しかしながら,我が国では職場環境のカビなどによる生物学的汚染の実態把握は十分ではなく,測定方法や環境基準などについても現時点では定められていません。今後,様々な作業環境におけるカビのばく露状況や健康影響を把握し,これらの測定方法や環境基準などを整備することにより,カビによる職業性の健康障害を予防する有効な対策を講じていくことが求められます。
(環境計測管理研究グループ 主任研究員 齊藤宏之)