労働安全衛生総合研究所

研究紹介(センターが取り組む研究に関連する研究論文の紹介)


脳・心疾患関係


短時間睡眠は虚血性心疾患のリスクを増加させる

出典論文:

Garde AH et al. Sleep duration and ischemic heart disease and all-cause mortality: prospective cohort study on effects of tranquilizers/hypnotics and perceived stress. Scand J Work Environ Health. 2013 Nov;39(6):550-8 PMID: 23804297.

著者の所属機関:

デンマーク国立労働環境研究所等

内容:

本研究では40-59歳の男性労働者5249名を対象にして、30年間、追跡調査を行った。その結果、全対象者の死亡率は53.9%となり、虚血性心疾患の死亡率は全対象者の11.9%であった。睡眠時間が6時間未満の短時間睡眠者(276名)では、睡眠時間が6-7時間の者(3837名)と比較して、虚血性心疾患のリスクがおよそ1.5倍増加していた。しかし、全死因にその関連は見られなかった。仕事や余暇中の心理的プレッシャーは睡眠時間の短縮と虚血性心疾患死亡率の増加に影響が見られなかった。一方、精神安定剤・睡眠薬を服用していた者の中では、睡眠時間が6-7時間の者と比較して、短時間睡眠者は虚血性心疾患死亡リスクが2?3倍増加していた。なお、精神安定剤・睡眠薬を服用していなかった者に関しては、睡眠時間と虚血性心疾患死亡率の間の関連は認められなかった。

解説:

短時間睡眠と脳・心臓疾患の発症率の関係は多数報告されており、本論文もそのうちの一つである。さらに、本論文は、睡眠薬等を服用していても睡眠時間が短い者では虚血性心疾患のリスクが高いことを明らかにしている。睡眠は心身を休めるために重要であり、そのための時間を確保することが必要である。


1日当たり3-4時間の残業が心疾患リスクを高める

出典論文:

Virtanen M et al. Overtime work and incident coronary heart disease: the Whitehall Ⅱ prospective cohort study. Eur Heart J. 2010 Jul;31(14):1737-44. PMID: 20460389.

著者の所属機関:

フィンランド労働衛生研究所等

内容:

ホワイト・ホールⅡ研究による前向きコホート調査に参加した労働者から、6014名を対象に過重労働と冠性心疾患の関連について解析した。解析対象は1日当たりの残業時間によって、1) 残業しなかったグループ3256名(54%)、2) 約1時間残業したグループ1247名(21%)、3) 約2時間残業したグループ894名(15%)、4) 3, 4時間以上残業したグループ617名(10%)という4つのグループに分類した。解析の結果、1日当たり3、4時間の残業をした労働者は、残業をしなかった労働者よりも冠性心疾患の罹患リスクが1.56倍高いことが示された。この結果は、冠性心疾患の罹患リスク要因と考えられる喫煙やコレステロール値の影響を調整した結果であり、長時間労働が冠性心疾患の罹患リスクを高める要因となることが示唆された。また、職務上の裁量権が少なく長時間労働をしている労働者は、裁量権がある労働者よりも冠性心疾患の罹患リスクが高い可能性が示唆された。

解説:

今回の調査研究は大規模な調査対象者に対する前向き調査であり、過重労働がいかに冠性心疾患の罹患リスクを予測できるかを検討した研究としての信頼性の高い研究の1つと言える。今回の解析では、長時間労働が冠性心疾患の罹患リスクを高める要因になりうることが示唆された。ただし、労働時間に関する情報の精査が正確であるか、精神疾患(うつ病や不安障害)の影響が考慮されていないこと、調査の対象者がホワイトカラーに限定され、ブルーカラーが含まれないことも、結果の適用範囲を慎重に考える必要がある。
注:ホワイト・ホールⅡ研究(Whitehall Ⅱ study)は、1985年から英国人公務員を対象に実施されている「ストレスと健康」に関する臨床試験。


体力(心肺持久力)と心疾患発症リスクとの関係(メタ解析)

出典論文:

Kodama S et al. Cardiorespiratory fitness as a quantitative predictor of all-cause mortality and cardiovascular events in healthy men and women: a meta-analysis. JAMA. 2009 May 20;301(19):2024-35. PMID: 19454641.

著者の所属機関:

筑波大学等

内容:

心肺持久力(cardiorespiratory fitness:CRF)が低いと脳・心疾患の発症やそれらによる死亡率が高まるなど、CRFが循環器疾患に強く関与することは多くの疫学研究で示されている。それにも関わらず産業衛生や公衆衛生の現場でCRFが活用されていない背景には、測定技術に関わる課題(いかに簡便に、安全にCRFを評価するか)や基準値に関わる課題(健康維持に必要なCRFの値はどの程度か)があるとされる。本研究は、筑波大学の研究グループがまとめたメタ解析(一定の条件を満たす多数の論文の結果をまとめて解析し、結論を導く研究手法で、エビデンスレベルが高い方法の一つとされている)の結果で、10,679の論文から基準を満たす33の論文が選出、分析され、CRFと心疾患との関係が検討されている。解析の結果、CRFが1単位(1 MET)増加すると心疾患発症が15%軽減することや、心疾患の発症を予防するには、男性(50歳)で8 METs、女性(同)で6 METsのCRFが必要であることが示された。

解説:

MET(metabolic equivalent)は身体活動の強さを表す単位であり、静かに座っている状態(安静)を1 METとしている。犬の散歩などでの歩行は3 METs(安静時の3倍)、軽いジョギングは6-7 METs(安静時の6-7倍)である。CRFを1 MET増加するために必要な体力はランニングスピードを時速1 km増加させる体力に相当する(論文内での著者らの説明)。JAMAからの発表ということもあり、CRFと心疾患との関係を明確にした研究として多くの論文で引用されている。


長時間労働が24時間自由行動下血圧に及ぼす影響

出典論文:

Hayashi T et al. Effect of overtime work on 24-hour ambulatory blood pressure. J Occup Environ Med. 1996 Oct;38(10):1007-11. PubMed PMID: 8899576.

著者の所属機関:

日立健康管理センター等

内容:

過労死等の主要なリスク要因として長時間労働があげられる。本研究では、長時間労働が心血管系に及ぼす影響を調べるため、47名のホワイトカラーの男性労働者の中で、正常血圧(収縮期血圧<140mmHg、かつ拡張期血圧<85mmHg)を示す21名と,軽度(Ⅰ度、Ⅱ度)高血圧(140mmHg ≤ 収縮期血圧<160mmHg、または90mmHg ≤ 拡張期血圧<105mmHg)を示す26名を対象にして、24時間自由行動下血圧測定を行った。さらに、これらの参加者を、月の時間外労働の長さによって、長時間労働のグループ(60時間以上の者)と、そうではない対照グループ(30時間以下の者)に分類した。最終的に、本研究では、1)正常血圧の長時間労働者10名(平均年齢42歳)、2) 軽度高血圧の長時間労働者15名(平均年齢47歳)、3)正常血圧の対照者11名(平均年齢39歳)、4) 軽度高血圧の対照者11名(平均年齢46歳)の4つのグループを設定し、血圧と心拍数の数値を比較した。その結果、正常血圧者において、長時間労働者の収縮期血圧と拡張期血圧は、対照者に比べて、統計的に高い値が示された。また、軽度高血圧者において、長時間労働者の拡張期血圧と心拍数は、対照者に比べて統計的に高かった。さらに、労働時間が不規則であった正常血圧者も調査した結果、繁忙期(月の時間外労働96時間程度)の血圧と心拍数は、繁忙期ではない時期(月の時間外労働43時間程度)と比べて、統計的に高いことが分かった。これらの結果は、長時間労働が正常血圧者と軽度高血圧者の心血管系負担を増大することを示している。

解説:

心血管系の過剰反応が慢性化すると、虚血性心臓病や高血圧症などの心血管系疾病リスク、さらにはこれらの疾患が原因とある死亡リスクの増加が報告されている。本研究の結果も、長時間労働が心血管系の負担を増大することを示していることから、長時間労働は心血管系疾病、さらには過労死等へのリスク増大につながるものと考えられる。


