労働安全衛生総合研究所

緊結金具と単管パイプ間のすべり挙動に関する検討

1. はじめに


 建設現場では、単管足場が広く使われています。足場の強さは、単管パイプとそれを固定する緊結金具(クランプ)の摩擦力によって保たれています。そのため、この摩擦力が不足してパイプがすべると、足場全体の強度が低下し、事故につながるおそれがあります。
 すべりが起こる原因としては、緊結金具の締め付けが不十分なこと、摩擦力そのものが小さいこと、あるいは想定以上の荷重がかかることなどが考えられます。現在の基準ではボルトを締め付けるときの力(締付けトルク)が決められていますが、ボルトの直径などの違いによって実際にかかる力は一定にならず、足場の性能に影響を与える可能性があります。さらに、緊結金具と単管パイプの間の摩擦力そのものについては明確な基準がなく、これまでの研究も十分とはいえません。 このような背景から、すべりを防ぐための適切な対策や、締付けトルクの基準の検討が必要だと考えられます。本研究では、金具とパイプの間で起こるすべりの仕組みを実験によって明らかにすることを目的としました。対象とした金具は、現場でよく使われる直交クランプと自在クランプの2種類です。


2. 実験概要


 本研究の実験は、仮設機材の認定基準[1][2]に示されている緊結金具の引張試験方法や条件を参考にして行いました。実験装置の構成図と現場での設置写真を図1に示します。


図1 実験見取り図と実験写真
図1 実験見取り図と実験写真

 試験では、試験機には最大荷重50kNの万能試験機を用い、載荷速度は10kN/分としました。初期距離を30cmとし、載荷中と載荷後には、デジタルノギスでローラー間の距離変化を測定しました。
 認定試験では、すべりに関して次のような基準があります。直交クランプの場合は締付けトルク34.3N・mで、荷重が0~9.81kNまでの範囲でローラー間の変化が10mm以下であること。自在クランプの場合は締付けトルク44.1N・mで、荷重0.49~7.35kNの範囲で10mm以下であることです。
 本研究では、すべりの挙動に注目するため、ローラー間の距離変化を「特定箇所での相対的なすべり量」と定義しました。図1に示すB点のボルトの締付け力を、他のA・C・D点より意図的に弱くすることで、すべりをB点に集中させました。この条件で測定したすべり量を「すべり距離」と呼びます。さらに直交クランプと自在クランプを比較するため、自在クランプでは基準荷重(7.35kN)で測定したあと、同じ試験体をそのまま使い、直交クランプの基準荷重(9.81kN)まで載荷して再度測定しました。
 本試験は、直交クランプ12ケース、自在クランプ3ケース、合計15ケースについて実施しました。


3. 実験結果


(1) ばらつきについて
 同じ条件で試験を繰り返した結果を図2に示します。結果として、すべり距離のばらつきは最大5.51mmと最小4.37mmの間に収まり、平均は4.76 mm、標準偏差は約0.42 mmでした。これにより、同じ条件であればすべり距離の再現性はおおむね良好であるといえます。


図2 すべり距離のばらつき
図2 すべり距離のばらつき


 また、クランプを繰り返し使った場合と新しいクランプを使った場合を比べても、すべり距離に大きな差は見られませんでした。短時間のうちであれば、繰り返し使用しても摩擦性能は維持されることが確認できました。つまり、締め付けトルクが基準値を満たし、かつ単管パイプ表面が新品と同等程度または目立つ傷がない状態であれば、直交クランプと単管パイプの摩擦性能は安定しており、現場で再利用する場合も適切に管理すれば性能低下のリスクは低いと考えられます。

(2) トルク値とすべり距離の関係
 直交クランプと自在クランプのトルク値とすべり距離の関係を図3に示します。図3から、必要なトルク値(基準値:直交クランプの場合は34.3N・m、自在クランプの場合は44.1N・m)が確保されているとき、直交クランプは単管パイプとの固定機能を十分に維持できることが分かりました。一方、トルクが低い(6.4N・m以下)とすべり距離が急に大きくなる傾向が見られました。特に、一般的な手締めによるトルクは、測定結果の一例として約0.07N・m程度となる場合もあり、このような締付け不足や締付け忘れは重大な事故につながる危険があります。


図3 トルク値とすべり距離の関係
図3 トルク値とすべり距離の関係


 自在クランプについては試験数が少なかったものの、荷重7.35kNの条件では直交クランプと同様に、トルクが高いほどすべり距離が短くなる傾向が見られました。ただし、トルクが一定以下では、直交クランプと同様にすべり距離が急激に大きくなる現象も確認されました。
 一方で、自在クランプを9.81kNまで載荷した場合には、一貫した傾向が得られませんでした。これは、試験ごとにすべり距離を測定するまでの時間が異なり、その間に荷重がわずかに低下したことで、すべり距離が小さく見えた可能性があります。


4. まとめ


 本研究の実験結果から、短時間であれば直交クランプを繰り返し使用しても摩擦性能が大きく低下しないことが分かりました。
 また、締付けトルクが6.4N・m以上の場合には、金具の締付け力とすべり距離の間におおむね直線的な関係が見られました。一方で、トルクが6.4N・m未満になると、すべり距離が急に大きくなる傾向が確認されました。
 これらの結果は、適切な締付けトルクを確保することが、足場の安全性を保つうえで非常に重要であることを示しています。特に手締めのようにトルクが不足する状態では、重大事故につながる危険性が高いため、現場での確実な管理が求められます。


(建設安全研究グループ 任期付研究員 和 暢)

参考文献

  1. 仮設工業会:仮設機材認定基準とその解説(厚生労働大臣が定める規格と認定基準),2023.
  2. 仮設工業会:経年仮設機材の管理に関する技術基準と解説,2020.

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