労働安全衛生総合研究所

ストレスに関連する症状・不調の確認項目の試行的実施

 労働政策審議会は、平成22年12月22日に厚生労働大臣に対し職場において労働者のストレスに関連する症状・不調を確認すること等を事業者の義務とする新たな枠組みを導入することが適当である旨の建議を行った。その労働者のストレスに関連する症状・不調を確認する質問項目として「疲労」「不安」「抑うつ」の3尺度9項目(以下「ストレスに関連する症状・不調の9項目」という。)が提案されたが、これを実際の労働現場で使用した際の妥当性や問題点については未検証である。そこで本研究では、日本の労働者の属性別構成比を模した集団を対象とした「ストレスに関連する症状・不調の9項目」を含む質問票調査を実施し、提案された高ストレス者の現在の割合と、その特性を基本属性、仕事関連要因や健康関連指標において比較・検討することで、その妥当性等について検討した。

 平成22年度労働力調査(総務省)を基に、性別での年齢階級別・産業別労働者数の構成比を模して調査会社のモニターから抽出した4,000名の労働者を対象に、自記式質問票を用いた郵送による横断調査を平成23年6月に行った。2,793票を回収し(単純回答率69.8%)、非労働者や必要な項目への無回答などを除く2,605名を有効回答とした。調査内容は、1)ストレスに関連する症状・不調の9項目、2)基本属性、3)生活習慣、4)仕事関連要員、5)職場環境の要因、6)健康関連指標、7)職場におけるストレスに関連する症状・不調の把握に対する労働者の意識や態度(ストレスチェックに関する意識や態度)である。

 平成22年「ストレスに関連する症状・不調として確認することが適当な項目等に関する調査研究報告書」で示された高ストレス者を判定するための尺度別カットオフ基準(疲労12点、不安11点以上、抑うつ10点以上)に該当する者は、疲労で3.1%、不安で4.0%、抑うつで8.5%であり、いずれか1尺度でも該当するもの(以下「高ストレス者」という。)は全体で10.6%、うち男性11.0%、女性10.2%であった。また「ストレスに関連する症状・不調の9項目」は、Cronbachのα信頼性係数等の心理測定学的指標で良好な値を示した。

 高ストレス者割合が高かったのは、基本属性では年齢が20代、未婚者、生活習慣では睡眠時間が短い、職場環境の要因では仕事の量が多い、仕事のコントロールが低い、上司や同僚のサポートが少ない、健康関連指標では、疲労の回復状態が悪い、身体的健康度が低い、精神的健康度が低い、精神的健康問題による休業日数が多いことであった。また、仕事関連要因では業種や職種によって性別での違いが認められた。

 ストレスチェックに関する意識や態度については、その実施結果により解雇等の不利益を被らないことが最も重視された(男女とも約4分の3)。判定結果の取扱いについては、本人のみに通知すべきだ(男性で約3割、女性で約4割)、本人の同意があれば会社に通知してもよい(男女共に約半数)と考えていた。ストレスが高いと判定された場合には、会社に申し出て医師の面接を受けられる制度があれば面接を受けたい(男性で約6割、女性で約5割)、一方、面接を受けたくない理由は、「会社に結果が知られると就業上の不利益につながりそうだから」が男女に共通して約8割にのぼった。

 本調査データにおいて、高ストレス者を判定するための尺度別カットオフ基準を疲労11点以上、不安11点以上、抑うつ11点以上として算出すると、該当者は疲労で4.9%、不安で4.0%、抑うつで5.5%、高ストレス者は9.4%となり、同基準を抑うつのみ12点以上として算出すると、該当者は抑うつで3.0%、高ストレス者は8.2%となった。

 以上から、ストレスに関連する症状・不調を把握する際に「ストレスに関連する症状・不調の9項目」は「よく眠れない」などの他の項目候補と比べても心理測定学的に有用な質問項目であること、様々な労働者属性や職場環境の要因においては高ストレス者の分布が異なること、種々の健康関連指標と高い相関を示すことが明らかになった。また、事業所で行われるストレスチェックに対しては、実施した結果により不利益を被らないことを重視している実態も明らかになった。高ストレス状態を判定するカットオフ基準についての検討は必要かもしれないが、労働者のプライバシーを十分配慮しながらストレスの症状・不調を把握して労働者に還元すること、ひいてはそれを職場の環境改善等の仕組みづくりにつなげることがメンタルヘルス対策として重要だと考えられる。


 

報告書全文[PDF:1389KB]


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