過労死問題を初めてとりあげた科学論文.過労死発症につながる要因を事例調査によって検討

出典論文:

上畑鉄之丞. 脳・心血管発作の職業的誘因に関する知見. 労働科学58(6), 1982

著者の所属機関:

杏林大学医学部

内容:

1973年から80年までの8年間の間に、著者の元に相談に訪れた脳心血管障害の急性発作を生じた52名の事例を対象にして、過労死発症の誘因となった職業性ストレスの内容について検討した。その内訳は以下のとおりであった。対象者の年齢は30-54歳までが48名と全体の9割を占めており、病名は脳血管疾患36名、心疾患16名であった。作業態様としては、管理的職務に従事する者が7名、知的・専門的技術労働を主とする者が15名、運転労働に従事する者が9名、夜勤・交替制労働に従事する者が11名、重筋労働に従業する者が7名で、その他が3名であった。過労死発症前の災害的な職業性ストレスの要因として考えられたのは、作業態様の違いによって、若干の相違が考えられたが、次の要因であった。慢性あるいは急性反復ストレスとして、長時間労働、休日なし労働、深夜勤労働の増加、作業上の責任負担、出張機会及び作業密度の増大があげられた。さらに、発症直前の急性ストレスとしては、一時的な激しい重筋労作、寒冷、暑熱などの気象条件、発熱などの身体的不調であった。

解説:

過労死の概念の提唱者として知られる著者の論文で、過労死の研究を行うに当たり、重要な論文として知られている。論文が出たのは過労死問題が社会に広く認知されるようになった1980年代であるが、ここにあげられている過労死発症につながる職業性ストレス要因は、現代社会においても同様に指摘できる重要なことである。


自己報告による業務中の身体活動量と心肺持久力との関係について:循環器疾患と総死亡率の重要性(Holtermann A et al, Scand J Work Environ Health, 2016)

出典論文:

Holtermann A et al. Self-reported occupational physical activity and cardiorespiratory fitness: Importance for cardiovascular disease and all-cause mortality. Scand J Work Environ Health. doi: 10.5271/sjweh.3563. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 27100403.

著者の所属機関:

National Research Centre for the Working Environment, Denmark(デンマーク国立労働環境研究センター)

内容:

1北欧デンマーク・コペンハーゲンの住民を対象とした循環器疾患に関する長期コホート研究(Copenhagen City Heart Study)からの報告である。1991年から1994年の間に登録された10,135人のうち、ベースライン調査時の年齢が20-67歳で、循環器疾患の既往歴がなく、勤務中の身体活動量(occupational physical activity:OPA)と心肺持久力の回答のデータが得られた男性2,190人、女性2,534人が対象とされた。追跡期間(中央値)は18.5年であり、期間中の全死亡852名のうち257名が循環器疾患により死亡した。循環器疾患による死亡のリスクを年齢、性、喫煙状況、体格、糖尿病の有無、収入、飲酒状況、余暇身体活動で調整し、コックス比例ハザード回帰分析により算出した。その結果、自己報告による心肺持久力が低い者は高い者より2.17倍(95%CI: 1.40-3.38)、OPAが高い者は少ない者より1.45倍(1.05-2.00)循環器疾患による死亡リスクが高まることが分かった。さらにOPAと心肺持久力のデータを統合した分析では、OPAが高く、心肺持久力が低い者は、OPAが低く心肺持久力が高い者より死亡リスクが6.22(2.67-14.49)倍高まることが分かった。

解説:

本研究は質の高いコホート研究からの報告であり、労働者の身体的負荷と疾病発症リスクとの関係を明らかにした点で重要である。一方、勤務中の身体的負荷と疾患との関係については、本研究のように身体活動量が多い(身体的負荷が高い)ことをリスクとする報告がある一方で、身体的負荷が低い(座位時間が多い)ことをリスクとする報告も少なくなく、やや混沌とした状況である。この点については労働者の身体活動量の評価方法に課題があるとされている。本研究でもOPAは4択、心肺持久力は3択から構成される単一の質問で評価されており、論文内でもこの点を研究の限界としている。労働者の身体活動量と疾患リスクとの関係を検討する今後の疫学調査に向けては、質問紙の信頼性、妥当性を高めることが課題となっている。


労働者の労働時間,睡眠時間,休日数と運動負荷試験中の血圧反応との関係

出典論文:

道下ら. 労働者の労働時間,睡眠時間,休日数と運動負荷試験中の血圧反応との関係. 産業衛生学雑誌. 2016;58(1):11-20. doi: 10.1539/sangyoeisei.B15021. Epub 2015 Oct 23. PMID: 26497611.[Article in Japanese]

著者の所属機関:

産業医学大学等

内容:

 本研究では、勤労者の職場環境や労働形態、労働時間、睡眠時間、休日数と運動負荷試験中の収縮期血圧の反応との関係について横断的に検討した。安静時血圧が正常であった労働者362名(男性79名、女性283名、平均年齢49.1±11.1歳)を対象とし、自転車エルゴメータを使用して多段階漸増運動負荷試験を実施した。各負荷終了1分前に血圧を測定し、運動負荷試験中の収縮期血圧の最大値が男性210mmHg以上、女性190mmHg以上を過剰血圧反応と定義した。また、職場の有害環境(粉じん、特定化学物質など)や労働形態、労働時間、睡眠時間、休日数、通勤時および仕事中の身体活動時間、余暇時の運動時間について自己式調査票により調査した。その結果、362名中94名(26.0%)に運動負荷試験中の過剰な収縮期血圧の上昇が認められた。有害環境や労働時間、睡眠時間、休日数、通勤時の身体活動時間別による過剰血圧反応発生率について検討したところ、過剰血圧反応発生と関連する要因は、労働時間が1日10時間以上、睡眠時間が1日6時間未満、休日数が週1日以下であった。労働時間、睡眠時間、休日数を3分割し、それぞれの組み合わせによる過剰血圧反応発生率について検討したところ、労働時間が長く、睡眠時間、休日数が少ないほど、過剰血圧反応発生率が高かった。

解説:

 労働時間が長く、睡眠時間や休日数が少ない勤労者は、将来の高血圧症や心血管疾病発症のリスクが高いことが報告されている。これらの労働者の日常生活や職場において、運動負荷時の血圧変動を把握し健康指導の情報として活用することは高血圧症や心血管疾病の新規発症、過労死の予防につながるではないかと考えられる。今後、労働時間、睡眠時間、休日数と運動負荷試験中の過剰血圧反応との直接的な因果関係についてさらに詳細に検討していく必要がある。


循環器疾患を発症した労働者の発症前の疲労状態(斉藤良夫. 労働科学. 1993)

出典論文:

斉藤良夫.循環器疾患を発症した労働者の発症前の疲労状態.労働科学 69巻,9号;387-400.

著者の所属機関:

中央大学文学部心理学研究室

内容:

 本研究は、循環器疾患の被災者遺族を対象にして、「過労死」発症前の疲労状態について明らかにするために、17名の被災者の妻あるいは母親に対して面接調査を実施したものである。面接は、1991年10月から約1年間の間に実施された。面接対象者1名につき2時間から3時間かけて、過労死の被災者における疾病の発症状況、労働状況、平日や休日の生活、勤務日の帰宅後や休日における疲労感の表出、休息や睡眠に関する行動などであった。これまでの先行研究では、過労死発症に関連する労働環境の要因(長時間労働や勤務形態など)を抽出することが主な目的であった。それに対して、本研究では、労働者個々人が、過労死発症に至るまでに、どのような訴えや生活上の変化があったのかについて焦点を当てている点に特徴がある。

