睡眠の環境を見直す
1. 安全と健康のために重要な睡眠
十分な長さの質の良い(ぐっすり眠られる)睡眠を取ることは、仕事の効率や安全のためにも、健康の維持のためにも重要です。そのために一番重要かつ前提となる条件は十分な長さの休息時間や休日の確保と、できるだけ適切・自然な時刻の規則的な睡眠なのですが、ここでは主に(睡眠に影響する心身の病気や睡眠障害がないことが前提となりますが)少しでも質の良い睡眠にするための寝室環境の条件について解説します。
2. よりよく眠るためのガイドライン
内外の学術研究結果に基づいた厚生労働省の指針として、2014年の睡眠指針を改定した「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」があります1)。この改定では、睡眠の長さの確保の重要性や、各ライフステージに固有の睡眠の問題、交替制勤務の問題などの重要な課題が新たに取り上げられました。今回話題にするよく眠るための工夫については表1に示した条件が取り上げられ、それぞれ解説されています。
| 環境 | 温度、音、光 |
| 運動、食事等の生活習慣 | 適度な運動習慣、朝食を取ること、就寝直前の夜食の悪影響、就寝前のリラックス、規則正しい生活習慣、日中の活動と夜間の休息のメリハリ |
| 嗜好品 | カフェインの注意点、アルコールや喫煙の悪影響 |
| 睡眠障害について | |
| 妊娠・子育て・更年期について | |
| 就業形態(交替制勤務)について | |
3. 睡眠環境を改善して、少しでも良い睡眠を
よく眠るための寝室の環境条件は、一見常識的なこと、簡単なことと思える事も多いために軽視されてしまう面もあるのではないでしょうか。睡眠中は意識がありませんし、実際には浅い睡眠であったり、夜中に何度も目覚めていたとしても朝には覚えていないという場合もあります。従って、たとえば「自分は部屋が明るくても眠ることができる」、「テレビをつけっぱなしでも寝られる」、「寒くても寝られる」という人もいるかもしれませんが、本当によく眠れているかはわからないという面があるのです。なお、睡眠環境の改善は自宅の寝室が主な対象になりますが、職場で睡眠を取る場合(宿直や夜勤における職場での睡眠・仮眠)では、事業者による安全で快適な仮眠室などの整備・設定も重要です。
4. 快適な寝室の温熱環境
寝室の温熱環境は睡眠の質や夏の熱中症などの健康障害防止のためにもきわめて重要です。蒲団に入って快適と感じる温度は、室温がやや涼しい程度となります。睡眠が開始されるとき(入眠)には身体の熱を放出して体温を下げるという生理的変化が生じます。寝室が暑すぎると、そうした生理的機能が十分働きません。もちろん冬の寒すぎる寝室も良くありません。寝室が寒いと、トイレに行くために睡眠の中断が生じる原因となる場合もあります。寝室の快適な温度は朝の起床まで維持されるのが望ましく、夏にはエアコンの利用が推奨されます。
就寝の1~2時間前に適度な温度の入浴などで体を温めると睡眠が改善するという研究があります2)。体を温めると血管が拡張するので、入眠時の放熱(熱放散)による体温低下がしやすくなるためと考えられます。
5. 寝室の音環境
寝室は音のない静かな環境にすべきです。ある程度までの大きさの騒音ならば慣れれば寝られるという経験をした人もいると思いますが、これにも個人差(敏感さや、どういう音が気になるかについての個人差)がありますし、やはり寝室はできるだけ外部の音を遮断する静かな環境にすべきです。
6. 寝室の照明
光と睡眠の関係
光が睡眠-覚醒の生理的リズム(体内時計)と密接に関係することがわかっています。体内時計は光を浴びる時刻に応じて調整されます3)。たとえば、朝起きた時にカーテンを開けるなどして明るい光を浴びること(朝の高照度光暴露)には、体内時計を昼に活動しやすいように整える効果があります。一方、深夜の強い光暴露は、体内時計を夜型の方向に変化させますので、入眠(睡眠の開始)を遅くする可能性があります。
寝室は暗い方が良い
さほど明るくない光(100ルクス)でも睡眠や体内時計に影響があるという研究があり4)、寝室や寝る直前に過ごす部屋は暗い方が良いことが示唆されます。真っ暗でない方が安心して眠れるという人もいますが、その場合もできる範囲で暗くしてみるのも良いと思われます。
