ドイツ・シュツットガルト大学での在外研究報告
1. はじめに
労働安全衛生総合研究所では、在外研究員派遣制度に基づき研究員を海外へ派遣しています。この制度は、研究員の資質・能力の向上等を図るため外国の大学・研究機関において調査・研究を行うものです。私はこの制度により、令和7年2月から1年間、ドイツ・シュツットガルト大学に客員研究員として派遣されることになりましたので、赴任から現在までの研究状況などについてご報告します。
2. シュツットガルトでの生活
シュツットガルトは日本よりも少し北側に位置するドイツ南部の都市です。そのため,日本に比べて涼しく感じる日がよくあります。公用語はドイツ語ですが、日常的に英語でコミュニケーションできることが多く、予想していたよりも言語の壁で困ることは少ないです。穏やかな街並みで緑地も多く、野生のリスをよく見かけます。
3. 研究紹介
派遣先の研究機関「Institute of Mechanical Handling and Logistics(略称、IFT)」は、クレーンやエレベータ、橋梁、ロープウェイ、クライミングなど、様々な分野のロープを対象に強度評価や安全性評価などの研究を行っている世界有数の研究機関です。曲げ疲労試験機、引張疲労試験機、落錘試験機などロープに特化した多様な実験設備を有しています。
私はこれまでクレーン用ワイヤロープの破断事故防止を目的に、ワイヤロープの損傷予測手法、疲労寿命予測手法の研究に取り組んできました。IFTでは、ワイヤロープのシーブ上での曲げ角度が疲労寿命に及ぼす影響に関する研究に取り組んでいます。
4. 国際展示会「bauma(バウマ)」への参加
baumaは、 3年に一度ミュンヘンで開催される世界最大級の建設機械見本市で、今年の4月に開催されました。東京ドーム約12個分の敷地内に屋外展示場と屋内展示場が設けられ、3500以上の企業が出展しました。クレーンメーカやロープメーカなど私の研究に関連する企業も多数出展していたため、IFTのメンバと参加しました。屋外展示場のクレーンエリアでは、タワークレーンやトラッククレーンなど様々なクレーンが展示されており、実際のクレーンに搭載されたシーブやロープを間近で見ることができました。クレーンメーカやロープメーカのブースで、繊維ロープの開発状況、技術動向などを技術者と議論することができました。
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屋外展示場(クレーンエリア)の様子 | 屋内展示場の様子 |
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クレーンに搭載された繊維ロープとシーブ | クレーン用繊維ロープの展示 |
5. 国際学会「Ropedays」での発表
「Ropedays」はIFTが主催する国際学会で、今年の5月に開催されました。世界各国の研究者・技術者約80名が参加し、2日間にわたってロープに関する最新の研究・技術成果の発表、活発な議論が行われました。私は講演者としてこの学会に参加し、「New approach to identify wire breakage location in cross-section of steel wire ropes」というタイトルで研究成果を発表しました。この研究は、ワイヤロープの破断事故を防止することを目的に、シーブ曲げによるワイヤロープ断面の損傷状態を可視化する手法を提案したものです。多くの参加者に研究内容に興味を持っていただき、発表後は手法に関する質問や今後の展望についてのコメントを頂くことができました。
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講演中の著者 | 会場の様子 |
6. おわりに
赴任当初から現在に至るまで、在外研究員として非常に有意義な時間を過ごせています。労働安全衛生総合研究所の皆様をはじめ、多くの方々のサポートのおかげだと深く感謝しています。帰国後に労働者の安全確保に資する研究成果に還元するため、充実した研究生活を送れるよう今後も日々努力していきます。