 主な結果は次の通りであった。多くの発症者は虚血性心疾患や脳血管系の疾患に特有な心臓部の痛みや頭痛を訴えていた。それに加えて、過労死発症者に認められた過労や疲弊徴候としては、1)週末の休日での昼間の生活が睡眠中心になること、つまり、活動性の非常に低い過ごし方をしていたこと、2)新聞を玄関まで取りに行けなくなるといったように、活動力や気力の著しい低下によって、普段行ってきたことができなくなること、3)朝の起床時の寝起きの異常な悪さ、朝食後に家を出る時間まで寝室で横になること、または帰宅後の夕食や入浴もできないことなどの行動上に現れる著しい睡眠欲求、4)食欲減退や体重の減少がみられたこと、にまとめられた。さらに、過労死発症の労働負担要因によって、著しく、かつ長期間持続する緊張感、焦燥感、不安感、抑うつ感などの心理的負担感の表出や、夜眠れない、就寝しても深夜目覚めてしまうなどの睡眠障害の徴候が認められた。

解説:

 本研究は1991年に実施されたものではあるが、過労死研究の中でも重要な知見として位置づけられる論文である。従来の研究では、長時間労働やノルマの高い勤務などの過労死発症の環境要因(労働時間や勤務形態など)について検討する事例研究が多かった。しかし、本研究では、労働者個々人に注目して、彼らの疲労状態から労働・生活上での行動上の変化を抽出しようとしている点に特徴がある。また、本研究は、過労死特有の疲労徴候という視点で、家族の気づきを促し、家族の側からの過労死発症の予防策の可能性を呈している。そのような点からも、本研究は、現在の過労死研究につながる多くの示唆に富んだ知見であると考えられる。


長時間労働と冠動脈性心疾患の起こる10年先の確率(Kang et al. Am J Ind Med. 2014)

出典論文:

Kang MY et al. Long working hours may increase risk of coronary heart disease. Am J Ind Med. 2014 Nov;57(11):1227-34. PMID: 25164196.

著者の所属機関:

韓国ソウル大学等

内容:

 韓国健康栄養調査に参加した8,350名(19歳超、正規雇用で非交代勤務、慢性疾患なし;平均46歳、女性43%)に対して、健康診断や週当たりの賃金の支払われた労働時間を含む各種の問診を行った。年齢、総コレステロール、HDLコレステロール、血圧、糖尿病の有無、喫煙の有無に基づいてフラミングハムリスクスコアを男女別に計算した。このスコアは冠動脈性心疾患の向こう10年間における起こりやすさを表す。冠動脈性心疾患の起こる確率が健康群より10%高まると高リスクとみなされる。所得水準、職種、身体活動、飲酒による影響を統計的に調整して分析すると、週労働時間が31-40時間群に比べて、男性では71?80時間群で1.4倍、81時間以上群で1.5倍ほど高リスクとなりやすかった。女性では、61-70時間群で2.9倍、71-80時間群で2.2倍、81時間以上群で4.7倍ほど高リスクとなりやすかった。

解説:

 労働時間と冠動脈性心疾患の起こりやすさとの関連をある一時点で調べているため、どちらがどちらの原因かを決められない。とは言え、フラミングハムリスクスコアという従来から認められている指標を韓国人労働者に用いているのは有効である。長労働時間と冠動脈性心疾患との関連が女性でよく認められたのは家事労働の影響が指摘されているが、今後の検証が待たれる。いずれにしても、この研究と同様な結果が我が国の労働者についても得られるかを検証する価値はある。また欧米人と日本人との様々な違いを考慮すると、日本人に即したスコアを用いることも視野に入れてよい。


長時間労働と脳・心臓疾患との関連についてのシスマティックレビュー(Kivimäki et al. Lancet. 2015)

出典論文:

Kivimäki M, Jokela M, Nyberg ST, et al. Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603838 individuals. Lancet. 2015; 386: 1739-1746. doi: 10.1016/S0140-6736(15)60295-1. Epub 2015 Aug 19. PMID: 26298822.

著者の所属機関:

Department of Epidemiology and Public Health, University College London, London, UK.

内容:

 本研究はヨーロッパ、アメリカ、オストラリアの24件のコホート研究に基づいて、長時間労働と脳・心臓疾患の関連を分析した。計603,838人の対象者を約8.5年間追跡した結果、4,768人に冠動脈疾患が発症した。計528,908人を約7.2年追跡した結果,1,722人に脳卒中が発症した。全ての対象者は追跡開始時に冠動脈疾患及び脳卒中の持病はなかった。年齢、性別、社会経済地位などを調整した上でメタ分析を行った結果、週労働時間は35-40時間の対照群と比べて、週労働時間が55時間以上の長時間労働者群の冠動脈疾患(relative risk[RR]: 1.13, 95%CI: 1.02-1.26, p=0.02)と脳卒中(relative risk [RR]: 1.33, 95%CI: 1.11-1.61, p=0.002)の発症率はそれぞれ1.13倍と1.33倍に増加した。特に脳卒中は対照群と比べて、週41-48時間労働の場合は1.10倍、週49-54時間労働の場合は1.27倍、週55時間労働の場合は1.33倍の発症率の増加が認められ、労働時間が長くなるほど脳卒中の発症リスクが高くなることが示された。

解説:

 長時間労働の健康への影響は世界中から研究され、過労死(脳・心臓疾患)の誘因としても注目されてきた。長時間労働が健康問題を引き起こす過程には、労働時間以外に、他の仕事の負担要因、疲労回復時間の減少などの要因が複雑に絡んでいると考えられる。本論文は複数国の研究データを用いて総合的に分析した結果、週労働時間が55時間以上の長時間労働(労基法で週40時間労働となっている日本の基準に合わせると、月当たり約60時間の時間外労働)が脳・心臓疾患の増加との関連があることを科学的に立証した点に注目すべきである。また、脳疾患が心臓疾患より長時間労働による影響を受けやすい点も重要な知見である。上述したように脳・心臓疾患リスクの増加は労働時間以外の要因の影響も否定できないが、長時間労働が仕事負荷の増加、疲労回復時間の減少と直結しているため、その影響は大きいと予想される。


週55時間以上働く労働者は心房細動が起こりやすい(Kivimäki et al. Eur Heart J. 2017)

出典論文:

Long working hours as a risk factor for atrial fibrillation: a multi-cohort study. Eur Heart J. 2017 doi:10.1093/eurheartj/ehx324.

著者の所属機関:

英国ロンドン大学等

内容:

 心房細動は不整脈の一つで、心臓が速く不規則に拍動するため、全身に血液を送り出す働きが悪くなる病気である。心房細動によって心臓の中で血液がよどむと、「血の塊」(血栓)ができやすくなる。この血栓が脳に運ばれて脳の血管が詰まると脳梗塞になる。英国、デンマーク、スウェーデン、フィンランドの労働者のべ85,494名(うち女性55,915名、平均43才、心房細動なし)を約10年間追跡調査し、労働時間と心房細動との関連を調べた。追跡期間中に合計1,061名が心房細動を発症した。性別、年齢、社会経済状態による影響を統計的に調整した解析によると、週35-40時間働く群に比べて、週35時間未満群11%、週41-48時間群2%、週49-54時間群17%、週55時間以上群42%(P<0.01)ほど、心房細動が起こりやすかった。喫煙、体格指数、飲酒、身体活動、慢性疾患の有無等の影響を調整しても、週55時間以上群では心房細動は同じく40%程度、起こりやすいことが分かった。

解説:

 同じ研究グループは2015年に「週55時間以上働く労働者は脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)になりやすい」ことを報告しており、その原因の一つとして心房細動に着目したと思われる。膨大なデータから明らかにされた今回の知見は重要ではあるが、いくつかの疑問に答える必要がある。労働時間は初回調査時の申告値を利用しているので、その後10数年間に渡ってどのくらい変化したかは分からない。労働時間以外の要因として、勤務体制や職種などによる影響は調べていない。幾多の限界はあるにしても、長時間労働に伴う健康障害を定量化しようとする努力は価値がある。


労働時間と心血管疾患リスクの用量反応関係(Conway et al. J Occup Environ Med. 2016)

出典論文:

Conway et al. Dose-Response Relation Between Work Hours and Cardiovascular Disease Risk: Findings From the Panel Study of Income Dynamics. J Occup Environ Med. 2016; 58(3):221-6.