就寝前の音楽・音声などについて
就寝時に音楽を聴くとよく寝られるという人がいます。穏やかな音楽のリラックスを促す効果は利用しても良いと思われます。しかし、入眠してからも音が鳴り続けると、自身が気づかないとしても睡眠の質には悪影響があります。入眠してからは静かになるようスイッチを切るか、タイマーでオフにすることは必要です。
なお、近年良く言われるようになりましたが、就寝前のスマートフォンなどの使用の習慣は、刺激的な情報による脳の活性化や緊張が睡眠に影響することや、前述の光刺激の影響もあるので改めるのが望ましいです。
7. 睡眠スペース(広さ)
衛生的で快適な寝具を使用することは言うまでもなく重要ですが、ここでは横たわるスペース(広さ)について取り上げます。職場の仮眠室では広さの制約があることも多いと思いますが、人がかろうじて収まるような最小限のスペースは睡眠環境としてあまり適切とは言えません。睡眠中に姿勢が変わる「寝返り」は睡眠での必須の反応なのです。たとえば入院患者が、その病状や治療薬の影響で寝返りができないことがあります。その場合は褥瘡(じょくそう)の予防のために看護師がベッド上の患者の姿勢を変える体位転換を実施します。寝返りは人の睡眠で必然的に発生するものと考えておくべきです。狭いスペースで眠ると姿勢の調整がしにくく、寝返りの時に周囲にぶつかるなどして良い睡眠とならない可能性もあります。これは、十分な睡眠時間による回復が必要な「主睡眠」(その日の主要な睡眠:通常の自宅での夜間睡眠や深夜勤後の昼間睡眠)では特に重要です。
8. ストレスと睡眠環境
睡眠前にリラックスできる環境
ストレスは睡眠の邪魔となります。就寝時のリラックスは重要です。長時間残業の弊害の一面として、仕事・緊張から解放された後に自宅などでくつろいで精神的クールダウンをする時間が不足する問題があります。寝る前には少なくとも1~2時間のくつろげる時間を確保することが望まれます。ストレスの問題は寝室の環境の改善だけでは解決できないかもしれませんが、少しでもリラックスできるための工夫をする意義はあります。たとえば職場の仮眠室の場合は複数人の同室での利用ではなく個室にすることで利用者の緊張を緩和できると思われます。
気にしすぎない
ここまで述べたように、うるさい音がなく温度が快適な環境であることは、良い睡眠を取るための寝室の必須条件と考えられます。よく眠るための条件は他にもさまざまありますが、気にしすぎて神経質になるのも逆効果かもしれません。自身が快適に眠れたと感じて、起床後も眠気などがなく元気に過ごせることが重要です。これを確認しながら自分に向いた実施可能な改善をするのが良いと思われます。
9. おわりに
寝室の環境が睡眠の質に及ぼす影響については、常識的にわかることが多いこともあって、かえって軽視されてしまう可能性があると思い、本稿のテーマとしました。先に触れたように睡眠の質とは睡眠の最中には自覚できない面があり、起床後の昼間の眠気や疲れによってはじめて自覚できるものです。自宅の寝室や職場の仮眠室の環境についても一度チェックをしてみることをお勧めします。
文献
- 厚生労働省(2023) 健康づくりのための睡眠ガイド2023[PDF] https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf(最終参照:2026年7月12日)
- Haghayegh, S. et al. (2019) Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews, 46, 124-135.
- Khalsa, S.B.S .et al. (2003) A phase response curve to single bright light pulses in human. Journal of Physiology, 549(3), 945-952.
- Zeitzer, J.M. et al.(2000) Sensitivity of the human circadian pacemaker to nocturnal light: melatonin phase resetting and suppression. Journal of Physiology, 526(3), 695-702.