著者の所属機関:

The University of Texas Health Science Center, School of Public Health, Houston(テキサス大学)

内容:

目的:本研究の目的は、アメリカの代表的なパネル調査における労働時間と心血管疾患(CVD)の用量反応関係を調べることである。
方法:所得動向のパネル調査(PSID: the Panel Study of Income Dynamics、1986年から2011年)の1,926人を少なくとも10年間さかのぼった後ろ向きコホート研究を行った。制限3次スプライン回帰により、労働時間とCVDの用量反応関係を推定した。
結果:少なくとも10年間の平均週労働46時間以上がCVDのリスク増加と関連した用量反応関係が観察された。1週間に45時間働く場合と比較して、週10時間以上をさらに10年間続けることで、CVDリスクが少なくとも16%増加した。
結論:少なくとも10年間、週に45時間を超えて働くことは、CVDの独立した危険因子である可能性がある(訳者注:統計的有意差が認められるのは週労働55時間からである→解説参照)。

解説:

 アメリカの大規模パネル調査(同じ調査対象に対して一定期間に繰り返しアンケートを行う調査)を利用した長時間労働と心血管疾患(CVD)との関連を検討した報告である。本論文で用いたのは所得動向に関するパネル調査で、全体では9,000家族、22,000人以上が参加しており、1986年(ベースライン時)から2011年に18歳以上であること等を条件に調査対象を絞って最終的に1,926人の労働者が分析対象となった。結論では週労働45時間超(46時間以上)でCVDの増加と記載されており、これまでの報告より更に短い労働時間でのCVDとの関連が見出されたかと思われたが、論文中の表では週労働50時間では相対危険度(RR):1.03で統計的有意差は認められず、週労働55時間からRR:1.16で有意差が認められ週労働75時間でRR: 2.03で最大であり、週労働55時間が本論文のメルクマールであり、これまでの報告と大きな違いはないことに注意する必要がある。この研究の限界は、雇用形態が自営か否か、産業(業種)がサービス業か否か、職種が肉体労働か否か、といった職業要因しか押さえられていないことである。最近の労働時間の健康影響の調査研究では、職業要因として交代制勤務、深夜勤務、職場での人間関係等、生活習慣として睡眠や休息等といった要因が考慮されていることが多い。そのような限界はあるものの、2,000名弱の労働者を後ろ向きとはいえ10年という長きに渡って追跡した結果としてその学術的価値は十分にあると思われる。


ツイッターの発言を活用して地域レベルでの心血管疾患死亡率の予測を試みた論文

出典論文:

Eichstaedt JC, Schwartz HA, Kern ML, et al. (2015) Psychological language on twitter predicts county-level heart disease mortality. Psychological Science, Vol. 26(2) 159?169.

著者の所属機関:

ペンシルバニア大学心理学部

内容:

敵意や慢性的なストレスは心疾患のリスクファクターとして知られているが、それらの関連性について検証するために大規模な調査を行うことは非常にコストがかかる。著者らは、ツイッターでの心理的な発言を用いて、米国において最も死亡率の高いアテローム動脈硬化性心疾患(Atherosclerotic Heart Disease;AHD)による年齢調整死亡率と、地域レベルでの心理的な特性との関連性を検討した。使用データは、2009年から2010年における米国の1,347の群における148百万のツイッターでの発言(発言地域が特定されたもの)と、米国疾病予防センター(Centers for Disease Control and Prevention; CDC)より得られた地域ごとの年齢調整したAHDによる死亡率であった。 結果、ネガティブな社会的な関係性や、やる気の低下(Disengagement)、ネガィブな感情(とくに怒り)を反映したツイッターでの発言パターンが、心疾患のリスクファクターとして抽出された。一方、ポジティブな感情や仕事への没頭(Engagement)は心疾患の予防要因として抽出された。このような関連性は、収入や教育レベルを調整したとしても、ほとんどの関連性が有意であった。さらに、ツイッターの発言のみを用いてAHDを予測する横断的な回帰モデルでは相関係数が0.42で、人口統計、社会経済状態、健康リスク要因(喫煙や糖尿病、肥満、高血圧)等、10個の因子を用いた予測モデルでは0.36で、ツイッターの発言のみを使用した予測モデルの方がAHDによる死亡率を有意に高い予測率であった。さらに、ツイッターでの発言のみを用いた予測モデルとCDCによって報告された地域ごとのAHDによる死亡率は非常に類似していることが示唆された。
以上の事から、著者らは、ソーシャルメディアを通じて地域の心理的特徴を把握することは実現可能性が高い手法であることと、地域レベルでの心疾患の死亡率の有力な予測指標として活用できると結論付けた。

コメント:

 本研究は、ソーシャルメディアを活用して地域レベルで心疾患による死亡率を予測したユニークな研究である。ツイッターでのネガティブおよびポジティブな発言を収集し、予測モデルを構築するという手法は、従来の大規模調査に比べてコストが非常に低く抑えられるという利点がある。また、研究の発展性と言う視点から言えば、例えば、心疾患に限らず慢性的な疲労やメンタルヘルス、睡眠障害、事故の発生等の予測にも応用可能かもしれない。ただし、本論文でも著者らが触れているように、ソーシャルメディアを使用する年齢層は比較的、若年者であるのに対して、心疾患で死亡するのは高齢の者であり、ネガティブな発言が原因となって、心疾患を引き起こすという因果関係については、本論文のデータから論じることはできないとしている。その点について著者らは、ツイッターでの発言は彼らを取り巻く職場や、地域等の環境に対する反応であるので、複雑な経路を経て、それらが結びついているのかもしれないという推測を呈している。様々な研究の限界はあるものの、本研究はビッグデータを応用、活用した調査研究であり、今後の発展性が期待される1つの知見である。


睡眠時間と冠動脈性心疾患の関連性(Wang et al. Int J Cardiol. 2016)

出典論文:

Wang D, Li W, Cui X et al. Sleep duration and risk of coronary heart disease: A systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. Int J Cardiol. 2016; 219: 231-9. PMID: 27336192

著者の所属機関:

華中科技大学等

内容:

 本研究では、睡眠時間と冠動脈性心疾患リスクの関連性を検討するため、17の前向きコホート研究論文(参加者は合計517,440名、冠動脈性心疾患の事例報告は合計17,841件)の用量-反応メタ解析を行った。その結果、睡眠時間と冠動脈性心疾患の間にU字型の関連性が示され、1日7-8時間睡眠が最も疾患リスクが低かった。短時間睡眠と冠動脈性心疾患の間に有意な関連性が示され、7時間睡眠と比べて、睡眠時間が1時間減少すると、疾患リスクが11%増加する関連性が示された(相対危険度=1.11、95% CI =1.05-1.16)。長時間睡眠についても疾患リスクと有意な関連が示され、7時間睡眠と比べて、睡眠時間が1時間増加すると、疾患リスクが7%増加することが示された(相対危険度=1.07、95% CI =1.00-1.15)。

解説:

 睡眠時間と脳疾患の関連を検討した研究は複数あるが、本研究はそれらをシステマティックレビューとしてまとめ、かつ7時間を基準とした睡眠時間の変化による冠動脈性心疾患のリスク変化を報告した研究であり、ここには日本の論文が3本含まれている。1日24時間という限られた時間の中で、労働時間が長くなればその分睡眠を取る機会が減少する。その結果として、上記リスクが増加することが予想されるため、長時間労働は望ましくないといえる。


睡眠をとっていない人の顔の特徴(Sundelin et al., Sleep 2013)

出典論文:

Sundelin et al. Cues of fatigue: effects of sleep deprivation on facial appearance. Sleep 2013; 36(9):1355-1360.

著者の所属機関:

Department of Clinical Neuroscience, Karolinska Institute, Stockholm, Sweden(カロリンスカ研究所)

内容:

 睡眠をとっていない人の顔の特徴を調べるために、40名の観察者が、20枚の顔写真を疲労や顔の特徴(目、皮膚、口、悲しみ)の観点からVisual Analog Scaleによって評定した。10枚の顔写真は通常の睡眠の後に撮られたものであり、残りの10枚の顔写真は断眠(5時間の夜間睡眠とそれに引き続く31時間の覚醒状態)の後に撮られたものであった。断眠した人の顔写真は、通常の顔写真と比較して、疲労が高いと評定されるとともに、まぶたが垂れ下がっている、目が赤い、目がはれている、くまがある、血色が悪い、乾燥じわが多い、口角が垂れ下がっている、悲しく見えると評定された(p < 0.01)。また、これらの8つの特徴に加えて、目の生起のなさは、評定された疲労と有意に関連していた(p < 0.01)。発疹・湿疹、口元の引き締まりについての評定は断眠の影響は認められなかった。

解説:

 疲労はアンケートなどの自己報告法によって評価されることが多いが、それは本人の内省能力によって大きく左右されるものであり、簡便かつ客観的な評価法は見当たらないのが現状である。この研究の結果は基礎的なものであるが、顔の特徴によって、その人の疲労度を客観的に評価できる可能性を示している。最近の双子を対象とした疫学研究では、見た目に老けていると評価された人は死亡率が高かったことも報告されており、このような“見た目”は、疲労や過労死のリスクをアセスメントする際に有効であるかもしれない。


日台比較からみる脳・心疾患労災認定基準変更の影響(Lin RT et al., Sci Rep. 2017)

出典論文:

Lin RT, Lin CK, Christiani DC, Kawachi I, Cheng Y, Verguet S, Jong S. The impact of the introduction of new recognition criteria for overwork-related cardiovascular and cerebrovascular diseases: a cross-country comparison. Sci Rep. 2017 Mar 13;7(1):167. doi: 10.1038/s41598-017-00198-5. PubMed PMID: 28279019

著者の所属機関:

ハーバード公衆衛生大学院等

内容:

 台湾が抱える労災認定に関わる問題点を、課題先進国である日本との比較から検証した論文。台湾では脳・心疾患の労災認定件数が少ないこと(実態を過小評価していること)が問題視されている。本研究では、2010年12月に台湾で行われた労災認定基準の改正が認定件数に及ぼした影響を、改正前5年間(2006年から2010年)と改正後5年間(2011年から2015年)の認定件数の比較により、さらには、日本の状況との比較により検証している。結果として示されたのは、新基準の導入が脳・心疾患の労災認定件数を2.58倍増加させたこと、労働者の月当たりの労働時間は台湾が日本より20時間長かったこと、また、日本との差異点を考慮し分析した結果、新基準導入後も台湾の認定件数は日本の認定件数の0.42倍であったことなどである。これらの結果は、台湾における2010年の新基準導入が労災認定件数の増加(認定されにくい状況の解消)に一定の効果を及ぼしたものの、その影響力は日本の労災認定制度には及ばず、新基準導入後も本来は認定されるべき事案が多く見過ごされている可能性があることを示している。その理由として著者らは、台湾では、疾病との関連を導く記録の管理が不十分なこと、勤め先の報復や失業を恐れる傾向があること、そもそも労災保険への関心が低いことなどを挙げている。労災保険への関心が低い理由としては、手続が煩雑である上、労災保険を利用するメリットが必ずしも大きくない(国の健康支援サービスである程度補償される面がある)ことが挙げられている。

解説:

 台湾の実状を述べた本論文の冒頭部分には、世界で初めて過重労働による脳・心疾患の労災認定基準を定めた国として日本が“karoshi(過労死)”をキーワードに紹介されている。台湾の認定基準や審査プロセスは日本の基準が参考にされているが、2004年に現在の日本と同じ基準(※)が取り入れられるまで、脳・心疾患の労災認定は終業後24時間以内に発症した場合のみに限られていた(※発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は業務と発症との関連性が強いとする考え方など)。一方、台湾人の労働時間はアジアのOECD加盟国で最も長いとされており、法律に定めた(時間外労働を除いた)最大労働時間も日本より月当たり8時間長い。そのため、時間外労働の基準値を日本と同一に設定した2004年の認定基準は、労働時間全体の閾値が日本より8時間長くなり、労災が認められにくい状況となっていることが指摘されていた。そのため、論文内でターニングポイントとされた2010年の改正では、脳・心疾患を発症した前月の時間外労働時間の基準値を92時間にするなど、基準値を改正前より8時間短くしている。一方、日本の認定基準が現在の基準に改正されたのは2001年12月であり、そのポイントは、過重な業務の評価期間を「発症前約1週間」から「発症前おおむね6か月間」に変更したことである。論文では日本での労災認定件数も分析されており、日本でも2001年の改正で労災認定件数が2.81倍増加したことが示されている。



精神疾患関係


労働時間がメンタルヘルスに及ぼす影響(オーストラリア人を対象とした研究報告)

出典論文:

Milner A et al. Working hours and mental health in Australia: evidence from an Australian population-based cohort, 2001-2012. Occup Environ Med. 2015 Aug;72(8):573-9. PMID: 26101295.

著者の所属機関:

Deakin University(オーストラリア)等

内容:

労働時間と健康に関するこれまでの研究では、長時間労働が疾患発症(精神疾患や心疾患)に関与することを示した報告がある一方で、労働時間とこれらの疾患には有意な関係はなかったとする報告もあり、一致した見解が得られていない。その理由として、このような調査では特定の企業等の従業員が対象とされることが少なくないため、研究ごとに対象とする職種が異なり、比較が難しいことが挙げられる。本研究は、特定の企業等ではなくオーストラリア人全般(労働者18,420名)を対象とした調査であることが特長とされている。週当たり35-40時間を基準労働時間に設定し、それより長いまたは短い労働時間がメンタルヘルス(mental component summary: MCS_SF36)に及ぼす影響が検討された。本研究における労働時間の分類は以下の通りである:基準労働時間未満(34時間以下/週)、基準労働時間(35-40時間/週)、長時間労働A(41-48時間/週)、長時間労働B(49-59時間/週)、長時間労働C(60時間以上/週)。 解析の結果、男女とも49時間以上の労働がメンタルヘルス低下に影響することが示唆された。この結果に関する著者らの考察では、長時間労働(49時間以上/週)が睡眠不足に伴う疲労蓄積や生活習慣の乱れを引き起こし、これらがメンタルヘルス低下の要因となる可能性が指摘されている。また、高い業務能力を要する職種(マネジャーや専門職)において、労働時間が長くなるほどメンタルヘルス低下の程度が大きいことが示された。業務上の責任が大きいことがメンタルヘルス低下に影響した可能性がある。さらに、女性は男性より長時間労働によるメンタルヘルス低下の程度が大きい傾向が見られた。家事等の職場以外での無償労働が影響している可能性が指摘されている。

解説:

メンタルヘルス低下に影響する労働時間のボーダーライン(49時間以上/週)を提示した重要な報告である。本研究で設定された基準労働時間(34時間/週)は、日本の法定労働時間(40時間/週)より短い点にも留意する必要がある。


週55時間を超えて働く女性労働者は抑うつや不安の症状が起こりやすい

出典論文:

Virtanen M et al. Long working hours and symptoms of anxiety and depression: a 5-year follow-up of the Whitehall II study. Psychol Med. 2011 Dec;41(12):2485-94. PMID: 21329557.

著者の所属機関:

フィンランド労働衛生研究所等

内容:

英国の自治体職員2,960名(男性2,248名,女性712名;平均52才)を約5年間追跡して調査したところ、週35-40時間働く女性に比べて、週41-55時間群は2.2倍、週55時間を超える群は2.7倍ほど、抑うつの症状が起こりやすかった。また、週41-55時間群は1.7倍、週55時間を超える群は2.8倍ほど、不安の症状が起こりやすかった。男性では労働時間と抑うつや不安の症状との関連は認められなかった。
コメント:週55時間を超えて働くと抑うつや不安の症状が起こりやすいことが女性にのみ認められた背景をよく調べる必要がある。そうすることで、労働時間以外の対策も見出される。この研究では抑うつ等を自覚症状として測っているが、精神的不調の客観的な指標(診断結果や休業等)を用いた研究は今後求められる。業種や職種ごとの違いも興味のあるところである。

解説:

週55時間を超えて働くと抑うつや不安の症状が起こりやすいことが女性にのみ認められた背景をよく調べる必要がある。そうすることで、労働時間以外の対策も見出される。この研究では抑うつ等を自覚症状として測っているが、精神的不調の客観的な指標(診断結果や休業等)を用いた研究は今後求められる。業種や職種ごとの違いも興味のあるところである。


日本における過労自殺:業務関連の自殺22事例の特徴(Amagasa T et al., J Occup Health. 2005)

出典論文:

Amagasa T et al. Karojisatsu in Japan: characteristics of 22 cases of work-related suicide. J Occup Health. 2005 Mar;47(2):157-64. PMID: 15824481.

著者の所属機関:

メンタルクリニックみさと等

内容:

長時間労働および他の心理社会的要因が労働者の自殺企図に及ぼす影響を検討するため、業務関連の自殺22事例について、遺族や法律専門家などによる労災・訴訟関連書類、遺族への面接調査などにより収集された資料を分析した。精神科医2名が独立して22事例についての関連資料を分析した後、臨床疫学者1名を加えた3名により事例検討を行い、各事例の特徴を分析した。22例のうち、1例を除き全例が男性であり、自殺時点の年齢は24歳-54歳(中央値は35歳)であった。17例は民間の雇用者、5例は教員を含めた公務員であった。22例中17例が昇進、転勤、配置転換などの出来事を経験していた。ソーシャルサポートの不足や業務の要求度の高さは18例で、裁量権の低さは17例で確認された。長時間労働(3か月以上に渡り1日11時間以上の労働)が確認されたのは22例中19例であった。昇進や転勤などの出来事から自殺までの期間は5か月?18か月(中央値は11か月)、精神障害の発症から自殺までの期間は2週間~8か月(中央値は2か月)であった。22例中10例は身体的な不調により内科医を受診していたが、精神科受診歴のある事例や、昇進や配置転換の際にストレスマネジメントに関する教育を受けたことのある事例は確認されなかった。なお、22例全例が国際疾病分類第10版(ICD-10)におけるうつ病エピソードと診断されていた。

解説:

わが国における「過労自殺(karojisatsu)」事例について、労災・訴訟関連書類や遺族との面接を通じて得られた詳細な情報をもとに検討し、英語で報告された貴重な文献であり、過重労働に関連する多くの研究で引用されている。過労自殺事例22例のケースシリーズ報告であるため、長時間労働、業務要求度の高さやソーシャルサポートの少なさなどの要因と自殺企図との因果関係を明らかにはできないものの、事例の約半数が自殺前に身体愁訴により内科医を受診しているなど、過労自殺を予防するうえでの重要な介入ポイントを示唆する研究報告である。本稿が出版されたのは2005年であるが、本稿で示されている過労自殺事案の概要は、2016年時点で行われている精神障害の労災認定事案の分析における自殺事案の動向と相通じるものがある。


韓国における職業性精神障害・自殺の労災請求事案についての記述的研究(Lee et al. Ann Occup Environ Med. 2016)

出典論文:

Lee et al. Descriptive study of claims for occupational mental disorders or suicide. Ann Occup Environ Med. 2016 Oct 20;28:61. PMID: 27777785

著者の所属機関:

Hanyang University(漢陽大學校)

内容:

2010年?2014年の韓国における精神障害の労災請求事案の実態について明らかにするため、当該期間に同国の労災保険法(Industrial Accident Insurance Act)に基づき精神障害の労災請求がなされた全事案についてデータベース化し分析した研究である。
韓国労働者補償・福祉機構(Korea Workers Compensation and Welfare Service)が保有している、2010年?2014年に請求され、かつ2015年4月までに補償の可否が決定された労災請求事案569例についてのデータセットを作成し分析した。労災請求事案の約75%は男性であり、年齢階級別では40-49歳が最も多かった。職種別では男性では管理的職業従事者、女性では事務従事者が多かった。対象期間の5年間で189例が労災と認定されており、認定率(認定事案数を請求事案数で除した割合)は33%であった。疾患別(重複例を含む)では自殺が請求事案の23%を占め最も多く、以下、うつ病、適応障害、外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害の順であった。疾患別での認定率が高かったのは、急性ストレス障害やPTSDであった。業務上・外の判断の要因別に見ると、認定事案で顕著に多かったのは身体的外傷、雇用問題、違法行為・経済的損失に関する問題、職場での暴行などを含む急性のストレスフルな出来事であり(56%)、以下、恒常的な長時間労働、職場環境の変化や人事異動、業務負荷量の変化であった。一方で、業務外と判断された要因で最も多かったのはストレス強度の低さであった。業務以外の要因による発症として業務外と決定された事案も多かった。

解説:

わが国同様に長時間労働の蔓延が指摘され、それに伴う精神障害・自殺が労働衛生上の大きな課題となっている韓国における精神障害の労災請求事案の実態に関する報告である。過労死等調査研究センターが中心となって進めているわが国の精神障害の業務上および業務外事案の解析研究と研究デザインなどで共通する点も多く、国際比較という観点からも興味深い内容となっている。わが国における実態と同様に、韓国においてもハラスメントなどの対人関係、雇用・人事問題、仕事の失敗や違法行為などに起因する精神障害の労災事案は多く、長時間労働以外の要因にも着目した過労死等対策の重要性を示唆する報告である。


職場でのうつ病の発症を防ぐ: 職場における普遍的介入の系統的レビューとメタ分析(Tan L et al. BMC Medicine. 2014)

出典論文:

Leona Tan, Min-Jung Wang, Matthew Modini, Sadhbh Joyce, Arnstein Mykletun, Helen Christensen and Samuel B Harvey. Preventing the development of depression at work: a systematic review and meta-analysis of universal interventions in the workplace. BMC Medicine 2014; 12:74. PMCID: 4014627

著者の所属機関:

ニューサウスウェールズ大学ブラックドッグ研究所、オーストラリア

内容:

 本論文は、職場介入に関する無作為化比較試験(RCT)に注目し、標準化されたメンタルヘルス対策として、うつ病の普遍的予防を目的として行われた介入研究を対象にメタ分析を行った。対象研究はDowns and Blackチェックリスト(報告の質,内的妥当性,検出力の評価のほか,臨床的有意性,研究の限界,著者による結論の妥当性,報告全体にわたる明瞭性,十分に報告されたか等)を使用し、9件が特定された。研究の多くは、知行動療法(CBT)の技術が使われていた。参加型アプローチを用いた職場環境改善の研究も報告されていた。メタ分析の結果、介入群と対照群の間の全体的な標準化平均差(SMD)は0.16(95%信頼区間(CI): 0.07, 0.24, P = 0.0002)で、若干のプラス効果が見られた。CBTベースの介入のみを使用した別の分析では、0.12(95% CI: 0.02, 0.22, P = 0.01)の有意なSMDの変化が確認された。本結果から、職場での普遍的なメンタルヘルス介入によって従業員のうつ症状を緩和できるという質の高いエビデンスが得られた。特に、CBTベースのプログラムの有効性に関しては、他の介入よりも多くのエビデンスが存在する。科学的根拠に基づく職場介入は、成人の間でうつ病発症を防ぐための重要な取り組みの一環として検討するべきである。

解説:

本論文は、無作為化比較試験(RCT)に注目し、職域におけるうつ病予防のための質の高い普遍的な介入を提案している。今回の評価ではRCTの介入内容は個人に対する認知行動療法(CBT)が多かったが、職場でのストレスを緩和するためにチームベースの参加型介入(Tsutsumiらによる)による知見も注目されていた。一方、本メタ分析におけるうつ病の定義が研究によって異なることや、ここ最近ではマインドフルネス等の新しい介入手法を用いた研究も数多く報告されていることからCBT以外の有効性について、今後の研究が待たれる。これまで海外においてはうつ病対策としての職域アプローチは必ずしも主流ではなかったが、職場への積極的介入は効果があるものを裏付ける報告である。



その他


長時間労働と飲酒習慣との関連性について:有意に関連している

出典論文:

Virtanen M et al. Long working hours and alcohol use: systematic review and meta-analysis of published studies and unpublished individual participant data. BMJ. 2015 Jan 13;350:g7772. PubMed PMID:25587065.

著者の所属機関:

フィンランド労働衛生研究所等

内容:

システマティック・レビュー(文献調査)を行い、メタ分析(複数の研究を統合した統計解析)を行った。長時間労働と飲酒習慣のオッズ比(95%信頼区間)は1.11(1.05-1.18)、新たに発生した危険な飲酒習慣は1.12(1.04-1.20)であり、いずれも統計学的に有意に関連していた。

解説:

長時間労働がある人に飲酒習慣がある人が多い、また長時間労働によって新たに危険な飲酒習慣が発生する可能性が示唆された。長時間労働によって危険な飲酒習慣が発生し、健康を害する危険があり得ることを示唆した論文である。


交替制勤務、長時間労働と早産との関連性について

出典論文:

van Melick MJ et al. Shift work, long working hours and preterm birth: a systematic review and meta-analysis. Int Arch Occup Environ Health. 2014 Nov;87(8):835-49. PMID: 24584887.

著者の所属機関:

マーストリヒト大学医療センター等

内容:

システマティック・レビュー(文献調査)を行い、メタ分析(複数の研究を統合した統計解析)を行った。対象としたのは質の高い8つの研究と中程度の質の8つの研究である。妊娠中の交替制勤務と早産のオッズ比(95%信頼区間)は1.04(0.90-1.20)で統計学的に有意な関連は認められず、妊娠中の長時間労働と早産は1.25(1.01-1.54)で統計学的にわずかに有意に関連していた。

解説:

これまでも同様のテーマのレヴュー論文がでているが(2000年、2007年、2011年)、その他の研究論文も含め、交替制勤務と長時間労働に焦点を絞ってメタ分析を行った論文である。


わが国のホワイトカラー男性労働者における長時間労働と睡眠問題の関連

出典論文:

Nakashima et al. Association between long working hours and sleep problems in white-collar workers. J Sleep Res. 2011 Mar; 20 (1): 110-6. PMID: 20561174

著者の所属機関:

金沢医科大学等

内容:

ホワイトカラー男性常勤労働者1,510名(18-59歳)を対象に、長時間労働と睡眠問題の関連を検討した。睡眠問題をピッツバーグ睡眠質問票(PSQI、※1)で得点化した。月当たりの平均残業時間を過去6か月のタイムカードの記録から算出し、5群に分けた(26時間未満、26-40時間、40-50時間、50-63時間、63時間以上)。月平均残業時間が長くなるにつれて、睡眠時間は短く、睡眠効率は低く、日中機能不全は多くなった。睡眠障害の疑われる(PSQI得点-5.5点)労働者の割合は、月残業26時間未満の群と比較して26-40時間群で1.22倍(95%信頼区間:0.86-1.75)、40-50時間群で1.27倍(0.89-1.82)、50-63時間群で1.67倍(1.17-2.38)、63時間以上群で1.87倍(1.30-2.68)多かった。以上より、長時間労働は複数の睡眠問題と関連し、特に月残業時間が50時間以上になると関連は明確になることが明らかになった。
※1:PSQIは国内外問わず睡眠障害のスクリーニングのために臨床場面や研究で多く使用されている。PSQI日本語版は、18の質問項目からなり、7つの構成要素がある(睡眠の質、睡眠潜時、睡眠時間、睡眠効率、睡眠妨害、眠剤の使用、日中の機能不全)。そのため、総合的に睡眠問題を判定できる。PSQIの総合得点は0-21点の範囲で、睡眠障害のカットオフ値は5.5点となっている。

解説:

本研究以前も、残業が睡眠の量・質に悪影響を及ぼすという報告はあったが、それらは残業時間が主観的に評価されたものであり、また、PSQIのように総合的に睡眠問題を扱う指標は用いられていなかった。本研究は、これらの問題を解消し、残業時間が種々の睡眠問題に関連することを改めて明らかにした。特に短時間睡眠は心筋梗塞等と関連することが報告されており、注意が必要である。


女性の夜勤と乳がん:スウェーデンコホートスタディ

出典論文:

Åkerstedt T, et al. Night work and breast cancer in women: a Swedish cohort study. BMJ Open. 2015; 5(4):e008127.

著者の所属機関:

カロリンスカ研究所(スウェーデン)

内容:

2007年に国際がん研究機関は文献レビューの結果より女性の夜勤・交代勤務者が乳がんになるリスクが高いことを報告した。しかし曝露の長さとの関係ははっきりしておらず、本研究は女性の夜勤に従事した年数と乳がん発症の関係を調べて新たに情報提供することを目的とした。調査対象はスウェーデンの女性13656名(調査開始時に41-60歳であった者)で平均8.7年追跡された。そのうち3404名が夜勤に従事しており、また463名が追跡終了までに乳がんになった。夜勤をしたことのない群に対して、夜勤に21年以上従事した群で、1.68倍乳がんになりやすいことが示された。また60歳まで追跡した群でも、夜勤に21年以上従事した群で1.77倍乳がんになりやすいことが示された。20年以下の夜勤従事では、乳がんとの関係が示されなかった。

解説:

これまで行われた研究結果と同じく、長期間の夜勤曝露と女性の乳がんリスクとの関係が示された。夜勤曝露と乳がんの関係を調べた研究では、本研究のような追跡調査はわずかである。また、スウェーデン国民全体について調べており、追跡対象の偏りが少ない研究であった。ただし、著者も指摘するように、どの程度の夜勤曝露量が乳がん発症と関係があるのかは未だ明らかにされておらず、今後の研究が待たれる。


中年期の心肺持久力が老年期の医療費に及ぼす影響

出典論文:

Bachmann JM et al., Cardiorespiratory Fitness in Middle Age and Health Care Costs in Later Life. J Am Coll Cardiol. 2015 Oct 27;66(17):1876-85. PMID: 26493659.

著者の所属機関:

ヴァンダービルト大学、クーパー研究所等

内容:

体力研究で著名なクーパー研究所によるthe Cooper Center Longitudinal Study(CCLS)からの報告。この論文では、米国の社会保険プログラム(メディケア)の医療費情報を用いて、中年期(平均49歳時)の体力が老年期(平均71歳時)の医療費に及ぼす影響を分析している。分析対象者は、諸条件(運動負荷テストなど全てのベースライン情報が利用できる、メディケアデータとの連結が可能、心筋梗塞、脳卒中、ガンの既往歴がない、65歳より前にメディケアによる給付を受けていない)を満たした19,571名の男女である。結果では、1)65歳を超えてからの年間医療費が、中年期の体力が高い群より低い群で有意に多いこと(例えば男性の医療費は体力低位群が中位群より37%多く、高位群が中位群より19%少ない等)、2)この傾向は循環器疾患の医療費で顕著だったこと、3)体力以外のリスク因子(喫煙、糖尿病、総コレステロール、収縮期血圧、BMI)の影響を取り除いた分析でも結果は同様で、体力が1単位(1 MET)増加すると年間医療費が男性で6.8%、女性で6.7%減少したことなどが示されている。

解説:

CCLSは1970年に開始され、現在も継続中のコホート研究である。参加者は登録の際、身体計測、医学検査、既往歴やライフスタイルなどの調査に加え、ランニングマシンによる運動負荷テスト(心肺持久力測定)を行っている。興味深いのは、メディケア給付期間中に死亡した人(2,691人)と存命の人(16,880人)に分けた分析を加えている点である。一般的に、死亡前は医療費が増加することが知られており(この研究でも死亡者群の医療費は生存者群の5倍であったことが示されている)、また、体力が高い人は死亡率が低いことも多くの疫学研究で示されている。つまり、体力が高い人の医療費が低いのは単に死亡前の医療費増加がないためではないかと考えられる。さらには、体力が高く長生きしても、長生きした分だけ医療費が上乗せされる可能性も指摘される。そういった懸念を取り除く手段の一つとして、この論文では死亡者群と生存者群とに分けた分析を行っており、両群の結果が同様であったことから、中年期の体力水準が高いと老年期の医療費が抑制されると結論付けている。大規模研究で心肺持久力を評価する場合は質問紙等による推定値を用いる場合が多いが、CCLSでは対象者が疲労困憊に至るまでの運動負荷テストで評価しており、体力評価の妥当性が高い。さらに本研究は、個人の医療費情報を公的な社会保険プログラムを用いて正確に捉えている点が特長である。本研究は、働き盛り世代(中年期)にスポットを当てた点で労働衛生研究としても興味深い。体力や医療費情報と同様に労働者の労働時間等を客観的に評価することも簡単ではないが、過労死対策研究のように過重労働が健康に及ぼす影響を検討することを目的とした研究では重要なポイントとなる。


従業員の健康に対する組織(職場)レベルの介入がもたらす効果:系統的レビュー

出典論文:

Diego Montano, Hanno Hoven, Johannes Siegrist. Effects of organisational-level interventions at work on employees’ health: a systematic review BMC Public Health 2014, 14:135.

内容:

従業員の健康に対する組織(職場)レベルの介入は、従業員個人の行動を対象とした介入よりも、持続可能な効果をもたらすと考えられている。しかし、介入の研究から得られた科学的根拠は、この考えを必ずしも裏付けるものではない。そのため、著者らは、さまざまな労働条件を対象として実施された、健康に関連する介入にまつわる研究結果39件について、その有効性の評価を系統的レビューした。従業員の健康状態を改善することを目的とした組織(職場)レベルの介入研究について、その評価をCochrane Back Review Groupガイドラインに準じて実施した。多種多様な条件の研究を比較しやすくするため、労働条件の改善に向けて採用された主なアプローチごとに、介入活動を分類し、この分類に基づき、ロジスティック回帰モデルを適用することで、有意な介入効果を推定した。その結果、1993-2012年の間に発行された39件の介入研究をレビューの対象とされ、介入研究の過半数は、質が中程度で、高レベルのエビデンスとして認められる研究は4件のみであった。研究の約半数(19件)では、有意な効果が報告された。複数の組織レベルの介入が同時に行われた場合に何らかの改善効果が報告される確率は、(介入ターゲットが1つだけの場合と比べて)有意傾向であった(オッズ比(OR)2.71; 95% CI 0.94-11.12)。本レビューの対象となった組織(職場)レベルの介入39件は、広義の分類カテゴリーを適用することで、その効果を比較できるようになった。物質的条件、組織に関連する条件、および労働時間に関連する条件に同時に対処した包括的な介入の方が、成功率は高かった。今後、組織レベルの介入の成功件数を増やしていくためには、これらの研究で共通して報告されている実施プロセス上の障害を克服する必要がある。

解説:


労働者の座位行動の評価方法(松尾ら., 産業衛生学雑誌 2017)

出典論文:

松尾知明、蘇リナ、笹井浩行、大河原一憲.産業衛生学雑誌. doi: 10.1539/sangyoeisei.17-018-B. Vol.59 (2017), No. 6 pp. 219-228.

著者の所属機関:

(独)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所

内容:

質問紙「労働者生活行動時間調査票(Worker’s Living Activity-time Questionnaire)(JNIOSH-WLAQ)」の信頼性と妥当性を検証した論文である。WLAQは座位時間評価を主な目的とした10項目で構成された質問紙であり、WLAQにより、一般的な労働者の生活を想定し分類された4つの時間区分(勤務中、通勤中、勤務日の余暇時間、休日)の座位時間が算出される。また、WLAQでは各座位時間を求める過程で、勤務時間、通勤時間、勤務間インターバル(daily rest period: DRP)、睡眠時間が算出されるため、本研究では、それらの生活活動時間の信頼性と妥当性も検証している。対象者は、週当たりの勤務日数が3日以上である労働者男女138名である。座位時間の妥当基準には身体活動量計(activPAL)が、勤務時間、通勤時間、DRP、睡眠時間の妥当基準には、対象者が1週間記録した日誌が使われた。分析では、級内相関係数(intraclass correlation coefficients:ICC)により信頼性を、順位相関係数(Spearman’s p)により妥当性を検討している。その結果、信頼性については、勤務時間、通勤時間、勤務間インターバル、睡眠時間、座位時間全てにおいて良好な(0.72-0.98)ICC値が得られ、妥当性については、勤務時間(0.80)とDRP(0.83)が“強い”、通勤時間(0.96)が“とても強い”、睡眠時間が勤務日(0.69)、休日(0.53)ともに“中程度な”、座位時間は、勤務中(0.67)と勤務日の余暇時間(0.59)が“中程度な”、通勤中(0.82)が“強い”、休日(0.40)が“弱い” p値であったことが示されている。これらの結果をもって筆者らは、WLAQが一定水準にあり、疫学調査などでの活用が期待できる質問紙だと結論づけている。

解説:

質問紙評価を目的とした研究では、本研究のように、再検査信頼性(同一の対象者による回答の一致度)と基準関連妥当性(基準とされる評価方法で得られた数値との一致度)が検証される場合が多い。activPALは座位時間の測定機器として精度が最も高いとされる身体活動量計である。本研究の主な成果は、WLAQによる座位時間の妥当性をactivPALによる座位時間を基準とし示したことである。一方、WLAQでは座位時間算出の過程で勤務時間やDRP、睡眠時間が算出される。最近は、労働者の働き方が議論される中で、勤務時間やDRPが重要なキーワードとなっていることを考えると、質問紙で得られるこれらの数値の妥当性が検証されたことは重要である。また、労働者を対象とした疫学調査では、勤務時間をいかに評価するかが課題とされる。出退勤時刻が打刻されたタイムカードを使うなど、客観的指標が用いられることが望ましいが、実際にはそのような資料を企業から入手することは難しい場合が多い。そのため質問紙が使わることになるがその妥当性を検証した論文は少ないため、本研究はそのような観点からも貴重なデータである。他方、本研究では、対象者自らが記録した日誌から得た数値を勤務時間等の妥当基準として用いている。そのため妥当性評価に客観性が欠ける面があることが課題である。


交代勤務における短い勤務間隔と健康との関係−文献レビューより

出典論文:

Vedaa Ø, et al. Systematic review of the relationship between quick returns in rotating shift work and health-related outcomes. Ergonomics. 2016; 59(1): 1-14.

著者の所属機関:

ベルゲン大学、ノルウェー公衆衛生研究所(ノルウェー)

内容:

 本研究は、交代勤務におけるクイックリターンズ(quick returns:2つの連続する勤務の間隔が11時間未満のもの)と、その結果もたらされる健康や睡眠、ワークライフバランスへの影響との関係を21本の論文の系統的レビューによって調べた。クイックリターンズのタイプは夕勤−日勤、夜勤−夕勤、日勤−夜勤の3つの勤務の組み合わせに分けられ、勤務間隔の長さだけでなく、それぞれの配置される時刻によっても睡眠の長さや眠気が異なって現れた。例えば、勤務間隔時間が8−10時間の場合において、その配置される時刻が夜間となる夕勤−日勤では睡眠時間が5時間以上とられていたのに対して、反対に昼間となる日勤−夜勤では睡眠時間が2.5時間程度になった。また、眠気のリスクはクイックリターンズにおいて、それ以上長い条件と比して高かった。しかし、クイックリターンズにより、睡眠や眠気、疲労などの急性的な悪影響は示されたが、身体的また精神的健康やワークライフバランスなどのより慢性的な影響については結論が示されなかった。

解説:

 勤務間に配される休息期間の適切な長さについては、永らく交代勤務研究において議論されてきた。それは、常日勤と異なり交代勤務では長時間労働でなくとも勤務の組み合わせによって非常に短い勤務間隔となる場合があるからである。クイックリターンズは、EU労働時間指令にある24時間につき最低連続11時間の休息期間を求める内容を参照して定義されている。このクイックリターンズは逆循環の8時間3交代制においてみられるが、欧米でもっとも一般的なのは夕勤の後に日勤が配置される組み合わせであり、日本では看護労働において日勤の後に深夜勤務が配置される組み合わせが多く見られる。本研究の結果は、勤務間隔時間の長さとともに配置される時刻の効果を示しており、勤務間インターバル制度を導入する上での重要な視点を与えている。


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